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−−いいのかそれで本当に。
声がした。
いつもいつも聞いていた声とはどこか響きが違う。
(もう眠いんだ。放っておいてくれ)
−−こんな暗黒の中で救われると思っているのか?
(だれも助けてくれない。誰もいないのと同じだ)
−−違う。救いは他人の中にはない。心と体にきいてみろ、本当にこれで
エンディングにしたいのか?
その瞬間光が爆発してあたりが真っ白になった。
「い、嫌だ!! 死にたくなんてない!」
口からそんな言葉がついてでる。
死は辛い時、ときには望んだ想いだった。それは冷たい場所ではなくルヴェンに
とっては母が逝ってしまった馴染みある場所だった。
あたりが真っ白になったと思ったのは、自分が急に目を見開いたからだった。地上の光がまぶしい。
「ルヴェン」
ルヴェンが次の言葉を告げるより前に、ルヴェンは大きな腕に抱きしめられる。
「ルヴェン。よく帰ってきてくれた」
「リアイダ」
自分を抱きしめてくれる相手を、ルヴェンも抱きしめ返した。
闇の中から呼んでいた声はリアイダだったとルヴェンは気が付く。
「リアイダ、怖かったよ。僕は怖かったんだ。自分で思っていたよりもずっと僕は
絶望していたんだ。もう、死んでしまってもいいと思うほどに」
自分の中の暗闇が怖かった。
「でも、もっとその奥で僕は望んでいたんだ。生きたいって、受け入れて欲しいって」
その暗黒の向こうにあったのは光を望む心だった。素直に生きたいと望む心。
ルヴェンは目をつぶった。そこには、いつも心配そうに自分を見つめてくれている姉の姿が思い浮かんだ。
そして、剣を取るのではなく政治により街を守る決心をした父。
『お前の父の私は剣だよ』
いつか父の友人の服の裾をつかんで泣きさけんだ時、彼はそう言った。
1人は戦場で戦い、もう1人は相手との交渉の糸口を探るべく折衝という戦いを行っていたのだ。
「何も見えていなかったのは僕なんだ」
「もういい、帰ってくれただけで。やっと見つけた後裔をお前は私から失わせる気か…」
リアイダの言葉にルヴェンは目を見張ってそれから目を落す。
蛇にかまれた足に布が巻かれていた。それは…
「いつかの野草だね。この野草の本当の効果はむしろ毒消しの力なんだ」
ルヴェンにはもう分かっていた。
「リアイダ。僕の【真なる名】は【毒気消し草(マルージ)】というんだ」
名は気が付けば自然に自分の中にあった。すべては目を開けばそこにちゃんとあった。
素直に開きさえすれば…。
◆
窓から昼下がりの暖かな陽射しが射してくる。
【ファグルリミの都】へと着いて、まるで違う容姿の自分をはたして人々は本当に
受け入れてくれるのか不安でなかったというなら嘘になるだろう。
しかし、そんな不安は拍子抜けに終わった。ルヴェンはあまりに自然に受け入れられた。
彼等には精霊が受け入れたものは受け入れて当然のものらしく、容姿などはあまり意味はないらしかった。
自分と同じように、ここの子供たちは風霊や森の木々の声を小さいころから聞き入れて育つ。
【言霊】も自然に覚えようものだ。
ルヴェンがはじめて目にする調和の世界がそこにあった。
「ルヴェン。本当にここが優れていると思うのかね」
しかしリアイダはそう言うのだった。
「この閉ざされた世界。私の耳にはゆっくりと崩壊していく音が聞こえてくるようだよ
。そう遠くない未来、我が一族はこの大陸より消え去るかもしれない」
そこでだけで、他と交わらずとも充足してしまう世界と一族。
ルヴェン、お前が都へ入ることであるいは流れが変るかもしれない、そんな思いもあったのだ、
とリアイダは続けた。
「外を放浪するように巡り、都へと外の情報を伝えて来た。この閉ざされた一族へと」
生きるときめた【ファグルリミの都】で【言霊】を教えてくれたリアイダ…、その彼も今はもういない。
ルヴェンの耳に蘇る。
『後裔を見つけだしたこの私の幸せが分かるかね。自分が今まで得てきたものを次へと託す事が出来るという幸せがね』
そうなのだ、そして私はしかもそれを自らの息子へと伝えることが出来る。
「父上、このようなところで寝ていると風邪でもひいてしまいますよ」
「ああ、そうだな」
ルヴェンはすでに青年になろうとしている息子を見やった。
この都で連れ合いをみつけて結ばれ、子が出来たときルヴェンはその血がこのサークアに混じることへの恐れを感じた。
『かまわんさ』
実は長の血統に近しい、しかしリアイダはあっさり言いって、ルヴェンの不安をはらってくれた。
『それこそが、あるいは私の望む流れを変えることになるかもしれない』
白髪に赤の瞳を持つ息子、そしてその次に得たのは自分にそっくりな容貌の娘だった。
息子は言霊を操る才を得たが、娘の方は得なかった。そしてルヴェンがここへ来たように、
娘は逆にソシアスの都へと帰る道を選んだ。子を得ることが出来なかった姉夫婦のもとで
それなりに暮らしているようだ。
まれに届く手紙が彼女の平穏を伝えてくれる。ましてや、自分の道を選んでしまった子供たちに
言えることなど多くはない。
それらが、このサークアとソシアスの民をつないで、あるいはささやかな何かを生み出す
こともあるかもしれない。
窓辺から眠気を誘うような暖かな陽射しが差し込んでくる。ルヴェンは椅子に深く身をしずめた。
いつか息子もその至福の声を聞く時があるだろうか、自分の後裔を見つけ出して…。
次の世代へつないでいけることの喜びを。
安眠を誘う陽射しに、ルヴェンはいつか隠れるように昼寝をしていたあの時のまどろみの
中へと帰っていった。
おしまい
あとがき
「年老いた魔術師」あるいは「老魔術師」というより、その弟子(?)が主人公的になってしまいまいた。
時代としては本編である『黄昏の覇たる王』より、だいぶ昔にあたる時代のお話です。
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