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参 考 「 遠路の果てに 」 田口 正神
「烈風の丘に立ちて」 田口 チ カ
「稲妻が閃き渡る時」 ほのぼの童子
U闘争編 第1部 − チカ修練時代
第2部 − チカ定着時代
第3部 − チカ激闘時代
はじめに
長編小説 「光の道を備えよ!」 闘争編 第三部(チカ激闘時代)
解 説
嫁として入って来たチカが、両家の願いを一致させるための条件を失ってから、家の柱となる筈の、大切に育てて来た山の木を奪おうとする狐のような男が現われて来るようになった。 チカは必死でそれを取り戻そうと努めたが、どうあがいてももはや無理であった。 チカが失った条件は、山での戦いを長引かせながら、家を建てた後にも大きなしこりとなって残っていく。失った条件を山で立て直しながら「今井家の人間」として定着するための試練がこれまでの戦いであった。
いつの間にかチカは自ら率先して、一家の最前線に立って戦う意志と根性を持った逞しい母親になっていた。 山での闘争は結果的に見れば、これから襲いかかって来ようとしている、家での激しい戦いの予行訓練の場になった。 チカの山での戦いは、やっと終わりを告げようとしていた。そして今度は、物置小屋を建てて、使わなくなった「眠れる道具」を床下から出して家宝として大切に棚に納める時が近づいて来ていた。 いよいよ「穢れ無き清い供え物」の形を完成する、その最後の仕上げをしなければならなかった。
だが、チカがどんなに頑張っても、山で奪われた柱となる木を取り戻せなかったように、そののち、その家宝の道具を納める小さな「物置き小屋」すら建てる余裕など無くなり、いつまでも床の下に埃をかぶった状態で放置されたまま残されることになっていく。
正樹もチカも毎月、家の返済に追われながら必死に働いていった。家族たちも窮乏に耐え続けながら、贅沢を敵として頑張ったが、いつまでたっても、小屋を建てることが出来なかった。
いつしか、チカは忙しさに追われて物置き小屋のことはすっかり諦めて忘れていった。
こうして、饅頭を作る道具は、埃を被ったまま床下に静かに眠る運命になってしまう。 その時から、床の下の怨念が今井家に不吉な事件を巻き起こして行くようになる。
それは、まず末っ子の信に襲いかかった。あたかも信の頭を封印するかのように、未来に大きな艱難を巻き起こす原因となる事故が偶発的に起こって行く。
それ以後、今井家の周りから、水や木や土地を奪おうとする忌まわしい狼のような隣人たちが現われ、艱難と災いがたびたび試練のように発生して来るようになる。
純朴で裏表が無く、人の言葉をそのまま信じて簡単に騙されてしまう、お人良しの今井家の人間に代わって、嫁として入って来たチカが、この「今井家に与えられた土地」を死守しなければならなくなった。
それはチカが中心人物となり、襲いかかる狐狼のような隣人たちから、「一本の大切な木」を守り抜く使命があった。
そしてその前にまず、その木を象徴する人間を包み、守ってくれる神殿のような空間を、まず先に築きあげたという条件を立てなければならなかった。 これは「光の道を備える」ために、どうしても勝利しなければならない「最後の戦い」であった。
だが、祭壇となる小屋に道具を入れる前に、ほんの僅かの油断によって、三つの黒い存在が侵入する。 この事件により、これまでチカが立てようとした全ての条件が奪われた時、息子の信は、まるでこの世に捨てられたかのように、孤独な暗闇の道を歩いていくようになっていった。
やがて、長い長い歳月が流れ、信が放浪の果てに光を取り戻して、家に帰って来る時、チカは全ての疑問と悩みと苦しみの意味を知り、「激しい戦いをして来た自分の一生が何であったのか・・?。」を悟り、わが人生を振り返るようになっていく。
長編小説 「 光の道を備えよ! 」 A闘争編
○第三部(チカ激闘時代)
あらすじ
やっとの思いで家を建て直したものの、物置小屋を建てるまでの余裕がなかった。
今まで古い家の二階に置いていた「饅頭を作る道具」を置く場所が何処にも無かった。チカは「もう処分したらどうですか?」と姑に提案するが、ゼンはどうしても捨て切れなかった。 チカは仕方なくその道具を床下にほうり込んでしまう。 そのまま埃を被った状態で、何年も無造作に置かれることになっていく。 そのような中で子供たちは床下に眠る道具が何を意味するのか知らないまま、すくすくと育っていった。 チカは、この「眠れる道具」が全く役に立たない邪魔なガラクタにしか見えなかった。(もう二度と使うことはないのに・・。)と思って大切にしなかった。 この時から、この道具と同じように信の魂も封印される事件が起こることになっていく。
それから次々と家の周りから試練が襲って来るようになるが、それでもチカはその意味と原因に気が付かなかった。
その時、あたかも無理にでも大事な家宝として道具を納めさせるかのように、最後の大きな艱難が起こる。 チカはこの災いが起こった時、始めて小屋を建てることを思いついた。
だが、その最後の仕上げの段階で三つの黒い存在に浸入され、チカが立てて来たすべての条件が奪われてしまう。それでも、道具はなんとか納められたが、信の頭の封印が解かれる時は、はるか先に延ばされ再び眠り続けることになっていく。 もはや信は、眠りから醒める時を失ってしまい、再び黒い霧が頭の中を覆った。その暗闇の中に包まれてしまった信を亡き者にしようと、刻々と死神が近づこうとしていた。
だが死神が襲いかかって来た時、チカは身を挺して信の命を守り抜く。
その瞬間から、チカの使命は信に受け継がれていた。そして回り道をしながら、その奪われた条件を再び立て直すために、チカが通った茨のような道を一人で歩いていくようになる。
やがて永い年月をかけながら、いよいよ最後の時が近づく時、信の眠れる魂が目覚め、その母の戦いの人生の意味と、今井家に託されている、大切な使命を解き明かしていく。
第三部(チカ激闘時代のあらすじ)
逃れた青蛇 略
建て直しの時 略
彷徨う猫 略
眠れる魂 略
奪う隣人 略
水盗人 一部抜粋・紹介
ある時、急に水道代の使用量メーターが異常に上がり出した。
祖母ゼンは、洗濯好きな長女の信江が、いつも水を出しっぱなしで、すすぎを何回も繰り返して洗濯をすることが原因だと思い込んだ。「信子!お前は何回すすぎばするとか!」「・・・。」「お前のせいで、水道代が何千円も上がっとるとぞ!。」 ある日、ゼンは信江をきつく叱った。信江は普通どうりに使っているつもりだったので、身に覚えが無いのに叱られるのが悔しくて、ゼンに口答えして反抗した。たちまち激しい口喧嘩が始まった。仲裁に立ったチカは、激しく言い争う二人のお互いの言い分を聞きながら、冷静になだめた。
チカは、どちらの言い分も聞いた上で、(どうも、おかしいな・・・。)と考えていたが、ふと何かが直感的に閃いた。チカは家の周りを水道管に沿って見て廻ってみた。すると元栓の方から枝別れして、隣の家に引かれている一本の管を見つけた。
チカは、(ひょっとしたら・・。)と思って、隣の人が水道を使う頃を見計らって、試しに元栓を締めてみた。しばらくすると「あらー、水が出らんばい!。」と隣の親父たちが騒ぎだす声が聞こえて来た。チカは元栓の所で何やらゴソゴソしだした隣の親父を見つけると、自分の直感が当たったのを確認した後、タイミングを見計らってとぼけた様子で近づいていった。
「あら、何ごとですか?、たった今、うちの水道の蛇口が壊れたから、修理するために止めた所ですが・・、おかしなことですねー。うちの水道の元栓を締めて、お宅の水も出なくなるというのは、どうことですかねー・・。」チカは、思わせぶりに隣の親父の顔を覗き込んだ。
隣の親父は、ギョッとした顔をして、何でもお見通しのようなチカの顔を見た。
普段は、無口でおとなしく見えるのに、チカは不正に対して一歩も怯まない激しい性格を秘めていた。隣の爺さんは、意外な母の気性に恐れおののいたのか、そのまま、逃げるように家の中に退散した。そして、翌日すぐに水道管は元に戻されていた。
動く境界石 一部省略・紹介
ある日、チカが買い物に行く途中に、近所の人がチカを呼び止めて耳打ちして教えてくれた。「あ、チカさん!ちょっと、ちょっと、お宅の隣の爺さんが何やら、あんたの家の境の敷石をバールでこねて、いじりよんしゃったですばい。」 チカは、それを聞くと(ああ、又あの親父は、何か良からぬことを始めたな・・。)と呆れた。「どうも教えてくれてありがとうございます。」とお礼を言うと、すぐその場所を見に行った。
境界を見ると、隣の家との境石が今井家の方に少し動かされているのを発見した。
境石の横には、テコを差し込んで、こねたであろう、その後の穴がポッカリと空いていた。
それに良く見ると、裏口に行くための通り道に、境界線一杯に垣根が張り出して立てられていたり、材木が積み上げられて、通りにくくなっているのに気が付いた。
今まで人間一人が荷物を持っても楽々と通れていたのに、身体を横にしてやっと通れるほど狭くなっていた。積み上げた材木の上に跳ね返った雨垂れのために、うちの家の壁板が濡れて腐りかけ、すっかり水ゴケが生えていた。
チカは、これらのことを確認すると、意を決して隣の家に尋ねにいった。「こんにちはー。」中から怪訝そうな顔をした爺さんが出て来た。「ちょっと話しが有りますから・・。」とチカは、爺さんを境界の所に呼び出した。
ヒヤヒヤしながら、爺さんはやって来た。「ちょっと、これを見て下さい。お宅が積み上げてる材木に、雨水が跳ね返って、うちの家の壁の板が濡れて腐りかけているでしょう。」「・・・。」「おじさん、もうちょっと材木を引っ込めて貰えませんか?・・。」「何か!、そんならお前ん家が、雨どいを付けたら良かろうが!。」「うちの家はすぐ付けようと思ってた所です。じゃあ、うちの家が付けたらおじさんとこも付けて貰えますか?。」「何でうちが付けなならんね!」その高飛車な態度にチカは「カチン!」ときた。
「そげな馬鹿なことが有りますか!、だいたい屋根から落ちる雨垂れは、ちゃんと地面に落ちるように作られている筈でしょう。! 境の石をずらして、ギリギリ一杯に材木なんか積み上げるから、こげなことになるとじゃないですか!。おじさんが境石をずらしていることは判っとるとですよ!。」「な、何をー、」親父は一瞬ギョッとしたが、「俺は、知らん、知らんぞ!。」ととぼけた。
「ちゃんと元通りにして下さいよ!。」とチカは念を押して頼んだ。だが、じいさんは突然、「うるさい!。」と大声を張り上げてチカを脅かした。
だがチカは引き下がらなかった。「裏の勝手口に通じる道をわざと開けてあるのに、これ以上わざわざ狭くしないでも、ゆったりと通れるように開けておいたらいいでしょうが!。」「何を!、貴様んは!、おなごのくせに生意気なこと言うな!。」「そげなおなごに、注意される恥ずかしい事しよる人は誰ですか?。」「き、き、貴様は、日本人じゃなか!」「うちが日本人じゃ無かなら、親父さんは何処の人間ですか?!。」
普段は無口でおとなしく見えるのに、チカは不正に対して一歩も怯まない激しい性格を秘めていた。隣の爺さんは、意外な母の気性に恐れおののいたのか、口喧嘩を辞めると、すごすごと家の中に退散した。
二三日すると境界の石はすっかり元に戻されていた。チカに告げ口してくれた人も、その戦いがどういうことになるのか、ハラハラしながら離れて見ていた。 そして完全にチカが爺さんをやり込めたことを見ると、今までの溜飲が下がったのか、その見事さに拍手喝采したのであった。「あのたぬき爺いには、みんな泣かされてばかりいたのに、チカさんは凄かなー、よう喧嘩して負けんやったねー。」みんな驚いていた。
やがて、この事件は近所で有名になり、「あの偏屈爺さんをとっちめた、チカさんという人はただ者んじゃなかばい!、大した度胸のある人ばい・・。」いつの間にか女性なのに武勇伝のような話が伝わり、部落中の人々からも一目置かれるようになっていた。
鉄の花嫁 略
消えた兄貴 略
稲作を辞める時 略
新聞配達 略
記念樹 略
彷徨う猫 略
先駆ける姉 略
第二の敵 狼 一部抜粋・紹介
糸島の田舎の村にも、土地や金融取引の仲介をする悪名高いブローカーがいた。
チカの友達で鍛治屋の長田という奥さんが近くに住んでいたが、ある日そこに寄ると、思いがけない話を聞く事になった。その人たちが戦前から使っていた共同井戸があったが、突然ブローカーが入って来て「今までどおり井戸の水を使うのだったら、家族ごとに毎月一人あたり千五百円のお金を出せ!。」といって脅しをかけて来たという。 家にまだ水道を引いてなかった長田の奥さんは、仕方なく払うことになってしまったが、実のところ井戸の所有者は「五百円で良い。」と言っていたのを、勝手に千円もの額を上乗せして仲介していたのだった。そのブローカーの名前をチカはしっかりと記憶していた。
そして、その悪どいやり方の一部始終を詳しくその人から聞いていた。
ところがある時、今井家と裏隣の家と間で土地のトラブルが起きてしまった。
姑ゼンたちが饅頭屋で稼いで買った今井家の土地は、忠霊塔のすぐ下にあり、無縁仏の石が方々に残っていて、それらに取り囲まれるように位置していた。この家は最初から忌まわしい沢山の怨念と因縁を持つ墓石の霊と隣人たちに囲まれた問題の多い場所だったのである。
ゼンが一人で家にいる時、そのブローカーが訪ねて来た。「お宅の隣の土地を買った裏の家の人から頼まれて来た代理の者ですが、お宅の裏の方の土地は、本来は、隣の領域の土地です。お宅は今、よその領域の分を越えて使ってありますから、すぐに立ち退いて下さいよ!。」ブローカーはゼンを脅して来た。突然の話にゼンは驚いてしまい、正樹やチカが帰って来ると、すぐにこの事を報告した。
チカもゼンの話を聞いて驚いたが、すぐ(どういうことなのか?)と自分の土地の事情について詳しく調べてみた。すると、意外な事が判ってきた。 はるか昔、隣の家の土地と今井家の土地は、大きな一つの屋敷だったらしい・・。だが世代が代わって、いつしか本家と分家とに別れていった。 今井家が買った家は、その「分家」の人の領域だった。それがある時、本家の人が井戸を掘る時、分家の方の境界線から突き出してしまったらしい。(それで本家の人は、ここに井戸を掘る代わりに、裏の方の本家の土地を代わりに使ってくれ・・。)と言って交換した。」という過去のいきさつが判ったのである。
チカには、博多にいる十歳年上の「姉のシマ」がいた。すぐにどうしたらいいか相談してみた。シマが、(信の伯母)土地に関しては、先駆けて色んな苦労をして来ていたことを知っていた。 「ああ、それなら市役所のある人を知っているから、その人に色々と詳しく相談したらいい!。」とシマはチカに、ある人を紹介した。 チカはすぐさま、その土地の法律に詳しい人の所に相談に訪ねて行って、その対策を聞きに行った。詳しく事情を話すと、その人は「そういういきさつなら、何も心配いりませんよ!。」と太鼓判を押してくれた。チカはすっかり自信を深めて帰って来た。
だが、チカが帰って来ると、青ざめた顔をしたゼンがチカを待ちかねたように話した。「チカさん、今日も男の人達が大勢やって来て、勝手に測量しに来なったばい。井戸の所から(梅の木)の所まで斜めに線引きして、『完全に隣の土地にかかってるから、ここからすぐ立ち退け!』って言うて来たばい!。どげんするなー、裏の土地は取られてしまうばい。」ゼンは、オロオロしながら不安そうに心配して言った。
「婆ちゃん、なーんにも心配せんで良かですよ。たとえ誰が来ても、婆ちゃんは相手にせんで立ち会わんで良かですけんね。」チカは、今日相談して聞いて来たことを話して聞かせた。
今度また来た時は、『うちは年寄りで何も判らんから、若いもんがいる時に来て下さい!。』って、無視して言い通したら良かですけんね!。」チカは余裕を持って諭した。
ゼンはそれでも、不安な思いが消えなかったが、不思議とチカの自信に満ちた様子を見た時、(ああ、チカさんに任せれば大丈夫なんだ・・。)と次第に安心するようになった。
その後も、みんなが出かけた昼間の間に、ブローカーの連中が測量士の人を何人も連れて来て、入れ代わり立ち代わりやって来ては、何も知らないゼンを表に連れ出そうとした。
「婆ちゃん、土地の測量するから立ち会ってくれんな!。」言葉巧みに何度も脅しをかけながら呼びに来た。だがゼンはチカの言った言葉を思い出して「うちは年寄りで何んも判りまっせんけん。」と、必死に突っぱねて相手にしなかった。それでも、しつこく巻き込もうとやって来るので、そのまま畑に行くふりをして、ことごとく逃げ通して抵抗した。
一方、チカは、直接、隣の土地の持ち主の所に行って、先手を打とうとしていた。「もしお宅の土地を売られる時は、あの裏の土地はうちが昔から使って来た土地ですし、うちもどうしても必要な土地ですから、よそに売られる時はうちが買いますから一言声をかけて言うて下さい。よろしくお願いしますよ。」チカが念を押して帰った後、残された地主は「こりゃー大変な事になった・・。」とつぶやいた。
地主はすぐブローカに連絡した。「あんたが強引に事を決めて、後は任せとけと言うたから仕方なくあんたに売ったけど、俺はもう知らんばい。俺はこの問題から手を引くばい!。」
ブローカたちも、その話を聞くと、先手を打たれたことにショックを受け、「しまった、俺としたことがあんな女に先手を打たれた・・。」とぼやいていた。
母の知恵 一部抜粋・紹介
今井家の裏庭には小さな花壇があり、そこにはグミ、びわ、桃、梅の木など実のなる木が植えられていた。
この花壇に生える植物は、実のところ、今井家が死守すべき「聖地に生える家族と光の木」を象徴していた。
この土地の争いに負けると当然、山から移って来た木も、姉たちが植えた「桃の木や金柑」も、また信が植えた「梅の苗木」の基台も全て無くなってしまう運命にあった。
だがチカは、既にずっと以前に何かそんな危機を予感していたかのように、裏庭にブロックの小屋を建てていた。(このままだと、何かあった場合には、裏の土地が奪われてしまう・・・。)」と危険を感じてか、あの時、不思議にも、(そうだ、境界線いっぱいに、ブロックの小屋を建てて、簡単に取られないようにすればいい・・。)と直感を感じてなんとなくやってしまったことだが、先駆けてこんな日がやって来ることを予知してたようでもあった。
確かまだ信が小学校の頃だった。チカは、その時、勤めていた土木会社の人に頼んで、ブロックを建てる基礎を造って貰っていた。
信が庭で遊んでいると、チカの働いていた土木工事会社の人夫達が来て、基礎工事を始めた。やがて、基礎の穴の中に砂利が敷かれ、鉄筋を通したブロックが高く積まれていった。
そして屋根を大工さんに造って貰い、最後に瓦を葺いて、ついに「神輿」の様な形の小屋は出来上がった。 信は、この母のした不思議な一連の様子を一部始終見ていた。
帰って来た兄 略
くろんぼ 略
奪われた条件 一部抜粋・紹介
その後も、ブローカーたちの威圧的な訪問や、嫌がらせが続いていた。父の言いつけで、信は、障子の影や、飯台の下にテープレコーダを仕掛けて、脅しに来る人の会話の一部始終を録音して対応した。(そのテープレコーダは、信の英会話の勉強のためにと、母が買ってくれた物で、当時としては、よその家よりは随分早めに買っていた。信は英語の勉強が嫌いで、ちっとも勉強のためには使わず遊びにばかりに使っていた。)
ある日曜日、裏の人とブローカーたちが話に来るとの連絡があった。チカは階段の所から、「信、テープレコーダをちょっと貸しなさい。すぐ持って来なさい!。」と叫んだ。 信は、(何に使うのだろうか?。)と不思議に思いながら、すぐに持って行き、その操作の仕方を簡単に教えた。 その日から、信は大切な録音係になった。 この時、今井家の一家全員が土地を守るために力を合わせて、団結して戦った時でもあった。
本来、策略的なものには全く縁が無く、のんびりゆったりとした血筋を持つ今井家だったが、最前線に立って戦おうとするチカの気概に引き上げられて、みんなも戦うようになった。 土地を奪おうと、様々な策を弄して襲いかかって来る隣人たちに対して、かつてこれ程、今井家の家族全員が、一致協力して戦ったことは無かった。
チカを中心にして、皆が力を合わせて、この土地を守り抜こうとしたのだった。
だが、残念ながら、折角完成した神殿の象徴である小屋の中に、家宝を納めようとする直前に、既に三つの黒い存在が住み着き、浸入してしまう条件を許した後だった。 それは(完成した小屋の棚に一度寝てみよう・・)と思っていた信を、あたかも邪魔するかのように突然、浸入した、忌まわしい三つの黒い影であった。
その黒い存在は、これから信が「光の道」を示す家宝を見いだしていくまでに、降りかかるであろう、立て直しのための三段階の大きな艱難を表わしていた。そして、それはやがて今井家と田口家の親族全てに波紋を起こしていくようになる。
その後、目覚めようとしていた信の魂は、再び眠り続ける運命に置かれることになっていった。これ以後、あたかも廻り道するかのように、信の人生の歯車が、暗闇に向かって大きく逆回転しはじめていった。その事件は、凡人の目にはたわいのない出来事に見えたが、信に託された僅かな示唆で、その供え物を一点の曇りもない聖別されたものとして完結すべき条件が残されていたのだった。 そして、この失敗はチカの責任というよりも、則行を叱った父の正樹の責任でもあり、叱られて急に姿を消した則行の責任でもあった。
また不吉な前兆に気付きながらも、つい母に頼ってしまい、人任せにして、何等かの対処もせずに、見過ごしてしまった信の責任でもあった。
いわば、偶発的に生じたこの事件によって、無くした条件を取り戻すために、今井家の全員が償って行かなければならなくなって行く。
チカが基礎を作り、あと少しで完成する直前の所で、ふいに侵入してきた黒い存在は、則行のやり残した使命を全て奪っていった。その、奪われた条件は、今までの苦労と実績を、全て無に期してしまい、再び、一から立て直すべき課題として残っていった。それは信が中心人物になって辿る、三段階にわたる「暗闇の道」を暗示することになっていく。
猫の生涯 略
信の暗黒時代 略
消えた兄貴 略
鉄の花嫁 略
消えた兄貴 略
空 虚 略
意地悪爺さん 一部抜粋・紹介
土地問題は泥沼の長期戦になり、解決しないまま冷戦は続いていた。
そんなある日曜日に、姉の和子のボーイフレンドの「神田」という青年が、家に遊びに来ていた。
人見知りで、恥ずかしがりやの信は、自分の居る場所を無くしてしまった。追い詰められるように裏の境界線に建てた小屋の傍に逃げて行った。一人ぼんやりと庭の木を見て立っていた。 しばらくすると、そこへまるで、予知していたかのように、裏の意地悪爺さんが、クワを持ってツカツカと近寄って来た。
「こら!そこで何しよっとか、貴様んは!。」爺さんはいきなり怒鳴った。信はびっくりして振り返った。爺さんは今にも殴りかかってきそうな恐ろしい顔をしていた。
信は、自分が狙われたことを直感した。
爺さんは、今まで何度も代理人を立てて、「早く立ち退くように。」とゼンや父や母たちをさんざん脅して来た。だが、一行に埓が開かないのでジリジリした挙げ句、強行手段を取ろうとしてブローカを使って、ヤクザみたいな脅かしを仕掛けて来ていた。
その度に、母はどうしたら良いかと、必死に考えて博多のある人に相談しに行った。
そして、その意見を参考にして自分なりに考えた対処の仕方を編みだして行った。父にも「(相手がこう言って来たら、こう答えたら良い)と聞いて来た。」と事前に綿密なアドバイスや打ち合わせをして応対するようにした。
ゼンが相手にしないで逃げてしまうので、仕方無く、彼等たちは日曜のたびに、現われるようになった。
「おい!、そんなに言うこと聞かないんなら、裁判にかけるぞ!。」「ああ、どうぞ、どうぞ、裁判でん何でん、かけなっせ、その方がうちも助かるし、決着が早かでっしょうな。」「う・・。」「お宅は、何度もうちに来ては、ヤクザみたいなことを言わしゃったなー。 あんたらの会話は一部始終、ちゃんとうちの息子が全部録音しとるっちゃけんな!。 もし、裁判になったら、その会話を弁護士さんにも、みんなに聞いて貰うことになりますばい。」「えっ!・・」「あんたたちが来る時、いつもテーブルの上にマイクが置いてあったのを、あなたもよう見て知っとらしたでしょう?。」「うっ・・」二人は顔を合わせて思い出した。 確かに来る度に、テーブルの上には、いつも小さいコードの付いたマッチ箱の大きさのマイクみたいなものが置いてあるのを思い出した。「ギョエー・・。」ブローカたちは、驚いて言葉を無くし、慌てて退散していった。
その後、裏の爺さんは、ブローカからその話を聞いた。今までさんざん脅して来た恐喝めいた会話の一部始終を、今井家の息子がテープレコーダを仕掛けて録音していたことを聞いたのだった。
「いつもボーとしとる、あの馬鹿息子が、そんな余計なことをしたのか。生意気な!あのガキめ!。いつか覚えていろ!。」 こうして次の日、気が弱そうな信がぼんやりと立っているのを見つけた時、(この野郎!とっちめてやる!)とクワを持って近づいて来たのだった。「こら!何んか!貴様んは、ふざくんなよ!。」
信は何も悪いことした覚えはないのに、いきなり怒られて驚いた。(な、何・・?。)
隣の爺さんはクワを塀にかけ、身を乗り出し凄い形相で信を睨み付けていた。 その時、信は、土地問題で腹を立てていることを、瞬間的に悟った。何か言い返そうとした。その時突然、後ろからチカの声がした。裏の方から聞こえて来る怒鳴り声を聞いて、チカが台所から慌ててとんで来た。
「うちの子が何かしましたか?!。」信を狙っていた爺さんは、急に邪魔者が現われたので、「何か!お前は!。」と今度は母を睨み付けた。「息子がうちの土地で何をしようと勝手でしょう!。」「何を!貴様ん、おなごのくせに、おおちゃくな!。」いきなり爺さんは、クワを振り上げて降ろそうとした。(この時、糸島の地形に漂う歴史的怨念が、この一瞬に集約され再現された。)「あっ、危ない!・・」
母は、咄嗟に手を上げて信に危害が及ばないようにかばい遠ざけた。「信!、あんたは向こうに行ってなさい!。」信は母が心配だったが、言われた通りにその場を離れた。
チカは、たった一人で、土地を奪おうと因縁付けて来る爺さんに、ハッキリと筋を通して言い返した。「何ですか、いい年をした大人が、女や子供にクワなんか振り上げて・・。」言い負かされて、遂に爺さんは怒りが頂点に達し、もう一度クワを大きく振り上げて殴りかかろうとした。「何かー!、お前は!。」(あ、母が殺される!・・)信は一瞬、地獄の修羅場が頭の中に浮かんで、心臓が「ドキン!」と脈打ち、止まりそうになった。 全身の血が逆流して血の気が引いていった。 (こんな時、兄ちゃんが居てくれたら・・)と一瞬思った。
だが、母の最後の戦いは則行も支えてあげてはならなかった・・。
「どうぞ!、殴りたいなら殴んなっせ!。あたしらはいっちょん悪いことしとらんとやからね!。」母は怯みもせずに言った。爺さんは、あまりにも堂々としていたチカに怖れを抱いた。振り上げたそのクワをどうしていいか判らなくなった。「何やー、貴様ん・・・。」と言いながら、もう一度振り上げようとしたが、諦めたように、力無くクワを降ろしかけた。全然脅しが効かないことを悟ると、急にしょげて「覚えてろー・・」ブツブツ吐き捨てると、やがてすごすごと退散した。
信と神田は、離れた所から、勇ましいチカの様子を、顔を合わせてたまげて見ていた。信は、秘められた母の激しい性格の一面を、初めて目の前で見たのだった。
心臓が「ドキン!ドキン!」といつまでも脈打ち、胸を押さえても、しばらく激しく高鳴る鼓動が元に戻らなかった。
この事件は、信が、忠霊塔の周りを新聞配達しながら六年間廻り終えたときに起こった。 裏隣のいじわる爺さんが、信に襲いかかろうとした時、チカはあたかも稲妻のようにいち早く現われ、振り上げたクワから信を遠ざけ、身を挺して守ってくれたのであった。
この時、チカは象徴的に奪われた三つの物を、実体をもって一度に奪い返していた。
確かに、三代をかけて築いて来た象徴的条件は、ほんのちょっと油断した時、完成間近かで穢され奪われてしまった。だがチカは、それから何年か過ぎた後、この日の「クワ事件」で、命を張って奪い返し償うことが出来た。
その瞬間から、そのチカのやり残した使命は、その最大の危機を共に乗り越え、その一部始終を見ていた信の手に移されていった。これは将来、信が永い年月をかけて回り道をしながら戻って来ようとした時、再びチカの協助を得て、必ず勝利するであろうことを暗示していた。 この「クワ事件」は、信の胸に鮮烈にしっかりと刻みつけられた。
信に与えられた課題と使命は、悪の敵陣の真っただ中に入って行って、その中から掴んで戻って来なければならないという、困難な道が待っていた。
幾たびも、悪の組織の中を彷徨いながら、真理の混ざった思想に翻弄されながら、何年もの長き間、惑わされていくであろう。 だが、長き歳月が流れ、全ての訓練を通過し終わった時、封印を解くヒントになる(大切な宝)を掴んで、抜け出そうとする時がやって来る。 その時、信を亡き者にしようと、美しい死神の追っ手が必死に追いかけて近づいて来るであろう。 終わりの日に備えて、光の道を整えようとする信に、悪魔は最後の誘惑を仕掛けて来る。
だが、この時の信は、未来に起こる出来事など、何一つ想像できなかった。 ただ、漠然と頭によぎったことが一つあった。 (いつの日か、自分が逃れ道を無くし、行き場を無くした時、きっと母が現われ、救ってくれるであろう・・)という予感のようなものを感じた。 信という一人の人間の謎と、チカの背負う二つの家系の謎とが全て一致する時、失った「家の光」を再び建て直すであろうことを、先駆けて暗示的に証明することになった。 それは、来るべき実体の勝利の日のために、まず象徴的な勝利の遠因を先に造っていた。 やがて、信の辿る路程の「雛型」となっていく。
先生の目 略
迷 路 略
封印された心 略
孤独の叫び 略
間夜中のギター 略
反復地獄 略
英霊の塔 略
闇夜の祈り 略
天との誓い 略
第一段階の道 略
労働の苦しみ
略
二人の息子の行方
略
白い犬の霊 略
あとがき
略
聖書の言葉より
子供らよ、父の教えを聞き、悟りを得るために耳を傾けよ。私は、よい教訓を、あなたがたに授ける。私の教えを捨ててはならない。私も我が父には子であり、わが母の目には、一人の愛し子であった。父は私を教えて言った。「私の言葉を、心に留め。私の戒めを守って、命を得よ。それを忘れることなく・・背いてはならない。」
知恵を得よ、悟りを得よ。知恵を捨てるな、それはあなたを守る。それを愛せよ、それはあなたを保つ。あなたが何を得るにしても、悟りを得よ。それを尊べ、そうすれば、それはあなたを高く上げる。もしそれを抱くならば、それはあなたを尊くする。それはあなたの頭に麗しい飾りを置き、栄えの冠をあなたに与える。
箴言4/一
光の道を備えよ! 闘争編(一部 二部 三部) おわり
B流浪編に乞うご期待・・!。
つづく
時に閃きの言葉が私に臨んだ。「あなたの親族に謎をかけ、たとえを語って、言え…」
小説 「光の道を備えよ!」 U闘争編 第1部(チカ修練時代)
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