|
参 考 「 遠路の果てに 」 田口 正神
「烈風の丘に立ちて」 田口 チ カ
「稲妻が閃き渡る時」 ほのぼの童子
U闘争編 第1部 − チカ修練時代
第2部 − チカ定着時代
第3部 − チカ激闘時代
はじめに
長編小説 「光の道を備えよ!」 闘争編 第二部(チカ定着時代)
解 説
お菓子屋だった甚七の願望は、饅頭屋の息子のもとに嫁いで行ったチカによって果たされるかに見えた。だがその今井家の二代目(正樹)は鉄工所の仕事に就いていて、既に辞めてしまった饅頭屋の家業には全く関心が無かった。 チカは両家の一代目が無くしてしまった家業を立て直す重要な位置にいたが、そのことに気が付かずにいた。 チカも不思議と家業を継ぐ気が全く無かった。 もはや家業を継ぐものは、戦地に行った次男(芳樹)しかいなかった。
舅の喜平は、芳樹に期待をかけようとして待っていたが、芳樹は戦地から病気になって日本に帰って来たのも束の間、病院で息を引き取って死んでしまう。
もはや、誰も家業を継ぐ者が居なくなった中で、饅頭を作る道具だけが埃を被って眠っていた。その横には、それを悲しげに見ているような芳樹の遺影の写真がひっそりと置かれていた。
ある日、舅の喜平は「継ぐ気があるなら教えてやるからやってみないか?」と家業の再建の願いをチカに託そうとするが、チカはどうしても気が進まなかった。「うちはやる気は全くないです。」と、きっぱりと断わってしまう。
棚から振って来たような(ぼたモチ)のように、突然与えられた使命をうかつにも拒否してしまった時、チカの前に輝こうとしていた未来の光は力を失い、みるみるうちに暗闇に代わって行った。 その時から、チカは山での苦労と忌まわしい戦いを強いられていくようになる。
「光の道を備えよ!」という一代目の家訓を立て直すために来たチカが、眠っていた象徴の家宝に光りを当てることを自らの意志で拒み、その使命を床下に眠らせたまま封印してしまう。結果的に、このチカの定着時代は、糸島の地に竹のように深く根を張って行き、無くした光の道を再び立て直しながら、三代目の実体的路程につなぐための中間路程にもなっていく。
長編小説 「 光の道を備えよ! 」 A闘争編
○第二部(チカ定着時代)
あらすじ
暗黒の地から抜け出し、緑と光溢れる糸島の地に嫁いで来たチカだったが、結婚式の時から、その後の人生を暗示するかのような、波乱づくめの出発が始まっていく。
チカが今井家の嫁としてやって来た時、夫の弟(芳樹)の姿は見えなかった。既に義勇軍の兵士として満州に出征していった後であった。 やがて、病気になって日本に帰って来ることになるが、(元気に回復したら、家に帰って家業の饅頭屋を継ぎたい・・。)と悔やみながらも、急速に病状は悪化していき、その願いを残したまま、遠い陸軍病院の一室でとうとう力果ててしまう。
その芳樹の無念の恨みは、今井家に嫁いで来たチカと、そのあと生まれた子供たちに背負わされていく。その念願は元お菓子屋の娘だったチカによって実現されるかに見えた。
チカは、舅から「饅頭屋の仕事をする気があるなら教えてやるから始めないか?。」と言われるが断わってしまう。 チカにとってお菓子屋も饅頭屋も同じ様なものであった。 苦労の割には儲からない商売であることを、既に嫌というほど体験していたのである。だが、チカはそれを断わった瞬間から、災いと苦しみの道を歩いていくことになる。
それは、チカの立て直しのための戦いの始まりでもあった。
舅も姑も、家業の饅頭屋がうまくいかなくなってから、山を買って稲作を初めたばかりであった。みんな稲作の仕事は、付け焼き刃みたいなもので、なかなか馴染めなかった。 博多の雑踏での生活苦を体験して来たチカにとって、穏やかな山と海に囲まれ、何処かのんびりした田舎の暮らしは、異次元の世界に入り込んだような爽やかな感覚があった。 夫が鉄工所に出かけた後、一人取り残されたチカに、新しい戦いが始まっていく。
稲作の体験のないチカには、山での仕事は何もかも戸惑うことばかりであった。 そんな様子を見ていた姑は(どうせ博多から来た嫁さんやから・・。)と当てにしなかった。
よそ者扱いをされながらも、黙々と農家の仕事を一生懸命に覚えていった。近所や周りの人たちにも、始めは「都会から来たおとなしい嫁」として見られていた。
都会と田舎の人との、物の考え方の違いから来る誤解や心の微妙なすれ違いを感じたまま、嫁と姑の静かなる戦いも始まっていた。
出産、育児、そして稲作の辛くきつい仕事、激しいストレスの中で、今井家に馴染んでいこうと無理を重ねていくが、一時期、心と身体のバランスをすっかり失い寝込んでしまう。
だが舅たちが蒔いた種が、やがてチカたちの代に大きな問題となって振りかかる時、チカはどうしても一家の矢面に立たされるようになっていく。
次々と襲いかかる難題を解決していく度に、秘めていたチカの本領が発揮される。
やがて、子供が大きくなるにつれて、嫁としての自分の使命に目覚め、次第に農家の嫁としての自信を勝ち取っていく。 その地に昔から伝わる祭や、田舎の伝統と風習、そして稲作の仕事もほぼ完全に覚えていった。
毎日山に登り、きつい稲作の仕事を続けていくうち、チカの身体は病気に負けない丈夫な体になっていく。 気が付くとチカは、いつの間にかどんな艱難が訪れても負けない、強靭な精神力と逞しい度胸をも身に付け、更に一層、磨きがかけられていた。
烈風が何度も吹いて来ても、竹のようにサラサラと音をたててしなやかに揺れながら、さっぱりとした性格で静かに地中深く根を張りながら定着して行った。
(殺菌作用を持つ竹は、その中に清められた聖なる空間を持っている。)
チカは今井家に嫁ぎ、竹のように聖別された空間を作る使命があった。その頃から、チカを更に試練をするかのように、不思議なトラブルが何故か、たびたび発生して来るようになる。
だがチカは、振り掛かる災いから山の木や家族たちを守るために、田口家から受け継いだ智略を十分に発揮しながら、全身全霊の気力と知恵をかけて「宿命の戦いの道」に挑んでいくようになる。 その第一の戦いは、今井家に与えられたお寺の上の山の(稲、木、水、境界)に関する争いであった。
第二部 (チカ定着時代のあらすじ)
波乱の出発 略
新天地での出来事 略
消えた後継者 略
正樹と弟妹たち 略
大自然と初心者 略
戦時の風景 略
義勇兵士の悲願 略
帰って来た芳樹 略
託された写真 略
せっかち 略
亡くした子供 略
傾いた山小屋 略
列車事故 略
正樹の見た地獄 略
無くしたもの 略
夫の悲しみ 略
父と子の歩み 略
苦難の谷 略
忍耐の父 略
チカの知恵 略
力持ち 略
早とちりの想像力 略
甚七の幻想 略
木の争い 一部抜粋・紹介
ある時、チカが山に行くと、山の木が切られてしまっていた。
その木は、家を立て直す時の材木にしようとして、チカが大事に枝払いをして手がけていた「檜の木」であった。 (誰がこんなことしたのだろう・・。)と、チカは犯人を探しに隣の山の方を歩いた。 すると、隣のおやじが電気鋸で枝払いをしていた。そのすぐ傍で見覚えある木が倒されて転がっていた。「おじさん!この木はあそこにあった木じゃなかですか?。」「ああ、その木は家の材木に使うのに、ちょうどいい大きさになったから、切ったと。」母は「カッー!」となって、隣のおやじに食って掛かっていった。
「そこの山は、うちが木の筈ですけどね。」「そんな馬鹿な、うちが金出して買うた木ばい・・・・」 チカは、何が何だか判らなくなって冷静になって調べてみた。
すると、舅の喜平がその山も含めて、確かにゼンの義兄から買っていたのに関わらず、残念ながらその「ひのきの木」の生えた土地だけが、登記もれとなっていたことが判った。 その登記もれになっているのを良いことに、持ち主の酒乱の息子が、その山の木を勝手に人に売ってしまっていたのだ。
不思議なことに、ゼンや喜平たちが買った山や古い家は、ことごとく二代目に大きな問題をもたらすのだった。五年しか持たないと言われて買った古い家は、もうガタが来て雨漏りはするし、台風の時などは「ミシミシ」と音がして揺れる状態だった。ゼンは今にも崩れそうな不気味な音を聞くと、「早よう家を立て直さないと、怖くてとても住めたもんじゃないばい!。」と言うのだった。
チカは、いよいよ家を建てる時が近づいて来たので、大工さんに来て貰って見てもらったことがあった。「大工さん、ここの木は家の建築の柱に使えますか?。」「ああ、こりゃあー立派な木ですたい。下の方の太い部分は柱にするのはもったいなか、薄くそいで室内の壁板にしたら良か家が出来ますばい。上の方の部分は柱として十分に使えます。」
その言葉を聞いた日から、チカは、家が出来るその時を夢見て、その木を毎日丁寧に枝払いをして大切に手入れをして来たのだった。それなのに、舅の喜平の不手際による、登記もれに付け込まれ、理不尽にも横から奪われてしまったのだ。 チカがどんなに悔しい思いになっても、書類の登記漏れでは、こちらの不注意であり、何とも仕方が無いと歯噛みして諦めるしか無かった。
契約の時に、きちんと見落とさないで確認していれば、本来うちの土地になった筈であったのに、舅も姑も今井家の人間は、お人好しのところがあり、何処かのんびりしているというか、大切な所をいい加減にしてやり過ごすところが有った。
そのために、大切な財産をみすみす、人から奪われてしまうことになるのだった。
チカは、(今後、こんなことが二度とないように、自分がしっかりしなくてはならない・・。)という気持ちを強くしていった。
うちの土地になった筈のこの山を、他人に叩き売ってしまった持ち主の輝男という息子に対して、チカは、内に秘めた激しい怒りと闘争の炎を静かに燃やしていった。
その後も、今井家の平和と幸せをことごとく奪い、破壊していこうとして現われて来るこの酒乱の(輝男)という男を、チカは今井家を窮地に陥れようと試練を仕掛ける「最初の敵」であることを直感し、腹をくくり心構えをしていった。
第一の敵、狐男 略
狂人の対処 略
勝負と決着 一部抜粋・紹介
それからしばらく経ったある日、再び輝男が尋ねて来た。チカは仕方なく出迎えた。
「今日は酒飲んで来なかったろうね?、酒飲んで来たら入れてやらんと言うとったでしょうが?。」「今日は飲んどらん!。飲まんでしらふで来た。」「ほんとね。ほんならあんたは今日だけはお客さんたい。どうぞ上りなっせ。」チカは言いつけを守って来た輝男をお客として応対し、一応お茶を出してあげた。 落ち着いたところで、「あなたの母親と、うちの婆ちゃんはたった二人だけの姉妹でしょうが・・、それなのに、あんたが勝手にもう親戚付合いをさせんって決めて、こんな寂びしかことは無かでしょう。他に誰も身内がいないのに可哀そかでしょうが。」「・・・。」「あんたはそれで良かろうけど、婆ちゃんたちは何の関係なかとに、うちとあんたの喧嘩に巻き込まなくても良かろうが!。」「・・・。」「最初からあんたがきちんと酒に酔わんで話に来るなら、ちゃんと一対一の差しで収まる筈じゃないね。」「ああ・・・。」
酒の入ってない輝男は、人が変ったようにおとなしかった。チカは、今まで誤解でこじれた問題について、一つ一つキッチリとけじめを付けて説明した。落ち着いてチカの話しを聞くと、知らぬこととは言え、今まで自分のしたことで今井家に迷惑をかけ、気の毒なことになっていたことが判って来た。
輝男は誤解が解けたとき、親父の手違いで損害を与えてしまったことに、少し申し訳なさそうにしたが、所詮、爺さんたちの落ち度で「俺の知ったことじゃない!」と言わんばかりにウヤムヤのまま決着しようとした。「おー、事情はよう判った。そんなら仲直りたい。そんなら握手しよう。」
もう過去のこととして二度と問題を蒸し返さないように葬るために、握手してシャンシャンと手を打とうというつもりらしかった。 チカは輝男のごまかそうというずるい思いを見透かした。「フン、チェッ!」と舌打ちしながらも、今更昔の山を取り戻す気も無くなっていたので、手を差し出している輝男と仕方なく握手して仲直りしてあげることにした。輝男は、これでお互いに昔の事は水を流してしまおうと勝手に都合の良い提案をした。
その時、信が学校から帰って来た。輝男が座敷に上がり込んで何やら母と話していたので、信は母の事が心配になり、何かあったのかとおどおどしながら傍で見ていた。
そんな信の姿を見ると、「おっ、お前は則行か?」と聞いた。「いいや、弟の信たい。」信は、黙って輝男の顔を見ているので、代わりに母が答えた。輝男は、何かいろいろと話しかけて来たが、ニコリともしない無表情のおとなしい信を睨み付けると、「お前はおとなしかねー、俺と何も喋りきらんのか!。」と蔑むように言った。「・・・。」「信はチカより、正樹似の子供やなー。」と馬鹿にするように言った。するとチカは、「そうたい、この子はうちの子供じゃないと!。よそから拾って来た子供たい、ハハ・・。」と冗談を言ってかわした。
信は、輝男とチカの言葉にひどく傷ついた。(父の子で何が悪い・・!それに母さんまで自分の子ではないなんて酷いじゃないか・・。)内心思いながら、(母は弱みを握られない為に、大人の駆け引きの言葉の、軽い冗談のやりとりをしたのであろう・・。)と解釈して許そうと思った。 輝男は信がチカの血よりも、父の正樹のおとなしい性格を受け継いでいることを見抜いていた。確かにこの時の信は、今井家ののんびりとしたおとなしい性格のみを受け継いでいるように見えた。だが、その内側には田口家の激しく強い気性が密かに芽生えようとしていた。
(お前なんかと、まともに話せるか!、さっさと早く帰れ!・・。)という思いが今にも声になる直前で、激しくくすぶっていたのだった。
確かに、信はある時まで、田口家側の人間と激しく対立するような運命に置かれていた。チカは、信に舅のことを話す時、いつも「お前の爺さんたい!」と喜平のいい加減な対応が招いた災いによっぽど腹を立てていたのか、信も喜平と同じく、今井家のいい加減な血筋を受け継いでいると暗に決めつけているところがあった。
こうしてそれ以来、輝男は酔って家に来なくなった。 遂にチカはこのキツネのような男との長い戦いに、寛容と許しの精神で決着を付けたのであった。
水の戦い 一部抜粋・紹介
ある水不足の年の暑い夏の日だった。
チカが久しぶりに山に登って見ると、田んぼがすっかり干上っていた。
ひびが入って、今にも稲が枯れかかっていた。チカはあわてて川口の方を見に行くと、うちの田んぼに流れていくはずの関に、大きな石が積み上げられて全然水が流れないようにしてあった。「誰がこんなことをしたのだろう・・。」
チカは、怒りを覚えながら、下流の方に辿って歩いて行くと、全開した関を見つけた。
そこは隣の田んぼで、水が溢れる程「ザーザー」と流れ込んでいた。チカは怒りを押さえきれなくなり、隣の田んぼにいる人の所にツカツカと近寄った。
「うちの稲が枯れてしまっているのに、おたくの田んぼだけ、随分潤ってますね。」
「・・・・。」「いくら水不足で困っても、こんな時はお互い様でしょう。うちの方に流れる関を完全に止めても、自分たちだけ潤えばいいという考えですか?。」
一年の苦労が無駄になり、収穫が無くなることは、一家の死活の問題だった。
だが、水を独占した隣人は、一つも謝ろうとしなかった。「人のことなんか知ったことじゃないよ!。」母はそんな自分勝手な態度の隣人が許せなかった。激しい口喧嘩をしてチカは帰って来た。
まだ幼かった末っ子の信は、チカが興奮しながら戻って来て、ゼンにさっきあったことを話しているのを傍で聞いていた。
あとがき 略
聖書の言葉より
主の言葉が私に臨んだ。「人の子よ、あなたは一本の木を取り、その上に『・・と・・の子孫のために』と書き、またもう一本の木を取って、その上に『・・と・・全家のために』と書け。これは(エフライムの木)である。あなたはこれらを合わせて、一つの木となせ。これらはあなたの手で一つになる。 エゼキエル三十四章十五
知恵を求めている人、悟りを得る人は幸いである。知恵によって得るものは銀によって得るものに優り、その利益は金よりも良いからである。
知恵は宝石よりも尊く、あなたの望む何物も、これと比べるに足りない。
その右の手には、長寿があり、左の手には富と、誉れがある。
その道は楽しい道であり、その道筋はみな平安である。
知恵は、これを捕らえる者には「命の木」である、これをしっかり捕らえる人は幸いである。主は、知恵をもって天を定められた。・・・
我が子よ、確かな知恵と、慎みとを守って、それをあなたの目から離してはならない。それはあなたの魂の命となり、あなたの首の飾りとなる。こうして、あなたは安らかに自分の道を行き、あなたの足はつまずくことが無い。
箴言三/十三
光の道を備えよ! 闘争編(一部 二部 ) おわり
三部に乞うご期待・・!。
つづく
時に閃きの言葉が私に臨んだ。「あなたの親族に謎をかけ、たとえを語って、言え…」
小説 「光の道を備えよ!」 U闘争編 第2部(チカ定着時代)
|