以下の文章は第1回司法制度研究集会のまとめからのものです。
書記官部会一討論の集約
書記官部会では、書記官制度問題がとりあげられた背景について、先ず論議がかわされた。書記官は裁判の公正を担保するための公証官として主要職務を有しており、裁判所為調査官や廷吏のように裁判官の補助官又は下僚ではなから裁判官の職務を補助する義務はない(国公法一〇五条参照)わけであるが、現実に裁判官の補助的事務を慣行的になしている。昭和三十三年全司法では権利斗争の立場から裁判書作成拒否斗争を指導し、書記官の裁判官への従属化をうらきる方針をうちだしたが、最高裁当局は沿革史的にみて書記官は裁判官の補助者であるとの見解にたってこれらの事務は書記官等の職務であるとしてこれを拒否した組合に対し免職等の挙にでた。しかし全司法では、裁判所書記官は手続の公正を担保するための独自の機関であって裁判官の事務補助者ではないから裁判官の職務を補助する義務はないとの理由で争論中である。
一方当局側では開店休業中であった書記官制度調査委員会をして答申を提出するよう申し入れ、委員会は本年一月一八日に@書記官をして補佐的職務を行うものとせよAその待遇について考慮せよ、との答申を提出した」。又昭和三三年三月に開かれた全国民事裁判官会同では書記官の職務権限の調整について具体的な討論を行うにいたった。
これにひきかえ書記官側では、一審強化等に伴う諸事務の増加、速記官立会による公証事務の体質変化、適正待遇の要求の声の増大といった状況のなかで、おそまきではあったが、書記官制度確立の問題を自らの問題としてうけとめて検討していこうという動きがあらわれていつた。一方公正迅速な裁判を要求する国民の声が日に日に高まりつつあり裁判制度の民主的な検討の声も強まつてきているという事実も無視しえない。
以上を背景としてとらえていったわけであるが、制度の検討に入る前に、裁判官が本来的に行うべき裁判として憲法が予定している裁判とはなにか、について検討をかえた。これについては、私人相互間における私法上め権利義務に関する具体的な争いを裁断する作用ならびに行政事件の裁判及び犯罪人に刑罰を科する作風が本来的な裁判として理解されうるのではないかという話し合いがもたれ、更に基本的人権に密接に関する強制令状もこれに準ずるのではないか"という見解(東京地中村)も表明された。
次いで制度の方向の検討に入ったが、第一に現行の書記官制度を基礎とし、その独立性をより強化する範囲で書記官の職務を確定すべしとする考え方が出された。
この考え方は、書記官は手続のけ公正さを担保するための独自の機関であってし決して裁判官の補助者ではない。しかるに書記官は実際上裁判官の秘書や手足としての役割を果たされており、裁判官の職務でありながら年来慣行によって書記官が処理してきた事項はきわめて多岐にわたる。それにくらべて独自権限とされる書記官の公証権限は裁判官の命令権によって限定的でありその独自性も相対的である。(例えば調書作成についても裁判官の署名押印等の認証行為が要求される)
このような状態は制度本来の趣旨に反するものである。現在は書記官が公証官に徹するよう努力することが必要であってこれに反する仕事はこれを排除し、書記官の仕事として属すべきものは固有権限として確定し、もって書記官の職務上の独立性と相対的独立から絶対的独立までにたかめようとしようというものである((本部吉田、宇都宮生井、東京高手嶋、田戸、助言者戒能)
右の考え方については次のような点が疑問として提出された。速記官制度の導入によつて書記官の録取的事務の分量に重大な変化を加えて来る。現に東京地裁民事部等で完全に供述録取事務から解放された職場がある。又速記官側においても供述録取部分の公証権、立会権を与えよという意見が強まりつつある。時代のすう勢としても録取事務の機械化というのは必然であろう。そうなると公証官として徹底した場合どれだけの実質的な職務が書記官に残るであろうか。一方訴訟迅速化のために裁判官補助機構設置は時間の問題であり、書記官が公証的立場だけを固執するのは果たして妥当だろうか−というものである。
勿論この立場をとる者も録取事務の機械化ということは否定せず殆どが速記官による録取事務の専門化という方向に賛意を表しているが、公証事務以外の職務を書記官が持った場合に裁判官に対する従属化という面が前面に出て本来の職務遂行が歪められ
はしないか、ということを強く訴えてきた。
第二に、訴訟審行に関するコートマネージャーとしての新職分を確立し、書記官の主要な任務をコートマネージャーとしての役割におきかえるべきであるという考え方がだされた。書記官は職場で訴訟当事者と接触する機会が極めて多く、公判廷以外の当事者との連絡事務は書記官を通じてなされている。集中審理方式が採用されてくるとこのような当事者との予備交渉乃至期日前連絡準備の必要性は益々高まってくる。加えて録取的事務は速記官に委譲されてきつつある。
そこで今後書記官が果たすべき役割として、実質的裁判部門にタッチせず、供述録主事務からも解放され、訴訟審行面におけるるマネージャー的地位につくことが妥当ではないかということが考えられる。そこでは事件受付等従来法文化されないまま通達等で書記官担当とされてきた職務は勿論のこと、送達、執行文、公証行為等も含み、加えて事前準備、事件審理計画立案等に及ぶ職務を担当する。これはいわゆる訟廷事務的なものに重点をおいた考え方で、訴訟審理がスムースに行くように官制官的な役割に書記官をつかせたらどうかという考えである。.
これについては現実にそういう仕事をしている者が多数あった。(長崎有浦、高知藤村、.岡山次田,神戸岡本、盛岡家陣ケ岡、福井小林、鳥取り家石賀、名古屋鈴木)ただ家庭少年係では余りないという報告があった。(横浜家横内、鳥取家石賀)ただこの職務は裁判官の訴訟指揮権と抵触し裁判官の審理の進め方に一定の拘束を加えることになるし裁判官に付随して裁判官の委任乃至命令により担当することになると全くの手足になる可能性もあり、どの辺で調和をはかるかは問題であるという意見が出された。(助言者松井弁護士)
第三に、書記官をして補助官又は補助裁判官と」て裁判官の職務の一部を担当せしむべし、という考え方がだされた。
この形態としては@書記官が書記官としての職務の外に補助宮としての職務なもつA書記官と補助官を切りはなし、書記官は公証に徹し新たな職種として補助官を設ける。補助官は他職種からの転官をも考慮するが事実上は書記官からの転官となろう。B公証官としての書記官の外に補助裁判官を設ける。これは憲法上の身分保障ある裁判官の一種である。−等の類型がだされた。
又職務の内容として予定されるものとして、
@一種の裁判ではあるが判快以外のもの−簡易な裁判ないし付随的裁判がこれである一たとえば支払命令などのように終局裁判の形はとっているけれども裁判の内容あるいば不服申立の方法その他の関係から比較的軽微、簡易な栽判と考えられるものである。
A本質的な裁判手続に付随する事務中実体面における付随事務としての(イ)判例、法令等の調査と(ロ)手続面における付随事務。B判決以外の手続として非訟事件手続、執行手続。-があげられた。
なお、職務処理の類型として、
@独立の職務権限に基づいて処理する。(補助官がこれにあたるであろう)
A裁判官の補助的な職員として補助的に事務処理する。(補助官がこれにあたる)
(イ)補助官にある程度の独立性を付与する。即ち内部的には裁判官の指示をう
けることを要するが、対外的には一応独立の事
務権限を有するものとして処理する。
(ロ)裁判官に従属しその補助者として事務処理する。
−があげられた。
この制度は、いわゆる権限委譲論の中心問題であったため多くの意見が集中した
。
「現在の訴訟遅延は、裁判官の人員が少いことがもっとも大ぎな原因である。しかし早急に増員しえぬとすれば書記官に補助官的職務をさせるか、或いは新職種として補助官を設置すべきである」(長崎有浦)「支払命令、略式命令は補助裁判官の権限とすべきだ」(佐賀足立)「補助官制度を早急に設置すべきである。」(東京地草刈)
という意見が当初提出されたが、これらの意見に対し、
「補助官は、も早裁判官ではないか。裁判である限り形式前なものといえども裁判官がなすべきである」(東京高田戸)「補助官制度には反対する。公正裁判要求という立場と矛盾する。書記官の待遇改善にもならないと思う」(福岡野中)「待遇改善については全職員の問題としてとらえよ」(松江渡部)「書記官が本来の職務に徹することが待遇改善にはならぬということが理解できない」(宇都宮生井)という反対意見と、
「書記官の本来的な職務の外に補助官的な職務をもらこむのは矛盾しはしないか。補助官を新職種として設置することには賛成」(大森川口)という中間的な意見がだされた。
これらの意見を土台にして討論がすすめられていった結果、「補助官は裁判官への道として理解してよいのではないか。書記官昇任のコースとして理解して一向差し支えないと思う」(東京地中村)といった具体的に裁判官の問題をおいた論議の進め方も見られ、,又補助官の任用については、「補助官は書記官出身者に限定すべきである」(東京地草刈)という意見や「外部からもえらぶという建前をとってもよいのではないか。運用で救えることだ」(高知野町)
という意見があった。
対論終了近く本部吉田書記長から、
「裁判官の人員が少いことは、最高裁自身が国会に対して要求していないことが最も大きな原因であることに注意してほしい。先ず裁判官増員を要求する。補助官制度は裁判の本質を崩すという点で賛成できない。書記官の公証官としての徹底、独立性確保という方向の中で、待遇改善をはかっていくことが必要である」との意見開陳があったが、
「そういうかたちの待遇改善は多く望めないのではないか」
(函館丸藤、大森川口)
という意見もあった。
補助官問題は現実に具体化している問題であるため討議も集中したのであるが、書記官が裁判官からの従属をたちきって、公証官としての独立的地位を確保しようという潮流と、「書き役」脱皮のためにも補助的職務に入っていってよいのではなかという潮流が激突して容易に融和しえないという感があった。又前者の立場をとるものには代行書記官の職にあるものが多く、後者の立場をとるものに書証官が多かったのは特徴的であった。
裁判所法六〇条改正案について、これをどう受けとめるかについては、書記官に裁判官の従属的補助者としての性格を付与したものであることは異論のないところであるが、ただ、問題なのはこの改正案を今後の書記官制度の発展方向との関連においてどう評価するかということである。
この点については、補助官についてと同様に、書記官制度確立の第一歩として評価する者と、書記官制度改革とは無関係であって書記官の裁判官への従属化を更に強化したもりとして理解する者との二つの流れがあった。後者について補助官問題に賛意を表する者の中にも同調者がいたのは問題の複雑性を示すものといえる。
全体として討論が割合に活溌な反面、論点がからまわりした感じは否めなかつた。これは書記官制度についての組合の取り組み方に問題があったため(組織としての検討は極めて不十分にしか行われていなかつた)職場全体にこの問題が浸透していないことを示すものであった。書記官制度改革は、裁判制度改革の一翼をになうものであって一職種の利害を超えて、裁判制度全般の検討の上で書記官制度についての真摯な検討が全国の各職場でなされなければならないと思う。
われわれは書記官制度の検討の第一歩をふみだした。これは日本裁判制度史上記録さるべきことである。われわれが共通の目標としてかかげるげる公正迅速な裁判、民主的司法制度確立の二つの要求のために、更に強力な研究活動を押し進めなければならない。
最後に研究集会に参加された各位の熱心なご討議に感謝するとともに今後各職場に於いて研究活動を推進せられるよう希望する。(七月二一日朝東京地裁佐藤純也記)