とにかくリンが来てくれたおかげで、もう大丈夫なはず。そう思って楽観した秋俊は、翌朝、紫の家へ戻ることになりました。紫は昨日の今日で、何だか自分の家に帰るのに、躊躇しておりますが、まあ、昼間ですし、リンもいるのですから平気でしょう。
で、早速窓の残留思念を見つけたリンは、思った通り無害な精神体に過ぎなかった蒲木の思念を見て、何だか指でつついたりして遊んでいる始末です。全く紫を発狂寸前にまで追いやった恐怖の亡霊も、リンにかかってはせいぜいゴキブリ程度の存在にしか過ぎないようですが、そこで、リンが妙なことに気づきまして。と言うのも、この蒲木の思念、何をどうしたところで、人間に直接害を与えることは不可能な存在だったのです。なのに、紫の家で起きた怪現象の中には、ポストを漁られたり、下着を盗まれたりと言った、直接物体をどうにか出来なくてはやれないものもあったのですから、これはちょっとおかしいですよね。
と、思ったその時、別室に居た紫が悲鳴を上げることに。何事かと思えば、何と紫の下着をつけた見知らぬ男が、部屋の中に隠れていたのです。この男、慌てて逃げ出そうとして、素早く後を追ったリンに取り押さえられましたが、何のことはない、紫は蒲木の他にこの変態ストーカーにつきまとわれていたのでした。つまり、紫の家で起きた怪現象は、蒲木とこのストーカーとの合作だったわけですな。
それで、秋俊と紫は昨夜慌てていて、部屋に鍵をかけずに飛び出したため、これ幸いと紫の部屋に入り込んだストーカー男が、紫の下着を身につけて遊んでいたところへ、秋俊達が戻って来たと言う寸法ですが、何にせよリンに捕まったのが、ストーカー男の運の尽きでした。この手の変態が大嫌いなリンは、もうストーカー男に対して殴る蹴るの暴行を加えまくり、見かねた紫の方が、リンを止めている始末です。全くリンの乱暴な性格にも困ったものですが、何にせよこのストーカー男のせいで、紫が死ぬほど怖がったことは事実ですのでねぇ。こう見えても友達思いのリンが、容赦しなかったのもわかるような気がします。
まあ、何にせよここでストーカー男を殴り殺してしまうわけには行かず、男の首を締め上げていたリンを制止した秋俊でしたが、ここで男の様子が急変しました。何だか白目をむいてしまって、まるで死んでしまったように見えたのです。いくら痛めつけていても、手加減はしていたリンは驚いておりますが、その時、窓にへばりついていた蒲木の思念が消えていることに気づきまして。まさか!と思ったその時、ストーカー男は腹に蒲木の顔を浮かび上がらせて、ゆらぎと化すことになりました。
それにしても、こんな風にあっさりゆらぎが出来てしまうとは、常識では有り得ないことらしく、何だかこの街でゆらぎを次々と作り出している謎の敵が、このストーカーにも手を回していたらしいのですが、そんなことに今更気づいたってもう遅い。ストーカー男の体を使うことで、今度は心だけでなく、体もしっかり化け物と化して復活した蒲木は、2年前に殺し損ねた紫を今度こそ殺してやろうと襲いかかって来たのです。無論、リンは紫をかばって蒲木の前に立ちはだかったのですが、リンの正体を知らない紫は、逆にリンをかばって蒲木の元から引き離そうとしまして。これにはリンも参ったようですが、紫にして見れば、自分のせいでリンを化け物の餌食にするわけには行きませんのでねぇ。これは当然の行為ですな。
それで、リンをかばった紫は、そのまま蒲木に捕まってしまい、おかげでただでさえ魔法が使えなくて困っているリンの戦いが、さらに不利なものになってしまいました。これではいったん退却することも出来ず、さらに身軽さが身上のリンが、ろくに身動きも出来ない狭い室内で無理矢理戦わざるを得なくなったわけで、全く持って不利の上にも不利が重なることに。それでも剣を出して必死に戦うリンでしたが、形勢は極めて不利。これではどうにも勝ち目は薄いですな。
ただ、圧倒的に不利な戦いを続けていたリンに、思いがけない形で勝算が生まれ、実は蒲木はまだゆらぎの力を使うことに慣れていなかったらしく、触手の使い方がどこか下手でして。うまく隙を捉えたリンが、懐に飛び込んで、紫を捕らえていた触手を切断し、彼女を助け出したのです。この失敗に激怒した蒲木は、リンを殺そうとして、背後から思いきり触手を伸ばしたものの、ただでさえ下手な触手使いが、怒ったせいでさらに下手になり、触手はリンを捉え損ねて、そのまま蒲木自身の体にぶち当たることに。で、その隙にリンが蒲木の顔に剣を突き刺したのでした。
もっとも、蒲木はかなりのダメージを受けはしたものの、この程度では死なず、逆に動きの止まったリンの方がピンチだったのですが、リンはもう死んでも剣を放さないつもりのようで、そのまま蒲木ともつれるようにして、ベランダから転落してしまいました。見ていた秋俊は真っ青になりましたが、リンはさすがにあっさりとは死なず、何とかベランダにしがみついていたのです。で、蒲木の方にはそんな器用な芸当は出来ず、そのまま地面に叩きつけられた蒲木は、残骸と化して消滅したのでした。
こうして、蒲木を倒したリンですが、何だかこの子、最後にベランダから転落した瞬間、いきなり魔力を取り戻していて、以前と同じどころかそれ以上の魔法さえ使えるようになっていたのです。実際、蒲木に致命傷を与えたのは、地面に叩きつけられた衝撃ではなく、最後の瞬間にリンが放った魔法だったのですが、にしても、これは一体どういうことなのでしょう?リンと秋俊は魔力が蘇ったことを素直に喜んでおりますが、元々、リンの魔法を封じたのは、シンですので。それを考えると、この突然の復活にも何か裏があるような気がしてなりませんな。
12日目・・・美景の異変へ進む
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