さて、今度はティの番ですね。彼女の方はアランとの暮らしにすっかり馴染んでしまったようで、いつの間にか最低限の家事も出来るようになった模様。この調子なら、さして問題なく、アランの下でほとぼりを冷ますことが出来そうですね。

 ただ、そんなティでもどうにも慣れないのが、アランの稼業です。今日もまたアランはモーリスの依頼で、人を一人殺しに行くことになり、それを知ったティは、意味も無く風呂に入って考え込む始末。無論、ティとてマフィアの娘、人殺しの話を聞いて
「きゃあ、怖い〜」
 などとカワイク振舞うような柄ではないのですが、彼女の目から見て、アランは殺し屋には向いていないそうなのです。どうもアランは無理に冷酷に振舞って人を殺しているだけで、本当は優しい人だと言うことのようですが、さて、ティのこの推察、一体どこまで当っているのでしょうか?

 それで、アランの方はと言うと、いつものように手際よく、仕事を終わらせました。が、今回は一つ小さなミスをしてしまい、標的を射殺して人ごみに紛れ込んだ後、一人の少女にぶつかってしまったのです。相手はどこかの良家のお嬢様のようで、かなり器量良しなのですが、本来誰にも見咎められることなく、現場を去らなくてはいけないのに、こんな風に誰かに顔を見られると言うのは、あまりいいことではありませんね。

 そして、この話には続きがあり、なんと相手の少女がスリだったのです。おかげで物の見事に財布をすられてしまったアランは、相手の手際の良さに感心している始末。実際、アランの目をごまかすとは、相手の少女もただ者ではなさそうですが、ここで困ったのが、財布の中に今回射殺した男の写真を入れっぱなしにしていたこと。つまり、殺人の証拠物件を相手に渡してしまったわけで、これはちょっと困りますな。

 まあ、相手が警察に駆け込む可能性はほとんど無く、その点、アランも安心しております。そして、アランにとって朗報だったのが、ティの家族のこと。なんと死んだと思われていたティの兄が生きていて、敵対する組織に反撃し、勝利を収めつつあるのだとか。つまり、もう少し待てば、抗争は無事にティの兄の勝利に終わって、彼女も兄の下へ帰る事が出来るわけですね。

 というわけで、モーリスからこの話を聞かされたアランは、これでやっとティのお守りも終わりになる、とほっとしました。が、どういうわけか、安堵と同じくらい寂しさもあって、この朗報を素直にティに伝える気になれなかったのです。もっとも、ぬか喜びさせるのは可哀想ですから、完全に抗争のけりがついてから、ティに伝えた方がいいと言う理屈もあるわけで、アランの態度は別におかしなものでもないでしょうが、代わりにアランは珍しく自分からティを誘い、コンサートへ行くことにしたのでした。

 こうして、アランとデートと洒落込むことが出来、実に嬉しそうなティでしたが、このデート思いがけない出会いを呼ぶことに。なんと例のスリの少女が、アランが住んでいるアパートの1階にある花屋の娘ソリノと知り合いでして。アランもティもソリノとそれなりに仲が良かったものですから、偶然出会った彼女から、一緒に居たスリの少女を紹介されることになったのです。それによると、相手の少女はオルミナと言う名前で、童話作家なのだそう。ちなみに、ティはソリノから借りてオルミナの書いた童話を読んだことがあり、そうした意味ではまんざら知らない名前でもなかったようでした。

 というわけで、お互い思いがけない再会をすることになったアランとオルミナでしたが、この再会、オルミナにとってまことに好都合だったのです。実は彼女は今ストーカーに狙われているらしく、ちょっと腕っ節の強い男の助けを借りたがっておりまして。アランは例の写真を返すことを条件に、オルミナのボディガードを引き受けさせられたのですから、全く持ってご苦労なことですね。

 ところが、このボディガード、すぐにストーカー退治どころの話ではなくなりました。オルミナと一緒に歩いていたアランは、自分たちがこの辺りを仕切るマフィアに囲まれていることに気づき、一体お前何をした?とオルミナを問い詰めることに。実を言うと彼女、マフィアの懐から偶然にも麻薬の合成に関するレシピをすりとっていて、しかもそれを連中に返さず、自分でずっと持っていたのです。何でも麻薬に手を出して破滅した父親の敵討ちのつもりだったようですが、マフィアもそんなに甘くはなく、すぐにオルミナの仕業だと気づいて、こうして彼女を狙い始めたと言うわけ。さすがのアランもオルミナの無謀さには呆れ果てておりましたが、いずれにせよこうなってしまっては、オルミナの命は風前の灯ですな。

 ただ、アランはここでオルミナを見捨てて逃げようとはせず、彼女にこれからの生き方を決めさせまして。言われたオルミナは、もうスリはしない、作家で食べていけない分は他で仕事を探す、と約束したのです。その返事に満足したアランは、オルミナからレシピを受け取ると、彼女を逃がす囮になって、マフィアどもを引き付けまして。そして、マフィアのボスを呼び出して交渉し、巧妙に偽造した偽のレシピを渡す代わりに、オルミナから手を引かせたのでした。

 こうして、アランに助けられたオルミナは、約束通り、もうスリはやめるつもりのようです。ちなみに、アランとオルミナの関係を誤解したティは、下手くそな変装をした挙句、下手くそな尾行をしていて、マフィアに捕まったりしていたのですが、それもアランが無事に救出することに。全く世話の焼けるお嬢様ですが、オルミナはアランの気持ちがティに向いていることを敏感に察知していて、彼女によるとティはアランの大切な人なのだとか。アラン自身はそんなこと意識しておりませんでしたが、本当にそうなら、後の別れがちょっとつらいですよね。


第14話 冷たい傷痕へ進む

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