ギャルゲーの主人公に関して、今度は彼らの運動神経を見てみましょう。大体、スポーツが得意な男というのは、それが苦手な男に比べて格好いいものですし、そんなところから、女の子に好かれるということも有り得るわけですから・・・。

 それで、主人公の運動神経ですが、これはちょっと面白い。いえ、これまで見て来たもののうち、容姿に関しては明確な描写は無く、成績に関しては、あまり良くないことが察せられる描写ばかりだった主人公が、こと運動神経となると、まるで違った存在になるのです。つまり、彼らの大半は、運動神経がいいか、あるいはそれに関する明確な描写が無いか、そのどちらかで、およそ運動音痴であることがわかる主人公というのは、皆無と言っていいのですから・・・。

 無論、異世界を舞台にしたギャルゲーでは、主人公はモンスター等と闘わなくてはならないため、運動神経が良くなるのは、当然ですが、これはモンスターの出て来ない現代社会を舞台にしたギャルゲーにおいても、同じです。サッカーが得意で、後にプロ選手になった「虹色の青春」の主人公は極端にしても、およそギャルゲーの主人公は、例えば水泳ひとつとって見ても、いつも当然のような顔をして、ヒロインと一緒に、楽しげに泳ぎまくっているのです。現実の世界では、かなづちで泳ぎは全然駄目、という男が珍しくも無いということを考えれば、これだけでも彼らの運動神経が、なかなか優れたものであることがわかります。

 そして、主人公の運動神経の良さは、それ以外にも、様々なイベントで発揮され、実際、主人公が運動絡みでいいところを見せるイベントというのは、もう枚挙の暇がありません。「To Heart」の主人公は、少し格闘技を練習しただけで、格闘技チャンピオンの来栖川綾香も舌を巻くほどの上達を見せましたし、「風の丘公園にて」の主人公は、女子バスケットの名選手夏樹水帆の練習に協力して、彼女から感謝されるほど巧いパートナーぶりを発揮しました。「旅立ちの詩」の主人公は、少し水泳をやっただけで、ハンディ付きとはいえ、オリンピッククラスのスィマー清川望に勝利し、「ファーストKiss物語」の主人公は、通信空手を頑張って、ヤンキー2人と喧嘩してこれを撃退。「Kanon」の主人公は、魔物と闘う川澄舞に協力して、善戦し、「幻想のアルテミス」の主人公は、危機に陥ったヒロインを、素早い動きで何度も救う、といった具合です。

 このように、ギャルゲーの主人公は、運動神経がいいのが普通で、少なくとも運動音痴であることが、はっきりわかる主人公というのは、ほとんどおりません。相手役のヒロインになると、運動神経がいいのは、ひとつのゲームにつき、特定の1〜2人に限定されるケースが多いことを思うと、これはなかなか面白い話だと言えます。

 ただ、だからと言って、ギャルゲーの主人公が、日々トレーニングに励むスポーツマンばかりなのかと言えば、これは明確に違います。彼らの大半は、スポーツどころか、そもそもクラブ活動にさえ所属していないのが普通で、彼らの運動神経は、あくまでも特定のイベントの中でのみ、刹那的に発揮されるものなのですから・・・。

 では、何故ギャルゲーの主人公の運動神経が、揃いも揃って良好なのかと言いますと、大きな理由は二つ考えられます。ひとつはイベント作りの関係で、主人公が運動音痴だと、ヒロインと一緒にスポーツを楽しんだり、彼女達の危機を救ったりするイベントが、成立しなくなるため。そして、もうひとつ、大きな理由が、主人公がヒロインに格好いいところを見せる際、その運動神経を駆使するのが、もっとも簡単でわかりやすいためです。

 現実の世界においては、運動の得意な男というのは、それほど数が多いわけではありません。まして、ちょっと練習しただけで、その道のプロに誉められるほどの上達を見せる男など、極めて稀な存在でしょう。その稀な存在であることを主人公が示す。普通の男ではなかなか出来ない上達をして、ヒロインの前でいい所を見せる。こうすれば、ヒロインが主人公に好意を抱く理由を、非常にわかりやすい形で示すことが出来るのです。

 さらに、このことは、逆の意味においても重要で、例えば主人公がヒロインの前で、運動音痴であることを見せてしまえばどうなるでしょう?無論、笑わせるためのギャグとして、1回限定でやるのならご愛敬でしょうが、本当に運動音痴で、ヒロインの前で恥をかいてしまえば、当然、彼女から嫌われてしまうことになります。もっとも、それを逆手にとって、ヒロインの包容力を見せることも特定の性格づけをした1〜2人なら可能なのですが、出て来るヒロインを全員そうするわけにはいきませんよね。

 というわけで、ギャルゲーの主人公の運動神経は、全体としてかなり良好だと言えそうです。これは本当に面白い現象で、現実の世界において、このような、男は女よりもたくましいのだから運動が出来て当然、といった風潮はかなり弱まって来ているのです。これは昔に比べて、女がたくましくなった裏返しと、いわゆるフェミニズムのように、男と女はあらゆる点で同等でなくてはならないとする思想が、大きな支持を集めているせいなのですが、逆を言うと、フェミニスト的な感覚を持っていて、付き合う男が運動音痴の愚図でも一向に気にしない。そんな進歩的なヒロインは、ゲーム中にほとんど存在しないことのひとつの証しなのかも知れません。


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