特殊な設定の主人公として、ある意味かなり凄い存在なのが、「輝く季節へ」(この作品に関しては、こちらこちらを参照して下さい)の主人公、折原浩平です。この主人公は、成績は平凡で、特に運動神経がいいわけでもなく、日々の生活もぐうたら。そういう点では、他のゲームの主人公と何も変わらないのですが、変わっているのは、その過去と未来。つまり、彼ほど徹底的に不幸な人生を歩んだ主人公は、滅多にいないということなのです。

 まだ幼い頃、折原は父親を亡くしました。これだけでも、実はギャルゲーの主人公としては、ちょっと特別な存在で、他のゲームの主人公ですと、両親は不在だが、死んでいるわけではない、という設定にされるケースが、ほとんどなのです。もっとも、中には「風の丘公園にて」の主人公のように、両親が離婚して片親だというケースもありますし、「幻想のアルテミス」の主人公みたいに、大人になってから父親を亡くしたという例も存在します。が、まだ幼い時期に、いきなり片親になってしまった主人公というのは、ちょっと珍しいでしょう。

 そして、折原の場合、これだけでは済みません。今度は妹が、重病に罹ってしまって、助かる見込みが無くなってしまったのです。で、母親は人生を悲観して蒸発。残された妹は、そのまま寂しく病死してしまうのですから、これはもう大変な話。つまり、折原はまだ年端もいかない子供だった頃に、両親と妹を全て失ってしまうわけですね。

 しかし、ここまで不幸な人生を歩んだ主人公は、本当に珍しいですが、彼の不幸には、続きがあります。天涯孤独の身となった折腹は、叔母に引き取られたのですが、この人、仕事が忙しいとかで、ろくに構ってくれず、折原は事実上の独り暮らし。で、そんな人生に嫌気のさした折原は、永遠の世界とやらに行きたくなって、で、もって、その頃に会った謎の少女と永遠の盟約を交わすことになりまして。この盟約、何だかよくわからないのですが、とにかく、折原が高校生になってから、発動したのです。おかげで彼は好きな子が居るのに、その目の前で姿を消さなくてはならなくなったのですから、もう処置なしです。

 というわけで、その凄まじい不幸で、他の主人公を圧する折原ですが、それにしても、これは極めて特殊な例で、通常の主人公は、ここまで不幸に見舞われることはありません。無論、「Memories Off」の主人公のように、不幸な過去を抱えた男も居るのですが、それでもせいぜい恋人を亡くした程度で、自分の家族全員と、自分自身の存在まで無くしてしまうほど、徹底的な不幸に見舞われたケースは、まず無いのですから。

 それでは、何故、この折原だけが、こんな極端に不幸な人生を送ることになったのかということですが、一つには、ゲームのシナリオの都合が挙げられます。この「輝く季節へ」は、主人公が姿を消し始めてからが、いわば一番の見せ場になってまして。この世界にあとわずかしか居られない主人公の姿を描くことで、プレーヤーを泣かせようとしているのです。そうである以上、主人公がこの世界から消えたがった理由をしっかり作らなくてはならず、そのためには、彼に人生に嫌気がさすほど不幸な目に遭ってもらわなくてはならないわけですね。

 そして、極端な不幸に見舞われたせいで、折原の性格は、かなり屈折しております。実はこの「輝く季節へ」の場合、ヒロインが全員、何かしら体や心に障害を抱えた子ばかりでして。つまり、障害を持った子とつき合うのですから、主人公の方も障害を抱えていた方が、お互い、相手の存在によって、自らの傷を癒すという演出が出来て、好都合なのです。実際、この作品で、唯一、何の障害も持っていなかった長森瑞佳のシナリオは、主人公の持つ障害だけが極端にクローズアップされて、どうもうまくまとまってませんでしたし・・・。

 こうして、ゲームのシナリオの都合と、ヒロインの設定とが相まって、このような極端に不幸な主人公を作り出してしまいました。こういうケースは本当に珍しいのですが、まあ、中にはこんな主人公が居ても、それはそれで面白いのかも知れません。


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