食材市場vol.3
ソバ屋
「翁」詣で
 「ソバ屋で憩う」という本を杉浦日向子氏が書いています。厳密に言うと氏とソ連(ソバ好き連)著なんですけど、ソバ食うことに関しての楽しみをお店を挙げながら綴っているもので、その中に、ソバは腹をすかせた若者にはごえんりょうとあります。僕もいつも腹をすかせていているような奴で、おいしい食い物のことを考えている時間が長く、まわりからもそう言われます。確かに大食漢なのかもしれませんが、ソバを食うのが好きですし、楽しいと感じます。確かにいいソバを食べさせるお店のソバは量も少ないですし値段も張るので、食欲旺盛な若者には物足りないでしょう。氏の言うことも最もな所がありますが、おいしいものは何も遠慮することはありません。積極的に食べに行きましょう。ただ、おいしいソバというものはそう、ガツガツ食べられるものではありませんが・・・。
 山梨と長野の境には八ヶ岳があります。この山麓は爽やかで夏はもちろん最高ですが、他の季節でも良さを実感できます。山梨、長野、静岡辺りにはいい高原があるのですが、その中でも八ヶ岳周辺はほかでは感じられない良さがあって、何度もドライヴに行くところです。そして、おいしいソバ屋がいくつかあって、行くと必ずよって行くことにしています。
 翁は八ヶ岳の麓、山梨の長坂町の林の中にお店を構えています。国道から離れたところにあってはじめて行くときは探すのに少し難儀しますが、休日ともなれば、遠方のソバ好きの人が、わざわざ一枚のもりソバを食べるために駆けつけてきます。確かに翁はソバ好きの間では知らない人はいないといわれるほどおいしいソバを食べさせる店として有名で、冒頭で紹介した杉浦氏の本の中で、翁をソバの神聖な場所として「翁詣で」とあるほどです。
 確かにそのソバは洗練されていておいしく、汁もだしとカエシとのバランスがよく、絶妙です。もちろん汁がおいしいのでソバ湯も楽しみのひとつ。
 友人と2月の雪が舞う日に翁に詣でたときは最高でした。中央高速を長坂のI..C.で下りて翁の林に向かう途中、ほとんど他の車とはすれ違わず、店内の人もまばらで、いつもの翁とは様子が違い落ち着いて話してもりソバを待ちました。待ちとおしかったソバが出されると流れるようにソバを楽しみ、そして、ソバ湯を注いで口にすると、ふわっとした気持ちよさが全身に広がってきました。外は、木々や地面が雪化粧をし、しんとした冬の静けさ。そして、ソバ湯からのだしの香りと温かみ。なんともいえない幸せを感じました。
 ソバを食べる楽しみというのはこんな感じなんだろうな。
 

山梨県長坂町
中央高速長坂I.Cより車で15分

お店に贈りたい1枚
Miles Davis+19
「Miles Ahead」
 マイルス・デイヴィスの初期の作品で、ド・ジャズでなくてそんなに神経質にならなくても楽しめますが、清廉さが良い味のクールジャズ。