第1旅  南房総・鋸南町『水仙まつり』を見に行く
      (ついでに酒も飲む)



 記念すべき「観光酒の研究」第1回、どこへ行こうか。
 どうせならお祭りとかやっている場所がいいか。そういうところなら、酒にありつける可能性大だろう。
 早速ネットのイベント情報をチェック。
 あった。
 千葉県安房郡鋸南町で『水仙まつり』開催中。南房総に位置する鋸南町、日本三大水仙の里なんだそうだ。
 ならば、ちと遠いけれど、行ってみるとしましょう。

 鋸南町には遠からぬ縁がある。職場の保養所が町内にあったため、現地視察(つまり、業務)のため2度ほど投宿したことがある。
 そういう目的の泊まり客ゆえ管理人さんも手厚くもてなしてくれ、公費で泊ってるというのに食い切れないほどの海の幸をご馳走してくれたものだ。
 その保養所も老朽化のために数年前、廃寮となったが…。

 そんなこんながあるため、この町のことはある程度知っている。
 とりあえず、何もない。
 海水浴のシーズンなら海沿いにそれなりに繁盛するだろうが(漁協直営の食堂が名物ですな)オフシーズンはほんと、町中ひっそりと静まり返ってしまう。
 まして、水仙が群生しているのは山側に入った方角になる。もうほんとになんにもないのは目に見えている。
 しかし、祭りである。多少の出店はあるだろう。そうすればビールの1杯くらいは…。
 そこで。
【ミッション1:『水仙まつり』会場で酒を飲め。】
【ミッション2:行った先にふさわしい観光酒を買って帰れ。】

(注)鋸南町には日本酒の蔵元はない。酒屋さんも、あまりない。ただし千葉県は地元の酒を大事にするところなので、近隣市町のお酒は比較的容易に手に入る。

 時は1月12日(日)、3連休の中日のうえ春を思わせるぽかぽか陽気、現地が混雑するのは間違いない。鉄道や車で行くには躊躇するところだが、幸い神奈川県民には東京湾フェリー(久里浜―金谷35分)という武器がある。海上をショートカットすれば我が家から3時間半くらいみておけば大丈夫だろう。乗り継ぎがうまく行けば、だが。

 はい、乗り継ぎはなかなかうまく行かないものです。二宮から東海道線で大船まで、ここで横須賀線に乗り換えるわけだが、終点の久里浜まで行く列車は20分待ち。しかもホームは人で溢れかえっている。もっともこの人達の大半が鎌倉で下車することはわかってるのだけれど。
 案の定、横須賀線車内の混雑は鎌倉まで。そこから先はゆったりまったり、終点久里浜へ。
 ここからフェリーターミナル行きのバスに乗るわけだが、またしてもバスは出たばかりで30分待ち。駅から歩けないこともないのだけれど、とにかく待つことにして駅界隈をぶらつく。

 久里浜の街はよく知っている。かれこれ10年近く愛用しているウィンドミルのターボライターを景品でゲットしたのはたしか京急久里浜駅前のパチンコ屋だったし、今は亡きココ山岡に危うく引っ掛かりそうになったのはWing久里浜の店内だった。ついでに言うと、ここから京急で2つめの駅である野比(現:YRP野比)に我が母校(大学)の研修所があり、毎年GWにはここで合宿を張って大酒くらってゲーゲー吐いてご迷惑をかけておりましたとさ。ま、どうでもいい話であるが。
 おっと珍しや、駅近くの酒屋に「千曲錦」の自販機を発見。

 バスに乗り込み、ほどなくフェリーターミナルに到着。おーっと、今まさに金谷行きフェリーが出港したところだぁ。こりゃ歩いてれば間に合ってたかも。
 次の出港は40分後、ぼーっと待ってるのもなんだから、少し早いが昼飯にするか。
 さて、ここであの忌まわしき『黒●亭』(伏字)について書かねばならない。本当なら書かずに済ませたいのだけれど。
 久里浜は横須賀市に属するわけで、横須賀といえば近年海軍カレー≠ェ大流行。そこで、フェリー興業(東京湾フェリーの関連会社)直営の『黒●亭』で海軍カレーでも食ってやるかと思ったわけである(ネットで紹介されてたので)。
 この店が団体も受け入れていることは玄関の歓迎 ××様≠フ看板でわかった。既にそれが危険なサインだったわけだが。
 店内に入る。レジのところに2人もいるのに下向いて帳面でもつけているのか、こちらが入店したことに気付かない。しばらくしてようやく気付き、中に通される(というか、空いてる席に勝手に座れって感じ)。
 つい先ほどまで団体客がいらたしく、レジとは別の店員2名がせっせと片づけをしているがこちらのことは無視。他にアベック客が1組。まだ注文品は出てきていない。
 さて、既に海軍カレーを注文することに決めてるのでオーダーを取りに来るのを待つが、来ない。1分…来ない。2分…来ない。3分…来ない。水すら出てこない。レジ班の店員2名、知らん振り。片付け班の店員2名、相変わらず無視。隣のアベック客、注文品まだ来ない。
 この時点でわかったよ。この店は個人客相手の商売なんかしたくないんだね。仕方なく店開けてるけど団体客も帰ったしもう店じまいしたいんだね。
 そうとわかれば話は早い。お店に協力してあげましょう。こちらだってそんな店で大事な金払って飯など食いたくない。店員どなりつけて注文することはできるけど、そこまでしてこの店で食いたくないわい。
 さっき入ってきた正面入口の他に外に出られる通用口があった。で俺、すっくと立ち上がって無言で通用口から外へ。正面入口を突破しないあたりは誠に小心者なのだが、そうすれば捨て台詞のひとつも言わねばならず、それをやってしまうと自分の性格からしてその日一日何をする気力も失せてしまう。当然水仙祭りどころではなくなる。ということで、通用口を突破することにした次第。無論、出て行く俺の背中に声をかける者、誰もいなかった。
 結論、黒●亭では飯食うな。

 気を取り直してフェリーに乗船(ま、黒●亭の一件いい時間つぶしにはなった)。もう何度も乗っているので勝手は知っている。5年前の夏の甲子園、あの横浜×PLの伝説の試合も船内のTVでちょっと観戦していたのを覚えている。金谷まで片道500円、往復なら950円。
 さて、船内で飯食ってしまおう。向こうに着いて飯に時間費やすのはもったいないし、第一あちら側には飯食う場所自体あまりないから。
 このフェリー、35分という乗船時間からは想像できないくらい店内の売店関係が充実していることでも知られている。もち、生ビールなんかも売っていて、これまで乗船した時はたいていお世話になってきたのだが…与えられたミッション遂行のため、泣く泣く我慢。売店で『よこすか海軍カリーパン』とたこ天(久里浜はたこも名物だったよな)を購入。しめて440円なり。

 この売店の売り子さん、大学生風の若い兄さん姉さんなのだけれど客あしらいテキパキしてるしカリーパン暖めてくれるし感じいいし。同じフェリー興業系列なのに黒●亭の店員との違いは歴然。で、カリーパンも予想外に旨いしたこ天もグッドだし言うことなし。しかし…ビールが飲みてえ

【観光酒の法則1
船内で酒売ってるフェリーには車で乗るべからず。飲みたくなるから。

 フェリーは無事に金谷港に到着。ここからJR内房線浜金谷駅までは歩いて6〜7分。一駅列車に揺られ(珍しく乗り継ぎタイミングがぴったり)、保田で降りる。

 ほた≠ニ読む。やすだ≠ナはない。
 さすがに駅前も通常に比べて華やかな雰囲気だし人出も多い。ここから山側に向かっててくてく歩くと『水仙ロード』と呼ばれるところに行けるらしい。既に午後2時を回っていて現地から水仙抱えて帰ってくる人も多いので、その人達を目標にすれば道に迷うこともない。
 結論から言うと、水仙の花はまだ6分咲き程度であった。あと1週間後に訪ねると満開だったかなあという感じ。しかし花もいいけれど素朴な里山を歩くこと自体が楽しい。オフシーズンに1人でこんなところ歩いてたら危険人物視されかねないが、今日は祭りゆえ大手を振って歩けるのが嬉しい。

 ところで、今回の目的は祭りで酒を飲むことだったっけ。さっきから水仙ロードを歩いているのだが、道端で花を売ってはいるけれど酒を売ってるところはないなぁ。
 地図を見ると『水仙ひろば』というのがある。ここが唯一期待できるスポットのようだ。

 水仙ひろばに到着。おー、ビールの幟が立ってるぞ。それに何故か海の向こうの『横須賀海軍カレー』の幟も。いざ、突撃だぁー。
 あれ?もう店じまいですか?まだ3時前なんですが。
 でも撤収作業は完了、ビールを詰め込んだ(と思しき)ワゴン車が今まさに出発するところであった。立ち尽くす俺。

【観光酒の法則2
田舎の夜は早い。酒飲みたくあれば早起きすべし。

 と思ってたら、件のワゴン車が砂地にタイヤをとられてエンスト! 周囲にいた人総出で荷台に乗ったり押したりして砂地から脱出させるのをお手伝い。もちろん俺も。まあ人様のお役に立てたという満足感はあるも、そもそもここに何しに来たんだっけ? とにかく…ビールが飲みてえ!

 もうここから先に酒を飲めそうなスポットはなさそうな感じ。そろそろ日も傾き出したし、もと来た道をとぼとぼ引き返すとする。
 水仙まつりに関する感想を一言申し上げると、素朴で結構ではあるけれど、この祭りに対して町なり観光協会なりがどんな役割を果たしているのかが今一つ見えてこない(臨時駐車場の設営とかはしていたが)。保田や安房勝山の駅前でちょっとしたイベントや地場産品の販売(沿道で個人レベルでやってはいたが、あまりに地味すぎ)などやればいいのに、と思った。
 帰り道、かつて世話になった保養所の跡の前を通る。建物はすっかり壊され更地(売地)になっているのに、看板だけ昔のまま残っている…。何故なんだ?

 結局祭りの会場では酒にありつけなかった。ミッション1、失敗…。
 しかし、もうひとつのミッション、観光酒の調達が残されている。これは金谷のフェリー港で確実に達成可能である。それにどうせフェリーに再度乗り込むわけだし、そこで夕日をバックに買った酒でも飲めば、もう十分使命達成といえるだろう。

 さっきとは逆に保田から浜金谷まで内房線に乗り(さすがに車内大混雑)、金谷のフェリー港へ。
 この近辺での観光酒調達ポイントは3か所。(1)東京湾フェリーターミナル売店(久里浜側はいまいちぱっとしないが―横須賀市限定PB酒「横須賀ストーリー」や「東郷ビール」は売ってる―、金谷側はあらゆるみやげ品が充実) (2)ターミナルすぐ近くの物販&食事施設「ザ・フィッシュ」(鮮魚買うならこちら) (3)道路はさんだ向いにあるセブンイレブン(コンビニと馬鹿にするなかれ、地元のカップ酒「寿萬亀」や「仁勇」をちゃんと置いてあるのが千葉県のコンビニの偉いところ…どっちも糖類入りですが)。各店品揃えが微妙に異なるので、殊に(1)(2)はしっかりチェックした方がよろしいかと。

【観光酒の法則3
コンビニ酒も侮るなかれ。但し、都道府県による温度差は大きい。

 「ザ・フィッシュ」の方で売られてた「寿萬亀」の生もと純米(4合1000円とはえらく安い)やフェリーターミナルオリジナルの同じく「寿萬亀」のミニ樽にも食指が動いたが(いくら樽とはいえ300ml入りで1600円はちと高い)、結局俺がチョイスしたのは同じくフェリーターミナルオリジナルのカップ酒、「かなや丸」(純米)と「のこぎりやま」(本醸造)。どちらも280円というのは場所柄考えれば驚くにあたらない。

 醸造元は富津市の(資)池田酒店、「聖泉」がメイン銘柄の蔵元である。この蔵元ではべったり三増のカップ酒を出しているので(2003年秋、カップ酒への糖類添加廃止)今まで縁がなかったが、東京国税局の鑑評会ではしっかり入賞果たしてるし、実力はあるようだ。ちょっとだけ期待してみよう。

 再び船上の人に。早速さっき買ったばかりのカップ酒のうち、「のこぎりやま」の方を開けることにする。
 時はまさに日没時。夕日をバックにカップ酒…男の浪漫でござるな。窓側の特等席を確保できたし記念撮影でも、と思ったのだが。
 帰りのフェリー、今まで経験したことがないほどの混みようである(キャパが大きいから席にあぶれることがないのは船のいいところではある)。しかし、記念撮影には気がひける状況。
 俺の向かいにもソフトクリーム片手の壮年夫婦がお座りあそばしたため、カップ酒開けることすら躊躇してしまったが、そこは心を鬼にして(何がだ)独りカップ酒を頂戴つかまつることにする。
 ん?

【観光酒の法則4
味に過度の期待をするべからず。

 一応冷やしてあるやつ買ったんですけどねぇ。ちょっと雑味が…。
 しかし蔵元の名誉のために断っておくが、世の中にあまたある、あまり旨くない酒には2通りあって、最後まで旨くない酒≠ニ飲んでるうちに旨く感じてくる酒≠ノ分かれるのである。この「のこぎりやま」、飲んでるうちにだんだん旨くなってきたぞ。ついでに、だんだん眠くもなってきたが。

【観光酒の法則5】
船の上で飲むと、揺れも加わり眠くなる。

※後日「かなや丸」も飲んでみた。こちらはあっさり地味系なれどかなり旨い純米酒だった。蔵元の実力は確認できた。買うならこちらがおすすめ。

 航行時間35分ゆえ、いい気分になってもすぐ着いてしまうのが難点ではある。
 いずれにせよ、南房総への日帰り小旅行を堪能して帰途につきました。

【今回の旅の総括】

水仙まつりは若干期待外れであったが東京湾フェリーの旅は最高。船内外の飲食関係も充実しているが、『黒●亭』だけはなんとかしてくれィ。




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