「地酒の真実」シリーズ 連載終了にあたって

 2001年3月、僕たちは地元の酒のことをどれだけ知っているだろうか≠フ思いにかられてスタートした「地酒の真実」、その後足かけ3年、神奈川県13蔵元・東京都12蔵元・静岡県11蔵元の酒を紹介してきた。
 無論、たかだか1蔵元あたり2銘柄の酒を飲んだところで、その蔵元の真実≠ェわかったなどというおこがましいことを言うつもりなど更々ない。真実に反する記述をしてしまっているかも知れない(お気づきの点ありましたらどうかご指摘願います)。
 しかし、蔵元の眼でも酒販店の眼でもない、一愛飲家の視点から一定地域の全蔵元の(どちらかといえば廉価な)酒の紹介とその蔵元の地域内における位置付けを紹介するような企画が活字媒体でもWebの世界でもほとんど見かけないことを考えると、当企画は決して無駄ではなかったと思うし、拙サイトを日頃ご覧くださっている皆様も、是非このような視点から地元の酒を味わい、可能なことなら発表の機会を持っていただけたらと切に願う。無論私も、このようなまとまった形で掲載することはないけれども、これからも全国各地の地酒について、初心を忘れることなく真実≠追究して行く所存です。

 ここでは、紹介後に大きな動きのあった2蔵元について、(本来もっと早く書かなくてはいけないのだけど)雑感を述べさせていただくことによって当企画終了の挨拶に代えたい。
 まず、静岡県大仁町の「菊源氏」について。
 かなり大きく報じられていることなので既にご承知の方も多かろうが、2003年7月をもって大仁工場における酒類の生産を終了している。旭化成は酒類事業から完全撤退すると共に「菊源氏」の商標権は合同酒精グループの新&x久娘酒造株式会社に譲渡された。
 「菊源氏」のブランド存続の意思は合同酒精にあるようだが、大仁での生産継続はまったく考えていないようだ。
 なお、「菊源氏」の造りを永年にわたり支えてこられた小室恵一杜氏は2003年、逝去された。
 今回の一件から感じたのは、日本の国酒といえどもこの不景気下における大企業の論理からは取引の対象でしかないのだろうか、ということである。
 旭化成の上層部に、日本酒事業、また地酒≠ノ対する思いがどれだけあったかはわからない。しかし、「菊源氏」の幕引きは「富久娘」の譲渡のどさくさに紛れて行われたという印象は拭えず、130年の歴史を持つ地酒ブランドに対しての礼を失しているといえよう。
(愛知県でも近年「敷嶋」「明眸」といった歴史あるブランドが元の蔵元の休業によりそれぞれ「神杉」「蓬莱泉」の蔵元に引き継がれているが、100%納得はできないまでも近在の蔵元であるだけでもまだ良かった、かな)
 さて、合同酒精が今後伊豆とはいわないまでも静岡県内で「菊源氏」ブランドの日本酒を生産する可能性はゼロとはいえないだろう(「大雪乃蔵」のような地酒展開も行っているから)。しかし、結局他力本願にしかなりえないことに一途の望みを託すよりは、むしろ伊豆のみなさんが新しい歴史≠独力で創り上げて行くことに僕は期待したい。
 幸い伊豆には万大醸造という、小さいがしっかりと地元に根ざした酒を造っている蔵元が最後の砦として頑張っているからもっともっと盛り立てて欲しいし、実現はとても困難だとは思うけれど、新たな醸造所を造って他県の蔵元を誘致する方法もあろう(伊豆には結構な数な地ビール醸造所があるが、そのひとつ、韮山町の「反射炉ビヤ」ではかつて日本酒の醸造も行っていたそうだし今でも「江川酒」復活の活動にかかわっているようだからちょっと期待している)。もし「菊源氏」の銘柄にどうしても愛着があるのなら、市民の力で合同酒精グループより商標権を買い取ればいいだろう。
 いずれにせよ、伊豆の地酒≠フ灯かりを消さないためには、伊豆で生活している自治体関係者・観光関係者・酒販店・そして愛飲家のみなさんが力を結集して活動することが必須である。地域外の人間がどんなにオルグしたところで良い結果は得られないだろう。

 もうひとつ、東京・八王子「月丸」について。
 これは当初まったく気付かずにいてお恥ずかしい限りなのだが、2003年、蔵元の西岡酒造さん、八王子の地を離れて福井県に移ってしまった。それも「谷の井」「あまのひめ」で結構著名な河村酒造と合併という形で。
 移転を決意した理由が八王子では良質の水が得られなくなった≠ニいうことのようだが、かつての「月丸」の蔵元の、道路(甲州街道)を挟んだ真正面に蔵を構える「桑乃都」の蔵元さんはこの言葉を聞いてどのように感じただろうか。
 「月丸」といえば地酒ブームのさ中独自の経営センスで台頭し、最近はすっかり多摩の地酒≠ニしての地位を確立していただけに、東京の地をあっさりと捨てて銘酒ひしめく福井の地でやって行く決意をしたのは意外であったが、つまり蔵元にそれだけの勝算があるということなのだろう。とにかく経営センスには長けているから。これからの福井の地酒「月丸」≠フ行方を見守りたい。
 それにしても八王子のSデパートさん。「月丸」の取扱いは平成15年○月をもって終了しました≠ネんて張り紙してあったけど、売り上げに貢献してくれた銘柄でしょ? 福井まで行って買いつけるくらいのこと、してくれよ。



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