白笹鼓
―(有)金井酒造店―


■いちばん近所で買える地酒
 僕は神奈川県中郡大磯町の住民である。ちなみに大磯町は東の大磯地区と西の国府地区の連合体といってよく、今でも町長選挙では必ず大磯地区代表と国府地区代表の対決となる。旧宿場町・お屋敷町の大磯、その名のとおり平安時代は相模国府が置かれていた(らしい)由緒ある国府地区、双方住民のプライドは相当なものである。ちなみに僕は国府地区の住民。
 そんな大磯町には日本酒の蔵元はない。お隣平塚市に出縄酒造という小さな蔵元があったのだが10年近く前に廃業になった。
 おらが町に地酒がないなんて悲しすぎる・・・と思ったかどうかは定かではないが、とある酒屋が立ちあがった。大磯町、というか国府地区プライベートブランド日本酒の誕生である。ありがたいことに家から徒歩10分のコンビニでこの酒を買うことができる。
 その国府PB酒の製造元が秦野市の金井酒造店である。その金井酒造店の代表銘柄が「白笹鼓」。
 実は僕、大磯に越してくる前には15年間秦野市内に住んでいた。なのでそっち方面についても書きたいことは山ほどあるのだが、まあ酒の話をしてから。。

■元・神奈川酒代表
 今でこそ「丹沢山」や「いづみ橋」といった銘柄により神奈川県産酒も全国的にメジャーになったが、ひと昔前までは全国に名のきこえた酒といえば「白笹鼓」だけだったといってよい。昭和53年刊『日本酒大事典』(梁取三義著)の「白笹鼓」の項をそのまま引用すると、
創業は明治四年(1871)。昭和21年会社改組。同35年鎌倉八幡宮、同48年川崎大師の御用酒となり評価を高めた。銘柄は関東一円で信仰あつい「白笹稲荷」の名に因んだ。昔ながらの手造り醸法で、やや甘口。品質は、坂口謹一郎博士も認められたという。(以下略)
 やはりポイントとなるのは神様・坂口博士に認められたという点だろう。当然地元・秦野での浸透率は極めて高く、僕も小学校の社会の授業でこの蔵元の存在を教わった記憶がある。
 かつては市街地の、位置的にいえばダイクマ(旧・忠実屋)とジャスコの中間くらいの場所(地元民以外理解できないか)に蔵元が所在したが昭和61年郊外の堀山下に移転。ちょうど当時市街地の地下水(秦野市は地下水が豊富で古くから名水の地として知られた)からトリクロロエチレンが検出され、地元ではちょっとした騒ぎとなった。これが移転のきっかけであったことは間違いない。それだけ水には敏感だったということだろう。平成2年からは蔵内にモーツァルトの曲を流す。今でこそ「蔵粋」をはじめとしてそのような試みを行う蔵元は多いが、当時としては「長良川」と「白笹鼓」くらいではなかったか。進取の気性、原料と品質へのこだわり、そのどちらも決して衰えていないのに、最近ちょっと影が薄いのは何故だろう?

■飲んでみました
湘南大磯地酒 国府郷 本醸造
 冒頭紹介した我が地元PB酒。こうのさと≠ニ読む。このシリーズには他にも「国府新宿」「月京(がっきょう)」というあまりにもジモティな銘柄のものもある。発売元は吉川酒店なる酒屋。もちろんどこにあるか知っているが、ほんと何の変哲もない町の酒屋さんである。
 さて、ラベルにも薀蓄が書かれまくっているのでせっかくだから紹介してしまえ。
国府郷ハ平安中期永承年間千四拾六年源頼義相模守タル頃国府ヲ置キ一国ノ政務ヲ司トリタル所ナリ
勉強になりますねえ。
 裏ラベルにも商品説明が丁寧に書かれている。使用米は山田錦と五百万石、日本酒度+3、冷やがおすすめだが燗つけるときは36℃以下の人肌でだって。え?36℃以下?個人的にはそれくらいぬるいのは苦手。42℃くらいが好きだなあ。
 能書きはこれくらいにして飲んでみよう。うーん、本醸造だね。それ以上でも以下でもない。味は結構濃醇かな。燗もつけてみたが、はっきり冷や向き、だと感じた
 値段は税抜き860円。「湘南」より高いが「丹沢山」よりは大分安い。
















(後日談 菊池知子さんの売る超・地酒)
 ↑でもちょっと触れた、「月京」を買ってみました。これがっきょう=i実在の地名の読み方)でなくつきのみやこ≠ニ読ませること、初めて知った。
 驚いたのがこの酒の発売元。菊池知子さんという個人なのである。今や日本中にプライヴェート・ブランドのお酒は存在するが、本当の個人が売っているのを見たのはたぶん初めてである。これこそ真のプライヴェート<uランドといえよう。
 ラベル(ご丁寧にも菊池家のものと思しき家紋入り)にはこんな説明が書かれている。
月京ハ奈良時代養老ノ頃高貴ナ都人ガ来タリテ国府ヲ置キ住タル所ナリ
ウーン、「国府郷」ガ平安中期ダカラコチラノ方ガ古イノレスネ。
 さて。味について。
 アル添原酒である。神奈川酒総括のページでも書いたように、これまで飲んできた県内のアル添原酒が軒並み旨かっただけに期待大だったのだけれど・・・これはちとしつこ過ぎるかな。元々金井酒造店のお酒は神奈川きっての濃醇型だから、こうなるのだろうな。それとも蔵元で仕込時に聞かせた音楽がモーツアルトでなく、菊池さんの生歌だったとか・・・(冗談です。ごめんなさい)










白笹 特別純米酒
 大磯PB酒もいいがやはり「白笹鼓」銘の酒を飲んでおきたい。ということで秦野まで行ってジャスコで買ってきた。ってよく見たら「白笹」で鼓の名はない。まっいいか。特別純米酒だが税抜き998円とお値打ち。
 注目すべきはそのスペックで、酸度1.8、アミノ酸度1.7と、神奈川の酒にしてはかなり濃醇な造りである。こういうタイプの酒はえてして飲み手を選んでしまうものだがこれは案外万人向けかも。冷やでも燗つけても甘味があって美味しくいただける。結構おすすめ。





















■秦野のこと
 最初に述べたとおり、秦野は15年間暮らしてきた土地なので、書きたいことは山ほどある。でもセンチメンタルな思い出などだらだら書いてもしょうがないので、ポイントとなることを箇条書きにしておこう。
・盆地特有の人間気質。よそ者に冷淡。イジメはびこる。
・市最大のイベントが『秦野たばこ祭り』。昔葉煙草の名産地だったことにちなむ祭りだが、いかにも時流にそぐわない。かつてこの祭りでミス秦野≠選んでいたが、選ばれたミス秦野≠ェ大麻で逮捕という信じられないオチがついて以来廃止に。
・四半世紀前まで大秦野(現・秦野)駅前、水無川沿いに『桜マーケット』なる戦後の闇市そのままの一角があった。これを知っているか否かで大体の年齢がわかる。
・駅からの坂を登る途中に『秦野名画座』という映画館がある。昔は『初音館』という名前で、ポルノとかもかかっていたが現在は一応封切館。しかし中途半端なロケーションにつきどれだけ客入っているのか。
・その坂道を登りきったところ、ちょうど小田急線と並行するような形で広がる片町通りが昭和の面影をよく残している。『めざましテレビ』でなっちゃんが訪れたパン屋の娘は高校時代の同級生。
・同級生といえば、僕の中学の同級生の女性に超大物がいます。現在は本名でない名前で活動しているのでここでは明かさない(勘のいい人ならわかっちゃいそうだな)。
・その中学というのが当時どうしようもなく荒れていて、しかも僕のクラスは神奈川県最悪の中学のそのまた最悪のクラス≠ニ呼ばれていた。とにかく3年の2学期は毎日毎時間が授業参観(という名の監視)だった。PTAの謀略。僕はこの時以来権威権力信ずべからず≠肝に銘じている。それはそうと、卒業を間近に控えた3学期、ついに憧れの彼女の隣の席(通路を挟んでだが)になった。当時ももちろん嬉しかったが、彼女がとてつもなく遠い存在(=高額納税者)になってしまった今となってはよき思い出である。

 結局センチメンタルな思い出にひたってしまった。最後に名所案内を。
 源実朝公の首塚です。なんだそりゃ?といわれそうですが、地元ではメジャーです。鶴岡八幡宮の石段のところで甥っ子に殺された3代将軍の首を家臣がこっそり秦野まで持ってきて埋めた、という伝説なのですが史実かどうかは疑わしいようです。
 で、先日久々に行ってみたらたいへんなことになっていました。首塚の隣が公園になっていて、土産物屋や蕎麦屋やらができていました。首塚って一応神聖なところでしょう。死人で商売するなよ、って感じです。秦野市ってこの10年くらいの間にこの手の観光施設が林立していて、まあどこも観光客だけでなく地元の人たちも結構訪ねているみたいでそれはそれでめでたいのだが、コンセプトとかは十分に考えて造ってほしいものである。

大正時代の道標。
渋い。
現在の道標。悪趣味。 これが御首塚。たぶん右側のやつがそう。






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