松美酉
―中澤酒造(株)―
■地酒らしいといえばらしいし、地酒らしくないといえばらしくない
神奈川県足柄上郡松田町、一般的には極めてマイナーな町なれど、僕にとっては子供時代から馴染み深いところである。幼稚園の頃肺炎にかかって4日間入院したのは町内にある足柄上病院だったし、当時住んでいた開成町なるところは町内に鉄道の駅がなかった(今は小田急の駅がある。昨日から引退したロマンスカー3100系が駅前に展示されてるそうな)ので、どこかにお出かけする際はバスで新松田駅まで出るのが常であった。
それにしても驚くべきは、あれから30年近く経過しているにもかかわらず、駅前の状況にほとんど変化がないということである。変わったといえば松田高校(柳沢慎吾の母校、マッチはここ受けて落ちたとの噂あり)が立花学園と名前を変えたくらいで、スーパーヤオマサも焼肉の大松園もヤマニ大坂屋も愛隣堂も肉の石川も、それにマニラ食堂も30年前と全く同じ佇まいを見せている。駅前のパチンコ屋は相変わらず店員1名で頑張っているようだ。
言い換えれば、町として半分死んでいるといえなくもない。
小田急とJR御殿場線が交差するといった利便性、それに西丹沢への登山基地としての立場からもも少し発展してもいいものだと思うのだが?商店は6時55分くらいにはみな店じまいしてしまうし。
さて、その駅前からほんのちょっと奥まったところ、しかし実のところJR松田駅のホームからは見えるような場所に、今回紹介する「松美酉(マツミドリ)」の中澤酒造がある。近隣の蔵元に比べ、駅前にあるくせして蔵構えの雰囲気はいちばんである。
マツミドリというネーミングもローカルムード満点だが、販路も極めて限られている。もともと松田町って町域が狭くて酒屋の数も少ない、その数少ない酒屋でもあまり置かれていないときては、一体どこで売られているの、って感じなのである。このあたり、お隣大井町の「曽我の誉」あるいは山北町の「丹沢山」が地元に深く根ざしているのに比べるとちょっと不満である。
意外にもここの酒を見かける機会が多いのは箱根地区、例の共通銘柄「吟の舞」であのあたりで出回っているやつは中澤酒造のものである。
■三増、やめた?いいえ、やめてませんでした。
JR平塚駅前に中澤酒店という大きな酒屋があり、僕も日頃よく利用させてもらっていることは何度か他のページで触れている。とにかく品揃えがユニークで、よそじゃ見かけないようなレアな焼酎(特に甲類)がたくさん置いてある。日本酒に関しても不思議といえば不思議な品揃えで、以前三増酒中心の1升瓶の棚の中にどこで仕入れてきたか「磯自慢」の本醸造がなにげに紛れ込んでて(3,300円くらいで売ってた)腰抜かしそうになったこともある。
地元神奈川の日本酒についても「曙光」「智恵袋」「蓬莱」あたりが置かれているが、メインは「松美酉」である。というのも店名でおわかりのとおり、この店中澤酒造の親戚筋に当たるようである(確認したわけではないが)。ちなみに酒屋の隣には中澤酒造直送≠フ日本酒を飲ませる1杯飲み屋がある。ここも昼から店開けて夕方には閉まってしまう、コアな店である。
さて、その「松美酉」本当ならフルラインナップ揃えてくれると嬉しいところだが、常時置かれているのは3〜4アイテム程度か。下に紹介する「原酒」、本醸造の1升瓶、同じく本醸造にごり酒、それに「かながわ」ラベルの佳撰普通酒あたり。
その「かながわ」に大変化が、今年より出回っているものが糖類無添加になった。昨年まではたしかに三増酒だったぞ。ちなみにここの「かながわ」ラベルは値段も税抜きで1,500円を切ってたと思う(親戚だから安くしてるのかも知れぬが)。これなら全体的に三増酒やめた可能性も大。「曽我の誉」といいここといい、神奈川県西部の酒も捨てたもんじゃない。
その後の調査で、カップ酒に糖類入ってました。残念。
■飲んでみました
松美酉 原酒
上記平塚の中澤酒店で買ってきた。本醸造とも何とも書かれていないので普通酒の原酒(アルコール分18〜19度)と思われるのだけど、いくら原酒とはいえ4合入りで税抜き1,464円て値段考えるにもしかしたら本醸造かもしれない。
昭和50年代あたり原酒≠ちょっと洒落た(変形ダルマ型とでもいおうか)4合瓶に入れて売るのが結構流行ったようだが、日本酒全体の高級化が進んだ現代においてはほとんど廃れた感がある。そうでなくともしぼりたての生酒や純米無濾過酒などで高アルコールの旨い酒が多数出回っているので、わざわざ普通酒の原酒など出す必要がない、という考え方なのだろう(普通酒においては反対に低アルコール化が進行している感さえある)。そんな風潮において昔ながらの原酒≠売りとしているあたり(この商品、小田原駅前の土産物屋にも置いてあった)昔かたぎで個人的には好印象である。
さて、日本酒愛好家(造り手も含め)の間には日本酒の適正な度数は何度か?≠ニいう論争が古よりある。ご承知のとおり一般的な日本酒の度数は15〜16度なのだが、『日本酒が他の醸造酒と勝負するには現行の度数は高すぎ』という意見と『アルコール度数は高いほうが味わい深い』という意見が拮抗している。ここ1〜2年は無濾過ブームもあって後者がやや優勢か(低アルコール商品で決め手になるようなものがなかなか出ないしね)。かくいう僕も断然後者を支持する。これまで土産物とかで12度くらいの純米酒を飲む機会が何度かあり、これがまたどれもクソ不味かったもんで低アルコール酒へのアレルギーは極めて強い。そんなの飲むくらいなら「鳥飼」や「吟香露」あたりを薄めに割って飲む方がよほどいい。
「松美酉」に話を戻す。そういう高アルコール好きのひいき目かもしれないが、この酒は抜群に旨い。原酒だから旨いのか、はたまたもともとが旨いのかはわからない。しかしとにかく旨いのである。普通酒の雑味はほとんど感じないからやはり本醸造なのかなあ。はっきりいって値段は安くないが(純米酒の旨いのが買える値段)純米とアル添の味わいは別物、これはこれでアル添酒の逸品として評価したい。
原酒ゆえ、燗はつけないほうがよろし。少し冷やして飲むのがベスト。
松みどり 純米酒
上記「原酒」を買った平塚の中澤酒店には純米アイテムは置いてなかった。ならばもう地元まで買いに行くしかない。とはいえ「松美酉」の純米酒を売ってる松田町内の酒屋は自分の知る限り1軒しかない。小田急新松田駅からほど近いところにある「中澤屋」。屋号からも蔵元の親戚筋であることはわかるが、店頭にも「松美酉」の各アイテムがディスプレイされていて、その中に純米酒もあった。本来即ゲットというところなのだが。
・・・にもかかわらず、僕はこの店に入ることに躊躇しまくったのである。ここはいわゆるフツーの酒屋で、いつ行っても店内に客の姿などみかけやしない。僕のような変な方にマニアックな客(じゃあ変な方じゃなくマニアックな客ってどんな人かと聞かれると答えに窮するが)がこのような田舎のフツーの酒屋に足を踏み入れる際、どういうスタンスで入っていけばいいのか(地元のサラリーマン風、土産に地酒を買って帰る観光客風、酒マニア風)まずキャラ作りを事前に練っておかなくてはならない。そして店の人から何か問われた際(『どちらからいらしたのですか』『このお酒のこと知ってたんですか』等々)どのように切り返すかとか、いろいろ悩むのよ。こんな馬鹿な男は僕くらいかも知れないが、田舎の酒屋にはスマートな客あしらいのできない店員が多いので入るのに緊張するのは事実である。
それでも勇気を絞って入りましたよ。店内滞留時間は2分なれど、やはり緊張しました。小銭床に落としたり。まあとにかく純米酒を購入(4合1,165円)。なお、「中澤屋」では「松美酉」のカップ酒も売ってた。たぶんこの店でくらいしか買えない。が糖類入りだった。
さてこの純米酒、瓶裏にスペックが記されているのが好印象。美山錦を60%精米ということである。日本酒度+2で酸度1.4というのはかなりオーソドックスな造りといっていいだろうか。で、味ですが、これ旨いです。常温でもいいし燗もいい。ちなみにいちばん旨いのは少し冷やした状態。純米特有のコクも控え目ながら感じるし、燗つけて大化けするわけではないが障りなくするすると喉を通って行く。
原酒も旨かったが純米酒もおすすめ。三増も徐々に減らしているみたいだし、今後も期待持てそうである。あとは県西部でもう少し買える店があればいいのだが・・・。
■松田という町
ここ読んで松田行ってみようと思ったあなた、松田ランドなる場所がありますが行かないこと。何もありません。
他にはお山の汽車ポッポとか寄(公式にはヤドリキと読むらしいが、山ひとつ隔てたお隣秦野市の連中はヤドロギと呼んでた)の自然休養村とかあるけどどれもいまひとつね。
むしろ、冒頭にも書いた駅前商店街がいい感じに古びている。下の写真はJR松田駅(小田急連絡口の方、ちなみにこの駅昔の名残でホームがメチャ長いので一度行ってみて)入口の両脇に威容を構える「マニラ食堂」と「パチンコ松屋」である。
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| 登山帰りに1杯やってく人多し。 | サンプルケース。キリン一番搾り黒ビールなんてちょっと珍しい。 | 昔1度だけ打った。出なかった。 |