喜正(きしょう)

―野崎酒造(株)―


■別に通向きというわけでもないのでしょうが
 僕が日本酒(特にカップ酒)に凝るきっかけを作ってくれた本に、静岡新聞社刊 通称"地酒シリーズ"がある。高橋さんという、地元の短大の先生が(30代の頃!)書かれたもので、現在に至るまで日本酒本の世界に綿々と続く"吟醸・純米万歳、普通酒無視""三増酒を憎んで三増酒を造る蔵元を憎まず"的論調に反旗を翻し、低価格の商品でも褒めるものは褒め、三増酒を出している"銘酒"の蔵元を批判していて、それまで漫然と日本酒を飲んでいた僕に大いに刺激を与えてくれたものだ。
 その"地酒シリーズ"のうちの1冊、「静岡・全国の名酒500選」(1992年刊)において東京都内の蔵元すべてを訪問して紹介しており、その中で「喜正」を激賞していた。今思うとかなり先見の明があったといえるのではなかろうか。
 あれから10年余、「喜正」の名前は酒好きのみなさんの間ではずいぶん知れ渡ってきたけれど、まだまだ全国進出を果たすということでなく、五日市界隈にどっかと腰を据えて商売しているように感じる。

■普通酒への、糖類添加に対する考え方
 かくいう私も今回初めて飲んだわけであります。というのも僕がこの銘柄を知った時は既に"糖類入りの酒出してる蔵元の酒なんて飲まないぞ!"といきり立ってた頃で、当時カップ酒も含めた普通酒に糖類添加されていた「喜正」に自ら手を出すことはなかった。
 その後、2年くらい前からカップ酒への糖類添加はなくなった。
 現在は普通酒の佳撰クラスのものにのみ糖類が添加されているのだが、同じ普通酒で値段も同じ(?よく確認しませんでした)の普通酒で「辛口」とある商品、こちらは無糖加なのである。
 そういえば、福生の「嘉泉」も、佳撰の(洒落てるわけじゃないが)普通の普通酒(なんじゃそりゃ)は糖添、「辛口」は無糖加であった。
 日本酒に多量の醸造用アルコールを添加すると辛くなるので味の調整のために糖類を添加していたところへ、辛口ブームがやってきたため味の調整をしない(する必要のない)辛口≠燗ッ価格帯で出せる、ということなのだろうか。
 うーん、こういう場合、糖類入ってなくてラッキー≠ニ無糖加の辛口に手を出すか、本来の普通酒の味≠尊重すべきか、悩むところである。純米教徒のみなさんからはだからアル添はダメ≠ニ突っ込まれそうだが。

■飲んでみました

 JR武蔵五日市駅の駅舎内にコンビニ兼土産物屋があり、かつてはお酒は扱ってなかったと記憶しているのだが、先日行ってみたら「喜正」をはじめ「千代鶴」「澤乃井」それに「多摩のさざ浪」(青梅の大多摩酒造・現在は委託醸造)等が置いてあった。
 話は脱線するが、野崎酒造の創業者は現在の蔵元の所在地で酒造りを始める前、3年ほど現「千代鶴」の蔵を借りて酒を造っていたそうだ(國府田宏行著「東京の地酒」婦人生活社・1981年刊からの受け売り)。「喜正」が距離的にはさほど遠くない旧秋川市方面に積極的に侵攻をかけていない印象を受けるのは、あるいは「千代鶴」の蔵元に対して仁義を切っているからなのかもしれない。

喜正 純米酒
 五日市で「喜正」を買うには駅前のコンビニ(独立系、店名失念)がいい。各アイテム豊富に揃っており、冷蔵しなくてはならない商品はちゃんと冷蔵庫に入っている(まあ本来それが当たり前なんですけどね)。できれば(火入れでも)純米酒くらいまで冷蔵販売してくれると嬉しいのだが・・・。
 その、常温販売の純米酒である。もっとも製造月を見るとまだ出荷から1か月経っていないからダメにはなってないだろう。
 スペックを記載したラベルは貼られていないが、どこかのホームページに酸度1.6と紹介されていたっけ。税抜1020円。
 まず、お約束で冷や。うーん、昔なつかしタイプの純米酒というべきか。ちょい雑味も感じるかな。
 で、燗をつけてみたら、多分こちらの方がいい感じ。ものすごく燗上がりするというわけではないけれど、ほっとできる、そんなお酒です。
 






喜正 本醸造生酒
 上記「静岡・全国の名酒500選」の中で高橋先生が最も気に入られていたようなのが、この本醸造生酒。たしかに自他共に目玉商品のひとつと認められているようだ。
 これも純米酒と同じく武蔵五日市駅前のコンビニで購入。生酒だからもちろん冷蔵庫に入っていた。が・・・ひとつ大問題が。
 製造(出荷)年月がどこにも表示されていないのである。
 カップ酒の場合時にお見かけすることがあるのだけど、生酒ですよ、まずいでしょう。多分出荷時に忘れてしまったのだと思うけど、これはちゃんとやらんといけないと思います。
 あ、ちなみに値段は結構お値打ちである(アルコール文16〜17度で970円くらい)。
 さて、まず利き猪口で飲んでみた。うーん、これ多分出荷したてではない感じだ。生酒のフレッシュさがやや弱い(ただし、最初の一口目に感じた甘味は生酒のそれだが)。まあ買ったのが10月末で、仕込んでから1年近く経とうとしているものだから、仮に瓶詰めしたてでもこんな感じの味かもしれない。
 ならば、枡の出番だ。グラスや利き猪口でしっくり行かない生酒・原酒系のお酒が見事に息を吹き返すことがままある。ということで、早速試してみました。
 うん、これこれ。枡で飲むとかなり旨くなるよ。

■のめません
 あきる野市戸倉、ちょうど野崎酒造蔵元の前あたりから秋川にかかる橋にかけての旧道沿い、水が滴る音があちこちで聞こえてくる。
 よく見ると、手洗い場のようなのが道端に5〜6箇所、いずれも時代物の蛇口が2つほどついている。わざとやっているのか蛇口がダメになったのかはわからないが、それぞれから水が出しっぱなしになっている。
 おそらく地下水が蛇口からそのまま流れ出てるのだろう。それにしても、他所ではあまりみかけない風情である。いったいどれくらい前までなのだろうか、これらが戸倉の住民の共同水道として使われていたのだろう。
 ちなみに現在はまともに稼動しているのは1つだけ(地元以外の人は維持料として100円払えと書いてあった)。おばあちゃんが野菜を洗ってた。あとは文化財%I状況になっている。「のめません」と書かれた札が貼ってあるものもある。






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