金明(きんめい)
―(株)根上酒造店―


■地方の中小蔵がメジャーになるためには
 日本酒の世界にはシンデレラ銘柄≠ニいうのが存在する。
 それまで地道にコツコツお酒を造って地元のみなさんに愉しんでいただいていた蔵元が、ふとしたきっかけで突然スポットライトを浴びる。マスコミの取材を受け、全国から問い合わせが殺到する(そこから進むべき道を誤る蔵元もあるようだが、本稿でそのことについて触れるつもりはない)。
 さて、それらシンデレラ銘柄≠ヘ、いかにして誕生するのだろうか。
 全国新酒鑑評会で何年連続金賞とったところで、たぶんシンデレラにはなれない(その蔵元の安定した実力を示す指標にはなるだろうが)。
 『特選街』誌の日本酒コンテストで上位入賞を果たす蔵元の中にはまったく無名のところもあるが、それらの蔵元が急激にメジャーな存在になるケースもあまりないようだ。
 ならば考えられるのはただひとつ。カリスマ酒店主=i江東区のH氏が代表的存在か)こそがシンデレラの生みの親といってよいのではないか。
 彼らが新規に扱う銘柄を敏感に嗅ぎつけた日本酒ファンや他の酒店主、雑誌記者などが口コミやネット、活字媒体などで情報を流布する。それが波及してシンデレラ銘柄≠ェ誕生するわけである。
 逆にいえば、そういうルートに乗れない蔵元は、たとえどんなにいい酒造りに邁進してもメジャーになる機会はないといえよう。
 なぜ僕がこんなことをくどくどと書くか。今回紹介する「金明」がまさにそういう、メジャーになれない存在だからである。僕はそのことが悔しくてならない。

■知られざる銘酒
 「金明」の蔵元、根上酒造店は静岡県でも最東部にあたる御殿場市にある。静岡の酒で全国的に有名な銘柄は中西部に多く存在するので、静岡の銘酒≠総括する際に「金明」はこぼれてしまうことが多く、実際中西部の酒屋でこの酒を見かけるチャンスは非常に少ない(以前ヴィノスやまざきで扱っていたのだが、今はどうだろう)。しかし、「金明」の蔵元はそれら中西部の銘酒に引けをとらない企業努力をしているし、その努力に見合った実力をつけつつある。
 糖類添加は数年前に廃止し、蔵元ホームページを見る限り、最近全量特定名称酒になったようだ。
 地元で栽培された酒造好適米・若水を使用した酒を積極的に出している。
 濾過する際に活性炭の使用を最小限にとどめているので、酒にはしっかり色がある。
 JR御殿場駅と東名御殿場インターの中間くらいのところに『食彩の蔵』という直売所を設け、自社の酒だけでなく地場産品や全国の伝統食や調味料を販売し、観光ガイドブックに紹介されるまでになっている。
 およそ良識ある蔵元が行うべき企業努力はすべてしているのではないか。にもかかわらず、地元以外での知名度が低いのは本当に残念だ。

■飲んでみました

 僕が初めてここの酒を飲んだのが3年半前、上撰(普通酒)だった。これがもうメチャクチャ旨かったのである。蔵元は全量純米酒にしたいような発言を当時からしていたのだが、やはりこのアル添酒は地元での人気が高いのだろう、今でも市内のスーパーなどで元気に売られている。現在この上撰は本醸造になったようだが、値段はほとんど上がっていない(3年半前の購入価格が税抜834円、今も850くらいのはず)。
 今回改めて上撰も飲み直そうとも思ったのだが、他に気になるアイテムがあったもんで、ラベルの紹介のみにとどめさせてもらう。

 

 

 

 

 

御殿場若水 特別純米
 上でも触れた、御殿場および隣町の小山産の若水を55%に精米して造った純米酒。考えてみると小山町のさらにお隣が神奈川県山北町であり、ここには若水使用酒のパイオニア「丹沢山」の蔵元がある。案外「金明」の蔵元、静岡県の他社よりもこちらを意識しているかもしれない。
 値段は1456円(税抜)。若干お高めだがそれだけ原料米にコストかかってるということか。
 さて、飲んでみましょう。まず少し冷やして。うん、香りはフレッシュでいとよろし。口に含んだ感触もいい。が、切れがいまひとつだなあ。後に残る味がちょっとすっきりしない。ならばぬる燗で、うん、これだと香りは引っ込むがかなり飲みやすくなる。結論、燗向き
 実は今まで自分が飲んできた「金明」って大吟醸だろうと普通酒だろうと燗上がりしたんだよな。ここの蔵元の酒は全般にそういう酒質なのかな。






 

 

 

するが富嶽泉 純米吟醸生熟成酒
 「金明」のオーソドックスな商品(上撰や上記「若水」等)は御殿場市内のスーパーなどで簡単に手に入る(御殿場駅下の「ひかりストアー」がとても便利―余談だがここ、焼酎のちょっと変わった銘柄を置いてある―)が、吟醸酒や生系アイテムとなるとなかなかお目にかかれない(300ml入りの本醸造生酒は見かけるが)。
そこで、そういった商品が欲しい場合はここへ行こう。上でも紹介した蔵元直営の『食彩の蔵』。
 肴によさそうな全国の食品を扱ってるのもいいが、なんといっても「金明」の大吟醸や生系アイテムをしっかり管理された状態で買うことができる。

御殿場駅からも東名インターからも近い。

店内も清潔で〇。

買い物をしたらお年賀ということで蔵元特製手拭を

くれた。ウレチイ。

 実は訪れたのが1月ということもあってしぼりたてを期待していたのだがあいにくその日は置いていなかった。で、代わりに買ったのが本商品。純米吟醸生酒を3年貯蔵させた品。2000円(税抜)。
 さて、生だとか熟成だとか聞くとどうしても口に含んだ瞬間大感激・・・を期待してしまいがちだが、この製品についてはそれはやめた方がいい。3年の年月はむしろ酒を穏やかに熟成させていて、香りも味も控え目だが実にいい気分になれる。下手するとあっさり1本空けてしまいそうな危険性も同時に孕んでいるが。いずれにせよ旨いです。
 あと、この酒は飲む際の温度管理も大切。ずばり、飲み頃は冷蔵庫から出して1時間後。

■御殿場で名水を汲む
 私、恥ずかしながらプレミアムアウトレットがファミリーランドの跡地(の一部)に造られたものであることをつい最近まで知らなんだ。まああの場所で遊園地だけやっていてもジリ貧は当然だし、結果として首都圏からの客を再び呼び寄せることに成功したのだから結構なことだ。
 とにかく御殿場市は観光資源には事欠かないけれど、生活するにはどうなのだろうか。とりあえず冬は寒いぞ。
 さて、地元の人たちは御殿場は空気と水だけはうまい≠ニ言う。蛇口をひねるとミネラルウォーターが出てくるのだそうだ。ならば私も汲みに行ってきませう。

・上小林・きやり地蔵尊境内の水
 ちょうど冬時分、水かけ菜という漬物用の水菜が市内あちこちの畑で植わっている(2〜3月が収穫期)。これはその名の通り、水を畑に毎日流すことによって育てられる(冬期の湧水は外気より温度が高いので、水を流すことにより畑を保温することになる)わけで、十分な量かつ清冽な水が必要とされる。そこへ行くと御殿場ほどそれに適した土地はないわけだ。ことに市街地から北に4kmほど離れた上小林地区は隠れ名水の里ということだ(某名水サイトではまったく知られていない穴場中の穴場≠ニ紹介されている)。
 穴場である以上、交通アクセスはかなり悪い。JR御殿場駅から山中湖方面行きのバスに乗って『上小林入口』で下車(この時点で相当高度を稼いでいるので下界とは気候が違う。市街地が晴れててもこのあたりは小雪が舞うことも)。そこから直接水を汲めるポイントまではだらだら坂を下って上って30分はゆうにかかる。でもそこら中から水の流れる音が聞こえるので気持ち良く歩けるが。もちろん水かけ菜の畑もそこかしこに。
 上小林で水を汲むのはきやり地蔵尊≠アと東岳院がよさそう。ちなみにきやり≠ニは正しくは輿樗≠ワた当て字で木遣り≠ニ書くらしい。周囲には農家しかない。
 お寺の雰囲気もいいがやはりお目当ては水。水汲み環境はお寺で整備してくださっているので、マナーを守って頂戴しましょう。

 

・東名高速駒門PAの水
 ここは結構紹介されているので利用している人も多いだろう。が、車に乗らない僕にとってはこれまで無縁のスポットであった。今回はここへ歩いて水を汲みに行った(SAやPAはたいてい徒歩利用者が出入りできる構造になってるわけで)のだが、これがまたアクセスの悪い場所で・・・。
 一応最寄りは御殿場線富士岡駅になるだろうが、ここからはどんなに頑張って歩いてもゆうに30分はかかる。PAから徒歩10分のところにある国の天然記念物・駒門風穴の前は一応バス通りだが、バスが走るのは平日の朝夕各1本のみ。とにかくこの町、自家用車持ってないと暮らせません・・・。
 さて、ここは湧水というわけにはいかない。地下から汲み上げた水を蛇口から供している。まあ湧水だろうが汲み上げだろうが旨いものは旨い。もちろん水筒やペットボトルに汲んでく人多し。
 せっかくだから名水で淹れたコーヒーでも飲んでいこう。食堂で300円で売ってるが混んでて待たされるのが難、それだったら外にある紙カップ容器の自販機でもいいのでは。水のいい地方の紙カップコーヒーは結構まろやかで旨い気がするぞ。

頑張って汲んでおります。

・東名高速足柄SAの水
 ここまできたらもうひとつの高速名水処・足柄SAまで足を延ばしたい。が、ここはご存知のとおり山ん中、外からとりつく場合のアクセスの悪さは駒門PAの比ではない。しかし、諦めるのはまだ早い。
 東名高速にはハイウェイバスが頻繁に走っている、そして、その中でも急行便(急行といっても実質各駅停車)については必ず足柄SAで約10分の休憩停車を設けることをプッチバスヲタの僕は知っていたのである。そこで早速作戦決行。御殿場インターから急行東京行きに乗車(たしか下り線のSAに水汲み場はないはずなので要注意)、ほどなく足柄SAに到着、休憩タイムに。ペットボトルを手にいそいそと降車。ありましたありました。SAの建物からはちょっと離れたところにあるが、水汲み人が必ず並んでいるはずなのですぐわかる。
 ここも地下からの汲み上げだが眺めは抜群。やはり滞在時間10分というのは寂しい。車で来てのんびりしたいところだ(足柄SAには宿泊施設もあるのでいっそのこと泊まってしまうのもいいだろう)。

張りきって汲んでおります。
 
 とにもかくにも上小林・駒門PA・足柄SAで名水をゲット。これがその3箇所の水をブレンドした水です・・・って見てもわからんか。

 

 


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