菊源氏(きくげんじ)


―旭化成(株)大仁支社大仁酒類工場―


(以下、2002年4〜5月の記述。2004年現在旭化成は酒類事業から撤退、「菊源氏」ブランドは「オエノンホールディングス(つまるところ合同酒精)」グループに使用権が譲渡されている。

■社名から受けるイメージ
 「菊源氏」である。伊豆の地酒である。だが、旭化成のお酒なのである。イヒ。
 たしか数年前までは旭化成の子会社で、灘の「富久娘」等も含め『東洋醸造』という社名だったはずである。この社名は案外悪くない。現在は完全に旭化成直属の大仁支社ということで、ある意味以前にも増して酒造りの分野を強化しているといってもいいだろう。もちろんご存知のとおり、日本酒のみならず甲類焼酎分野においても大きなシェアを保っている。
 しかし、この社名である。
 日本酒にあまり詳しくない(あるいは、興味のない)人であれば『へえ、旭化成ってお酒も造ってるんだ』程度の感想しか持たないかもしれない。これがちょっと酒を知ってる人となると『なんか混ぜもんしとるんちゃう?』との疑念を抱き(その疑念はある意味正しい。もっとも他の多くの蔵元にもいえることだが)、酒マニアになると「菊源氏」という銘柄聞いただけでそっぽを向いてしまう、という風に。
 やはり、社名から受けるイメージって重要だと思うのである。旭化成株式会社大仁支社大仁酒類工場で造るお酒よりも、合資会社〇〇酒造場で造るお酒のほうがなんとなく美味しそうな感じがするじゃないですか。しかし、これは旭化成の事情もあることだしやむを得まい。
 社名の是非はともあれ、事実はきちんと記しておかねばなるまい。秋田・山内杜氏の小室氏は名杜氏として知られ、鑑評会受賞の常連であること。静岡県の鑑評会では吟醸・純米のみならず普通酒部門でも上位入賞を果たしていたこと。そして、繰り返すが、伊豆の地酒≠ナあること。

工場入口の表示にはまだ東洋≠フ文字が。


■イメージだけで判断してはいけないという話
 「菊源氏」についてネットでいろいろ検索していたら、岐阜にある酒屋さんのサイトで、大仁工場を見学したときのことが記されていた。この酒屋さんも「菊源氏」に対して当初いい印象を持っていなかったそうだが、いざ訪問してみるとその設備の立派かつ近代的なこと、しかし重要な工程はきちんと人手をかけて行っていること、そしてなりより蔵人さんたちの真摯な姿勢に感銘を受けたようだ。
 ここで、自分のサイト内の文章を同じサイト内で引用するというのもおかしな話だが、拙『カップ酒ギャラリー』静岡県のところでこんな一文を書いている。

あ、「菊源氏」なんてのもありましたね。あそこのも大吟醸は旨いらしいが、興味の対象外です

 弁解めいて申し訳ないが、これを書いた当時は三増酒を出している蔵元=悪と決めつけていたのでこんな表現になってしまった。現在でも三増酒自体を悪とする気持ちに変わりはないが、蔵元それぞれの事情・考えがあるだろうし、昨年より地元の酒をいろいろ飲むようになって以来、とにかくその蔵元のいい部分を取り上げてみようと考えるようになったわけで、いずれにせよ2年前の自分には、わざわざ大仁まで出向いて「菊源氏」を買って飲もうなんて想像だにしなかったことだけは確かである。とにかく、イメージだけで蔵元ひいてはその酒を判断してはいけません、ということだ。

■飲んでみました

 「菊源氏」の問題点といえば、観光酒としての要素が強いゆえの商品体系の難解さと、なにより生酒に糖類・酸味料入れてること。生酒がこんなことになっているのは土産物屋で常温で売られることと無関係ではないと推測する(品質維持のため)のだが、とにかくもうそういう時代ではないだろうし、まともな生酒造ればちゃんと冷やして売ってもらえますよ。他にも「菊源氏」は大吟醸も常温で売られるケースが多いと思うし、気の毒ではある。いずれにせよ、土産物屋に並ぶ商品群でここの酒の真価を問うのは間違っているといえるだろう。
 あと、ここが出している合成酒「力正宗」のキャッチコピーが健康の酒=Bおいおい、って感じ。

菊源氏 本醸造
 「菊源氏」の製品には土産物屋に出回らないものがある。それが今回紹介する本醸造と純米(高いほうの)。両者に共通する特徴として、(1)ラベルに小室杜氏の名前が書かれていること (2)私無知ゆえその存在自体初めて知ったのだがラベルに源氏香の図≠ェあしらわれていること。ちなみにこの本醸造は『藤裏葉』 (3)化粧箱入り。いずれにせよ、お土産アイテムとは一線を画した商品ということだ。
 土産物屋で買えないとなるとどこで買えるかというと、なんてこたーない、伊豆地方の大きめのスーパーとかにあります。しかしどこにでもあるというわけでない。この本醸造は見つけるのに結構難儀した。清水町(柿田川公園の前)サンテラス駿東でゲット。税抜き950円。
 さて、この本醸造の大きなポイント。化粧箱に書かれてるコメントを引用すると、

【超辛口の本格派】辛口の酒でありながら、奥行きと幅のある旨味をあわせ持つ本醸造。当蔵独自の酵母と、自然の摂理を生かして手間を惜しまぬ山廃造りとが生み出す、呑み応えある本格派の風味をお楽しみください。

 もう、うっかりすると見落としそうなところに山廃≠ニある(瓶のラベルには表示なし)。もっと大々的に宣伝すればいいのに。
 さて、いくら山廃といったってカッパが仕込んだようなものもあるから油断はできない。早速燗つけて(冷やで飲む気、最初からなし)飲んでみる。うーん・・・
旨い!
 たぶん数値的には相当に辛口なのだろうが(日本酒度の表示なし)実にするすると喉を通って行く。辛さはほとんど感じない。参りました、という感じ。

 

菊源氏 純米
 「菊源氏」の純米酒といえば土産物屋の定番商品である「伊豆の旅」というのがあるが、今回紹介するのはワンランク上のアイテム(1200円税抜)。どう上なのか、化粧箱のコメントから。
【幻の米の香味を復活】かつて酒造好適米として名を馳せた「神力(しんりき)」を特別契約栽培にて復活させました。この幻の米の香味を存分にいかした、バランスの整ったやわらかな酸味。個性ある純米の風味をお楽しみください。
 最近ちょっとした神力ブームではあるが、実は同じ旭化成グループの姉貴分にあたる「富久娘。」(あ、。はいらなかった)でも神力使用の純米酒を出していて、そちらは950円くらいだったような記憶がある。この価格の差はかけてる手間暇の差、それに杜氏の力量の差ということだろうか。
 この純米酒、土産物屋では売られていないが伊豆地方のスーパーでは上記本醸造よりも見かける機会が多いようだ。今回僕は伊豆長岡のハックキミサワ(またマニアックなところで・・・)で購入。
 さて、これ常温販売だったしそんなに期待はしていなかったのだが、これがまたかなり旨いのである。前なり後なりに吟醸≠フ二文字がつかない純米酒の場合、少し土っぽくて冷やで飲むのは今一つということも少なくないのだが、これはOKです。
雑味が少なく、するすると障りなく喉を通っていく。燗つけてもいけるし、かなり高レベルの純米酒といっていいだろう。小室杜氏、さすがである。
 おっと書き忘れてた、純米酒の源氏香の図は『空蝉』。

 

 


■大仁町ってとこ
 「菊源氏」の工場(蔵元と呼ぶには、やはり抵抗が)のある大仁町、それなりに由緒ある町だとは思うのですが、ここは必ず行っとけ%Iなスポットがないようであります。
 実は先日僕が歩いた時に道に迷ってしまい、気がついたら朽ち果てかけた『入山禁止』の看板を発見。そう、ここにはかつて結構立派な鉱山があり、最近までその廃坑および付帯施設等が残っていて、そっち系のマニアには堪らないところだったそうな(検索かけるといっぱいヒットします)。ま、今は何も残ってないそうなので、近寄らない方が無難でしょう(「大仁金山温泉」の看板をかかげる旅館があるが、あれは本来の大仁金山とは別物でしょう)。
 で結局、大仁で何を見ればいいかと問われたら、ローカル私鉄、伊豆箱根鉄道駿豆線大仁駅(周辺の駅もだが)がいい感じに鄙びていておすすめですよ、ってとこか。これじゃあ単なる鉄ちゃんだな。


 あ、本題と直接関係ないけど伊豆箱根鉄道駿豆線の主要駅(三島、伊豆長岡、あとたぶん修善寺も)の駅蕎麦は結構旨い。こないだは伊豆長岡で季節限定品&カ句につられて桜海老かき揚げそばを食したが(ちなみに、一番人気はしいたけそばの模様)、麺は相変わらず旨いが桜海老かき揚げについてはさすがにスマル亭に軍配が上がる、って地域限定ネタですみません。

 

 


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