ことのきっかけ
―当コンテンツを立ち上げるに至った経緯―
(長文なのでダウンロードするなどしてゆっくりお読みください)


【序論】
 しつこいようだが、三増酒の話である。
 マニアは三増酒が嫌いである。まあ三増酒大好き!≠ニいう人はそんなにいないだろうと思う。あくまでも懐との相談において晩酌用の酒が三増酒になってしまうということなのだろう。
 改めて強調しておきたいのは、マニアが決して飲まず嫌いで三増酒を嫌悪しているわけではないということ。学生時代に散々世話になった。あの頃(十数年前)大学生が飲み屋で自腹で飲める日本酒なんて三増酒しかなかった。では何故そこまでして日本酒=三増酒を飲んでたかというと・・・ここからは不適切な表現が含まれるので学生さんは読み飛ばしていただけるとありがたいのだが・・・あの当時学生の飲み会といえば一気飲みがつきもので、男であれ女であれイッキという行為自体一種勇気のシルシであった。女の子からだってしみじみ飲んでる男なんぞより元気にイッキ飲みしてあとでゲーゲー吐いてる男のほうがモテた時代である(今もそういう要素、ないとはいえないと思うけど)。ま、若気の過ちというやつである。やはりイッキ飲みはダメ。マネしないように。
 話がそれた。マニアは元来炭酸系の飲み物があまり得意でなく、今でもビールはゆっくり飲んで中ジョッキ2杯程度が限界(決して嫌いなわけじゃない)。だからビールを一気飲みするのってしんどかったんである。飲んだそばから胃がグルグルいう感じ。ゲップが止まらなくなる感じ。かといってチューハイだとグラスが大きいから1回当たり飲まねばならぬ量が多くなるし、本当はウイスキーの薄い水割りが一番なのだが二次会ならいざ知らず、最初から水割りなんぞ頼めない。そうなると消去法で日本酒となるのである。少なくとも喉をすっと通ってくれるので速さを競う場合は好都合だった(絶対マネしないように)。あとから頭ガンガンくるのが日常茶飯事だったが。しかし、日本酒のイッキでもお猪口を使った『ドレミの歌イッキ』というのは拷問に近かったなあ。どういうものかというと・・・いや、やめときましょう。
 学生時代日本酒とそんな付き合い方をしていた人間が何故突如、日本酒大好き人間に変貌したのか今となっては不思議ではある。やはり旅好きであることが一番の理由だろうか。(ちなみに初めて自分で買い求めた地酒は高知県のJR佐川駅前の自販機でゲットした「司牡丹」の缶入り酒。当時は三増酒なんて言葉すら知らなかったが、恐らく本醸造クラスだったんじゃないか)とにかく旅先で飲んだ日本酒の銘柄は10年以上前のものでも9割方覚えている。やはりカップ酒マニアになる運命を背負っていたのかも知れないな。
 あ、三増酒の話だった。つまりそういうわけで、僕が決して飲まず嫌いで三増酒を嫌悪しているわけではないのはおわかりいただけたかと思う(ほんとか?)。あれは自ら進んで飲んではいかん。やむなく飲まされた場合はまあしようがないが、とにかく自分で金払って飲んじゃダメ、という主張を拙サイトでも繰り広げてきたんだが。



【梅一輪酒造からのメール、そして・・・】
 かつて飲んだ千葉県の「梅一輪」のカップ酒が安くて旨かったということを同社のサイトの掲示板に書き込んだこと、それに対して同蔵元の社長さんより丁寧な返事、かつ拙サイトのことをたいへん評価してくださったことは以前日記にちょっとだけアップしていたのでご覧いただいた方もいるかと思う。その際、「梅一輪」のカップ酒がリニューアルされたことを知り、これは現地を訪ねなきゃという気持ちになった。
 そして去る4月28日、千葉県に赴く。「梅一輪」のカップ酒は成東町のコンビニで簡単に手に入った。以前のプリント瓶から紙ラベルに変わったが基本的には以前と同じデザイン(ただし、以前はなかった『九十九里の地酒』というコピーが入っている)値段は変わらず税抜き174円。早速買ったその場で飲んだんだが(おいおい)全国の優れたカップ酒を飲み漁るようになる前の話であった、前回飲んだときのような感動は得られなかったものの、やはり値段を考えると十分満足のいく味であった。
 さて、成東からローカル線で2駅、東金に移動して駅裏にあるショッピングセンターの酒屋をのぞいてみた。そこの店頭に並んでいたのが「梅一輪」の1.8リットルの紙パック酒。たしか「佳撰」と表示されていたと思う。一応原材料をチェックしたが糖類無添加。さて、その隣に「九十九里」という銘柄の紙パックが。プライスカードを見ると梅一輪酒造の製品であることがわかった。値段は1.8リットルで900円台。嫌な予感。
 紙パックを手に取りひっくり返してみると(紙パックはたいてい銘柄の書かれている裏側―つまりいちばん見づらいところに!―原材料名が表記されている)はたして原材料のところに糖類≠フ文字が…。
 それまで「梅一輪」については非常に安い価格で旨い普通酒を出しているということで、素晴らしく良心的な蔵元だと思っていた。しかし、一方で廃値に近い値段の三増酒を出しているという現実を目の当たりにしてすっかり意気消沈してしまった。そのときの気持ちは当日の日記に(実名を挙げずに)記してある。
 さて、明けて5月1日、再び梅一輪酒造(株)の若林社長よりメールが届いた。



【蔵元の立場からの『三増酒論』】
(以下、若林社長の許諾をいただき、私とのメールのやりとりを原文のまま掲載する。ただし、語句の強調等はすべて私の責任によるものである。) 

ゴールデンウィークいかがお過ごしですか?
梅一輪酒造 若林です。またメールさせていただきました。
今回のメールは三増酒についてです。
マニアさんは三増酒を造っている蔵のお酒は飲まない主義ということをホームページにて拝見いたしました。申し訳ございませんが、弊社でも「梅一輪」以外のブランドで三増酒を造っております。
弊社の三増酒は一升瓶で1000円前後の製品です。
マニアさんに大変なご評価をいただきながら、期待を裏切ることになってしまい申し訳ございません。
マニアさんも「ちばの酒ものがたり」をお読みになってご存じの通り。三増酒には功と罪の両面があります。
確かに米が不足している時代でもないのに三増酒が必要なのか?というご意見ももっともなことです。
そんな時代の中、弊社が三増酒を造らざるを得ない理由についてお聞き下さい。
いいわけにも聞こえるかもしれませんが、三増酒を出荷している蔵の意見としてお耳をお貸しいただけましたら幸いです。
弊社は地酒を「蔵を中心とした地元のお客様の日常の食生活に溶け込んだ酒」と定義付け、そうしたお酒造りを目標にしております。お陰様で、実際に手前どもの「梅一輪」銘柄のお酒は弊社を中心とした山武郡エリアではかなりのシェアを確保していると自負しております。
半径15キロ圏内での売り上げ比率が7割を越える弊社には地元の飲食店からの引き合いも多く看板や酒燗器といった協賛の依頼も多く地元メーカーとして対応せざるを得ないことがあります。
その際、もちろんお客様に飲んでいただくお酒は「梅一輪」ブランドのお酒をお願いするのですが、業界で「煮酒」と呼んでいる料理に使うお酒について「梅一輪」ブランドのお酒では価格が折り合わないのです。
居酒屋や、和食店でのこの「煮酒」の使用量は結構な数字です。
弊社も商売ですので看板・酒燗器等で投資した資本は出来るだけ早く回収したいので「煮酒」に、協賛もなにもしていないメーカーのお酒に入り込まれるくらいなら自社品をお願いしたいというのは分かっていただけないでしょうか?
自分も不勉強で三増酒を造っていない蔵の地元での売り方について調べたわけではありませんが、弊社のように地元である程度のシェア(一つの尺度としてのお客様の評価?)を得ている蔵ほどこの問題に直面していると思います。
長々と書いてしまいましたが、文才がなく分かりにくい文章となってしまいました。
まあ、いずれにいたいしてもマニアさんの基準にあっていないのですから、ギャラリーのリストからはずされてしまっても仕方ないと思っております。
カップ酒を通しての日本酒の考察は非常に興味があり、今後も貴ホームページを拝見いたしたいと思ってます。
弊社ホームページ内にリンクをはらせていただいていることは継続してよろしいでしょうか?
最後になりましたが、貴ホームページのご発展を心よりご祈念申し上げます。
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梅一輪酒造(株) 代表取締役 若林 賢治



 実は、掲示板に蔵元を賛美する書き込みをした直後に三増酒製造の事実を知ってしまったため、今後どのようにこの件と関わっていこうかと頭を抱えていた最中だったので、先方から三増酒のことについて話題を提供してくれたのは救いであった。この時点で自分の気持ちは固まった。三増酒問題に目をそむけず、自分の意見はきちんと主張しよう。
 早速返事のメールを送る。

こんばんは。カップ酒マニアです。
三増酒に関する丁寧なメール、ありがとうございました。あるいは既にお察しかも知れませんが、土曜日の拙サイトのトップページでショックを受けた≠ニ書いたのは、貴社で三増酒を造っている事実を知ってしまったからです。一昨日、成東・東金・九十九里あたりをうろつきまして酒屋の状況を見てきたのですが、たまたま東金市の某店の店頭に「梅一輪」の紙パックと並んで「九十九里」銘の紙パック酒が並べられていて、製造元が梅一輪酒造、かつ原材料名に糖類≠フ文字を発見してしまったわけです。

これだけは申し上げておきたいのは、貴社では200円を切る価格で素晴らしいカップ酒を出しており(そんな蔵元は全国に数えるほどしかない)、そのことだけをとっても、1升1,600円台で三増酒を出している蔵元と貴社を同じ立場で論ずることは絶対にできない、ということです。今回いただいたメールのおかげで、地方の蔵元で三増酒が今なお造られ続けている理由がおぼろげながら理解できた気もします。

しかし―ここからは飲み手の勝手な論理になりますが―今回僕が貴社の三増酒を発見した状況もそうだったのですが、ただ値段が安いということで店頭のいちばん目立つところで堂々と陳列されているわけです。これはやはり貴社にとってプラスイメージにはならないのではないでしょうか。そして素人考えで思うのは、アルコール分をもう少し下げてでも糖類添加を避けられないのか?もしそれが無理なら、せめて三増酒の流通は「煮酒」すなわち業務用に限定することはできないのか?ということです。

現在僕の気持ちの中では、拙サイト作成のきっかけとなった「梅一輪」をギャラリーから外すのは忍びないというのが正直なところです。今回の経緯も踏まえ、コメント付きで残したいと思っています。
逆に僕の方から社長さんにお願いがあります。今回のメールのやりとりを拙サイトで紹介してもよろしいでしょうか?現在日本酒に関するホームページは星の数ほどありますが、三増酒の問題について冷静に論議されているサイトは皆無といってもいいと思います。僕は『ちばの酒ものがたり』を読んで以降、三増酒が造り続けられている理由を他の人よりは多少なりとも理解していたつもりではありますが、今回改めて造り手の方からの切実な意見を聞くにいたり、この問題についてネット上でもっと意見交換がされなくてはいけないのではという気持ちになりました。日本酒の造り手・売り手・飲み手各々の立場から三増酒について意見を集める、そのとっかかりとして今回のメールのやりとりを紹介したいと思うのですが、許可いただければ幸いです。

僕のような青二才が蔵元の社長さんから直々に毎回丁寧なメールを頂戴していることをたいへん恐縮し、その一方でいたく感激しています。日本の酒が21世紀に生き残るために、今後も貴重な意見を賜れば幸いです。



 翌日、若林社長よりふたたびメールをいただく。

マニアさんのご期待を裏切ってしまいましたのに、ご丁寧にご返信いただきましてあ りがとうございます。
私とのやりとりについての貴ホームページへの掲載の件、公開していただくことでお役に立てれば光栄です。

この機会ですから三増酒について、うちの製品にふれながら述べさせていただきます。
まずデータ的なことから。
精米後の原料米からどれだけのお酒が出来るか、弊社のデータを公開いたします。今年の仕込みデータです。
純米酒 原料米1トンから1873リッター(アルコール20度換算)
普通酒 原料米1トンから2775リッター(アルコール20度換算)
三増酒 原料米1トンから5298リッター(アルコール20度換算)
純米酒と三増酒を比べると2.8倍となり、やはり三増酒という言葉が当てはまります
原料米の精米歩合は純米酒 64.6% 普通酒 66.5% 三増酒 73.5%です。
使用している米の品種も違うのでコスト的にかなり違うのは、ご理解できると思います。
但し弊社の三増酒は、コストパフォーマンス的にはかなり頑張っている方だと思います。
これは、今うちに来ている杜氏さんから聞いた話ですが、「以前お世話になった蔵では、米粉(こめこ 精米して出てくる米のかす ぬか)を原料米に半分近く使用していた。」とのこと。
弊社の場合はきちっと精米した原料を使い、杜氏さんたちの手によって仕込んでいます
パック詰めした製品にはビニールで包装することもせず、出来るだけ低価格で提供することを目指しております。
(マニア註:たしかにビニール包装されずに売られていた)
弊社では大手さんのように2リッターで800円台で売れるような、低コスト大量生産も出来ませんし、原料の質を落として価格だけ追従することもいたしておりません。
マニアさんがおっしゃる三増酒は煮酒として業務用ルートだけに出荷するということには反しますが、出来るだけ良質の三増酒(こういう表現はちょっと違うような気もしますが・・・)を、三増酒を選ぶ地元の方にお届けするのも地元に根ざす地酒メーカーの役目ともいえるのではないでしょうか。
ちょっと美化した表現となっていまいました。
自分も時々弊社の三増酒を飲みますが、手前味噌となりますが結構いけます。(特に価格を考えれば)
こんなことをする人はいないと思いますが、「三増酒の品質で酒蔵の良心を問う」というのもおもしろいかもなんて思ってしまいます。

PRみたいになってしまいました。申し訳ございません。
貴ホームページでの議論が盛り上がることを心よりお祈り申し上げます。  
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 三増酒のデータまで提供していただき、恐れ入った。本来なら拙サイトのような一見わかった風%本酒批評サイトなど蔵元の方からは嫌悪の念を抱かれても仕方ないのに、いつも丁寧な返事をくださり、三増酒問題についての事例≠ニして拙サイトに登場していただくことも快諾してくださった。改めて梅一輪酒造(株)代表取締役 若林 賢治氏に厚く御礼申し上げます。



 さて、若林社長の三増酒是論≠フポイントを整理しておこう。




 こんなところだろうか。各々についてマニアの感想を述べると、

 それにしても、書店に並べられた日本酒の本はもちろんのこと、日本酒に関する星の数ほどのホームページにおいてこれらのことにきちんと言及したものがどれだけあるだろうか?三増酒=悪、という結論のみありきで、なぜそれが存在し続けるのか、蔵元も酒屋もアピールが足りないだろう。このままでは何も変わらない。三増酒の是非について、改めて意見を交わそう。  というわけで、
 当サイトでは造り手=蔵元関係者、売り手=酒販に携わる方、そして飲み手=日本酒好きの方、それぞれの立場の方からの三増酒に対する意見を広く募集したいと思います。皆様からの忌憚なきご意見をお寄せいただけると幸いです。寄せられたご意見は随時このページで紹介してゆきます。  21世紀に日本の酒が生き残るために、皆でこの問題を考えていきましょう。

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