日出山(ひのでやま)
―(有)中島酒造場―
■東京一マイナー、でも一番買いやすい?
日本酒レファレンス本の最高峰、松崎晴雄著『Tastes of 1635 日本酒ガイドブック』(これの全蔵元掲載版があれば素晴らしいことなのに、と叶わぬ夢を抱く)の東京都の項、現在実働する蔵は12とある。で、僕が東京都の蔵元リストから委託醸造蔵(「国府鶴」「酔悦」)を除き、上記松崎本に掲載されていない蔵元を探したら、1社だけだった。
それがこの、(有)中島酒造場である。
無論松崎氏が同社だけ掲載しなかったのは品質的な理由であるなんてことは絶対になく(それについては次項で詳しく述べる)、その圧倒的な販路の小ささによるものと思われる。なにしろ、売ってる店を探すのに相当苦労するよ。僕は今のところ2軒しか知りません。
ところが、である。同社はホームページを作っていて、そこで主要な商品を直接ネット購入することができるのである。つまり考えようによっては、日本一買いやすい蔵元といって良いかも?
もっともカップ酒に関してはネット販売はしていないので、拙『カップ酒ギャラリー』を参考に各自お買い求めを。
■ホームページに見る、蔵元の誠実さ
さて、その蔵元ホームページであるが、必要最小限の情報が実にシンプルに過不足なく掲載されている。僕は司馬遼太郎ではないのでHPの内容だけで蔵元の人柄を想像するだけの眼力は持ち合わせていないが、一切の虚飾を排した文面、それに本来蔵元サイトに必要であるはずの情報がきちんと書かれているのには非常に好感が持てる。
たとえば商品紹介のページ、一つひとつの商品にアルコール分、日本酒度だけでなく原材料名が書かれている。これらを見ると、最安価帯の普通酒でも糖類≠フ文字は見当たらず、従って三増酒を出していないことがわかる(ネット販売していない商品ページの中の普通酒には原材料名が記載されていないが、他の無糖加普通酒と同等の価格であることから無糖加であろうと判断――その後、JR八王子駅のコンコースに市内蔵元3社の商品がディスプレイされているのを発見。件の普通酒はやはり無糖加だった)。
本来蔵元公式サイトの商品紹介なのだから、この程度の情報は掲載するのが当たり前のはずなのだが、実際他社のページでは普通酒への糖類添加の有無についてきちんと触れていないことが大半であるどころか、商品一覧から普通酒の情報が完全にオミットされているケースすら見受けられるのが悲しい現実である。
米がどうの水がどうの人がどうのと高らかにPRする前に(それはそれで重要な情報なのだが)まず本来公開すべきデータをきちんと公開する、そんな中島酒造場さんの姿勢に共鳴するわけです。
蔵元近くにある立派な石仏。 |
■飲んでみました
上に書いたとおり、ここの商品をまともに売ってるのを僕が確認できたのは2軒のみ(陣馬高原下バス停近くの売店にカップ酒があるが他の商品は売ってないので除外)。陣馬街道沿い、夕焼小焼観光施設(後で説明します)のちょっと先にある酒屋には一般酒(カップ酒・普通酒・一升瓶)が結構置いてあった。
もう1軒が陣馬街道を蔵元方面に曲がらずに直進したちょっと先の左側にあるコンビニampm(「真澄」の幟が店頭に出てる)、実はは2年前の夏「澤乃井」の粕取焼酎や10年古酒などを発見して日記にも書いたりしたのだが、今回あまり期待もかけずに行ってみたら、ありましたよ。↓で紹介した活性清酒(4合800円)や大吟醸生酒(4合1600円、てことはあまり大≠強調しないほうがよかろう)が。ここのコンビニはほんとお薦めです。
ところで突然だが、僕の手元に昭和56年に婦人生活社から出された『東京の地酒』(國府田宏行著)という本がある。当時稼動していた東京都内の全蔵元の訪問記である。もちろん中島酒造場も掲載されているのだが、すでに20年前の当時から蔵元曰く『どうも、うちは商売が下手で・・・』『東京で、うちがいちばん少ないんです。売り切るだけ、五百俵しか造っていませんから。毎年赤字です』なんて発言している。同書に掲載されていてその後廃業した蔵元も多いが、こちらは今でも、たぶん東京でいちばん少ない量を淡々と造り続けている。
日出山 活性
なんと、その20年前にすでに蔵元の一押し商品であったのがこの活性清酒。この手の商品が脚光を浴び出したのはせいぜい十年前程度(きっかけはもちろん「神亀」)だったのではないか。もちろんそれ以前より「月の桂」とかは存在していて高い評価を受けてはいたが、活性≠ニいう言葉を20年前より前面に出していた蔵元の慧眼には恐れ入る。
さてさて、活性清酒は開栓の時緊張しますね。中身が吹き出るんじゃないかとの不安とでもやっぱりちょっと吹き出て欲しいとの期待が入り混じったアンビバレントな気持ち。結局この「日出山」は吹き出ませんでしたが。
最初の1杯は上澄みをフルートグラスで。うん、旨い。泡もちゃんと立ってる。この酒に限ったことではないんだが、活性にごり酒の上澄みってほんと旨いですねえ。
しかし、だ。旨い旨いといって澱を全然混ぜずに上澄みばっかり飲んでると、最後にドロドロの澱というかもろみそのものが残ってしまう。実は今回も最後の1合は酒を飲むというよりももろみを食ってるという感じ(しかもアルコール分19〜20度だから結構しんどいぞ)になってしまった。教訓。澱はちゃんと混ぜながら飲みましょう。
日出山 純米吟醸生酒
ここの蔵元の純米酒は本当に限られた量しか造られておらず、うっかり買い時を逃すと次の年まで飲めない、超限定酒である。
この純米吟醸酒については西八王子にある「夢屋」という居酒屋が有志を募ってお酒の仕込みを行っている。出来上がった酒は『夢屋酒造りの会』のメンバーが各々自由にデザインしたラベルを貼って持ち帰れるという仕組みのようだ。最近は消費者がこのような形で酒造り≠ノ参加できる機会が増えているようで、そのことにより日本酒愛好家を増やすことができるなら嬉しい話ではあるが(実は、手放しで喜べないのではと個人的には思っている。こういう形で酒造りに参加する人達のほとんどは既に日本酒マニアに近い人であるだろうから愛飲家の新規開拓につなげるのは難しそう。それに、どちらかというと趣味的な要素が強すぎて、日本酒の質的向上という見地からするとあまり意味をなさないような気がするんですよね…)。
それはそうと、この『夢屋酒づくりの会』用に造られた純米吟醸酒の中でほんのわずかな量が蔵元経由で売りに出されるわけで、当然在庫がなくなったらその年の分はおしまい、また来年ということだ。幸いにして蔵元サイトには仕込みのスケジュールが載っていただけでなく、ネット販売開始をにおわせる記述もちゃんとトップページで告知してくれたのでタイミングを逸することなく買うことができた。ただしあまりに鬼レア商品ゆえ、僕も今回ばかりはネット通販の恩恵にあずかることにしたのだが(生酒だしクール便で到着するだろうから自分が家にいる日曜日に到着してくれるとありがたいと思って―ただし過度の期待はせず―金曜の夜注文したら、果たして翌々日、日曜の昼にちゃんと届いた。偉い)。
値段は1600円(税抜)、アルコール分17〜18度と高めなのもポイント高し。
さてさて、これは実に穏やかなお酒であった。生酒だからもっと派手であることを想像していたのだけど、障りなくぐいぐい飲めてしまう。しかし味わいはしっかり酒の奥の方に存在し、温度が下がって行くにつれてじわじわと染み出てくる感じである。つまり、旨い。しかし、あと半年くらい寝かしてから飲むととてつもなく旨くなりそうだ。でも自宅の冷蔵庫で半年きちんと保管する自信ないし、半年後では蔵元にも在庫なさそうだ。
飲み頃は冷蔵庫から出して45分後(細かいな)くらいか。
■ 陣馬街道
そういうわけでここの蔵元、陣馬山へ向かう街道、その名も陣馬街道からほんの少し横道にそれたところにある。僕がカップ酒をゲットした売店のある「陣馬街道下」バス停へは八王子駅から1時間間隔でバスが出ているので気軽に行くことができる(それにしても、ここのトイレが汚くて閉口。一応終点でハイキングの基地なのだからさきれいにしてくれませんか、西東京バスさん)。
一般ピープルはこの「陣馬街道下」バス停からてくてく山登りして高尾山とかに向かうのだが、ひねくれ者の僕は今バスで来た道をてくてく下って行く。沿道には人家もそこそこあり、案外退屈しない。
| 裸婦の彫像が大量に置かれるのを発見。せっかくだから記念撮影したかったが、隣の工房のようなところに人の気配がしたので断念。 |
有名な『夕焼小焼』の発祥の地までは歩いて45分くらいか。最近『夕やけ小やけふれあいの里』なる立派な施設ができたので、ここなら位置的に中島酒造場の酒が置いてあるかと思い期待をこめて行ってみたのだが、置いてある日本酒は小澤酒造場(「桑乃都」)の「八王子城」、しかも1年以上前に出荷されたもの(そんなに売れないのか…)。ま、地雷覚悟で古酒と思って買ってみるのもオツかとは思いますが。
| 素敵にレトロな上恩方郵便局。 | |
| 路傍で竹の子売ってました。 |