英君(えいくん)
―英君酒造(株)―
■由比町入山
前回紹介した「正雪」と並ぶ由比町の銘酒、「英君」。「正雪」が町の東端、海にもほど近いロケーションにあるのに対し、こちらは東海道から山に分け入ったその名も入山という地区に蔵元が存在する。その距離、およそ3キロといったところだろうか。
さて、それでは蔵元を訪ねようと思っても、だ。入山までの交通機関(つまり、バス)が存在しないのである。タクシーか徒歩で行け、ってことである。
人里離れた場所ならやむを得ぬところがあるだろうが、小学校やら農協やらのある一応立派な集落である。この地区の人たち(特にお年寄り)町に出るときはどうするのだろう? 完全に車依存社会ということなのだろうか。
昔からバス路線が存在しないのか近年廃止になったのかは不勉強ゆえわからない。しかしいずれにせよ、駅から歩いて行くにはちと遠い。そんなわけで蔵元周辺は未探訪であります。
■ライバルとの共存共栄
繰り返すが、由比町にはもうひとつ「正雪」という銘酒があり、どちらも蔵元姓は望月さんだから遠く遡れば血縁関係があるのかもしれないが(もっとも由比には望月姓がとても多いが)、お互いが意識しているかどうかはよくわからないけど、結果として両者が質を高めあっているのではないか。こういうケースって全国的にあるような気がする。たとえば僕の地元の神奈川県であれば大井町の「曽我の譽」「箱根山」、あと思いつくままに挙げると仙台の「勝山」と「天賞」、八王子の「月丸」と「桑乃都」、新潟・津川の「麒麟」と「麒麟山」、長野・岡谷の「神渡」と「高天」、福岡・八女の「喜多屋」と「繁桝」など、蔵元あるいは周囲が互いをライバルと認め合うことによって共に切磋琢磨するような気がしてならない。
由比町の例でいえば、「正雪」が酒屋や一般消費者の熱烈なサポーターを通してその魅力が広められているのに対して、「英君」は蔵元自身がホームページ等により積極的に情報発信している、という構図になろうか。
■飲んでみました
今回も結局『ゆい桜えび館』で購入。『ギャラリー』掲載のフラワーカップにはここにはないが、普通酒は上撰・佳撰揃ってる。ただし今回は割愛。
英君 特別純米酒
まずは純米酒から。あ、書き忘れてたがここの蔵元、親戚に著名な書家の方がいらっしゃるそうで、(染色家・芹澤_介氏・人間国宝でした。失礼しました)おそらくこのラベルも氏によるものだろう。税抜き1200円。
裏ラベルにいろいろな情報が表示されており、日本酒度+4で酸度1.2、淡麗辛口に位置づけられている。また、種別表示として純米・吟醸・手造り・生貯蔵のところに赤丸がつけてある。え?表ラベルにはどこにも吟醸とも生貯とも書かれてないけど。まあ生貯くらいでは大騒ぎしないというのが蔵元のポリシーだとすれば立派だといえるが、でも、表ラベルに『生』と大書しておけば、冷蔵庫で売ってもらえると思うんですけどね(これは常温販売)。
とにかく飲んでみよう。たしかに吟醸らしく、フルーティな香りがする。かといって味は純米そのもので、かなりしっかりしたボディを感じるので、あながち淡麗ともいえないような気もする。
冷やでも燗つけても美味しく飲めるが、どちらかといえばちょっと冷やして飲むのがよろしいかな。
英君 吟醸原酒
洒落たボトルの中吟原酒(17〜18度)。1,070円税抜は安いと思ったら500ml入りだった。↑の純米酒が細かすぎるくらいスペックを記載しているのにこちらは皆無。つまり観光客向けアイテムという位置付けなのだろう。
無論、観光アイテムといえども中身に一切手抜きしないのが由比の酒である。原酒で出しているのも偉い。
さて、こちらはどちらかというと味吟醸タイプといえよう。吟醸香はあまりしない。でも口に含むと吟醸酒らしい華やぎが広がる。香りが邪魔をしないから食事の供に好適だろう。
■別に由比だけの問題ではないのだけれど
一番最初に書いたとおり、「英君」の蔵元のあるところまではバス路線が通じていない。
現在由比町を通るバス路線は富士市から国道1号を富士川町・蒲原町と経由して由比駅上(JR駅からちょっと坂を上がったところ)まで行く1路線のみ。この路線、以前はお隣清水市まで通じていたのだが現在は由比駅上止まりに。それなら終点を駅前に変更すりゃあいいと思うのだが・・・。
しかも、である。ただでさえ本数が少ないところへ、土・日・祝日は昼過ぎにその日の運行が終了してしまうのである。
たとえば、みなさんが由比町の観光名所である本陣公園や『ゆい桜えび館』あたりを目的に、土曜日または休日に鉄道で訪れたとする。行きはまだ元気なので由比駅から旧東海道をぶらぶら歩くのもよかろう。しかし帰りはちょっと疲れたし、バスで由比駅まで戻る、あるいは蒲原あたりまで出ようと思っても、その日のバスは終了!というわけである。
バスというのは本質的に、観光路線としての役割と生活路線としての役割があるといえよう。で、観光資源に乏しい地域ならいざ知らず、由比町のように宿場と桜えびをPRしている観光自治体なら、かきいれ時の土・休日にバスを走らせていないというのはいかがなものかと思う。現行ルートで客数が期待できないのなら、旧道に小型バスを走らせるのも不可能であるまい。
それと、土・休日にバスを走らせないのは会社も学校も病院も休みだからだと思うが、たとえば普段バスを移動手段としているお年寄りが土・休日にちょっと一人で町に出ようと思っても叶わないということになる。
日頃より自家用車を乗り付けている方たちにこういう話をつらつらと書き連ねてもなかなか理解していただけないだろう。しかし、現実に運転免許を持っていない僕にとって、家の近くにバス路線があるかどうかというのは死活問題であるし、旅先でもバス路線の充実度について注意を払わざるをえないのである。民営の業者にとってはまず利益の追求が大前提であって不採算路線は当然淘汰しなくてはならないというのは頭の中では理解できる。しかし、バスというのは殊に交通弱者にとっては重要な生活の足であり、経済行為を超えて存続しなくてはならないものではないのか。全国のバス業者には是非現行路線の存続に努めてほしい。また、残念ながら民間業者が撤退した路線については自治体が運営を引き継ぐなどの努力をしてほしいと思う。
なんだか由比の話からはそれてしまったが。