このままでは日本酒は本当にダメになってしまう
少し古い資料になるが、1990年発行の『現代日本酒名鑑』(稲垣眞美著:三一新書)の中で著者が各蔵元に実施したアンケートの結果として、三増酒・普通酒(原文ママ)を全廃した蔵元≠ニして以下の銘柄を挙げている。
「酔園」「三千盛」「浦霞」「自然郷」「龍神」「群馬泉」「一人娘」「〆張鶴」「玉乃光」「梅乃宿」「紀州美人」「瀧鯉」「菊正宗」「倭小槌」「小鼓」「歓の泉」「瑞泉」「西の関」
確かに立派な蔵元が並んでいるが、2000年の視点でこれらをみると奇異に感じることがある。
上記蔵元のうち、少なくとも「瀧鯉」「西の関」では三増酒を造っている(特に「西の関」なんぞは主力製品でガンガン出している)のである。
あと「菊正宗」、上記『現代日本酒名鑑』から引用すると
昭和56年(1981)業界にさきがけて三増酒を全廃し、昭和63年には主力商品のすべてを本醸造以上しか出さないことにした。「菊正宗」といえばかねての酒通の間での強い支持もさることながら超大手で本醸造以上しかつくらないという決意には敬服のほかない。
まあ僕自身もついこのかたまで敬服していたのであるが、最近「デカピンマイルド」なる三増カップ酒が(コンビニを中心に、極めて大量に)出回っているのを発見して呆気にとられてしまった。
あと、7〜8年前の別の資料では「刈穂」「栄川」それに「鳴門鯛」で糖類添加をしていないと書かれたものもあるが、いずれも現在流通の最安価の普通酒には糖類が入っている。
この10年来、日本酒の酒質はこと市販酒において格段に向上した。しかしその一方で三増酒は相変わらず市場で幅をきかしているばかりか、一度糖類添加をやめた蔵元がふたたび三増酒づくりに手を染めている。
どうしてこんなことになるのだろうか?
三増酒がなくならない理由についてはこれまでも自分なりの推論を展開してきたし、「梅一輪」の社長さんからも蔵元の立場からの三増酒必要論をいただいた。しかしそれにしても最近の三増酒復権≠フ動きはどうしたものか。改めて検証してみよう。
・メディアの問題
日本酒を採り上げるメディアが三増酒問題を一種のタブーとして触れたがらないのは今に始まったことではないが、最近それがますます増長されているように感じる。これまで積極的に発言してきた論客がここにきてトーンダウンしている感もある―たとえば水沢渓は長年のタッグパートナーであった穂積忠彦が死去してからは三増酒問題にはおとなしくなってしまったし、上記稲垣眞美は『ワインの常識』が事実誤認だらけでミソをつけて以来沈黙気味、穂積・稲垣両名が立ち上げた『特選街』誌のコンテストも今では本道を外れて同誌で三増カップ酒を推奨する始末、太田和彦を主体とする居酒屋研究会のメンバーも太田が居酒屋評論家≠ノ祭り上げられただけで日本酒そのものに対する提言は聞かれない(『ダ・カーポ』誌によると藤田千恵子さんが日本酒本を現在執筆中らしいのでちょっとだけ期待・・・したが大吟専門本でちょっと失望)―。
造り手の側からすると、自社の酒をどうこうするのは自由だがそれを他社にも強制することはできないだけに、やはり消費者サイドから積極的に発言する必要があるだろう。
・造り手の問題
米を磨いたり好適米を買いつけたり昔ながらの仕込を復活させたり、いい酒を造るには今まで以上にコストがかかるから蔵元も大変だろう。それに比して日本酒全体の売れ行きが伸びているわけではないわけだから、どこかでコストを抑えなくては経営は苦しくなるばかりだろう。メーカーの立場からすれば消費者である以前に経営者である≠けだから(某蔵元のキャッチコピーの逆説になるが)三増酒に手が伸びても不思議ではない。
・飲み手の問題
いちばんの問題はここだ。みんな、三増酒を買っちゃうんだもの。これはもう、単に安いからという理由からではなくて、ある世代より上の人は三増酒を全然違和感なく受け入れてしまうのだよね(ウチの父がそうだ)。売れるんだから造る方だってやめるわけがない。そして、消費者でさえ売れてるんだから造ったっていいじゃない≠ニいう人もいる。が、そうだろうか・・・。
海外では日本酒の中でも純米酒しかSAKE≠ニ認識されないらしい。実際世界的視点ではアルコールを添加したものは純粋な醸造酒と呼ばれないようだ。
僕はアル添酒も大好きだし、というか純米酒の味わいとは全く別の華やかさがあると思うので、純米でなくては日本酒にあらずという考えには与しない。しかし、SAKE≠フ評判を聞きつけた外国人に三増酒を飲ませたらどう思われるだろうか。もし21世紀も日本酒がこの小さな島国の中だけでひっそりと息づいて行けば良いというのなら現状でもいいのかも知れない。でもやっぱりこれだけ素晴らしい酒文化があるのだから世界にアピールしたいではないですか。そのためには、まず底辺の酒の底上げを図らなくてはならないのである。
そして、それを実現するにはやはり、僕たち消費者が積極的に発言して行かなくてはならないのだ。ただしマスメディアには今後もあまり期待はできないだろう。ならばネットだ。拙サイトのような影響力の小さいサイトではなく、アクセス数の多い日本酒サイト(いくつか思い浮かぶが、ここでは名は出すまい)で本格的に三増酒問題を扱ってほしい、と切に願う。
最後にもう一度だけ言う。このままでは日本酒は本当にダメになってしまう。
(文中敬称略)
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