千葉県
 神奈川者がこういうことを書くのも嫌味ぽくてなんなのだが、千葉県てところ、都会から突然ドラスティックに田舎に切り替わるのが面白い。JRでいうと千葉駅から総武・成田・内房・外房と4手に分かれるわけだが、蔵元もそれぞれの地域にバランス良く配置されているようだ。あと千葉県には『○○本家』という蔵元が多いのも特徴的だ。
 ところで、地方出版の世界では日本酒本は定番である(いわゆる『○○県の酒』の類)。その多くは単なるカタログ本もしくは造り手の論理から蔵元・杜氏を礼賛した内容に終始しているのだが、千葉県酒造協同組合監修による『ちばの酒ものがたり』なる本は内容的にも秀逸である。『ちばの酒』を謳いながら日本酒全体のたどって来た歴史を丁寧に綴っており、三増酒問題についても功罪両方の観点から論理的に語っている。あと、千葉県の各銘柄とナショナルブランド各銘柄の日本酒度・酸度の比較チャート(普通酒で比較しているのがミソ)なんて資料も用意されている。ちなみに著者は清掃組合勤務。本屋で見つけたら是非ゲットして欲しいが、かなりのレア本と思われる。

甲子正宗 通酒
 「甲子」といえば千葉県の大手蔵、そこが出してるカップ酒。
 というか、「通酒」は千葉県酒類販売(株)のオリジナル商品である。いわゆる手印なのだが県内あまねく、スーパーやコンビニでもよく売られているようだ。ちなみに県の東側では「甲子」の飯沼本家、西側では富津の池田商店(「聖泉」)が担当し、ラベルも違うものが使われている。この商品の前身である「ツーカップ」については池田商店のものを過去何度も見かけたが、当時は低アルコール、糖類酸味料添加だった。そのコンセプトを見直してアルコール分15度・無糖加として堂々発売したものが「通酒」というわけだ。
 問題はそれぞれの醸造元のレギュラー酒がどうなのか、ということになるが、「甲子」は料理酒以外は大丈夫そう、「聖泉」は調査不十分につきも少し時間ください。
 さて、この甲子版「通酒」を買ったのはJR千葉駅構内の駅弁屋「万葉軒」。定価190円のものを200円で販売というのは駅弁屋としてはかなり良心的な姿勢である。夏ゆえちゃんと冷やして売られていた。
 味。非常に酸っぱい。一瞬「なんだこれは?」と驚くような、とても個性的な味である。ところがこれ、非常に後口が良いので最後まで飽きずに飲めてしまう。一応淡麗辛口にカテゴライズされる酒なのだろうが、単なる辛口とは異なる、ユニークな商品である。





東灘 地酒カップ
 外房地方は結構地酒のキャラがはっきり立っていて、大原の下記「木戸泉」御宿の「岩の井」勝浦の「腰古井」「東灘」それに鴨川の「寿萬亀」と、地元にしっかりと根付いた銘柄が存在する。
 中でも勝浦市では「腰古井」が地元の料飲店もしっかり抑えているのに対し「東灘」は勝浦・鴨川を訪れる観光客をターゲットにした販売戦略をとっている印象があり興味深い。しかし中身的には「腰古井」がいまだ糖類入りの普通酒を多く出しているのに対し「東灘」の方はどうやら糖類添加は廃止しているもよう(断言はできないが)。
 で、このカップ酒である。ここの本醸造カップ(上撰)は土産物屋とかで結構見かけるが佳撰となるとなかなか出会えない。これは鴨川市内にあるサンワストアーというスーパーで昨秋あたりから置かれるようになったのを(それ以前はなかった気が)発見したものである。ラベルに『糖無添加』と大書されているのが心強い。それと『天然湧水仕込』、ついにカップ酒でもこういうことをアピールする時代がきたのだ。時代は確実に動きつつあるのだろう。これで値段は177円(税抜)。安い。
 さて、その値段ゆえさほど期待していなかったのだが、これ旨いです。香りはあまりないが(普通酒なのだし別にそれでよし)味にコクがあり、後に嫌な味も残らない。佳撰でありながらアルコール分を落としていないのも好感。これは掘り出し物です。
 唯一難点を挙げるとすると、製造年月がどこにも表示されていないこと。カップ酒であろうと表示は義務だと思いますよ。

 

長命泉
 ここの蔵は成田山への参道の途中にある。参道の飲食店の店先にはいたるところに「長命泉」の4斗樽が置かれている。地元浸透率の極めて高い素敵な蔵元である。
 こういう観光地に蔵を構える蔵元はえてして不当に低い評価を受けがちだが、このカップ酒はしっかりした造りです。蔵元のすぐ隣のコンビニで買ったのだが(税込でちょうど200円)、恐らく蔵出し後約2か月常温のところに置かれていたと思われるのだが味も崩れていない。とても飲みやすく、しかし適度のコクもある。あまり県外には出回っていない銘柄だが、おすすめです。





 


木戸泉
 外房は大原にある、吟醸酒を一切造らない頑なな蔵元。その代わり純米・本醸造・普通酒と商品レパートリーは非常に豊富である。普通酒に糖類は一切入れていない。
 そんな素晴らしい蔵元なのだからカップ酒も「木戸泉」とドカンと銘柄入れたやつを出してくれりゃあいいのだが、ご覧のとおり裸祭りの写真をフィーチャーしたラベル。その代わりキャップに「醍醐 木戸泉」とある。
 ところでこの商品、ラベルにもキャップにも原材料名が書いてないのである。カップ酒ではごくまれにこういう場面に遭遇することがあるが、たかがカップ酒といわずきちんとしてほしい。それはさておき、醍醐といえば同社が純米酒につける銘柄だと記憶していたので(値段も税抜き248円で純米酒と考えて妥当だし)純米酒に違いないと思い飲んでみる。が。
 ・・・これアル添じゃない?
 自分の舌に絶対の自信があるわけではないので断言はできないのだが、本来純米酒にはあまりないはずの雑味がずいぶん感じられた。常温でも燗つけても同様。そして仮に普通酒としてもちょっと癖のある味。ということは情報としては知っていたが・・・。
 よくよく考えてみると、山廃を使っていて酸度が他社に比べ相当高いここの酒って、スペック的にかの「剣菱」に近いんじゃないか。僕たち若い世代にとって「剣菱」が過去の酒的存在になりつつあることを思うと、「木戸泉」に対するこのとっつきにくさはそのあたりに起因するのかなとも思う。きっと飲み慣れるとそうでもなくなるのだろうが。

※最近蔵元が立派なホームページを立ち上げた。それでわかったのだが、やはりこのカップ酒は本醸造のようだ。キャップに「醍醐」とあったので純米と疑ってしまった。ちなみに本稿を書いた数年後「木戸泉」も「剣菱」も再飲する機会があり、どちらも燗つけて旨く、やはりこの2つの酒は類似点あるなと実感した次第である。

 

梅一輪
 「長命泉」も県外の人には珍しいだろうがこれはもっとレア。そして当ギャラリー掲載のカップ酒の中で目下最低額。税抜き174円てのは広島あたりでは紙容器入り三増カップに付ける値段である。
 この酒と出会った日のことは今でもよく覚えている。東京湾フェリーで九里浜から金谷に渡り(船内客室では夏の高校野球のテレビを流していた。横浜対PL、あの伝説の試合でした)、内房周辺の日本酒を物色したものの三増率極めて高く成果なし。肩を落としつつ、昼飯でもと思って富津駅近くの国道沿いのコンビニに入った。
 酒ありコンビニだったので一応酒のコーナーをのぞいたところ、見慣れぬ銘柄の酒が…「梅一輪」。
 千葉は千葉でも総武沿線の成東の酒、富津とはえらく距離が離れているのに不思議だなと思いつつ、三増じゃなかったので即ゲットした。
 まあ値段が値段だし大した期待もせず飲んだのだが…これが旨いんである。程よい甘味がじわじわと押し寄せる。淡麗辛口とは対極にある味なので好みが分かれるとは思うが、僕は気に入ったよ。
 デザインがまたいい。酒銘のとおり梅をあしらった赤白黒のコントラストの妙、あとカップとキャップで梅の枝の形が微妙に違うところもマニア心をくすぐる。
 ちなみにこの銘柄はごく最近生まれたもののようで、以前は「若緑」という銘だったもよう。『日本酒大事典』(昭和50年刊行)には“京葉工業地帯に販売”とある。なるほど富津で売られているのも納得。
※上記テキストはあくまでも出会った当時の印象をそのままつづったもの。その後同蔵元が三増酒を造っていることが判明。本来なら当ページから削除すべきなのだが、三増酒問題について、梅一輪酒造(株)の社長さんと意見交流をしていることもあり、当面そのまま残させていただきますのでご了承願います。詳しくはこちらをごらんください。





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