大野一雄 舞踏公演『大野一雄の世界』

[2000年1月]
出演:大野一雄 ・ 大野慶人
会場:TORII HALL

大野 一雄(おおの かずお)
1906年生まれ。舞踏家。女学校で教職をとるかたわらモダンダンスを学び、石井漠、江口隆哉に師事。1949年に第1回リサイタル。60年代には、暗黒舞踏の創始者・土方巽との共演を始めながら独自の表現を模索。青年時代に出会ったスペイン舞踏の舞姫、ラ・アルヘンチーナをたたえる独舞踏「ラ・アルヘンチーナ頌」を1977年に発表し高い評価を受ける。1980年、74歳にして第14回ナンシー国際演劇祭で公演し、世界の舞踏界に衝撃を与える。以後、欧米各地で公演を行い、圧倒的支持を受け、現在に至る。1999年第1回「ミケランジェロ・アントニオーニ賞」受賞。代表作に「ラ・アルヘンチーナ頌」「わたしのお母さん」「死海」「睡蓮」などがある。

大野 慶人(おおの よしひと)
1938年東京生まれ。1959年、土方巽の「禁色」にて鮮烈にデビュー。以後、大野一雄と演出及び共演者として世界を巡演する。大野一雄のほぼ全ての公演に、演出、出演者として関わる。

【私の感想など】
その会場に入るのは始めてで まずはちょっとびっくりしました。
客席は正方形の部屋のすべての辺に作られていて、つまり その4角形のお客さんの中央で、大野さんが舞われるようなのです。
お客さんの世代もさまざま(10〜60代位)、200人くらいでしょうか。
3メートルほどの舞台を囲んで、座布団や椅子に座っています。

その人 大野 一雄さんは、
ごくごく普通に 私達が入ってきた入り口のドアから歩いていらっしゃって、、、そして、公演が始まりました。
会場の狭さは頭では分かっていたはずですが、始まってすぐ その近さにもう一度驚きました。洋服のしわ一つ、髪の毛一本まで見えてしまう近さなのです。(clearは視力2.0です)
ポスターでしか見た事の無かった男性が スーツ姿で目の前で舞い始めます。
そのダンスを言葉でなんと表現すべきか…。
姿に すぅっと惹きつけられていきます。
そのうちに、、、
大野さんの後ろに見えていた 私の正面に座る客席の動きが 目に入った時がありました。
頬の涙をぬぐう女性と、笑顔で頷いている青年でした。
この時私は、、、ああ、こんな風にいろんな感じ方があっていいんだなぁ。この人達も、好きなんだろうなぁと思ったんです。
この人達も…「も」…大野さんの公演は今回始めて観たのですが、この時私は、いつのまにか 好きだなって感じていました。
“好き”だと自覚してからは、なんだか とても楽になりました。
もちろんそれまでも十分に 大野さんのお姿に惹きつけられてはいたのですが、大野さんとの距離の近さに 無意識に部分的にじーっと集中して見ていたり、ここは何かしら 今は何だったのかしらと 考えてしまう事もありました。
そんな考える事をやめて、一点集中ではなく 全体を見てみると…
私は好きなんだなぁ…客席も含めて ここの部屋の空気を 私は好きなんだなぁと思えて…
そんな自分の気持ちを素直に受け止めた時、もの凄く“楽”な気分になったんです。

大野一雄さんに替わって登場された慶人さんは、真っ赤なワンピースを着ていらっしゃいました。筋肉を意識しなくなると言う白塗りに 赤いマニキュアが映えています。
舞台を そして出演者を 自分の目線のすぐ下に見るという初めての経験…。
慶人さんが手のひらを下にして床に伏せられた時、床の表面との僅かな隙間、そしてその間にある影までも見ることが出来て。。。
床から浮かび上がるような 沈み込むような動きが印象的でした。

デュオも 私はとっても好きでした。薄いシルクのような素材の衣装は、2人の動きを柔らかく伝えてくれています。
お互いに背を向けていても、なぜかどこか あっている、シンクロしている。2つの波が うねっているような印象。でも、相反する2人の動き方。
何かを吸収するようにも見える慶人さん 何かを発散しているようにも見える一雄さん。絶妙な間の取りかた。
慶人さんが歩みを進めるときには瞳を閉じ、止まった時に目を見開き天を仰ぐのですが、、、瞳を閉じていても、私のほうへ向かって歩かれると、まるで 見られているかのような気持ちにもなりました。
2人でいながらも、一雄さんは束縛は受けずに 自由に踊っているように感じます。それは もう、内から沸き起こる感情のままに動いているようにも見えるんです。

一雄さんが、琥珀色のドレスを着たときの表情や仕草は、スーツ姿の時のそれとは、すべてが変わります。
花のついた帽子を被っていた時、帽子についていた 花を手にとり くわえるようなそぶりもも好きでした。
お茶目な眼差し・はにかむ仕草・ふっと見せる哀しみの表情・いつくしむ 指先の動き・恥らう口元・・・
93歳のこの男性の 少女のような柔らかな表情を、ホントに心から 可愛らしいと感じてしまう 自分の感情…。
私は 今までの生活でこんな表情をしたことがあるだろうか。。。ないだろうなぁ…。
私は なぜここにいるのだろうか。(…舘形さんの舞台を観てとっても感動して、そして大野さんの舞台も是非観たいと思って……え〜っとそれだけじゃなくって………)
今 自分がいる空間、とても奇妙なこの体験。
そして、どこのテクニックがどうっていう理屈じゃなくって、、、
とにかく“好き”と感じられる この気持ち。。。

テレビドラマでは画面を見なくてもストーリーが分かるほどの長い台詞があると言うのに
目の前の人は 何も口にしてはくれない。(舞踏なのだからあたり前と言わないで下さいませ……^_^;)
それなのに…それなのに…なんて言うか…
公演を観ている中で、いろいろ語りかけてもらったような気がするんです。
まだ一度も聞いたことの無い 目の前の人間の言葉が 口調までも伝わってくるような不思議な感覚。言語的なビジョン…。

私の腕なんかよりもずっと細い腕、でも しっかりとした大きな手のひらが空気を抱く時。。。
そのハグはとっても優しくて…
「そう、これでいいんだよ。それでいいんだよ」と肯定してもらっているような気持ちにさえなります。
安らぎなのか…
癒しなのか…
不思議な満足感を感じます。
なんだか 目頭が熱くなりました。
でもこの涙は悲しかったり嬉しかったりする感情ではない。。。
何か真っ直ぐな何かがあって…
なんだか分からない、自分にも分からないところで 心が動かされている。
それなのに 始めてではない感じ。以前も 触れた事があるような 安心感。
…それが 何に対してなのか いったい何なのか どこから来るのか よく分からないけれど。。。
(ん〜結局よく分からない感想でごめんなさいm(__)m)

最後の大野さんの舞が終わった時
客席からは自然に拍手がおこり、ブラボーの声がかかりました。
客席の表情も みんなとっても明るい。
そんな客席の笑顔を見られた事も 私にとっては貴重な体験でした。
本来なら 出演者を称賛するこの顔と拍手は 出演者のみに与えられるものなのだけれど。。。
この正方形の会場は、私にも その光景を見せてくれて……目の当たりにして、私までも嬉しくなってしまいました。
大野さんも ホントにとっても嬉しそうな表情をされています。
ステージに上った事のある方が よく「お客さんの笑顔が嬉しくて やめられない」等と話されるのを聞きますが、その意味が、ほんの少しだけわかったような気分になりました。そして、出演者にこんなにも嬉しいと思ってもらえるような そんな観客になれたらいいなとも思えました。

以前 BBSで私は、「単純に楽しめるものではなさそう」と、言っていましたが、
単純な私は(本当はもっと も〜〜〜っと深い事もあるのでしょうが^^;…)“楽しかった”です。
ホントにすばらしかったです。ありがとうございましたm(__)m

そして、大野さんの舞台が素敵だと発言してくださった 舘形さんに 感謝でしたm(__)mありがとうございました。


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