随想録『パラボラ・アンテナ』


★P−102

宗教に熱中すればするほど、人は命を軽視し、狂暴になってゆく。
本人はそれが熱烈な信仰の証なのだと盲目的に勘違いする。
本人の命の軽視は、他人の命の軽視も狂暴に巻き添えにしてゆく。
イスラム原理主義であろうとなかろうと、すべての宗教は精神の麻薬である。
私は無信仰者だが、有信仰者よりもはるかに宗教について考えていると思っている。
そして、残念ながら、いかにしても宗教は信用できない、というのが私の結論である。


ハイジャック犯でありテロリストであるあなたたちの捨て身の英雄的行為は、世界中のTVで報道され、激しい憎悪を呼び起こした。
世界中の良心は、高層ビルを崩壊し、幾千もの人命を軽視したあなたたちの行為を称賛するのではなく、軽蔑をもって断罪する。
その断罪はおそらく百年後も変わることはないだろう。
あなたたちは卑劣なテロリストであって、決して歴史的な英雄などではない。
むしろ、ピッツバーグ上空で乗っ取られた飛行機を恐るべき大量殺人兵器とさせないために、自らの命を捨ててテロリストに立ち向かっていった勇敢な民間人がいたことを百年後も記憶に留めておきたい。


この世界はあまりに不平等にできている。
誰一人このことを否定できないだろう。
しかし、この不平等な世界で、何がなんでも平等を求める人々がいる。
そう、過激なテロリスト達である。かれらは傲慢に主張する。
「この不平等な世界にあって、個人があっけなく死ぬことは平等なのだ」と。
航空機で犠牲になろうが、超高層ビルのがれきに埋まって死のうが、何の変りもない。
テロで犠牲になれば、金持ちもホームレスも、等しくその身元を証明するすべもないただの無に帰す。
テロリストはこの世界の極悪の平等を嫌というほど見せつけるのである。


アメリカ合衆国は今最大に不幸である。
その物質的繁栄のゆえに、貧困国からテロの標的にされる。
アメリカ合衆国に敵意の牙を剥く国家や宗教は何であってもかまわない。
ただ物質的豊かさを誇示することが、かれらの憎悪をいやがうえにもかきたてる。
貧しい者、虐げられた者は、理由はどうあれ、富める者、奢れる者を最大の敵と見なす。
それは、物質に虐げられた精神の反逆であるのかもしれない。
テロリストたちは、アメリカ合衆国は物質的に一流だが、精神的には二流だと見なしていた。
だから彼らは、アメリカ合衆国の一流の部分をまず標的にしなければならなかった。
その結果、アメリカ合衆国には物質のがれきの山と二流の精神だけが残されるはずだった。


「同時多発テロで米国市民が殺されたからといって他の国民を殺してもいいという考えは、テロリストと同じ水準です」
  ジョディ・ウィリアムズ(1997年度ノーベル平和賞受賞者)


譬え話。
−−息子は、父親の仕事ぶりが気に入らなくて家を飛び出した。
二十年後、すでに中年に達した息子は、望郷の念にかられて、実家に帰ってきた。
父親は実直に働き、税金を納め、平穏な家庭を築き、そして年老いていた。
しかし、息子は家を作るためのクギ一本、水道を得るための税金一円納めたこともない我が家に、我が物顔で入り込んできた。

−−「よど号」乗っ取り事件メンバーの赤木志郎容疑者(53)の妻、赤木(旧姓金子)恵美子容疑者(46)が18日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から帰国し、警視庁公安部は同日、到着と同時に成田空港で旅券法(返納命令)違反の疑いで逮捕した。(中略)
18日午後7時6分、赤木容疑者は成田空港に到着。警視庁の車に乗り込む際、報道陣に対し一言「ただいま」と話した。
  朝日新聞2001年9月19日朝刊

ハイジャック犯はいつも身勝手で劣悪である。

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