随想録『パラボラ・アンテナ』
★P−98
「宗教」はもともと人間の苦悩する心に起源をもつ。
どんな苦悩か? 選別する苦悩である。
たとえば、善人と悪人、聖人と罪人など。
しかし、人間は自ら選別したがらない。
できれば何か別なやり方で選別してもらいたい。
それらの要望に煩雑な儀式や横柄な権威が付着して「宗教」が形づくられた。
「宗教」は選別と差別を行うことで人々を救済できるかのような幻想を与えた。
だから、今や差別と憎悪の伏魔殿と化した「宗教」という言葉は、最も汚れた言葉となっている。
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☆
人間は誰もが、その能力や気質に応じて、個性的な狂気を裡に秘めている。
一目でわかる狂気もあれば、長い間付き合ってみなければわからない狂気もある。
芸術家は前者のタイプだが、一般人はほとんど後者のタイプである。
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☆
私には耳の持病がある。
いつも頭蓋の局部で耳鳴りがしている。
難聴、そしてときには幻聴をともなう。
誰かが私のうわさをしている。
しかし、実際は空耳かもしれない。
「おまえは他人を愚弄した。だから、他人がおまえを愚弄することにも甘んじなければならない。おまえは神を愚弄した。だから、神が…」
幻聴のさなかに、私は漠然とした不安にとらわれてゆく。
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☆
昔と今の生活を象徴的に語ってみよう。
「昔は、晴れやかなパーティに出る機会はあるのに、着てゆく美しいドレスがない。
今は、着てゆく美しいドレスはあるのに、晴れやかなパーティに出る機会がない。」
はたしてどちらの生活が貧しいのだろうか。
美しいドレスを何枚持っていても満たされない。
パーティの招待状を何枚持っていても満たされない。
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☆
今、私の目の前に使い古しの単1形乾電池がある。
もう何の役にも立たない、ただの廃棄物である。
ずんぐりしたその無気力な物体は何と我が身に生き写しであろうか。
「生きるためには、さまざまなパワーが必要である。
想像力、判断力、思考力、記憶力、行動力、忍耐力、性愛力、持久力、…。
しかし、すべてのパワーが年齢とともにいやおうなく低下してゆくのを感じる。
人間は、まるでいつかパワーが尽きる単1形乾電池のような寿命しか与えられていないのではないだろうか。
陽極と陰極の反応がもうまるで不感症になっている?
五十歳になってもうあなたは、勃起不全症候群ですか。
男は想像力を失ったら、もう女とセックスできなくなる。
よもやあなたは、若いとき無謀なまでに単1形乾電池のパワーを浪費するような生活をしなかったでしょうね。
私は、とどのつまり寿命の切れた単1形乾電池。」
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☆
・驚くこと。
・疑問をもつこと。
・発想を転換すること。
どれもが自分にとって次第に縁遠くなってくる。
それがすなわち老化を自覚することである。
老化とは何か?
ずばり、感性の劣化、理性の鈍化である。
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