随想録『パラボラ・アンテナ』
★P−72
今から100年後の西暦2100年のコンピュータを空想してみよう。
エネルギーは相変わらず化石燃料に依存しているが、コンピュータは現在とは似てもにつかぬ姿に変化しているだろう。
コンピュータは生物的要素を多く取り入れ、植物的コンピュータや動物的コンピュータに分科してゆく。
栽培されるコンピュータや接ぎ木されるコンピュータ、水棲コンピュータや陸棲コンピュータ、あるいは栄養コンピュータや薬剤コンピュータなども登場してくる。
特に医療の分野でめざましい進化をとげる。人間から不老長寿の願望をなくせないからである。
ビタミンやインスリンなどが、バイオテクノロジーを応用した錠剤型コンピュータを飲むことによって、直接細胞や遺伝子に作用するようプログラムされている。
細胞そのものにナノ・コンピュータが組み込まれ、遺伝子治療などの目的で、細胞移植が日常的に行われる。
苦痛をなくすコンピュータや老化をのばすコンピュータなどが実用化されている。
そして、人間はもはやコンピュータなしには生きて行けない中毒患者と化す。
あるいは、自らがコンピュータ化された細胞の集合体にすぎなくなっている。
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☆
あなたは饒舌なひとですか?それとも、寡黙なひとですか?
私は、よくインターネットを利用するが、はっきり言ってバーチャル・コミュニケーションにすぎないチャットや掲示板の書き込みなどは苦手である。
どんなに精神を集中していても、短い表現でひとに伝えられる言葉には限りがある。
もしも俳句や短歌で日常の会話を交わさなければならくなったら、ほとんどのひとは沈黙するだろう。
あるいはポケベル・メッセージのようにミーハー語や省略語だらけになったら、ひとはしだいに言葉への深い信頼を失ってゆくだろう。
発せられた言葉に本心が籠もっているかどうかは、必ず受け手に見破られるものである。
安易に発せられた短い言葉の饒舌は、ほとんどひとの心に留まることなく、煙のように消え去ってゆく。
私は、朴訥でもいいから、自分の言葉を大切に使うひとが好きである。
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☆
−−彼は相変わらずポチーナ・スースロワの魅力に惹きつけられていた。(中略)
彼は一方でなお彼女に求婚しながら、他方安全をはかって次々と二、三の婦人にも求婚した。そのうちの一人が、アンナ・コルヴィン・クルコーフスカヤであり、将軍で、遠方のさる地方の裕福な地主の娘であった。彼女はかつて『世紀(エポーハ)』へ物語を二篇、寄稿したことがあり、編集者と手紙を交換するようになっていた。アンナの家族が、一八六四年から翌年への冬をペテルブルクで過ごしたとき、ドストエフスキーは彼女を訪ねたが、余りぱっとしない彼の風采は、ロマンティックな若い娘には非常な幻滅であったので、彼女は泣きだしてしまったくらいだった。彼は彼女に求婚したが、承知してもらえなかった。
ヤンコ・ラヴリン 『ドストエフスキー』(理想社)
このときドストエフスキーは44歳、前年に妻を亡くしていた。
ちなみに、アンナ・コルヴィン・クルコーフスカヤは、女流数学者ソフィア・コワレーフスカヤの姉である。
「私のすべての希望は一瞬のうちに水泡に帰してしまいました。そして私は、五分後には銃殺されることを覚悟しました。…」と、ソフィア・コワレーフスカヤはのちにドストエフスキーの恐怖の体験を回想録に記した。
ペトラシェーフスキーの秘密結社に加わっていたドストエフスキーは、一八四九年四月に逮捕され、軍法会議で死刑を宣告されたのだった。
私はロシア文学が好きであり、作家が生きた時代の人間群像にも興味がある。
だから、ソフィア・コワレーフスカヤについても熱狂的に調べた時期があった。
小堀憲著『大数学者』(新潮社)に、ヴァイエルシュトラースに関連して、数学者としてのソフィア・コワレーフスカヤ(ソニア・コヴァレフスカヤ)のことがかなり詳細に綴られている。
私は、文学にも数学にも、それが誕生してきた時代背景に、喜びや悲しみに打ち震えた多くの人間群像を認める。
文学も数学も、歓喜と悲惨を味わいながら、激しい感情に包まれた人間精神が生み出したものである。
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