随想録『パラボラ・アンテナ』
★P−52
いま世界中で、「IT革命」が叫ばれている。
確かに政治経済などの世界情勢は、コンピュータなしには成り立たなくなっている。
しかし、コンピュータはそれを操作する人間を理性的にしてくれるわけではない。
むしろインターネットは物質主義や拝金主義を増長させている。
ITを持つ者と持たざる者とのデジタル・デバイド(情報格差)は拡大するのみである。
「IT革命」、これは現代の選民思想なのではないだろうか。
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コンピュータのない平日はどんなに不自由なことだろう。仕事が成り立たない。
コンピュータのない休日はどんなに自由なことだろう。人間を取り戻せる。
膨大な情報をもたらすコンピュータは現代人の思考を窮屈にしている。
少なくともコンピュータを操作したことのないデカルトやカントは、現代人よりもっと自由に人間について思考することができただろう。
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コンピュータはハードウェア(HW)とソフトウェア(SW)だけで成り立っているのではない。
HWとSWの処理に価値を与えるインテリジェントウェア(IW)が必要なのである。
つまり、HWだけ、SWだけでは自らに存在価値を与えることができない。
コンピュータの価値を決めるのはIWである。
「存在・自由・価値」=「HW・SW・IW」
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人間は確かに他の動物から自らを際だたせる言語や技術を産み出す能力を授かった存在であるかも知れない。
しかし、だからといって他の動物から際だった権力や祝福を授かった特別な存在ではない。
人間は、そのような権力や祝福を神から授かったと錯覚している。
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科学が発展するにつれて、人間はますます互いに理解し合うことが困難になっている。
それというのも、言葉自体がますます抽象性を帯びてきているからではないか。
世界は専門的で精密で詳細な言葉に満ちあふれている。
しかし、どれも自らの規則を主張し、抽象的で断片的である。
科学は、概念による抽象的で理念的で安定した世界を示してくれる。
しかし、人間は感覚を持った現実的で生物的で不安定な世界に暮らしている。
その感覚を持った生物的な世界は、科学概念によって、曖昧なもの、不安定なもの、信用できないもの、ついには不要なものといった烙印を押されている。
人間は、自分がある特別な世界に生きていることを知っている。
しかし、その世界は言葉がなくては人間にとって意味をなさない。
言葉がなければ、物質世界も生物世界も成立しない。
いや、言葉がなくても成立するのかも知れないが、そうなると人間は他の生物と区別がつかなくなる。
人間が人間であるために、その現実世界に言葉は不可欠なのだ。
そして、言葉が科学を産み、ついには人間存在を危うくする。
互いに理解し合うことが不可能になったとき、人間は自らの存在根拠である言葉によって滅亡するのかも知れない。
「バベルの塔」の教訓は、コンピュータ時代の今日でも生きている。
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