随想録『パラボラ・アンテナ』
★P−31
ある物質をどんどん加速してゆくと、秒速30万キロメートルの光速度に限りなく近づいて行く。
しかし、人工的にいくら加速しても、光速度に到達することはできない。
そのために膨大なエネルギーを必要とし、加速される物質もそれ自身無限大になってゆく。
また、原子をどんどん減速してゆくと、絶対零度(摂氏マイナス273度)に限りなく近づいて行く。
しかし、人工的にいくら減速しても、絶対零度に到達することはできない。
そのために膨大なエネルギーを必要とし、減速される原子の動きは無限小になってゆく。
人間の科学理論はみなこの中間領域で成立している。
それを超えると、人間の理論は予測不可能なカオス(混沌)に陥る。
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私は、ヒューマンビーイング(人間)の存在を認めている。
しかし、ヒューマンビーイングの傲慢は少しも認めない。
酸素を呼吸できなければ、ヒューマンビイングは生きてゆけない。
ヒューマンビーイングも柔らかい細胞組織から成り立ち、他のビーイング(生き物)と同様に簡単に死んでしまうからだ。
細胞組織のしくみに、他のビーイングを見下す何の特権も有りはしない。
たとえそれが、高度に発達した脳細胞であろうとも。
ヒューマンビーイングは、他のビーイングが存在しない世界では生きられない。
ヒューマンビーイングは、大自然のほんの小さな一部分なのだ。
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−−山も、波も、空も私の一部、
わたしの魂の一部ではないだろうか。
わたしがそれらの一部であると同じように。
バイロン 『チャイルド・ハロルド』
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未開人は原木的である。
文明人は彫刻的である。
文明人は、科学を完成した彫刻のような真理であると見なす。
しかし、その過程で多くのむだな削りくずがあったことを見ようとしない。
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文明人とは、理性的犯罪者だ。
過失を犯したあとで、何らかの言い訳をして、事実を歪曲しなかった者などあるだろうか。その言い訳はしばしば自尊心を伴っている。
人間が生き延びるために、何かを犠牲にしてでも、技術文明が進歩する必要があるという。
ならば、文明人とは、純朴さや正直さを喪失し、狡猾な詭弁や専横な技術を際限なく駆使する人間のことである。
だがしかし、我が心は決して石に非ず。
日本の作家高橋和己の口癖、「純粋な人間は早く死ぬべきだ」
私はもう純粋ではない。
余計に生きながらえるために、多くの言い訳をしている。
私の生命が、かけがえのない地球を否応なく汚していると思うと、時としていたたまれない気持ちになる。
ほんとうに、潔癖な人間は早く死ぬべきなのかも知れない。
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若いころに観た映画「ロミオとジュリエット」のラストシーンで、太守は次のように叫ぶ、「All are punished!(すべての者が罰せられよ!)」
しかし、私の耳には、「All are perished!(すべての者が滅びよ!)」と聞こえたような気がしたものだ。
シェークスピアの原文訳では、「それぞれ赦すべきは赦し、罰すべきは罰するつもり」と優柔不断な表現になっている。
だが、もう若くない今の私は、シェークスピアの原文の方により真実を見いだす。
すべての者が罰せられる理由はないし、すべての者が滅びなければならない負い目はないはずだ。
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