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ポケモンいえるかな?
「どろんこの会」事務局の黒古次男さん(以下「おっちゃん」)は、あの年代の男性にしては口数が多い人だ…と思う。生まれつきなのか、学校の先生という職業柄なのか。わたしの父親も学校の先生だった。父親が52歳で急死したとき、同僚の先生方が弔問に来てくれたが、ひとりがしゃべりおわらないうちに他の人がしゃべりだし、あたしゃいったい誰の話を聞いていればいいんだよ、という感じだった。やっぱり職業柄かな。そういうことにしておこう。 おっちゃんは、月2回の「どろんこ」の会合…編集会議と例会だ…でも、精力的にしゃべる。毎回参加する人は微妙に違うし、おっちゃんとしては重要なネタはみんなに聞いて欲しいから、比較的マメに会合に顔を出していると「この話、前にも聞いたぞ」というネタにぶつかることもある。前にも聞いたぞ…と思いつつもついつい耳を傾けてしまうおっちゃんの話に「ミニ4駆ネタ」というのがある。次男を普通学級に通わせよう、と決心するに際して、このネタにずいぶん影響された。 曰く「ぼく、ミニ4駆が流行しているのに気づかなかったんだよね」……つまり、普通学校に勤務していれば当然気がつく(であろう)ミニ4駆の大流行に、養護学校に勤務していたがために気がつかなかった、とおっちゃんは言うのだ。さすがのおっちゃんも、コロコロコミックの定期購読はしていないらしい。 わたしは、昔話が好きだ。「ミルメークについてたストローって短すぎて、牛乳ビンの底まで届かないんだよね」「そういえば…」「だから、牛乳ひとくち飲んでからミルメーク入れて、またフタをして、フリフリして溶かすとうまくいったよね」「そうそう!」「男子が、スーパーカーの消しゴムいっぱい集めて、ボールペンで飛ばしてレースしてなかった?」「してたしてた! あれって、うちの学校だけで流行ったんじゃなかったんだぁ」……こんな話をするのがすごく好き。たまに「ミルメーク? なにそれ?」などという人もいて、世代がバレたり地域性がわかったり。こういう話で盛り上がれるのは、同じ子ども時代を共有していればこそだよなあ、と思う。 さて、普通学級に入った次男はどうなったかというと、すっかり流行りモノに影響されている。彼はゲームボーイもやったことないくせに、ポケモンのキャラクターを次々と覚え、プリンとピッピの区別もつかない親を驚かせた。そうだそうだ、わたしは次男に、こういう小学校生活を送らせたかったんだ。もう、親バカとでもなんとでも言ってください。ポケモンのCD、買いました。クリスマスにはサンタクロースが次男のために、ポケモンキャラクター勢揃いの500ピースのジグソーパズルを届けてくれましたってば。 彼らが30過ぎぐらいのいいオジサンになったとき、仕事帰りにふと立ち寄った居酒屋で、誰かが思い出す。「そういえば、ポケモンってすごく流行ったよなあ」「歌があっただろ、ポケモンが全部出てくるヤツ」「あったあった! 覚えてる?」「覚えてるかなぁ……ピカチュウ、カイリュウ、ヤドラン、ピジョン……お、結構歌えるじゃん」 かくして、居酒屋の片隅でいいオトナがこそこそと、ポケモンの歌を口ずさむ。そんな場所に次男がいられればいいなあ、と思うのだ。 わたしってば、30過ぎて立ち寄る居酒屋での話題作りのために、次男を普通学級に入れたのか? そう思うと「これでいいのか」という気もするよね。そもそも、仕事帰りに居酒屋に寄るためには、まず就労できなきゃダメなんだし。そこまでのハードルはいっぱいあるんだろうなあ。ポケモンの歌を覚える脳ミソのキャパシティには、もっと別のものをつめこんだほうがいいのかもね、と思うこともある。でもとりあえず、わたしは「これでよかったんだよなあ」と思いながら暮らしている。こんなところでひとつひとつ、自分の選択は間違っていないはずだと、自分に言い聞かせているのかもしれない。(1998.2月) |