| 就学時検診から1年……そして運動会 去年の今頃、わたしは「イガグリ」だった。二重三重の鎧をまとって、世間に対してトゲをつきつけていた。妊婦さんがおなかをさすりながら、ニコニコと「健康で、五体満足で生まれてくれれば、男の子でも女の子でもいいです……」なんて話しているのを見ると、それだけでイラついた。「障害」も「共育共生」も「分離」も「統合」も、言葉を見るだけでうんざりした。考えたり悩んだりする時間を作りたくなくて、やみくもに仕事を増やし、スケジュールを埋めた。 あれから1年。わたしは何に対して、あんなに苛立っていたのだろう。 小心者で心配性のわたしは、常に「安定」を求めていた。いつも安定した状態でいたい。堅い地盤の上に立っていたい。長いものにはぐるぐる巻かれてもいい、とにかく誰にも後ろ指を指されることがないように、万全の備えをしながら生きてきた。今までは、法律にも生徒手帳の服装規定にも逆らわない生き方をしてきたのに、突然おカミの「分離教育」に反旗を翻し、障害のある子どもを普通学級に入れようだなんて。これが自分にとって、どんなにストレスだったか。昨年の会報を読み返して、しみじみと考えてしまう。 小雨がそぼ降る中で行われた、shinにとっては初めての小学校の運動会。そこでは、彼の普段の学校生活の様子がかいま見えた。1年1組の応援席の後ろの方から様子を伺うと、近くの子どもがめざとく私を見つけて「shinくん、ほら、おかあさんだよ」と教えてくれる。 Aくん「ねえねえshinくんのおばちゃん、shinくんって最近おかしいんだよ!」 わたし「え、おかしいって別に……今にはじまったことじゃないじゃん」 Aくん「あのね、shinくんショータイム! っていうと歌を歌ってくれるんだよ」 Bさん「shinくんはね、やさしくておもしろくて、みんなを笑わせてくれるから、クラスで一番人気なんだよ」 みんな口々に、いろいろ報告してくれる。 Cくん「shinくんはね、授業中にも歌を歌ったり、ずっとしゃべってたりするんだよ」 Dさん「そうそう。『ビッグトーマスはおとうさんなんだ』とか、わけのわかんないこと言うんだよねー」 Cくん「それで、先生に怒られることもあるし、怒られないこともある」 そーかー。怒られることもあるし、怒られないこともあるのかー。 応援団長は6年生だ。「応援合戦するぞー。みんな立ってー。おいショータイム、おまえも立て」 …そーかそーか。6年生にまで「ショータイム」が知れ渡っているのか。 1年生の主な競技である60メートル走では例によって、みんなが一心不乱にゴールめざして走る中、実にうれしそうに楽しそうに、観客席に愛嬌を振りまきながら走った。わたしの背後で「なんじゃあ、あいつは! ちっともまじめに走っておらんじゃないか!!」というどこかのじいちゃんの声がした。「いいのよー、1年生なんだもん。あれでいいのよ」と、じいちゃんをとりなすどこかのおかあさんの声もした。あのときshinをフォローしてくれたどこかのおかあさん、ありがとう。うれしかったです。 1・2年生がカラフルなTシャツに身をつつんで踊る、SPEEDの「Go! Go! Heaven」は、とてもかわいかった。shinも列からはみ出したりしながらも、元気いっぱい踊っていた。 入学した頃は心配で心配で、フェンスの外からなかなか見えない教室の中をのぞきこんでは「shinの靴だけ、靴箱に入っていない」とか「教室の中をたち歩いている人影が、どうもshinに見える」などと気をもんだ。帰宅すればしたで「連絡帳を書いてこない」「翌日の持ち物がわからない」などと途方に暮れていた。今もたいして状況は変わっていないけど、毎日元気に学校に行く様子を見て「これでよかったんだろう」と、少し落ち着いた気持ちでいる。(1997.10月) |