ケルビーノの独り言



不定期更新の日記です
いわゆる日記ですが、文字通り、独り言に近い内容です。
日常の中で感じた事や、感想、想い、などを書ければ、と考えています。
相変わらず、文章を書くのは苦手なので、更新は不定期です。
ご感想やご意見等ございましたら、掲示板かメールにてご連絡ください。





12月13日 快晴

先日、押入れの中をゴソゴソ探し物していたら、懐かしい本が出て来ました。僕が高校生の頃に買った本で、とても古い、音楽の理論書のようなものです。まあ、理論書とは言え、今でいう所の「ブルーバックス」のような文庫本ですので、さして難しいことが書いてある訳ではありませんし、僕よりも長い年月を経てきた本ですので(71年 第1刷発行)、ところどころで古い表現等も見受けられます。
当時は(今も?)、まったく音楽関係の知識もありませんでしたし、特に和声のことなどは、ぜんぜん頭の中に、入らなかったものです。ただ、とても読みやすい文章で、所々に面白いエピソードなども紹介してあって、楽しく読み進めていくことが出来たのは、憶えています。

その本の著者は、作曲家の芥川也寸志さん、題名は「音楽の基礎」(岩波新書)です。で、随分と久し振りに、内容を流し読みしてみたのですが、いろいろと(というか、大半は)忘れていたことも多いですし、今読んでも、参考になることが多そうです。
そのような訳で、最初から読み始めたのですが、第1章の第1項、冒頭の文章がとても印象に、残りました。なので、今日の日記では、その文章を紹介させて頂こうと、思います。

平易な文章によって指摘される、だれしもが実感として感じられる事象とその意味を、自ら楽器を演奏し、また自分なりの音楽を生み出せるよう、努力する者の1人として、意識し自覚せねばと、思いました。

I 音楽の素材
 1、静寂

 音楽が存在するためには、まずある程度の静かな環境を必要とする。たとえば、鐘もしくはそれに類似する音が鳴り響いているなかで、鐘の音を素材とした音楽を演奏しても、その音は環境に同化してしまうので、音楽としては聞こえない。ちょうど、赤い紙に赤色のクレヨンで絵を画こうとするのと同じである。
 しかし、程度を超えた静けさ−−真の静寂は、連続性の轟音を聞くのに似て、人間にとっては異常な精神的苦痛をともなうものである。日常生活のなかでは、このような体験をすることはないが、音響器材の実験用などに使われる無響室に閉じ込められると、音を発してもほとんど百パーセント壁や床や天井に吸収されてしまい、自分の声さえ充分に聞くことができなくなるので、恐怖に近い非常に強い孤独感に襲われ、それに耐えるのは苦痛であり、限度をこすと精神に異常さえきたすという。
 また大砂漠のなかで夜を迎えると、ときには完全な静寂に支配されるために、自分がその静寂のなかに吸い込まれていくような、ちょうど、無響室に閉じ込められたときの恐怖に近い感覚に襲われるという。
 このような真の静寂は、日常生活のなかには存在しないまったく特殊な環境ではあるが、この事実は音楽における無音の意味、あるいは、しだいに弱まりつつ休止へと向う音の、積極的な意味を暗示している。休止はある場合、最強音にもまさる強烈な効果を発揮する。
 われわれがふつう静寂と呼んでいるのは、したがってかすかな音響が存在する音空間を指すわけだが、このような静寂は人の心に安らぎをあたえ、美しさを感じさせる。音楽はまず、このような静寂を美しいと認めるところから出発するといえよう。
 作曲家は自分の書いたある旋律が気に入らないとき、ただちにそれを消し去ってしまうだろう。書いた音を消し去るということは、とりも直さずふたたび静寂に戻ることであり、その行為は、もとの静寂のほうがより美しいことを、みずから認めた結果にほかならない。
 音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。
 すべての音は、発せられた瞬間から、音の種類によってさまざまな経過をたどりはしても、静寂へと向う性質をもっている。川のせせらぎや、潮騒のような連続性の音であっても、その響きはただちに減衰する音の集団である。音は、終局的に静寂に克つことができない。
 また一つの交響曲を聞くとき、その演奏が完結したときに、はじめて聞き手はこの交響曲の全体像を画くことができる。音楽の鑑賞にとって決定的に重要な時間は、演奏が終わった瞬間、つまり最初の静寂が訪れたときである。したがって音楽作品の価値もまた、静寂の手のなかにゆだねられることになる。現代の演奏会が多分にショー化されたからとはいえ、鑑賞者にとって決定的に重要なこの瞬間が、演奏の終了をまたない拍手や歓声などでさえぎられることが多いのは、まことに不幸な習慣といわざるをえない。
 静寂は、これらの意味において音楽の基礎である。
                     「芥川也寸志著/音楽の基礎」岩波新書




以前の独り言もご覧になられる方はどうぞ 過去の独り言へ






E−Mailご意見・ご感想・苦情等はこちらまで