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Kanon二次創作小説
『奇跡の調律』

第4楽章「商店街のスケルツォ」




 菜瑠が転校してきて3日が過ぎていた。
 今俺は、偶然会った菜瑠や栞たちと、軽い雑談を交わしながら学校までの道を揃って歩いている。
祐一「ところで菜瑠って、あゆの見舞い来てるのか?」
菜瑠「うく? …ちゃんと行ってるよ」
 今日は学校が午前中で終わる。
 だから午後になったらあゆの見舞いに行こうと話していたのだが、ふと、俺たちと菜瑠は、病院では最初の一度しか顔を合わせていないことに気付いたのだ。
祐一「そうか? 俺は学校が終わった後、なるべく面会時間ギリギリまで居るようにしてるけど見たことないぞ。なあ栞」
「そういえばそうですね」
 栞は学業を再開してから、必ず俺と一緒にあゆの見舞いへ行っている。
 クラスの友達との付き合いはいいのかと訊いたことがあるが、「あゆさんは大事な友達ですし、それに毎日祐一さんとデートできますから」と言われては閉口するしかなかった。
 しかし栞は用事が入っているらしく、今日は見舞いに来られないようだ。
菜瑠「そ、そう? おかしいね」
 あははと笑いながら返される。
 何か怪しい…。
祐一「まさか面会時間外に、こっそり行ってるんじゃないか?」
菜瑠「ええっと…あ、予鈴だ。早く行かないと」
 昇降口でタイミングよく鳴る予鈴に救われた(らしい)菜瑠は、さっさと靴を履き替え近くの階段を上っていく。
名雪「祐一、急ごっ」
 ここまで来れば慌てる必要もないのだが、予鈴で目を覚ました名雪にそんな判断はできないようだ。
 菜瑠に釣られて走っていってしまった。
香里「やっぱり朝の名雪は、ああじゃないとね」
 何げに酷いことを言われてるぞ、名雪。
 そう、昨日、一昨日と遅刻が続いていたので、今日は早めに出てきたのだ。
 もちろん名雪は半分以上寝ていたが、それはいつものことなので無理矢理引きずって…。
 おかげで、美坂姉妹&菜瑠にばったり会ったとき…

栞『えぅー、もう祐一さんがいます…』
菜瑠『うく、やばいかも』
香里『早く行かないと遅刻ね』

 てなもんだ。
 ま、香里は現在時刻が分かっていたようなので冗談で言ったらしいが、栞と菜瑠は本気で走り出そうとしていたな。
 菜瑠と香里たちは方向が同じらしく、昨日から待ち合わせて登校しているらしい。
「私はここで」
祐一「ああ」
 階が上の栞は、元気そうに階段を駆け上っていく。
祐一「良かったな、香里」
香里「え、何が?」
 唐突な言葉に、わからないといった顔で訊き返される。
祐一「栞が寝起き良くて」
香里「…全くだわ」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 午後が無い今日の授業は、ついさっき滞り無く終了したばかりだ。
 HRも石橋の二言で終了。
 やっぱりあの担任は簡単でいい。
 このあと昼飯を適当に済ませたら、あゆの見舞いに行く。
名雪「菜瑠は料理できるの?」
菜瑠「うん、自生してるからね」
名雪「…? それを言うなら自炊だよ〜」
菜瑠「くふふっ、冗談だよ」
 このふたり、随分と気が合っているみたいだ。
 最近は休み時間ですら寝ているのが日常の名雪だったが、菜瑠が来てからはそんなところは見たことがない。
 真後ろに来た転校生と仲が良くなったら、こうなるのが普通だろうか?
 しかし菜瑠の奴、名雪に突っ込み役をさせるとは、なかなかやるな。
 このままでは俺の立場が危うい。
 某K氏なんか、完全に忘れられてるし…。
 ん、菜瑠と名雪?
 いや、あゆと名雪と菜瑠。
 あゆ、なゆ、なる……そうか、謎は全て解けた。
祐一「犯人はお前だっ!!」
名雪「え!?」
 俺にビシッと指をさされた名雪は、ゾンビでも見たかのように固まってしまった。
香里「何を言ってるのよ…」
 香里はいつも通り呆れている。
名雪「わたし、祐一のショートケーキなんて食べてないよ…」
香里「名雪も本気で受けなくていいから…」
祐一「まて、ショートケーキって何の話だ!?」
 今度は俺が驚く番だった。
 名雪はいつもの唐突な冗談だったと気付き、しまったといった顔で口を押さえる。
名雪「え、ええっと、今日は気分を変えてショートケーキが食べたいかなって…」
 とても白々しい。
祐一「…今日は奢らないぞ」
名雪「うー、わかったよ」
 というか、名雪と付き合っているわけでもないのに、なぜ俺が奢らにゃあかんっ。
 ちょうどいいから、奢るのを特別な日以外は無くしてしまおう。
名雪「イチゴサンデー…」
香里「ほら。いじけてないで、そろそろ行くわよ」
菜瑠「お昼お昼〜」
 そう言えば、栞は先に帰るとか言っていたな。
 なら、いつまでもここにいる必要もない。
 ほとんど空の鞄を持ち、教室を出る。
菜瑠「あ、待ってよっ」
名雪「早いよ〜」
 結局一番遅いのは、急かした『なゆなるコンビ』だったりする。
祐一「そういえば某K氏、もとい北川は?」
香里「あ…」






北川「忘れるなんて酷いぞ相沢」
 北川がブツブツ言いながら、俺たちの後についてくる。
祐一「いや、よく眠っていたからな…」
 こいつは一日中爆睡していた。
 それも、朝に俺が来たときからだ。
北川「寝不足だったんだ。少しは察しろ」
 そういう口の利き方をするか…。
祐一「代返しなくても良かったみたいだな」
北川「下僕とお呼び下さい」
 変わり身の早い奴だ。
北川「おっと、じゃあオレこれからバイトだから」
 颯爽と別の道へ向かって駆けていく。
 なるほど、寝不足はバイトか。
 最近北川がバイトをする回数が増えたみたいだが…
 じぃっと、香里の顔を見る。
香里「な、なによ」
祐一「いや、なんでも…」
 北川と香里が付き合っている気配はまだない。
 それなのにバイトが増えたということは……。
 近い内に北川が動く。
 何か手応えを掴むことがあったに違いない。
 あいつは意外と慎重だからな。
 今の内に軍資金を貯めておく気なのだろう。
名雪「うー、祐一と香里の間に怪しい空気が流れてるよ〜」
菜瑠「どきどき…」
 何を勘違いしている、こいつらは。
香里「そんなわけ無いでしょ」
 香里はたったの一言で、疑惑の空気を一蹴してしまった。
 アクセントの位置といい、クールな表情といい、とても名雪にはマネできそうにない。
 俺も負けていられないな。
祐一「そうだ。俺は栞一筋だ」
 ………。
名雪「わ。今さらだけど言い切ったよ」
香里「もう少し早く言って欲しかったわね」
菜瑠「?」
 つい調子に乗って、何も考えずに言ってしまった。
 むちゃくちゃ恥ずかしい。
 しかし菜瑠だけは、言葉の意味を計りかねているようだ。
 無理もない。
 菜瑠が引っ越してきてから、まだ一度も栞と『付き合っているらしい会話』をしてなかったからな。
祐一「い、行くぞ」
 居たたまれなくなった俺はこれ以上墓穴を掘らないよう、早足で商店街へ向かった。






「あ、お姉ちゃーん」
 商店街に入ると、待っていたかのように栞が手を振りながら駆け寄ってくる。
香里「偶然ね」
「びっくりしました」
 今のは偶然だったのか?
 どうもいいタイミングで出てきたような気がするが。
香里「どう? これから軽く食事するんだけど、一緒に行かない?」
「はい、いいですよ」
 なんとなく、わざとらしさを感じるのは気のせいだろうか?
菜瑠「栞ちゃん、もう用事終わったの?」
「は、はい。終わりました」
祐一「確か、あゆの見舞いは行けないって言ってなかったか?」
「えっと、えぅー…」
 なんだ?
 よくわからんが、栞は困ったように香里の方を見ている。
香里「いいじゃない。終わったって言うんだから」
名雪「そうだね〜」
 名雪は特に何も考えていないだけだろうが……
 そうか。
 まだ栞が病気と闘っていた頃、姉と学校帰りに偶然会って、商店街で遊んで帰るのが夢と話していた覚えがある。
 どうやら今がそれらしい。
 香里の言葉も、二流役者が言ったような台詞的なものを感じた。
 まあ、これで栞の夢が叶うのなら安いものだろう。
 しかしこの前のアイスパーティーといい、香里は栞に甘いな。
祐一「とにかくメシ行くぞ、栞」
「あ、はいっ」
 俺も同じか。






菜瑠「お昼お昼〜」
名雪「いっちご、いっちご」
 このふたり、同レベルか…。
 昼食なんだから他の店にしようという俺の意見はあっさり無視された。
 いつも通り軽食も扱っている喫茶店『百花屋』へ入ると、そこはもう他の客で満員になっている。
名雪「う〜」
菜瑠「いっぱいだね」
香里「やっぱり他の店にする?」
 この時間に空いているような店は、むしろ行かないほうがいいかもしれない。
「ここがいいです」
香里「そう?」
「はい、ここは思い出の場所ですから」
香里「…わかったわ」
 結局、カウンター近くに椅子だけ並べられた所で、座って待つことになる。
 すぐに空くと思ったが、俺たちは5人。
 そう都合良く空くはずがなかった。
祐一「そういえば、菜瑠はたい焼き好きか?」
 さすがに時間の無駄だと思うようになり、隣の菜瑠へ話題を振る。
菜瑠「たい焼き? うーん、どっちかっていうと今川焼きかなぁ」
 なるほど、あゆの『親戚』だな。
祐一「なんで今川焼きなんだ?」
菜瑠「だって、今川焼きは裏がないから」
祐一「…つまりどっちも表って事か?」
菜瑠「そういうこと」
 思っていたよりも、まともな答えが返ってきたな。
祐一「じゃあ、たい焼きはどっちが裏なんだ?」
菜瑠「うく!?」
 考えていなかったのか、高めの声が上がる。
菜瑠「えっとー、右側じゃないかな…?」
 日本の風習ならそうだな。
菜瑠「あ、でも中にあんこが入ってるんだから、裏は見えてない内側の部分……うくー、それじゃ今川焼きも裏があるよ〜」
 ひとりで突っ込んでる。
 そして頭を抱えて悩み込んでしまった。
菜瑠「私は今川焼きが好き。私は今川焼きが好き。私は今川焼きが好き。私は……」
 今川焼き好きの女子高生、月宮菜瑠。
 たい焼きと今川焼きの謎から逃避する……。
 やっぱり無駄に時間を過ごしてるな。






「やっと空きました」
名雪「待ちくたびれたよ〜」
 たっぷり時間を掛けてから案内された席は、店の一番奥だった。
菜瑠「今川焼き、今川焼き、今川焼き、今川焼き、今川…」
祐一「おい、菜瑠」
 深く悩み込む癖があるのか、菜瑠は一向に帰ってこない。
名雪「菜瑠、そんなに今川焼き食べたいの?」
菜瑠「焼く?」
 焼くのは店の仕事だろ。
菜瑠「あ、あれ? いつの間に…」
 名雪によって、無理矢理移動させられた菜瑠は、知らない内に景色が変わったことに驚いて首を振っている。
菜瑠「えーっと…」
 気まずい。
 今の菜瑠はそんな雰囲気だ。
菜瑠「私、暗いとこは平気だよ」
祐一「は?」
菜瑠「ホラー映画もへっちゃらだし」
祐一「そ、そうか…」
菜瑠「料理だって作れるもん」
 …なんというか、菜瑠はあゆよりも、何の関係もない名雪に似ている気がしてきた。
菜瑠「じゃあ、転入祝いって事で祐一の奢りね」
 でも名雪よりはしっかりしてるんだよな…。
「私は全快祝いで祐一さんに奢ってもらいます」
 すかさず栞が便乗してくる。
祐一「ちょっと待て。祝いなら香里や名雪も払うべきだろっ」
名雪「うー、せっかく奢ってもらえると思ったのに〜」
 というか、お前には奢らないと言っただろ。
香里「栞と菜瑠のお祝いを一緒にやるってことは、二人にもお互いの分を払ってもらうことになるわね」
「えぅー、お祝いされる側にも出させるんですかーっ」
 姉の命令だぞ、栞。
菜瑠「じゃあ、私も栞さんの全快祝い出すね」
 菜瑠は潔く、その提案に応じた。
 俺としては、二人別々にやるほうが高くつくのでこの方がいい。
 もしかすると菜瑠もそれに気づいたのかもしれない。
店員「ご注文はお決まりでしょうか?」
 しまった、すっかり何を頼むのか考えていなかった。
「ジャンボミックスパフェデラックスのランチセット5人分お願いします…」






 出てきたのはジャンボミックスパフェ1つと、5つのスプーン。
 それと、人数分の飲み物、ハムサンド、なぜか今川焼き…。
店員「これは店長からのサービスです」
菜瑠「あ、あはは…」
 どうやらさっきのが聞こえていたらしい。
 義務感を感じたのか、気味が悪いと感じたのか…。
 とにかく、かなり目立っていたことは事実だ。
菜瑠「えっと、得したね」
 人の顔より大きなパフェを前に、甘いあんこの匂いを垂れ流す今川焼きを食べながら言う。
 別腹というやつか。
 しかし、それでも多すぎると思うぞ。
「そういえば、昔のあゆさんの話を聞いてみたいです」
 紅茶で口の中を温めた栞が、菜瑠の方を向く。
菜瑠「うく、あゆの話?」
「はい。8年前までは一緒だったんですよね」
 あゆがあの事故を起こす直前まで、菜瑠はこの街に住んでいたらしい。
 俺のが知り合う前のあゆを知っているのだ。
菜瑠「うーん、そうだなー…」



   to be continued...






<あとがき>

 今回は菜瑠の性格付け。
 無理に言えば「あゆ+名雪+香里」くらいですが、いくつで割るかは不明です。
 ここに栞を入れないのがポイント?

 次回は過去の話。
 動くあゆの登場…

作:Chaki-EL 協力:KODAMA
2002/11/1

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