TOP
アニメ
小説
PC
掲示板
リンク
更新状況
平和な街の探偵物語



名雪「祐一、ご飯だよ〜」
祐一「ん? ああ、そんな時間か」
名雪「今日は、わたしが食べさせてあげるよ」
祐一「なに言ってんだよ、自分で食べられるって」
名雪「ダメだよ。祐一は病人なんだから」
祐一「俺が病人?」
名雪「はい、あーん」
祐一「待て名雪、そのスプーンに盛られたオレンジ色の物体は何だ!?」
名雪「一服、盛ったんだよ」
祐一「そういうのはコッソリやるもの…じゃなくて、盛るんじゃな〜〜〜い!!」




第4話「風雲 水瀬城」




 がばっ!!

祐一「ぜぇ、はぁ……」
 夢にうなされていた祐一は飛び起き、しばらく放心状態でいた。
祐一「(何時なんだ?)」
 夢と現実の区別を付け、何とか落ち着いた祐一は暗い部屋を見回す。
 しかし壁に掛けてあるはずの時計は暗すぎて見えず、枕元にあるはずの目覚まし時計は、どこに手を伸ばしても掴めない。
 代わりに布団が引っ張られる感触に気が付いた。
名雪「くー」
 目を凝らすと、ベッドの縁で自分の腕を枕にして寝ているいとこの姿がある。
祐一「なんで名雪がここにいるんだよ」
 寝ている人間がその質問に答えられるはずもなく、代わりに…
名雪「うー、ピアノを弾くクマさんだお〜」
祐一「…起きろ、名雪」
 ゆさゆさと名雪の体を揺らすが、この程度で目を覚ますような相手ではないことを思い出す。
祐一「(しょうがないな)」
 祐一は近くの棚に置いてある大きな辞典を持ち出し、名雪に向かって構える。
祐一「(これで少しは頭が良くなるだろう)」
 それを大きく振りかぶったときだった。
名雪「うにゅ。あれ、祐一……なにしてるの?」
 名雪は、妙に鋭いときがある。
祐一「朝の運動だ」
 誤魔化すために、祐一はぐぅっと延びをした。
名雪「まだ夜の12時だよ」
祐一「は?」
名雪「だから、日付が変わったところだよ」
 名雪が机の上へ移動していた目覚まし時計を祐一へ見せる。
 蛍光塗料により仄かに光っている針は、確かにその時間を示していた。
祐一「俺は確か…1時頃に寝たはずだぞ」
 祐一はつまらない深夜番組を見るのを止めて、寝てしまった事を思い出す。
 しかし起きれば時間が戻っている上、名雪が部屋にいたので混乱してしまった。
名雪「祐一、ずっと風邪で寝込んでたんだよ」
祐一「風邪?」
名雪「うん、気が付かなかったの?」
祐一「……いや、まったくさっぱり分からなかったぞ」
祐一「なるほど、1日も寝てれば体がだるくなるわけだ」
 そう言って朝の体操の続きをする。
名雪「違うよ、2日だよ」
祐一「2日って、そんなに寝てたのか?」
名雪「うん、ぐっすりだったよ」
 名雪は立ち上がり、部屋の明かりを点けた。
祐一「ぐあっ、とけるぅぅぅ」
 光から顔を守るように腕を上げる。
名雪「ねえ、ご飯食べる?」
祐一「……食べる」
 あっさりボケを止められた祐一は静かに答えた。









あゆ「うぐぅ、怖いよぉ」
 場所は変わって暗い寒空の下、あゆが水瀬家の門前でうなっていた。
あゆ「でも、ボクがんばるよっ」
 両手でぐっと拳をつくって気合いを入れる。
 今回の標的は名雪の部屋の中。
 家族総出で祐一の看病をしている今は絶好のチャンスである。
あゆ「行動開始だよっ」
 そう言って水瀬家の門を無断で開け、敷地内へ侵入する。

 ポーン

あゆ「うぐ!?」
 玄関の前まで来ると、ドアに埋め込まれている液晶画面が突然光りだし、そこにはこう書かれていた。

 『現在セキュリティシステムが作動しています。それでも侵入しますか?(Y/N)』

あゆ「…当然イエスだよっ」
 あゆは何のためらいもなく『Yes』と大きく表示されている部分を触った。

 ガゴンッ

あゆ「うぐ?」
 妙な音と共に、あゆの足下が無くなっていた。
あゆ「うぐ〜〜〜〜……」

 どすんっ

 ある意味、怪盗の鑑である。






 ウォーーーンッ

放送「緊急指令。留守宅に侵入者。場所は○○町3の7、水瀬宅。尚、通報はセキュリティシステムによる自動通報………」
刑事A「事件か?」
刑事B「事件だな」
刑事C「事件だ!!」
 警察署に入った連絡は、暇を弄ばせていた署員の目の色を変えさせた。
 なぜか事件の少ないこの街の刑事は、サイレンの音に弱いのだ。
美汐「そんな、酷なことはないでしょう」
 そんな中、絶望の表情を浮かべる新人女刑事が1人。
 彼女は夜勤唯一の楽しみである夜食の“カップ天そば”に湯を注いだところだった。
放送「ヒマじゃなくても直ちに急行せよ!」
刑事B「行くぞ天野っ」
美汐「はい…」
 しかし、諦めきれない美汐は走りながらも絶妙なバランスで“カップ天そば”を運んでいた。
美汐「(……お箸、忘れてしまいました)」






あゆ「うぐぅ、やっと出られたよ」
 落とし穴に落ちて絶体絶命のピンチになったが、そこは怪盗の七つ道具『ピアノ線』を使って脱出することに成功した。
 しかし、なかなかピアノ線が引っ掛からなくて、脱出前の段階でヘトヘトになっていたのは秘密である。
あゆ「穴が邪魔で入れないよぉ」
 落とし穴は玄関の前に漆黒の口を開けていた。
あゆ「やっぱりこういうときは窓だよね」
 あゆは庭へ周り、リビングの窓へ怪しげな機械を付ける。
 これも怪盗七つ道具の内の1つだ。
あゆ「これをくるっと回して…」
 機械はコンパスのような動きを見せ、窓へ円い穴を開けていく。
あゆ「ちょっと…大きすぎたかな」
 内鍵を開けるための小さな穴が空けばいいのだが、できた穴は人が余裕で通れるほどの大きさだった。
あゆ「うぐ…」
 あゆは少し身を屈めて、空いた穴を通る。
あゆ「侵入成功だよ」
 周りを見回し、そこがリビングであることを確認すると、二階へ上がるためにドアへ近づく。

 ぱちんっ

 すると突然、眩いばかりの光りが部屋の中に溢れた。
あゆ「うぐぅぅぅ!」
 驚いたあゆは慌てて部屋を出ていく。
 光っていたのは大きめのテレビ。

TV「水瀬ミステリーゾーンへようこそ……」




 ばたんっ

あゆ「うぐっ」
 階段の手前。
 リビングから出てきたあゆは、その直後なぜか廊下へべったりと張り付いていた。
あゆ「ゴキゴキポイポイ 人用?」
 頭を軽く上げると、そんな文字が目に入ってくる。
 つまり対人間用トリモチだ。
あゆ「ダメだよ。ここで立ち止まるわけには行かないんだよっ」
 古くなっていたのだろうか。トリモチは本来の性能を発揮できず、あゆは右腕だけ解放することができた。
あゆ「えっと、こういうときは…」
 ごそごそとポケットの中を漁る。
あゆ「あった、ガム固めスプレーだよっ」
 なぜかポケットの中から大きなスプレー缶が出てきた。

 シューッ

あゆ「備えあれば憂えなしだよ」
 そしてトリモチとの孤独な戦いがしばらく続く。






美汐「刑事Bさん」
刑事B「オレの名前は斉藤だ」
 車のハンドルを握っていた刑事Bは、怒鳴るように反論する。
美汐「割り箸ありませんか?」
 刑事Bの訴えは無視され、美汐は“カップ天そば”を気にするばかりだ。
刑事B「覆面パトカーにそんなもん有るわけけないだろ」
美汐「捜査で必要になることはないのですか? 張り込みとか…」
刑事B「…張り込みなんて一度もしたこと無いぞ」
美汐「平和なんですね」
 それだけが取り柄の街。と言われている。
刑事B「いや、慰安旅行でバーベキューをしたときの余りが残ってるかも」
美汐「本当ですか?」
 慰安旅行に覆面パトカーを使っても良いのか? という基本的な部分に突っ込む者はいなかった。






あゆ「息苦しいよぉ」(※スプレーは窓を開けてから使用しましょう)
 トリモチとの戦いを終えたあゆは階段の下に立っていた。
あゆ「早く見つけないと…」
 恐怖感よりも使命感の方が先に立ったのか、普段なら薄気味悪くて近づくことはない暗闇へ続く階段を上っていく。

 かたんっ

あゆ「うぐ!?」

 ゴロン ゴロン ゴロン バタンッ

 5〜6段くらい上ったところで乾いた音が聞こえたかと思うと、また足下が無くなる。
 いや、階段の段が沈んで坂になったのだ。
 あゆはまさに転げ落ちていった。
あゆ「何でこんな仕掛けがあるんだよぉ」
 鼻を押さえながら、涙目で誰もいない階段へ向かって抗議する。
あゆ「ボク負けないもんっ」
 拳を作って再び階段へ向かう。
 段が無くなった階段は、坂としてはかなり急だ。
 しかしあゆは階段が狭いことを利用し、壁へ手足を伸ばして蜘蛛の様に登っていく。
あゆ「必ず見つけてみせるよっ」






 キィィィッ

 サイレンを響かせていた車両の集団が、音を立てて停車する。
美汐「きっと少し伸びてしまっています」
 一台の車から降りた新人女刑事はそう言って、車の屋根に“カップ天そば”を置く。
 移動中に蓋を開けるとこぼれてしまうので、現場へ到着するまで食べられなかったのだ。
美汐「やっぱり…」
 落胆の表情で、あと乗せの“天ぷら”を置き、割り箸の代わりに見つけた使い捨てのフォークで伸びた“そば”を食べ始めた。

 ズルズルズルズル

刑事A「付近を調査しろ。まだ近くに居るかもしれん」
 派手にサイレンを鳴らしてきたので、とっくに逃げ出しているだろうと判断した刑事Aはそう指示する。
刑事C「庭に面した窓のガラスに穴が開けられています。間違いなく事件です!!」
 なぜか嬉しそうに言う刑事C。
刑事A「なんだと!? よし、交通課に協力依頼、包囲網を築け。現行犯逮捕するぞ!」

 ズルズルズルズル

刑事A「天野刑事、君も早く探したまえ!」
 しかし美汐は、手に持つ“そば”を置く素振りも見せず答える。
美汐「まだ中にいますよ」
刑事A「なに?」
 刑事Aは暗闇に建つ水瀬家の2階を見上げる。
美汐「ほら、2階の窓のところに……」




あゆ「うぐぅ、お巡りさんが来ちゃったよ」
 やっとの事で2階へ這い上がったあゆが見たものは、赤いパトランプの海だった。
あゆ「たくさんいるよぉ」
 警察署で夜勤をしていた暇な警官のほとんどが集まっている。

 バッ

あゆ「うぐっ!!」
 突然あゆは眩しい光に襲われた。




刑事B「いたぞっ」
 大きな懐中電灯を持った刑事Bが叫んだ。
刑事A「よし、拡声器出せっ」
刑事C「どうぞ」
 刑事Aの声に、すぐさま刑事Cが拡声機を差し出す。

刑事A『君は完全に包囲されている。大人しく武器を捨てて投降しなさい!』
刑事A『30分以内に投降しない場合は突入する!!』




あゆ「た、大変だよっ。早くしないと捕まっちゃうよ」
 窓の下へ身を伏せていたあゆは、慌てて駆け出す。
あゆ「えっと、名雪さんの部屋は…」
 わずかな光りの中、目的の部屋を探す。
あゆ「あった、イチゴのプレート」
 確かにそこは名雪の部屋。
 しかし、ドアに掛かるプレートには『ケロピーの部屋』と書かれている。
あゆ「おじゃましま〜す」
 律儀にも、そう言いながらドアを開けていく。
あゆ「暗くて見えないよ…」
 廊下側は警察が照らしているため、物を認識するくらいの光量があったが、名雪の部屋は雨戸が閉めてあったため、ドアからわずかに光が漏れるだけだ。
あゆ「前来たときはこの辺りに…」

 ガサガサ

 勘で目標を探していると、足元で何かが落ちる音がした。
あゆ「うぐ、元に戻さないと名雪さんに怒られるよ」
 泥棒なら無視するのが普通だが、警察が来てパニックになっているあゆは、慌てて落ちた物を戻そうと腰を下ろす。
あゆ「あ、そうだ。ペンライトがあったね」
 思い出し、七つ道具の一つをポケットから取り出し、スイッチを入れる。

 カチッ

あゆ「あ、これは…」
 ペンライトの小さな明かりで照らされたモノは、独特の形をした紙の切れ端…。
あゆ「うぐぅ、名雪さんのジグソーパズルひっくり返しちゃったよ」
 途中まで完成していたであろうそれは、無惨にもバラバラに散らされていた。
あゆ「早く元に戻さないと…」
 やはりパニックのあゆはパズルを戻そうと、ペンライトを口にくわえてピースを1つ1つはめていく…。






刑事C「ついにオレたちも銃撃戦か」
 銃の弾を確認して、物騒なことを呟く刑事C。
刑事D「この磨きに磨き上げたニューナンブを、ヤツの土手っ腹へお見舞いしてやるぜ」
 刑事Dも、暇があれば磨いていた自分の銃を、恋人を見るような視線で眺めている。

 ぽかっ
 ぽかっ

 そんな刑事CとDを、何者かがグーで殴っていた。
刑事D「何するんだ斉藤っ」
刑事B「お前ら危ないんだよ」
刑事C「心配するな、外しはしない」
刑事B「外せよっ、急所は」
刑事D「お、おう。善処する」
刑事B「……」
 刑事Bは非常に不安になった。






あゆ「実はボクこういうの得意なんだよ」
 意外な才能を見せたあゆは、完成させたパズルを見て悦に入っていた。

刑事A『あと3分で突入する!』

あゆ「うぐ、忘れてたよっ」
 拡声機を通して聞こえてきた声に、本来やるべきことを思い出す。
あゆ「えっと、えっと…」
 ペンライトで壁を照らし、貼られているものや掛けられているものを1つ1つ確認する。
あゆ「あった、栞ちゃんの絵!」
 見つかった絵が入った額を壁から外し、以前のように封を外して何かを探す。
 しかし目的のものは見つからなかったようで、がっくりと肩を落とした。
あゆ「早く見つけないとダメなのに…」
 絵を戻しながら呟く。

刑事A『あと1分だ。投降するなら今しかないぞ!』

あゆ「えっと、逃げないと」
 最後通告を受け、あゆは名雪の部屋を後にする。
 名雪の部屋は雨戸が閉まっているため、外の様子が分からないからだ。
あゆ「うぐぅ。やっぱり表はダメだよぉ」
 水瀬家の玄関前には刑事課以下、多くの警官でごった返している。
 踵を返し、再び名雪の部屋へ向かう。
 部屋を通り抜け、裏庭から逃げるためだ。
あゆ「あれ? そういえば向こうの部屋は何の部屋なのかなぁ」
 水瀬家の2階で、唯一あゆが入ったことのない部屋のドア(開かずの扉)を見て動きが止まる。
あゆ「うぐ、気になるよ…」
 数秒躊躇していたが時間が押しているので、少し覗いて通り抜けられそうもなければ名雪の部屋の雨戸を開けて逃げることにした。
あゆ「おじゃましま〜す?」
 開かずの扉を開けると、他の部屋とは違う独特の空気が漂ってくる。
 ペンライトのスイッチを入れて部屋を照らそうとしたとき、何かの視線のようなものを感じた。
あゆ「な、なんで名雪さんが!? …って、うぐ?」



 to be continued...




<あとがき>

 遅れに遅れようやく水瀬家編前編です。
 また長くなったので2つに分けました。
 無計画ですね〜。(汗

 ようやく祐一が復活してきたと思わせておいて、冒頭で出番終了。
 主役級の扱いだった名雪も今回はお休みです。
 あゆの最後の台詞が気になりますが…。

 今回もあゆは目的を果たせなかったようです。
 それどころか警官に囲まれ最大のピンチ。
 さて、どうやって逃亡させましょう?(汗

 水瀬家の構造は、階段が直線状になっている以外ほとんど原作と変わらず……トラップ以外は。
 トラップは防犯装置が働いていないと動きません。
 でないと毎日名雪が掛かりそう……それはそれで面白いか。(ぉ

 次回、あゆ逃亡編。
 名雪が大活躍か?

2002/3/9

Before   戻る   Next

ご意見ご感想はこちらまで:chaki-el@mbg.nifty.com
TOP
アニメ
小説
PC
掲示板
リンク
更新状況