荒野のKanon
SCENE7「疑惑」
あゆ「うぐぅ、相手が多すぎるよ」
名雪「ふぁいとっ、だよ」
あゆ「そんなこと言っても…」
あゆと名雪は撃ち合いの最前線まで出ていた。
さすがに守りが厚く、無駄玉を撃つばかりだ。
あゆ「あ、もう弾切れだよ」
そう言って最後の弾を込める。
名雪「ナイフは使わないの?」
あゆの上着を敷き詰めるように並べられたナイフ。
こんな奴に接近戦では会いたくない。
あゆ「ボク、ナイフ投げられないよ」
名雪「え?」
意外なあゆの言葉に、思わず間抜けな返事をする名雪。
あゆ「昔、お母さんが『あなたはタダでさえ弱そうに見えるのだから、見た目だけでも強そうにしておきなさい』って」
名雪「じゃあ、そのナイフって…」
あゆ「うん、ただの飾りだよ」
見掛け倒しだった。
あゆ「あ、なんだろあれ?」
ずるずると地面を這う、手のひら大のものがあゆの視界に入る。
名雪「え、魚?」
あゆの声でそれに気付いた名雪は、見たまんまの感想を言う。
あゆ「違うよっ、たい焼きだよ!」
正体が分かったあゆは、それを追って岩影から飛び出す。
名雪「あ、あゆちゃん駄目っ!」
パンッパンッパンッパンッパンッ
名雪「わっ」
あゆを止めようと名雪も飛び出したが、タイミングを合わせたかのような一斉射撃に阻まれてしまう。
あゆ「うぐ〜っ」
体勢を整えた名雪が周りを見回すと、既に久瀬の部下に捕まり、唸りを上げているあゆの姿があった。
名雪「あゆちゃん!!」
あゆ「名雪さん、逃げてっ」
そういう間もなく、あゆを捕まえた久瀬の部下が名雪へ銃を向ける。
パンッ パンッ
名雪「わっ、わっ」
名雪は後退してそれを避け、別の岩影へ隠れた。
名雪「うー、困ったよぉ」
久瀬「相変わらずたい焼きには目がないな」
名雪が岩影でこの後のことを考えているとき、久瀬は捕まったあゆと話していた。
あゆ「うぐぅ。そういうこと言う人、嫌いだもん」
プイッと、横を向く
久瀬「本当はもうどうでも良かったんだが、いい機会だから敵(かたき)を討たせてもらうぞ」
あゆ「え、敵って?」
久瀬「5年前のこと、まさか忘れた訳じゃないだろうな」
あゆ「……うぐぅ」
5年前。
ちょうど久瀬がぐれ始めた時期だ。
久瀬「今はこの騒ぎが終わるまで待ってやろう」
佐祐理「あははーっ」
あゆがホッとしていると、突然謎の笑い声が聞こえてきた。
ぼかっ
男27「うおっ」
派手な色の棒が男27を殴り倒している。
エセ魔術師の強襲だ。
パンッ パンッ パンッ
周りでも撃ち合いが始まり、他の仲間が応援に来ていることが分かる。
香里「名雪!」
名雪「うんっ」
香里に言われて名雪は銃を構える。
狙いは久瀬ただひとり。
息を止めて名雪は引き金を引いた。
パンッ!
あゆ「うぐっ!!」
銃声と同時に、あゆの体が宙に舞う。
どすっ
そして地面に落ちた。
一同「!?」
名雪が撃ったのは、助けなければならないあゆの方だった。
名雪「あ、あゆちゃん!」
名雪のとんでもない射撃に、その場にいた全員の動きが凍り付く。
久瀬「お、お前。仲間が邪魔だからってそこまでやるか」
名雪「ああああ、あゆちゃん。どうしよぉ…」
あゆの体はぴくりとも動かない。
名雪の頭はパニックになっていた。
そして…
あゆ「びっくりしたよ! 名雪さんっ」
突然息を吹き返すあゆ。
栞「蘇生しました」
あゆ「違うよっ。 弾が上着のナイフに当たったんだよ」
役に立たないと思われていたナイフは、密かに防弾チョッキとして活躍していたのだ。
久瀬「ならばっ」
急に我に返った久瀬は、あゆに銃を突き付ける。
名雪「させないよっ」
久瀬の動きを阻止せんと、名雪は再び引き金を引く。
パンッ!
あゆ「うぐっ!!」
再びあゆの体が宙に舞う。
どすっ
あゆ、名雪、久瀬以外の人間は、先ほどから固まったままだ。
名雪「また当たっちゃったよぉ」
名雪は涙目になっていた。
あゆ「な、名雪さん。こういうギャグをしつこくやると、相方の身が保たないよ」
すっごく痛いんだからねっと言って立ち上がる。
どうやらまたナイフに救われたようだ。
名雪「ごめんね、慣れない銃だから…」
ごめんで済むのなら保安官はいらない。
いや、名雪は保安官だ。
あゆ「名雪さん、もしかしてボクに恨みがあるの?」
名雪「そんなことないよっ」
あゆの質問に強く否定する名雪。
あゆ「ホントに?」
名雪「本当だよっ」
久瀬「はっ」
再びあゆと名雪の漫才に気を取られていた久瀬だが、なんとか自力で復活する。
名雪「あ、駄目だよっ」
名雪は懲りずに引き金を引く。
パンッ!
あゆ「う……」
三度あゆの体が宙に舞う。
しかし今度は胸から鮮血が噴き出していた。
to be continued
2001/8/10
E-mail:
chaki-el@mbg.nifty.com