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荒野のKanon

SCENE1「酒場」



 荒野の真ん中にある街の大通りを、ひとりのガンマンが行く。
 腰には保安官顔負けの大きな得物(銃)。
 帽子やブーツは使い古されているが、手入れが良いのでそれを感じさせない。
 ガンマンはあるひとつの店の前で立ち止まる。
名雪「…1杯やっていくか」
 酒場へ入ると、帽子を脱ぎカウンターへ着く。
名雪「マスター、1杯もらうよ」
 肘を付き、カウンターの中にいた店主へ告げる。
マスター「了承」
 年中手を頬へ当てている店主の返事が聞こえ、程なくするとグラスが1つ置かれた。
 琥珀色をした液体の表面からは白い煙が出ている。
名雪「ん…」
 見るからに度数の高そうな酒を、ガンマンは一気に喉へ流し込んだ。
名雪「ふぅ」
 カタッ
 ガンマンはグラスを置き、カウンターへ伏せると寝息を立て始める。
名雪「くー…」
 街は今日も平和だ。




 カタン
 酒場に新たな客が入ってきた。
 腰には何も付けていない代わりに、ありとあらゆるポケットが大きく膨らんでいる。
 勘が良い者なら、得物がそこにあると気付く。
 恐らく手のひらに隠せる小さめの銃、デリンジャーだろう。
 そのガンマンは帽子を脱いで、ゆっくりカウンターへ近づいた。
「おすすめを下さい」
マスター「了承」
 店主は慣れた手つきで素早く用意する。
マスター「どうぞ」
 先ほどと同じ、煙の出るグラスが置かれた。
「ありがとうございます」
 ガンマンは礼を言ってグラスを口に付ける。
 こく……
 ゴホッ ゴホッ
 ガンマンは情けない程にむせていた。
「こんな辛いお酒、ガンマンの敵です!」
 そして血を吐いて倒れた。




 次に現れた客は剣士だった。
 腰に掛けられたオーソドックスな剣が目を引く。
 違和感全開。
 明らかに現れる時代を間違えている。
 剣士が帽子を帽子掛けに向かって投げると、綺麗な放物線を描いて掛かる。
 パチパチ…
 どこからか拍手が上がった。
 ドンッ
 しかし、剣士はそれを気にする風もなくカウンターへ向かい、肘をカウンターへ乗せて店主を呼ぶ。
マスター「はい」
 店主は慌てることなく剣士の元へ向かう。
「…牛丼、つゆだくで卵も」
 ばたんっ
 隣にいた客は付いていた肘を滑らせ、顔をカウンターにぶつけていた。
マスター「了承」
隣の客「あるのかよ!?」




マスター「いらっしゃい」
 入ってきた客は、やはりガンマンだ。
 腰の両方に銃を下げている。
 手に革製のバッグを持ち、カウンターで帽子を取ると店主を呼んだ。
マスター「何でしょう?」
 ダンッ!!
 店主が言うと、ガンマンはバッグの中から何かを取り出し、大きな音を立ててカウンターへ置いた。
真琴「これ買い取ってください」
 がくっ
 ガンマンのバッグから漫画本が出てきたのを見て、隣の客はずっこけた。
マスター「鑑定しますのでしばらくお待ち下さい」
 マスターは漫画を受け取って店の奥へ消える。
 隣の客は、もう何が起きても驚かないと誓うのだった。




 べちっ
 その客は店の前で景気良く転んでから酒場へ入ってきた。
 客は常連で、他の客は「またか」と思いながら酒を飲む。
 常連客はガンマンだが、上着にいくつものナイフを付けている。
 どうやらナイフ投げも得意のようだ。
 カウンターで帽子を取ると、一呼吸置いて店主を呼ぶ。
あゆ「バーボン、たい焼き味で」
 ブーーーッ
 味を想像したのか、隣の客は飲んでいた酒を勢いよく吹き出した。




佐祐理「あははーっ」
 既にどこかで1杯引っかけた後だろうか?
 その客は脳天気な笑い声を上げながらやってきた。
 腰には銃の代わりに、やたら派手な色の棒をぶら下げている。
 最近流行の魔術師だ。
佐祐理「じゃんじゃん持ってきてくださいーっ」
 カウンターへ着き、今日は飲むぞと宣言する。
 店主は早速、酒を瓶ごと客の前へ置いて対応を始めた。
佐祐理「あははーっ」
 ……5分後。
 隣の客は化け物でも見るかのような顔をしていた。
佐祐理「まだまだイけますよーっ」
 魔術師はものすごい勢いで飲んでいく。
 店の前に書いてあった『20分で100杯飲めたら無料』に挑戦中なのだ。




 ぎぎぃ〜
 音を立てて店の扉が開かれる。
 その客もガンマンだった。
 腰からは最初に現れたガンマン、名雪のものに勝るとも劣らない大きな銃が下げられている。
香里「1杯ちょうだい」
マスター「はい。美汐ちゃん、手伝いお願いします」
美汐「はーい」
 店主は『20分で100杯飲めたら無料』の客の対応で手が塞がっていたため、手伝いを呼んだ。
 すぐに店の奥からメイド服姿の少女がやってくる。
美汐「いつもので良いですね」
香里「ええ」
 そのガンマンも常連なのか、メイド服の少女は簡単に注文を聞き、ガンマンも簡潔に答えた。
香里「それと賞金首の手配書全部」
美汐「はい」
 するとメイド服の少女は、新品の手配書をどさっとカウンターに乗せる。
隣の客「ここは保安所か!?」
 見るとメイド服の少女、そして店主の胸にも保安官を示すバッジがある。
マスター「収入が良くないので副業をしているんです」
隣の客「……ごちそうさん」
 やましいことでもあるのか、隣の客はすぐに店を出ていった。

 to be continued

2001/7/8

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