第6話「剣と酒」
ギョ〜〜〜ン ウォウォ〜ンウォウォ〜ンビュルビュルビュルビュルグゴォ〜ングゴ〜ン……
サガ「だーっ!! なによ朝っぱらからっっ」
目が覚めそうで覚めない、そんな気持ち良さを感じていた最中に、その騒音問題は浮上する。
ノン姉「ふっ、腕は落ちてないわね」
サガ「なにが腕よ、ただうるさいだけじゃない」
それに苦しい擬音表現。
机の上で見つけたノン姉の腕にはギター。
後ろには小さな…、でも、ノン姉に比べると大きなスピーカー。
ノン姉「あら、見て分からないの?」
サガ「暴音族?」
ノン姉「ヘヴィメタよヘヴィメタッ!」
馴染みのない言葉に、理解するまで数秒を要する。
サガ「私、そういうの良く分からないから」
もう一度寝直すべく、横になる。
ノン姉「まあ聞け」
サガ「嫌っ」
布団を頭から被る。
これ以上は鼓膜が破れるに違いない。
ノン姉「そうじゃなくて、バイトが入ったのよ、バイトが」
サガ「バイト?」
ちらっと横目で見てみると、得意そうな顔で頷いていた。
ノン姉「ジェット気流使い」
サガ「ジェット気流? 空の高いところで吹いてるっていう?」
ノン姉「そう。長老が気を使って持ってきてくれたのよ」
サガ「それでヘビメタ?」
ノン姉「ヘヴィメタよ。ガンガン吹かせてやるわ」
そう言ってギターを構える。
サガ「あーっ、ここでやらなくていいから」
慌てて飛び起き、スピーカーのコードを引っこ抜いた。
ノン姉「あっ。せっかくノってきたのに…」
サガ「でも、確かヘビメタってグループでやるんじゃないの?」
ノン姉「バンド。思ってる通り、あたし一人でできるものじゃないわ」
サガ「へー。季節使いの仕事って、何人か集まってやることもあるんだ」
ノン姉「まあこれはね。なにせ一瞬で膨大なエネルギー、かつ持続力も要るから、台風使いの爺ちゃんたちじゃダメなのよ」
サガ「ふーん」
どういう原理なのか分からないけど、そういうことにしておこう。
サガ「じゃあ、えーと、交響曲は?」
ノン姉「月食」
サガ「月食!?」
それは季節使いの仕事じゃないと思う。
ノン姉「それじゃ、これから音合わせがあるから。ロボちゃんに宜しく」
手際よく道具をポシェットへ仕舞い、窓から飛び出ていった。
ロボちゃん?
そういえば今朝は静かね。
サガ「クリス?」
どこでも寝られるというので、部屋の隅で椅子に座らせているアンドロイドに声を掛ける。
クリス「……せんさーガ、故障シマシタ。回復マデ数分掛カリマス」
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クリス「はぁ、ようやく治りました〜ぁ」
やっぱりノン姉がいると、災難ばかりで困る。
サガ「それじゃ、行こっか」
クリス「どこへですか?」
サガ「お祭りよ、お祭り」
クリス「祭りですか」
サガ「そう。マイスタートゥルンク歴史祭。一部の人は、ワイン祭り」
ミューレンブルグ祭と並んで賑やかなのがマイスタートゥルンク歴史祭。
実は一番伝統のあるお祭り。
クリス「ワイン? ドイツっていえばビールのような気がしますけど」
サガ「そんなことないわよ。それにミューレンブルグは特別なの」
クリス「?」
サガ「400年くらい昔にね、戦争があったの」
ミューレンブルグ侵略の命を受け、レーダー門を潜った皇帝軍ティリー将軍。
それをマルクト広場で待ち受ける元市長ムッシュ。
元市長ムッシュ「待たれよ!」
ティリー将軍「ん? ああ、議会の人ね。チミたち全員クビ」
元市長ムッシュ「聞けっ」
ティリー将軍「態度がでかいのう」
元市長ムッシュ「この大杯にはプファルツで作られた銘酒『男爵ワイン』が3.25リッター。喉から手が出るくらい美味じゃ」
ティリー将軍「はあ…」
元市長ムッシュ「これを一気に飲み切って見せよう。見事できたなら、何もせず立ち去るがよい」
ティリー将軍「それ、ワシの台詞なんだけど…。ていうか爺さん、自分で飲みたいだけじゃないんか?」
元市長ムッシュ「いざっ」
ぐび ぐび…
ティリー将軍「………」
ぐび ぐび…
ティリー将軍「………」
ぐび ぐび…
ティリー将軍「………(イライラ)」
ぐび ぐび…
ティリー将軍「ええい、さっさと飲まんかっ」
元市長ムッシュ「(今じゃ、スピードアップじゃ!)」
ぐびぐびぐびぐびぐびぐび
ティリー将軍「早っ!!」
サガ「と、いうわけで、度肝を抜かれた将軍はミューレンブルグ侵攻を諦め、町は救われたのよ」
クリス「何か色々はしょられた上、装飾されてませんか? しかも美化じゃないし…」
サガ「いーのよ、分かりやすければ」
いろいろ考えてたら、元の話、忘れちゃったのよね。
声「ムッシュの話か。懐かしいのう…」
サガ「わぁ!」
真後ろから聞こえてきた声にぞっとして飛び退くと、窓から長老が入ってきた。
サガ「な、懐かしいって、知ってるの?」
長老「あれは、まだワシが魔法の修行をしていた頃じゃ」
サガ「長老って何歳?」
長老「…ところでノンのやつはどうした?」
あ、話そらした。
サガ「ノン姉? …そうよ、ノン姉よ。何であんなバイト紹介したのよ」
長老「ジェット気流の話か? なにせ人員不足でな、10年前に季節使いの少子化で、一人で複数の季節使いを兼任できるよう規制緩和が行われたんじゃが、それでもジェット気流使いは寿命が短くてな、こうやって偶にバイトを雇わんと間に合わんのじゃ」
またリアルな話を…。
長老「そうじゃった。今日は呑んだくれ祭りじゃったな。ジンジャーちゃん誘ってみよ〜っと」
サガ「あ、ちょっと…」
止める間もなく去っていく。
他のバイト紹介してもらおうと思ったのに。
サガ「仕方ないか。じゃあ行こっか」
クリス「はい、お姉さま」
サガ「様付けはやめてね」
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外に出ると、白い粒が頬をかすめた。
中からは気付かなかった、今にも止んでしまいそうな雪。
少しだけ積もっているそれを踏みながら、メイン会場になるマルクト広場を目指す。
クリス「まだ朝なのに、賑やかな音が聞こえますね」
サガ「……」
クリスの言葉に、私は無言で立ち止まった。
クリス「お姉さま?」
サガ「…お姉さまじゃないでしょ」
クリス「え?」
クリスを見下ろし、説教するつもりで続ける。
サガ「クリスは家族で妹なんだから、かしこまった言い方はダメ」
クリス「でも、私は…」
サガ「家族でしょ」
もう一度繰り返し念を押す。
すると感情の篭もった顔が出てきた。
クリス「はい。お姉ちゃん」
それは作られた笑顔なのだろうか。
もしかすると、ただの自己満足なのかもしれない。
機械に感情を求めるのは酷かしら。
クリス「あのぉ、手…」
そこで言葉を飲むように俯く。
意外と、まんざらでもないのかも。
サガ「はい」
クリス「あ…」
正に機械らしく、おどおどと手を近づけてくる。
そんなぎこちなさを覆い隠そうと、私も手を伸ばす。
サガ「うわっ」
クリス「え…」
触った途端、思わず手を引っ込めてしまった。
サガ「そっか…」
アンドロイドだもんね…。
クリス「お姉…ちゃん?」
不安そうな、私によく似た顔が寂しそうに言う。
サガ「ううん、何でもないよ」
もう一度、覚悟を決めて触れ合う手。
サガ「くっ…」
薄らと雪化粧の街。
クリスの手は、氷のように冷たかった。
クリス「手、暖かいです」
サガ「あはは、そう?」
でないと、病院へ直行しないといけないわね。
to be continued...
<あとがき>
仕事やら夏コミ(ピンチ)やら忙しく、また3ヶ月くらい止まっていましたが、新作アニメの情報が入ってきたんで書き上げました。
というか、これも夏コミに入る予定なので、いい加減書いてしまわないといけないのですが…。
マイスタートゥルンクは実話を元にしていますが、少し(だいぶ)変えています。
『男爵ワイン』は『フランケンワイン』。プファルツ産はてきとー。
元々ワインは来客用で、それを飲んだ将軍が悪知恵を働かせたのが発端です。
偶然ですが、実は今日から、本物の『マイスタートゥルンク歴史祭』が開催中みたいです。(2003年6月6〜9日)
詳しくは
ローテンブルク観光局のサイトで。
このサイトはドイツ語ですが、英語のページもあります。
2003/6/6
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