Combat.X 「in冬コミ59 後編」
※お断り
文章中に出てくるイベント、施設、団体、個人名は仮想のものであり、実在
するものとは一切関係ありません。販売物も嘘です。
「ソ、ソニックブレード(真空切り)! 誰がそんな強力な大技を使えって
言ったっ!」
ファーイースト門番ナイツ班長は驚きの声を上げて技を放った少女、舞を叱
りつけた。
「走っている人(スキップ含む)を止めるため」
舞は平然とした顔で答える。
「馬鹿っ、二度と走れなくなったらどうするっ」
「ちゃんと加減した」
技を放ったときの音が低かったのは威力が弱いことを示している。
「あの将棋倒しはどうする!、打ち所が悪いときもあるだろ!」
「それはサユリンがフォローしてくれる」
サユリンを見ると独特の掛け声(あははーっ)を上げながらワンドを高く掲
げている。ワンドはわずかに発光していて現在魔法使用中であることを示し
ている。
「あれは何をしているんだ」
班長は舞に聞く。
「あれは守りの光。あの光に包まれている人は怪我をしない」
舞は将棋倒しになっている鬼畜どもを指差した。よく見ると鬼畜どもも光を
纏っているように見える。最初に見えた光はこの魔法のようだ。
「なるほど、これは使える…」
班長は様子を見ながら呟くと、将棋倒しから復活しようとしている鬼畜ども
の前に立つ。
「おまえらよく聞け!入場は4列縦隊だ。走る(スキップを含む)ことは禁
止。それが守れなければさらに強力なソニックブレードを見舞うぞ!!」
それを聞いた鬼畜どもは立ち上がると班長の前に綺麗に整列する。鬼畜も命
は惜しいようだ。
「各館に入るときも4列縦隊になるように。行進開始!」
パレードの指揮者のようなことを言っている班長の頭の中には、『勝利』の
二文字しかなかった。
ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!
いよいよロクデナシの鬼畜どもがなだれ込んでくる。と思っていた各サーク
ルの面々は、ぽかんと口を開けて美しい4列縦隊の行進を見送る。
毎回甚大な被害を受けているサークルの売り子は、そのあまりの豹変ぶりに
パニックを起こしている程だ。
「大尉、東館先行切り込み部隊突入しました」
10時10分過ぎ、耳のよい通信士が田淵に報告する。
「買い占め本戦開始か。内部の様子はどうだ」
「入り口付近は強力な魔術師二人により指揮られている模様。これにより混
乱は抑えられていますが、館内では影響力が薄く一触即発の状態にあるよ
うです」
「カミオン中尉からの連絡は」
「まだありません」
「うむ、いろいろ忙しいのだろうな」
………。
「ありがとうございました」
ハルコのサークル『裏庭』は順調に新刊を捌いていた。
「あ、そろそろ500円玉が足りなくなるかも」
ミスズが釣り銭を渡しながら呟く。
「そこに札(ふだ)あるやろ」
「ふだ?」
ハルコが顎で指した場所には厚紙でできた数枚の白い札が置いてある。
「なんだろ、これ」
ミスズがそれを取ると裏側に赤い文字でこう書かれていた。
『500円硬貨大募集中やで』
「あ、千円札と二千円札バージョンもあるんだ」
「ボーと眺めとらんで、それ貼ってはよ手伝わんかい」
「はーい。わっ、いつの間にかすごい行列になってるっ」
ミスズは買い占め作戦のことなどすっかり忘れ、売り子として嬉しい悲鳴を
上げていた。
「お姉ちゃん、そっちじゃないよぉ」
カノリンは企業組の流れに付いて行こうとした姉を呼び止めた。
「おお、そうだったな。では武田隊長、後で会おう」
ヒジリンは前にいる武田小隊長に別れの挨拶をする。彼は企業攻略組だ。
「ああ、良い報告を期待する。そうだ、カミオン中尉に会ったらジュース入
荷の件で話があると伝えてくれないか?」
ヒジリンは気味の悪いジュースを思い出して一瞬気が遠くなった。
「……わかった」
「…海に逝きたいって、その子は言ったの」
「でも、連れていってあげられなかった」
「書きたいネタがたくさんあったの」
「でもトーン貼りすら、してあげられなかった」
「冬はもう、はじまっているのに…」
「このままだと落ちるって知っていたのに、わたしはなにもできなかった」
「誰よりもその子の側にいたのに、手伝えなかった…」
「センスがないのは遺伝かしらね」
………。
「はっ」
国崎逝人は夢から覚めた。
「なんだ今のは」
思い出そうとしても思い出すことができない。既に夢のかけらすら頭に残っ
ていなかった。
「くそっ、さみぃ。腹減っ……ん?」
言葉の途中で列の前の方が動き始めていることに気付く。
「やっとか」
よく見ると既に右隣の列はなくなっていた。
「次の列の方は立って下さい」
前から走ってきた誘導員と思われる人物が逝人の横を駆け抜けていく。
「フッ」
『よっこらせ』の代わりにそう言って立ち上がる。そして程なくして列が動
き始めた。
「思えば長かったな」
配給目当てで夜明け前に並び始め、その後は
「……よく寝たな」
「新刊とコピー本十冊ずつお願いします」
魅奈戯が路銀目当てで手伝っているサークル『こちら有明10番地』の同時
購入制限数は十冊だった。
「進呈」
魅奈戯は本と共にいつもの封筒を渡した。
「おめでとうございます。ぱちぱちぱち」
魅奈戯は声だけの拍手をする。
「え、購入特典なんてあったっけ? メールまで出して確認したのに…」
計二十冊購入した眼鏡の男は自分の情報網に穴が見つかり動揺する。
ちなみにお米券をもらうにはコピー本10冊と魅奈戯の気まぐれという厳し
い条件がある。
「次回もよろしくお願いします」
魅奈戯、そのお米券売れば路銀にならないか?
* * *
「あの六時間は何だったんだ…。出口はどこだよ」
逝人は押しくら饅頭のような人混みの中で、一人ため息をついた。気が付け
ば同人誌の即売会。目的が達成できないと知って出口を探しているが、人の
波に飲まれてどんどん混乱の中心に流されている。
「あっ、逝人さんだ!」
誰かに見つけられ、ゆっくりと振り返る。
「逝人さん、こっちこっち」
そこには金髪のポニーテールの少女(染めたものならたぶん不良)、その隣
にピンクっぽい色の髪を後ろで束ねた母親(間違いなく不良)がいた。
「……フッ」
逝人はニヒルな笑みを浮かべて立ち去ろうとする。
ぽかっ
「おうっ」
「なにシカトこいとるねん」
いつの間にかハルコが後ろに立っていた。
「客が待ってるぞ」
逝人が指さした先には長蛇とまではいかないが、減る数と増える数が同じで
完売するまで無くなることのない行列がある。
「お母さん急に抜けないでよ〜」
ミスズが情けない声を上げる。
「ミスズちんファイトやで」
「がお〜(泣)」
一人で二人分の仕事を押しつけられたミスズは今までにない処理速度を見せ
る。このままでは数分で熱暴走を起こしてしまうだろう。
「後で殴っとかんとあかんな」
「鬼(ボソ)」
「なんかゆーたか?」
「空耳だろ。この混雑だからな」
「そか。ところであんた、なんでこんなとこにおるん?」
「……」
とても格好悪くて話せない。
「この国は食糧の配給するような社会主義国とちゃうで」
ハルコは少し目を細めて図星を突く。
「な、なんのことだ」
明らかに動揺している口調だ。
「……そやな、あんたの態度次第で昼飯奢ってもいいで」
きゅぴーん! 逝人は目からビームが出そうな勢いでハルコを振り返る。
「マジか」
「女に二言はないで」
ハルコの言うことだ、とんでもない条件を付けてくる可能性が高い。しかし
このまま何の収穫もなくここを立ち去るのも悔しい。
「何をすればいいんだ?」
「話の分かる奴は嫌いやないわ。ほな、これ持ってここ挨拶してきとくれ」
ハルコは自分の新作と分厚い本を逝人に見せる。開かれたページにはこの会
場の地図らしきものが書かれていた。
「…これ手書きか」
「そのようやな」
毎回ご苦労様です。
「まずここは何処なんだ」
「ここや、この赤いとこ」
ハルコは地図を裏返し、その左側の赤くマーキングされた一角を指し示す。
「ちょっと待て、今裏返したか?」
「そや、ここと同じ広さの会場がもう一つあるんや」
逝人はあまりの広大さにめまいを覚えた。
「なるほど、あの行列がすんなり入るわけだな」
「さらに西にもう一つ会場があるで。ここの半分くらいやな、それが二階建
てになっとる」
もはや想像の域を越えていた。
「がおぉぉぉぅ」
「ほれ、ボーっとしとらんではよ行き」
ミスズがかなりヒートアップしてきたのを見てせかす。
「挨拶周りなら自分で行った方がいいだろ」
「人手不足なんや。後で時間あったら改めて行くさかい、それだけでも持っ
てっといてや。そや、今の話も伝えとき」
逝人は本と地図を受け取る。
「待て、届け先は何処だって?」
「ほれここ、『東苺99γ』や。迷うたら壁とか机とかにそないな形で目印が
貼ってあるはずや」
晴子は話しながら簡単に地図の見方を示す。
「ほな、うちは戻るで」
ミスズが熱暴走を起こす寸前、間一髪でハルコが復帰した。
「ま、なんとかなるだろ」
地図の見方がいまいち分からなかったが、ミスズマップという解読困難な地
図を解析したことのある逝人には余裕があった。
「問題はこの人混みの中をどうやって歩くかだな」
とりあえず反対側の会場へ向かうべく歩き出し、あと少しで出口に辿り着こ
うとしていたときだった。
「あ、お人形さんだぁ」
またどこかで聞いたことのある少女の声がした。
「嬢ちゃん、それは違うな」
机の向こう側にいる男が少女の言葉を否定する。
「え?」
「なにが違うんだ」
少女の疑問の音と共にそれを少し太くしたような女の声も聞こえた。
「それは『おぎんぎょう』だ」
一瞬会話が途切れる。
「変わった名前だねぇ。
そこはかとなく甘美で濃厚な響きを醸し出してるよぉ」
人混みの向こうに一瞬だけ少女と隣の女の姿が見えた。
「悪徳医師と殺人シェフか」
しゃきーんっ!
逝人の目の前で、何かが光った。
「ぐわっ」
いつの間にか目の前に女、ドクター・ヒジリンがメスを構えて立っていた。
「は、早い」
「さっき何か言ったか?」
ヒジリンはメスを逝人の首に当てて冷酷な笑みを浮かべている。人波に襲わ
れれば直ちに首が落ちるだろう。逝人は身動きひとつ取れない。
「そ、空耳だろ」
「そうか」
一瞬でメスが仕舞われた。かなり訓練された動きに見える。
「危険物は持ち込み禁止って書いてあったぞ」
逝人は人混みの中を歩きながらカタログを熟読していた。
「私のポケットの中が一番安全なんだ」
そこが一番危険のような気がするのは考え過ぎだろうか。
「あ、逝人くんだぁ」
ついに殺人シェフにまで見つかってしまう。
しゃきーんっ!
「まだ何も言ってないぞっ」
「なんとなくだ、気にするな」
またも一瞬で仕舞う。気にするなとは無茶な注文だ。
「逝人君も作戦に参加してるの?」
「作戦? なんの話だ」
カノリンは簡単に今日のことを話す。
「しかしミスズは何も言ってなかったぞ」
言う暇もなかったが。
「国崎君はカミオン中尉にあったのか?」
「ああ、随分忙しそうだったな」
「そうか」
ヒジリンは意味を取り違え、作戦がうまくいっているものと理解した。
「我々も負けてはいられないな。おい店主」
「へい」
ヒジリンは目前のサークルの売り子に向かって言った。
「そこの羽のついたおぎんぎょう全て貰おう」
「申し訳ございません、お一人様五個までとなっておりますので…」
「いや、三人だ」
そういってカノリンと逝人を指さす。まるでスーパーの特売日だ。
「えーと」
売り子は悩み始める。残りは十二個なのでここで売ると完売してしまう。
しゃきーんっ!
「あゆあゆおぎんぎょう、お持ちください」
結局ヒジリンの恐喝ですべてが決まった。
※会場内では釣り銭詐欺、置き引き、恐喝医師にご注意下さい。
「お姉ちゃん、これたい焼きっ持ってるよぉ」
「しかもあんこがはみ出てるな」
小さいのによくできたおぎんぎょうだ。
「うむ、いい買い物をしたな」
ヒジリンはおぎんぎょうを袋に詰めながら言う。
「じゃあな」
逝人は彼女らが忙しそうな(意訳:ヒジリンが怖い)ので、別れることにし
た。
「あれぇ、逝人くん行っちゃうの?」
「用事があるからな」
忘れるところだった。昼飯を逃すわけにはいかない。
「じゃあ仕方ないねぇ。またねぇ」
「ああ、またな」
逝人は後ろを向いたまま、手を上げてその場を後にした。
「進呈」
またも聞き覚えのある声がした。
「(無視だ無視)」
逝人は見つからないように声とは逆の方向を向く。昼飯のために心
を鬼にした。
「この辺だよな」
東苺90番台。机に立てられている札に間違えがなければ、目的のサークルは
すぐ近くのはずだ。
「やっと完売だおー」
ここでも聞き覚えのある声がした。いったい何人の知り合いがこの地に集結
しているのだろうか?
「(無視、無視)」
今度も心を鬼にして素通りする。
「………。」
素通りできずに足が止まった。
「おい」
逝人は見たことのある少女に声を掛けた。
「え?」
少女は振り向いた瞬間に驚いた表情を見せ、そして笑顔になる。二変化だ。
「国崎さんだ。ナユキだおー」
緊張の糸が切れた直後で語尾が『お』になっている。
「ああ、おまえだな」
ナユキは久しぶりに会った後輩候補(本編Combat.05参照)に駆け寄る。
※会場内で走ってはいけません。
「久しぶりだねー」
「そうだな、ところでここ『東苺99γ』か?」
「そうだよ」
「『ろいやるイチゴ』っていうのは…」
「うん、お母さんのサークル名だよ」
「………。」
逝人はかなりの間沈黙する。
「?」
ナユキは固まった逝人の顔の近くで手を振る。
「……あの二人、知り合いだったのか」
「あの二人って誰?」
復唱され逝人は我に返る。
「アキコさんいるか?」
「うん、ちょっと待っててね」
ナユキはパタパタと自分のサークルに戻っていく。程なくしてアキコがやっ
てきた。
「国崎さん、お久しぶりです」
「くにざきおひさー」
アキコと一緒に迷子のおまけが付いてきた。
「なんでこいつ(サイカ)がいるんだ」
「東京見物のついでだそうです」
サイカはきゃっきゃと逝人の足にしがみついている。恐らく逝人の持ってい
る人形目当てだろう。芸の方に興味はない。
「まあいい。実は届け物がある」
サイカは無視することにして本題を切り出す。
逝人の空腹度は既にレッドゾーンに突入していた。
「あら、なんでしょう」
アキコは逝人からハルコの本を受け取る。
「サークル・裏庭?」
「ハルコ、ハルコ・カミオンという女からだ」
アキコは登場したときから片手を頬に当てている。これのおかげで考えてい
るのがボーとしているのか、表情を読むのが非常に難しい。
「ハルコさん? 『晴』に『子』。サンチャイルドさん?」
「そういえばそんな名前で呼ばれたことがあるとか言ってたな」
以前酒に酔ったハルコが、聞いてもいないのに話していた別名を思い出す。
「懐かしいわね」
「知り合いなのか」
逝人は興味本位で聞いてみる。
「私とサンチャイルドさんはお互い連邦と帝国のエース人形使いとして何度
も血で血を洗う戦闘を繰り広げました」
「…そ、そうか」
聞くんじゃなかった。
「忙しくて手が放せないが、時間ができれば後で来るそうだ」
忘れずに言づても伝える。
「了承」
でた。
「国崎さんはこれからサンチャイルドさんの所へ戻られるのですか?」
「ああ、まだ用事があるからな」
戻れば待望の飯にありつける。
「ではこれをお持ちいただけますか?」
アキコは逝人に本を渡す。
「うちの新刊です」
「おやすい御用だ」
ぽんと胸を叩いてむせる。最近人形芸に取り入れたネタだ。
「それではお願いします」
涼しい顔で無視される。まだまだ修行が足りないようだ。
「それと『こちらの世界』でもよろしくと」
『こちらの世界』、不気味な響きだ。
「わかった。その前にこいつをどうにかしてくれ」
そう言って逝人は腰にしがみついているサイカを指し示す。年頃の娘なら羨
ましい限りだが、サイカは小学校低学年程度のガキだ。しかし、近くにいる
極一部の怪しい人間から嫉妬の視線を送られていることに、逝人が気付くは
ずはなかった。
「ナユキ、サイカちゃんお願い」
「うん、まかされたよ。サイカちゃん一緒に遊ぼ」
近くで話を聞いていたナユキがやってくる。
「わーい」
あっさり逝人を振るサイカ。
「…じゃあな」
逝人は少し落ち込んで、そそくさと退散しようとする
「あ、いっしょにいくよ〜」
「は?」
ナユキの言葉に立ち止まる。
「お母さんのライバソに会いに行くんだお〜」
「……と言っていますが」
答えは分かっているがアキコに振る。
「了承」
もはやベタなネタだった。
「じゃあ、アキコさんも一緒に来ればいいじゃないか」
当然のように聞くが
「それが他に来る人がいますので離れられないんです。じゃあナユキ、サン
チャイルドさんによろしくね」
「うん、わかったよ」
ナユキはサイカの手をしっかり握る。
「じゃあ行くぞ」
逝人の足取は少し重かった。
しばらくして空いているところに出た。
「この辺は人気がないのか」
「そんなこと言ったら失礼だよ、今までが混みすぎてただけだよ」
「たけだよー」
サイカはいちいち語尾を復唱する。
確かに客がいないわけではない。
「そう言えばアキコさんはどんな本を出しているんだ」
逝人は手元にある本を眺める。『氷はARAME 露DAKUで』というタ
イトルの表紙には、イチゴシロップの掛かったようなかき氷の絵が大きく印
刷されている。思いっきり季節感がずれていた。
「私も中身はまだ見てないんだよ」
「ないんだよー」
「どれどれ」
逝人は適当にページをめくってみた。
8月10日晴れ
今日はU1(ユウイチ)とカオリと他1名(北川くん)で海へ
行きました。みんなでビーチバレーをやった後のかき氷は格別で
(あ、もちろんイチゴ味で氷は粗め露ダクだお〜)………
「…これ、お前の日記か」
ナユキは表情を変えない代わりに見る見る赤くなっていく。どうやら本物ら
しい。
「(アキコさんは何を考えているんだ、なんでこんなものが売れる)」
逝人は自分の人形芸よりもナユキの日記の方が売れていることを見せつけら
れて大きなショックを受けた。
「見ちゃだめ!」
ナユキはようやく我に返り慌てて本を取り上げる。
「お母さんのバカー」
ものすごい剣幕だ。彼女の人生でこれ以上怒ったことはないだろう。
「どうしよう、完売しちゃったよ〜」
それは大変だ。
「わーっ」
ナユキは走って、来た道を戻っていった。
※会場内を走ってはいけません。何度言わせりゃわかるねん
「おい、サイカも連れていけ」
しかし既にナユキの姿は人混みに隠されていた。
「はぁ」
逝人は一人ため息を付く。
ぽんぽん…。
「ん?」
誰かが逝人の肩を叩いた。
ぽんぽんぽん…。
「だれだ」
そう言った直後だった。
がすっ!
「ぐはっ」
脇腹を襲った突然の衝撃にうなり、身もだえる。
「にゃはは。決まった」
げしっ
「にょへ☆」
逝人は敵が油断した隙をついた。
「なんでお前達がここにいるんだ」
もちろん魅奈戯とミチルのコンビのことである。
「国崎さんさっき無視しました。とても悲しかったです」
「気付いてたのか」
「あーあ、傷ついちゃった」
まるで他人事のように言う。
「悪かった」
「回復」
妖怪使いってヒーリング系の魔法使えるんだっけ?
※レベルによる。魅奈戯は使えないが魔法使える妖怪召喚すれば別。
「そうだ斗斧、こいつ後で『東苺99γ』に届けておいてくれないか?」
そう言って逝人はサイカを指差す。
「だいじょーぶ?」
「うに、大丈夫」
サイカはミチルの頭をさすっている。どうやらさっきの一撃はツボにハマっ
ていたらしい。
「その子は?」
「迷子ってことにしといてくれ」
「名前」
「聞かない方がいい」
「でも…」
「とりあえずサイカと呼んでおけ」
「サイカちゃんですね」
「ちなみにアンテナ無しだ」(差別用語使用!、減点1)
「……。
………。」
魅奈戯がなにやら考え始めた。こうなると長いので早々に切り上げた方が良
い。
「急ぎの用事があるからもう行くぞ。じゃあな」
もちろん急ぎの用事とは昼飯を食べることだ。
「……。」
逝人が立ち去っても魅奈戯は気付かずに考え込んでいた。
「あの、あ…」
魅奈戯の前には負傷したミチルと迷子少女サイカしかいない。
「あーあ、また傷ついちゃった」
「行ってきたぞ」
逝人は人混みをかき分けてようやく帰り着く。
「どうやった?」
「むこうはもう完売していたぞ。一冊貰ったんだがいきなり発禁になって取
り上げられた」
「発禁?」
「ああ、人権問題がらみだな」
ハルコは目を細め冷たい笑みを浮かべる。
「さすがやな、うちも負けとられん」
「うちも?」
目の前で売られている本の内容が心配になる。
「せや、あんたは今から売り子や」
「ちょっと待て、そんな話は聞いてないぞ」
「うちらが交代で飯喰うとるさかい、その代わりに売り子やるんや。あんた
の飯はその後や」
そう言ってハルコは知り合いのサークルが差し入れてきた弁当を取り出す。
「それとな、売上金チョロまかそうとしてもダメやで。見張っとるかいな」
逝人は信頼度ゼロだった。
* * *
「大尉っ 東3で暴動が発生した模様!」
懐中時計を自慢げに下げた小隊長が司令本部ベンチに駆け込んできた。
「東館南の各員は作戦中止、暴動鎮圧任務へ移行させろ!」
田淵大尉は格好良くキメる。それを聞いた耳の良い通信士が伝令を飛ばす。
「本部より東1、2、3の各員、作戦を中止し東3の暴動を鎮圧せよ。繰り
返す……」
田淵は買い占め作戦の他に暴動発生時の鎮圧任務も言い使っていた。
「これでバイト代が出るな……ん、東3にはカミオン中尉の母上のサークル
があったな」
「はい、壁近くの島端です」
「まだ連絡が取れない。小隊長、『空88γ』だ、見てきてくれないか」
「了解」
小隊長は返事をして駆け足で向かおうとする。
「うっ」
が、近くにいた準備会スタッフの刀を持つ女魔術師に睨まれ、早歩きに変え
てその場を後にする。
「ぐわっ」
ハルコのサークルはすでに暴動に巻き込まれていた。
「オレの弁当…」
売り子の手伝いを終えた逝人が、ようやく昼食にありついたところを暴徒が
襲ったのだ。
「おんどれ、この新刊には手出させへんで!」
ハルコは頒布物のガードで精一杯だ。
「お母さんっ それよりもお金!」
ミスズに暴動鎮圧の余裕はない。
「お前ら、食い物の恨みは怖いと教わらなかったかっ!」
逝人は叫びつつポケットから大道芸に使う人形を取り出し、暴徒たちに投げ
つける。そしてすぐ人形に法術を掛け、蹴りの体勢を作った。
しかし所詮綿を詰めただけの人形、大した破壊力はない。
ぽこ。ひゅ〜ん、ぽて。むぎゅ。
人形と逝人のプライドはあっけなく踏み潰された。
「み、魅奈戯ぃ。かなりヤバイよ」
気づいたときにはすでに目の前だった。暴動の波は魅奈戯たちを今にも飲み
込もうとしている。
「おねえちゃん」
サイカは魅奈戯のスカートを握ってしがみついている。周りは暴動から逃れ
ようとする人でごった返しているが、逃げ込むスペースがないためほとんど
移動していない。
「にょわーっ」
ウイルスに感染していくように目の前の人間が暴徒と化していく。ミチルは
サイカの手を引き、机の下を潜り抜けてサークル・スペース内へ逃げ込む。
げしっ
「ぐお!」
何者かの強力な回し蹴りをくらった男が、勢いで目の前の机を押し倒そうと
していた。このままではミチルとサイカがその机の下敷きになってしまう。
「$±◇♪≫§∀◆☆\¢∂∋〒→↓→+P!」
反対側にいたため机を支えることのできない魅奈戯は、咄嗟に妖怪を召還す
る。
ボン、ボボンッ
ミチルとサイカの目の前に、紫色の煙をまとった三体の妖怪が出現し机を支
えた。
「にょわ、たすかった」
幸い机の上には何もなく落下物で怪我をすることはなかった。よく見ると机
には張り紙がしてある。
『ごめんなさい 落としました』
張り紙を読んでも危険な状況は変わらない。
「いやっ」
ガッシャーーーン!
突然、魅奈戯の悲鳴と何かが倒れる音が聞こえた。ミチルが振り向くと魅奈
戯は別の机を押し倒して倒れ込んでいた。
「にょわ! 魅奈戯大丈夫?」
ミチルはサイカと共に駆け寄るが、魅奈戯はぐったりして動かない。
「うぅ、魅奈戯ぃ」
ミチルの表情に焦りの色が浮かぶ。
「おい、どうした」
反対側にある机の向こう側から見知らぬ男が声を掛けてきた。その男は机を
乗り越え魅奈戯の脇でかがむ。
「少し打ち所が悪かったようだな」
男が魅奈戯を診ているとき、胸元にピカピカの懐中時計が見えた。
「ギャオーーース!」
奇妙な叫び声が辺りに響いた。
「妖怪が暴れているぞ!」
誰かが分かりやすく状況解説する。
「誰だ妖怪なんか召還したのは」
懐中時計の男がめんどくさそうに吐き捨てる。
「魅奈戯がミチルたちを守るために召還したんだよっ」
ミチルは少し怒ったような口調で言う。
「すまない。……召還主が気絶して勝手に動き始めたのか」
召還された妖怪や精霊は、例え召還主が死んだとしても自然に帰ることはな
い。召還主の命例がなければ、召還された者自信が帰ろうと思わなければそ
の世界に居続けることになる。
「とにかくここから離れよう」
男は軽々と魅奈戯を抱え、散らかったサークル・スペース内を歩いていく。
ミチルはサイカの手を引きそれに続いた。
「大尉、時計の小隊長(名前ないのね)が怪我人を一人保護した模様。目標
へは混乱がひどく辿り着けないとのことです。あと妖怪三体が暴れ回って
いるようです」
耳のよい通信士は片手をイヤホンに当てながら報告する。
「妖怪まで出てきたか。とにかくドクター・ヒジリンを召還しろ」
「はっ」
「それと整備班に例のものを用意させろ。館内放送でカミオン中尉を呼び出
せ」
「アレを出すのですか!?」
通信士は口元まで持ってきていたマイクをそらして聞き返す。
「あくまで妖怪対策用だ。カミオン中尉がここまで辿り着ければだがな」
ジャカジャカジャカ♪
数年前に流行った曲のメロディに続いて館内放送が流れる。
「あーあー、ミスズちんとドクター・ヒジリンは至急ガレリアの本部まで来
るよーに」
復唱すらしない気が抜けるような館内放送だった。
「うむ、呼ばれているな」
ヒジリンはガレリア二階で遅い昼食を摂っていた。
「お姉ちゃん、早く行かないとぉ」
「しかし…」
カノリンに急かされるが、意外においしいタラスパも捨てがたい。
「しかたないな」
妹の膨れ面を見て自分が医師であることを思い出す。
「でっぱーつ」
「ちょっと待て、荷物を忘れるな」
テーブルの下には抱えるほどの同人誌が山積みにされていた。
「大尉!」
魅奈戯を抱えた懐中時計の小隊長が買い占め作戦本部へ到着する。
「よし、ここへ寝かせろ」
田淵は座っていたベンチから物をどかす。
「ドクター・ヒジリンはどうした」
「先ほどからここにいるぞ」
背景に直接描き込まれているような人物が返事をした。
「い、いつの間に」
「ずっと上から見ていたよぉ」
同人誌を読んでいたカノリンが気味悪く答える。恐らくマンガの読み過ぎだ
ろう。
「とにかく手当を頼む。そうだちょうどいい、カノリン君は整備班の手伝い
を頼む」
「ふぇっ、なにするんですかぁ?」
「対人用D兵器を出す。妖怪が暴れているんだ」
「えぇ! でも対人用じゃぁ、パワー負けするんじゃないんですかぁ?」
「だから、できる限りのチューンをするんだ」
「はーいっ」
カノリンはパタパタと整備班の元へ走っていった。
「あっ」
懐中時計の小隊長が周りを見回す。
「あれ、おかしいな」
準備会スタッフの魔術師を気にしたのだが、近くにその姿はなかった。
「まあいいか」
「ふぅ…ちょっと休憩」
ミスズは危険区域を抜け、ようやく買い占め本部があるガレリアの目前まで
来ていた。
「なんて言おうかな、忘れてたなんて言えないだろうし」
もちろん買い占め作戦のことだ。母親のサークルスペースという独自の荷物
置き場を持つミスズは、作戦の要としてかなりの期待が掛けられている。
「そうだ、騒ぎでみんな持っていかれたことにしちゃお。うん、ミスズちん
ナイスアイデア」
うまい言い訳を思いついたミスズは、足取り軽くガレリアへ入っていく。
「リミッターを外したので146%以上の力が出せるはずです」
整備士の一人がカノリンに説明する。
「ギアを5番にしてパワー重視にするよぉ」
カノリンはスピードは要らないと判断してギアの変更を指示する。
「パワー重視なら7番にすべきではないのでしょうか?」
「7番じゃリミッターを外すと装甲が持たないよぉ。超鋼合金ルナ・チタニ
ウムなら持つかもしれないけどねぇ」
カノリンは二百年も前に流行ったテレビアニメの詳細を把握していた…訳で
はなく、ただの同人誌の読み過ぎだ。
「オレのこの手が真っ赤に燃えるぅ」
「はあ…」
しばらくこの調子なのかと、周りの整備士はため息をつく。
「お待たせしました」
呼び出しを掛けてから十五分、ようやくミスズが本部へ姿を現す。
「中尉、無事だったか」
二度目の呼び出しを掛けようかと考えていた田淵は安堵の表情を見せた。
「あんまり無事じゃないかも…」
ミスズは先ほど考えた言い訳のために少し演技をする。
「とにかく先にやってもらいたいことがある。こちらへ来てくれ」
「はい」
田淵は整備班の元へミスズを連れて行く。
「これなんだが使えるか?」
「これは…」
ミスズの前には自分よりも少し大きなD兵器が立っていた。
「対人用D兵器《Ge-N-Ji-N》(ゲンジン)くんだよぉ」
「《Ge-N-Ji-N》くん」
ミスズはカノリンの言葉を復唱してその人形に見入る。
「あ、ちょっと逝人さんに似てるかも」
マジか?
「ミスズ・カミオン中尉、これを使って中で暴れている妖怪を退治せよ」
「了解」
「前進」
ミスズは館内に入ると《Ge-N-Ji-N》くんを操り始める。
「妖怪さんはどこかな?」
すでに暴徒以外の人間は避難していたが、それでもかなりの人間が暴れてい
る。その中からたった三体だけの妖怪を探すのは難しい。
「小隊長、どの辺りだ?」
田淵は懐中時計の小隊長に訪ねる。
「もう少し入ったところです」
「よし、行くぞ」
小隊長が指さす方向を目指して移動する。
「でもこんな人形いつ用意したんですか?」
ミスズは《Ge-N-Ji-N》くんの存在を知らなかった。
「ある人形メーカーから実地テストのため極秘で配備された物だ。カノリン
君、マニュアルを見せてくれ」
「どうぞぉ」
田淵はマニュアルを受け取り裏に書いてある注意書きを読む。
「中尉気を付けろ、取扱説明書によると対人用D兵器は……」
ぽかっ
「操縦者が襲われる可能性が非常に高い。ってもう遅かったか」
ぽかっぽかっぽかっ
「がお、がお、がお、がお」
「こんなもん持ち出しやがってー!」
「お前それでも漢(おとこ)かっ」
ぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっ
「がお、がお、がお、がお、がお」
「退却!」
多勢に無勢、田淵は妖怪が出てくるまで様子を窺うことにした。
「あ、まってよぉ」
カノリンは出遅れて最後尾につく。
「ぐお!」
「きゃあっ」
慌てたため思いっきり人混みの中に突っ込んだ。
「アイタタタァ…」
「ううっ。だ、大丈夫か」
カノリンの突っ込みを全身で受けた男は相手の心配をする。暴徒ではないよ
うだ。
「だいじょうぶじゃないよお…」
多少ふらつきながらカノリンは立ち上がる。
「なんだ、お前か」
「ふぇっ。あ、逝人くんだぁ」
言いながら服に付いた埃を手ではたく。
ぽて。
「ん、何か落ちたぞ」
「あれ、おぎんぎょうさんだぁ。一つ足りないと思ったらわたしが持ってた
んだぁ」
逝人はしゃがんでおぎんぎょうを拾い、それを眺める。
「さっき買ってたやつか。ん?」
羽の生えた鞄を背負って、たい焼きっを持つキャラクターのある部分に目が
留まる。
「これは使えるかもしれない」
「え?」
逝人はおぎんぎょうを空中に放って、法術を掛けた。
ぱたぱた
「わ、飛んだぁ」
おぎんぎょうに突いている羽が小刻みに動いて天使のように飛んでいる。
「驚くのはまだ早い、カチューシャアタック!」
ヒュンッ
べしっ
「うおぉ!」
おぎんぎょうに付いていたカチューシャがはずれ、机の上で暴れていた名も
知れぬ暴徒にヒットした。
どすーんっ!
カチューシャによる攻撃は思いのほか強力で、暴徒を簡単に机から弾き落と
した。
カシャ
さらにカチューシャはブーメランのように戻ってきておぎんぎょうの頭に固
定される。
「すごいよ〜ぉ」
子供の頃、魔術師に憧れたことのあるカノリンは尊敬の眼差しで逝人を見て
いる。
「ま、ざっとこんなものだ」
先ほど『むぎゅ』と自分の人形を踏み潰されたときとは偉い違いだ。
どさっ
「ぐわっ」
突然逝人の体が潰れる。
「ギャオーーース!」
魅奈戯が召還した妖怪が逝人を踏み潰していた。
「わああああああっ」
カノリンは慌てて逝人に駆け寄り…
パシュ
「キャ〜チッ」
法術から解放されて落ちてきたおぎんぎょうを受け止めた。
「オレよりもその人形の方が大事なんだな」
逝人は妖怪の下で唸るようにつぶやく。
「ちがうよ逝人くん」
「?」
「おぎんぎょうさんだよぉ」
ガクッ
逝人はついに力尽きた。
どさっ
どさっ
「やばい、逃げろ」
他の二体の妖怪もやってきて、近くにいた暴徒たちは逃げ出す。
「ギャオーーース!」
奇声を上げ威嚇する妖怪だが、カノリンは動じなかった。
「そんな大声上げたらみんな逃げちゃうよぉ」
そう言って妖怪に近づき頭をなでる。
「お友達になりたかったんだよねぇ」
カノリンは簡単に妖怪を手懐ける。小学校から高校まで十二年間飼育係を続
けてきたのは伊達じゃない。
「なんでもいいから早くこいつを降ろしてくれ」
妖怪の足下で逝人が意識を取り戻したが
バタバタ
「あはは、くすぐったいよ〜ぉ」
他の二体の妖怪がカノリンに駆け寄ってきて逝人をさらに踏み潰した。
「あのー」
カノリンと妖怪が戯れているところに一人の少女がやってくる。
「ふぇっ、なんですか?」
「よかったらこれ食べて下さいー」
準備会の人間らしい少女(サユリン)は何の脈略もなく大きな重箱を出す。
「作りすぎちゃって困ってたんですー」
サユリンの弁当攻撃は確実だ。
「がつがつがつ…」
あっという間に妖怪たちは重箱に群がる。
「うまい」
いつの間にか逝人も復活して重箱を囲んでいた。
……。
………。
……。
「おいしかったですかー?」
「「「キシャー」」」
何を言っているのか分からないが、妖怪たちは喜んでいるようだ。
「よかったですー」
サユリンは重箱を片づける。
「では私は仕事がありますのでこれで失礼しますね」
「じゃあねぇ」
サユリンは人混みの中へ消えていった。
「ああっ、あの人の名前聞くの忘れてたよぉ」
「グー、ガー」
妖怪がカノリンへ話しかける。
「え、きみたちも帰るの?」
「キーキー」
「うん、ばいばい」
ぶしゅーーーっ
妖怪たちは現れたときと同じように紫色の煙に包まれて消えた。
パチパチパチパチ
「え?」
突然周りからたくさんの拍手がカノリンに浴びせられる。妖怪の機嫌を損ね
ないように様子を見ていた暴徒たちが、暴走した妖怪を傷つけることなく元
の世界に帰した少女たちの行動に感動し、賞賛の拍手を送っているのだ。
「え〜と、大したことじゃないよぉ」
妖怪が帰ったことで暴動は沈静化した。一時はどうなるかと作者すら心配し
たが何とか丸く収まった。なお、この暴動は発禁になった本の回収作業中に
起きたトラブルが原因だったことは当事者しか知らない。
* * *
即売会が終了し、東京国際展示場正門前にある大きな階段の下に田淵が率い
る買い占め部隊が集合していた。
「全員帰還確認しました」
懐中時計を下げた小隊長が田淵に報告する。
「あれぇ、カミオン中尉は?」
カノリンは先輩の姿を探す。
「彼女はさっき母親にむりやり連れて行かれた。なんでも知り合いのサーク
ルと合同で打ち上げをするらしい」
「はは、大変だねぇ」
田淵は三段ほど階段を上り振り返る。
「ではこれより東京駐屯地特設オークション会場へ向かう!」
そんなこったろうと思った。
「ちょっと待ったぁ!」
突然階段の上からちょっと待ったコールが響く。
「誰だ!」
田淵が階段を見上げると赤い鉢巻をした男を先頭に数十人の少年少女が立っ
ていた。
「私は北日本連邦にある魔術師養成学校『北の塔』生徒会長の久瀬だ」
久瀬は学生証を見せるが逆光で田淵にはよく見えない。
「北の塔だと!」
田淵は敵国名門校の生徒会長が目前にいることに驚く。
「あ、あの人たち東館で妖しい本売ってた人だぁ」
カノリンはそう言って荷物を漁る。
「あ、これだよぉ。鍵系のキャラクター使ってたからとりあえず確保してお
いたけど…」
カノリンの取りだした本には『ギャンブルで雪崩の如く儲ける方法 '86改
訂版』と書かれている。特に鍵系とは関係なさそうだ。
「フッ、その北の塔が何用だ」
田淵はそのタイトルを見てわずかにほくそ笑み久瀬を見上げる。
「なんだその『フッ』は。まあいい。それよりもその荷物の中には鍵系の本
がごっそりと入っているな」
「だからなんだ」
「お前ら、これからそれを高値で売り捌いてたんまりと儲けるつもりだな」
久瀬は田淵の足下に置かれている荷物を指さす。
「だったらどうする」
「そういうのは毎回我ら『北の塔』の仕事と決まっているんだ。営業妨害と
見なしその荷物を没収する」
「むちゃくちゃなことを言うな、それにここは自由貿易都市『有明』だ。そ
んな話は通らないぞ」
ではなければアキコが見つかった途端にここは戦場に変わっていただろう。
「それだけではないっ、お前たちは朝も我々の邪魔をしてくれたな」
久世の口調に怒気が混じる。
「朝だと?」
「そうだ。たいやきっを買いに行けば売り切れで、ショートケーキを買いに
行けば変な奴らに邪魔される。今思い出せばそこに同じ顔があるじゃない
か!」
久瀬は田淵の部下の一人を指さした。
ポンッ
「ああ、あのときの」
朝、ショートケーキの買い占めを担当した軍曹が手を叩いた。
「軍曹、覚えがあるのか?」
「はい、ストロベリー隊として行動していたときに鉢合わせした別の買い占
め部隊です。用意しておいた目潰しで撃退しましたが…」
「やはりお前か! おかげで我々はワッフルも買い損ねたのだぞっ」
「それは災難だったな」
田淵は他人事のように言う。
「貴様、もう許さんぞ!」
久瀬の叫びと共に北の塔のエリート魔術師たちが田淵に襲いかかる。
「全員白兵戦だ!」
田淵も負けじと部下に号令を掛ける。この戦いに負けるわけにはいかない。
「「「「「うおぉぉぉ!」」」」」
中央帝国軍のタフな兵士たちが果敢に魔術師に挑んでいく。能力差は大きい
が、数と頭脳戦で魔術師を翻弄する。
「なるほど、買い占め作戦の目的はそういうことだったのか」
階段の裏にいた逝人は一部始終を聞き微笑む。
「あれが使えるな」
逝人は階段の下に置かれていた対人用D兵器《Ge-N-Ji-N》くんを見つけ法
術を掛ける。
「よし、その荷物を持ってくるんだ」
炎の精霊やブーメランが飛び交う中、《Ge-N-Ji-N》くんは同人誌が大量に
入っていると思われる鞄を大量に抱えて歩いていく。
田淵、久瀬とも荷物が何者かにより持ち逃げされたことは気づかなかった。
「さて、中身を確認するか」
逝人はD兵器のトレーラーに戻ると荷物の中身を確認する。
「な、何だこれは!」
そこには一度溶けた形跡のある大量のアイスクリームや冷えて固まっている
たいやきっ、ぐちゃぐちゃになったショートケーキが詰め込まれていた。
「あいつら、何を売るつもりだったんだ……」
尚、牛丼と肉まんは人気があったため残されてはいない。
あとがき
みなさんこんにちは。新人同人SS作家のChaki-EL(ちゃきエル)です。
AIR WARS外伝in冬コミ59、いかがでしたでしょうか。
前編を本物のコミケ59前日にUPし、後編は世紀を股に掛けて1月3日
辺りに完成、公開しよう…と思っていたのですが、コミケの朝の待ち時間
に構想が膨らんで収拾がつかなくなり、すべてを一から考え直してどうに
か(むりやり)完成させました。
書き終わったときにはあゆの誕生日が既に2時間ほど過ぎ、真琴の誕生日
も26時間過ぎていました。(ううっ)
最初、あゆの人形はアンテナ・北川人形としてムゴイ扱いを受けていたの
ですが、あゆの誕生日を思い出して急遽変更しました。まぁ所詮北川だか
らいいか。(本当にムゴイ。そういえば北川って誕生日いつだ?)
そのあとで真琴の誕生日に気が付いたのですが……真琴=妖狐=妖怪つな
がりってことで(X▽X )☆\バキ
あ、美汐の誕生日って12月6日だったのか。
ぐわっ美凪なんか12月22日じゃん。
予定が合わなくなるからそういうことを考えるのはやめよう( ̄□ ̄;
それにしても、読めば読むほど魅奈戯がかわいそうです。(すまぬ)
さて、みなさんは気づかれたでしょうか?
本編 Combat.05 でアキコさんが持っていた書類入れには夏コミの原稿が
入っていたらしいです。(外伝に向けて伏線貼ってどうする)
今回の外伝にも少し本編への伏線があります。
例えば田淵がさりげなく大尉に昇格しているとか…。
あと、初登場の武田小隊長(准尉)は今後要チェックです。(笑)
あ、そうそう。田淵のフルネームは『田淵・ユキト・モドキ』です。ォィ
ではご感想お待ちしております。
2001/1/8
(C)VisualArt's/Key and Chaki-EL
2001/1/8
E-mail:
chaki-el@mbg.nifty.com