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AIR WARS

Combat.X 「in冬コミ59 前編」
※お断り
文章中に出てくるイベント、施設、団体、個人名は仮想のものであり、実在
するものとは一切関係ありません。販売物も嘘です。



時に2186年12月30日、土曜日。午前6時25分
「なかなか見つからないものだな…」
田淵大尉はため息混じりに隣にいるカミオン中尉へ話しかける。
「そうですね…」
双眼鏡で駐車場を探索するカミオン中尉は、見るからに怪しい紙パック製の
ジュースを口から離して答えた。
「西館前へ移動してしまったのかもしれない」
「新木場で乗車券購入渋滞に巻き込まれましたからね…」
賢明な皆さんはパスネットを使いましょう。


東京駅出発直後に捕まった渋滞をようやく抜け、バスは快調に走り出した。
「もう待ち合わせ時間過ぎてるよぉ」
妹が姉に不満の声を上げる。
「困ったな」
「お姉ちゃんがバスで行こうなんて言うからだよぉ」
「事故さえなければこれが一番早かったんだ」
「お姉ちゃんの日頃の行いが悪いからだよぉ」
「何か言ったか?」
ヒジリンは珍しく妹を脅迫する。
「空耳だよぉ。そらみみぃ」
「ぴこっぴこっ」
「………。」
怪奇な音がした。
「すまないが毛玉は持ち込み禁止だ」(大ウソ)
「ええーっ」
不満の声を上げるカノリン
「そこいらへんで遊んでてくれ」
ヒジリンは走行中のバスの窓から地球外毛玉を投げ捨てた。
「ぴこぴこぴこーーー………」


カッチャン☆カッチャン☆カッチャン☆
夜明けのアパートにホチキスの音がいくつも響く。
「コピー本の製本はどこまでいった?」
隣の部屋から青年が様子を見に来た。
「あと半分くらいです」
部屋の中では妖怪(モンスター)たちが内職をしていた。彼らの召喚主であ
る魅奈戯は上がったコピー本の数を瞬時に数え報告する。
「ギリギリだな、斗斧さんがいてくれて助かったよ。これなら朝一に間に合
  いそうだ」
「ぽ」
照れた。
「にょ〜手が疲れた〜」
ガキも内職している。ご苦労なことだ。
「おい佐藤に左藤、先に半分持って有明へ行ってくれ。残りはでき次第俺が
  持っていく」
青年は自分がいた方の部屋を振り返って言う。
「にょわ、無視かいっ」
ガキが地団駄を踏む。
「鈴木、おまえそう言ってオレ達に準備やらせるつもりなんだろ」
「俺が出たら誰がここの鍵閉めるんだよ」
「チッ、わかったよ」
声が聞こえてすぐ隣の部屋からサトウの一人が顔を出す。
「うっ、すごいメンツで作業してたんだな」
部屋には不気味な妖怪たちが所狭しと座り込み作業に没頭している。
「この辺りにあるヤツが完成品だ」
「わかった」
サトウの2名は部屋の片隅に置かれたコピー本の山を抱えてアパートを後に
した。
「い〜んだい〜んだ、どうせミチルなんて抜け落ちた小さな一枚の羽でしか
  ないんだ」
「ミチル」
魅奈戯がいじけたガキに声を掛ける。
「魅奈戯ぃ」
ガキは瞳を潤ませつつ、なにやら期待の眼差しで魅奈戯を振り返る。
「手動かして」
止めを討つ。
「にょ〜」
ガキは泣きながらカッチャン☆カッチャン☆と作業を再開した。


東京国際展示場内、東館内東側入場口
「何でも今日はすげぇ助っ人がいるらしいぜ」
「名うての剣士だって聞いたぞ」
「いや、カリスマ魔法少女だろ」
最も激しいといわれる入場口を担当するファーイースト(Far East=極東)
門番ナイツの面々が小耳に挟んだ噂話で盛り上がっていた。
「あ〜全員静粛に」
し〜ん
「いよいよ今年の冬コミも後半戦。最終日の2日目を迎えた。皆知っての通
  り最終日は最も来場者が多く、そのほとんどが血に飢えた獣のように会場
  を荒らしまくっていく。残念なことに昨日の朝の時点で我らファーイース
  ト門番ナイツのうち4人の精鋭が病院送り、そして9人が軽傷を負った。
  さらに負傷した一人が昨晩私の携帯に『出家します、探さないで下さい』
  というメッセージを残して行方不明になっている。まあ彼にも色々あるの
  だろう…。いま我々は5人の人材不足に陥っている。このままでは『門番
  全員病院送り』と明日の新聞の社会面に小さく報じられる可能性が高い」
それを聞き門番たちはざわつき始める。
「しかしっ、私は班長という激務中にわずかながら存在する空き時間を使っ
  て、とびきりの助っ人をゲットすることに成功した!」
「「「「「おおーっ」」」」」
班長の働きに驚きの歓声が上がる。
「聞いて驚け!連邦にあるあの有名な魔術師養成学校『北の塔』出身の魔術
  師2人組だ!!」
「「「「「おおーーーっ」」」」」
さらに大きな歓声が上がった。
「その二人は何処にいるんっスかっ」
しびれを切らした門番の一人が聞く。
「先ほどからそこにいる。君たちの後ろに!」
「えっ!」
門番たちは慌てて班長が指差した方向に振り返る。
「舞はコーヒーに砂糖とミルク必ず入れるよね」
「ブラックは嫌い」
「サユリンはね、喫茶店でレモンティー頼んだ時に隣の人のコーヒーに付い
  てきたミルクを間違えて入れて大変なことになったんだよ」
そこには二人の少女がぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた。手に持つ刀と
ワンドは飾りにしか見えない。
「班長、あの二人本当に頼りになるんっスか」
「聞かないでくれと言っておこう」
尚、レモンティーに間違えてミルクを入れるという話は、最近作者の目の前
で起きた実話である。ちなみにミルクは作者のものだった。Oさんゴメン


「女の子は、夢を見るの」
「最初は、麻雀の夢」
「夢はだんだん、『島』へ向かっていく」
「異世界の夢、電波の夢、鬼の夢、学校の夢、アイドルの夢」
「そして次は……そう、もうお分かりね」
………。
「はっ」
国崎逝人は夢から覚めた。
「なんだ今のは」
思い出そうとしても思い出すことができない。既に夢のかけらすら頭に残っ
ていなかった。
「くそっ、さみぃ、腹減った」
朝早くから食料を求めその大行列に並び続けている。
「配給はまだなのかよ」
このあと逝人は絶望と地獄を目にすることとなる。


                       *         *         *


「前にも伺いましたが、田淵大尉はなぜ軍に?野球選手だったんでしょ」
すっかり忘れられていた質問を思い出す。暇つぶしにはちょうどいい。
「実はな…」
「いたっ太陽の真下!」
……これも前に思ったのだが、眩しくはないのだろうか。
「やっと見つけたでー、ここいたんか」
「お母さん」
ミスズが探していたのは中堅同人作家のハルコだった。
「はよ中入ろ。寒くてかなわんわ」
「はーい。それでは大尉、私たちはお先に」
「ああ、予定通りやってくれ」
午前6時42分。ミスズ・カミオン中尉、交際展示場内に潜入
「うーむ、こちらも早く見つけなければ」
田淵中尉は捜索を再会する。


「お姉ちゃん寒いよぉ」
バスを降りたカノリンは早くも情けない声を上げる。
「そんなことでどうする。戦いはこれからだぞ」
ヒジリンは妹に喝を入れる。
「ポテトのモコモコで暖まろうと思ってたのにぃ」
「そうか、その手があったか」
妹の考えにしばし感心するヒジリン。
「あ、大尉あそこにいるよぉ」
「ほう、かなりの大部隊ではないか」
駐車場できれいに整列している待ち行列の中に、双眼鏡を持つ怪しげな集団
が人目を引いていた。
「田淵大尉ぃ」
田淵は双眼鏡を降ろし声の主を見る。
「遅かったな」
「済まない、バスが遅れたんだ」
ヒジリンは大尉に頭を下げる。
「いや、謝る必要はない。これは正規の軍事行動ではないからな。参加は個
  人の意志で決めてもらって構わない」
「そうか」
正規の軍事ではない。故に減俸の心配をする必要もないと分かりヒジリンは
ほっと胸をなで下ろす。
「キリッシマー姉妹には西館攻略をお願いする。正門前の武田小隊長と合流
  してくれ。初期攻略サークルは『亞55α』だ」
「了解した」
姉妹そろって切れのよい敬礼をする。
「そうだ、後で差入れを送る」
「あれぇ、カミオン中尉はぁ?」
カノリンがひとつ年上の上司を捜す。
「彼女はサークル参加として既に内部へ潜入している。最大の戦力となって
  くれるだろう」
「彼女の母上は同人作家だったな」
ヒジリンが顎に手を当てて聞く。
「元は軍のエリート人形使いだったが、引退して漫画家に原稿を催促する仕
  事に就いたそうだ。だが最近になって自分で書いた方が早いと悟り現在修
  行中だと聞いている」
「へぇ、そうなんだぁ」
外伝で意外な事実が明らかにされた。
「それでは西館に移動する。差入れ期待しているぞ」
「あ、お姉ちゃん待ってよぉ」
物珍しそうに大行列を見ていたカノリンは慌てて姉の後を追った。


これから長い戦いが始まろうとしている。キリッシマー姉妹を見送った田淵
大尉がそう思ったときだった。
「大尉!たいやきっ買い出し部隊無事帰還しました!!」
耳の良い通信士が報告する。
「肉まん隊も到着!ピロシキも捕獲した模様」
これは自慢の懐中時計を下げた小隊長だ。
「ストロベリー隊はどうした」
「敵キュー(待ち行列)に遭遇。現在交戦中!」
既に2勝。前哨戦はまずまずだ。いま報告のあった3部隊は特に力を入れて
いる。なぜならこれらは『鍵』を支配するためにどうしても必要なアイテ
ムだからだ。
「あとはアイスと牛丼か、まあこの時期だからアイスは楽勝として、でき
  ればワッフルも落としておきたいところだな」
「大尉、これ以上は予算が足りません。後の作戦に支障が出ます!」
「くっ、やはりボーナスの残りだけでは足りなかったか」
正規ではない上、自腹だった。


「にょわ〜やっと着いた」
冬コミ会場に着いたミチルは今までの長い道のりを振り返る。
「10分も掛かりませんでしたね」
魅奈戯によるとかなり近所だったようだ。
「その上家賃も安い。いいアパートだろ」
有名同人サークル『こちら有明10番地』の作業場提供者である鈴木は胸を
張る。
「…ただのボロアパート…」
「うっ」
魅奈戯の鋭い一言が鈴木の心臓を貫く。
「は、早く合流しよう、場所は……」
話題を変えようとした鈴木だったが、途中で口ごもってしまう。
「『西海97δ』ですね」
あっさり答える魅奈戯。
「そ、そう、そう言おうと思ってたんだ」
魅奈戯の勝ちっ


「くそっ、腹減った。メシ喰わせろ」
国崎逝人、状況に変化無し。


「お母さん、荷物全部届いたよー」
ナユキは運ばれてきた段ボール箱の数をチェックし終えアキコに報告する。
言葉の最後が『おー』ではないので信頼性は比較的高めだ。
「了承」
『承』ではなく『解』だと思うのだが…。
「ねえお母さん、新作ってどんなの?見てもいい?」
「了承」
答えを聞き早速近くの箱を開けて一冊取り出す。
「えーと、タイトルは…『氷はARAME 露DAKUで』。……こ、この
  怪しいタイトルはもしかして、じゅ、じゅ、18K!?」
「健全よ」
「そうだよね。お母さんがそんなのやるわけないよね」
きゅぴーーーん
後ろを向いていたアキコの目が妖しく光った。
「ナユキ、お手伝いの方に箱を開けておくよう伝えてちょうだい」
「はーい」


                       *         *         *


午前9時58分。永遠とも思える時間が過ぎ、ついに長い沈黙が破られよう
としている。
母の同人サークル『裏庭』に手伝いとしてかり出されていたミスズは時計を
見て「ぎょびーーーん!」と心の中で叫び、慌てて当初の目的である『鍵系
同人誌買い占め作戦』の最初の狩猟場へ移動しようとしていた。
「ミスズ、何処へ行こうとしとるんや」
気配に気付いたハルコが呼び止める。
「わっ、えっと、ちょっとお手洗い…」
「さっき行ったやろ。もう10時になるで」
「うん…えーと」
頭をフル回転させて、なんとかこの場を離れる理由を考える。
「ほれ、そこ見てみい」
ハルコは自分のサークルの前を指差す。そこにはまだ開場時間の10時に
なっていないのに数十人の行列ができていた。
「わっ、なんでもうこんなに並んでるの!?」
ぽかっ
「いたい」
「今ミスズちんもどこかに並びに行こうとしてたやないか」
「そ、そんなことないよっ」
図星を突かれ慌てるミスズちん。
「なら売り子がんばりや」
「ええっ私がやるの!?」
「当然や、開場すればすぐにこの10倍の列ができるんや。うちだけで捌き
  きれるかいな」
「お手伝いの人いないの?」
「いままでそないなヤツ見んかったやろ。ええか、サークル『裏庭』のモッ
  トーは『最小の資本で最大の利益』や。手伝いなんか雇えるか」
「そんなー」
ハルコらしい言い分に苦笑しながらミスズは最大の危機を迎えていた。
「ほれこっち来ぃ、新刊『カラスでポン☆』は一冊500円や」
「が、がお…」
ぽかっ
午前9時59分02秒。ミスズ・カミオン中尉、作戦遂行不可能 
「でも、うちってこんなに人気あったっけ?」
ハルコが仕事先の出版社の編集長を脅して、ロハで広告をバラ撒いた事実は
巧妙に隠蔽されていた。


午前10時00分、20秒前。東館内東側入場口
「野郎共、準備はいいかっ!」
「「「「「おーーーっ!」」」」」
ファーイースト門番ナイツ班長の掛け声に大きな返事が返る。
「全員無事帰還することを祈る。配置に付け!」
班長の指示で門番たちはそれぞれのポジションに着く。
「シャッター開きます!」
ガコン、ウィィィィィン
頑丈そうなシャッターが音を立てて上がっていく。
「「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」」
その向こう側には防弾チョッキやガスマスクにヘルメットを着けた者など、
完全武装した鬼畜どもが手ぐすね引いて待っていた。
「何だあの装備はっ、外の奴らはなにしてやがる!」

入場口外
「うー助けてくれ〜」
ぴくぴく
既に叩き潰されていた。

再び入場口内
「「「「「おりゃーーーっ!」」」」」
シャッターが上がり切るよりも早く、鬼畜どもは我先にと会場内へなだれ込
んできた。
「だめだこりゃ」
あまりの勢いに一人の門番が諦めと絶望の声を上げる。その直後
ブゥン
突然、辺りに光が走ったかと思うと、空気を切り裂く低い音が聞こえた。
ズドーーーン!!
「「「「「うわぁ!」」」」」
鬼畜どもの動きが一瞬止まったかと思うと、後方へ吹き飛ばされ将棋崩しに
なった。


後編へ続く
2000/12/29

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E-mail: chaki-el@mbg.nifty.com
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