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AIR WARS EPISODE-2

Combat.08「黄昏」



 いつの時代も変わらない美しい夕焼けが、大きな湖の中心に浮かぶように建つ巨大な城を赤く染める。
 ここは日本中央帝国首都にある王宮。
 この国は日本と呼ばれる地方に現存する最も古い国家である。
 王宮は数万人の国民も暮らす巨大なもので、中に入れば湖の上に建っていることなどすぐに忘れてしまうだろう。
 国の中心らしく各国家機関の本部が全てあり、軍隊の小さな演習場(といってもD兵器の模擬戦を複数行えるほどの広さ)まである。
 この城に一般人が住むにはそれなりの審査が必要だが、ここの主である皇帝が無条件で出入りを認めている者もいるという。



「田淵君、昇格おめでとう」
「ありがとうございます、大佐」
 田淵は昇格していた。荒野での囮作戦は成功したとはいえなかったが、なんとか回収した連邦の極地用D兵器1機から新しい装備を見つけることができた。
 また、ミスズのおかげで期間限定ながら三大D兵器のひとつ《Ka-Nn-Na》を持つ国崎逝人を軍に招き入れることができたのは大きい。
「ついに大尉か、君は随分とスピード昇進だな」
「運が良かっただけです。部下に同じ階級の者が居ることも配慮していただけたみたいですし…」
「ミスズ・カミオン中尉か、彼女の母親のハルコ・カミオン殿は十年前まで帝国人形使いのトップエース、帝国の『赤い彗星』とまで呼ばれていた。その技を彼女が受け継いでいれば、すぐに君を追い抜いていくかもしれんな」
 田淵はミスズの働きを思い出す。
「………。」
 それは無いという結論に達した。
「大佐、それよりも少し伺いたいことがあるのですが…」
「なにかね大尉」
 田淵はまだこの呼ばれ方に実感が涌かない。
「ミスズ・カミオン中尉の前に、私の部隊に配属されていた術師なのですが…」
「ああ、河口 シゲミ(かわぐち しげみ)少尉のことか」
「はい」
「そうか、まだ君へは知らされていなかったな」
「やはりなにかあったのですね」
 田淵は大佐に取りつく。
「既に記録から消去されている話だ」
 つまり他言無用。
 田淵は黙って頷く。
「彼女に過激派の毛があったことは知っているな」
「はい、なんとなくは…」
「なにせ原作では声しか出なかったからな、グレたのだろう」
「は?」
「いやなんでもない。…あれは三週間ほど前、君に敵国諜報員討伐の勅命が下った直後の事だ。その日もちょうど今日のように、いや今日以上に夕焼けは城を朱紅(あか)く染めていた」



2186年8月2日、水曜日。

 ジリジリジリジリジリジリ……
 王宮内に高い小刻みなベル音が響く。火災警報だ。しかし誰一人として消火活動を行おうとする者はいない。
 激しく輝く紅蓮の炎は、城にいる屈強の軍隊にすら手に負えないほど巨大で強力だった。


「まったく、最近の軍人はたるんでるわね」
 美しいウェーブのかかった髪を持つ少女が失望したように言う。
 床にはその少女による一撃で倒された兵士たちが横たわっている。
「カオリ、そっちは終わった?」
 長い廊下の反対側から一人の少女が近づいてくる。
 噂の河口シゲミだ。
「ええ、大したことなかったわ」
 カオリと呼ばれた少女は先ほどと同じくつまらなそうに言う。
「でしょうね。魔術師連中はみんな訓練で出払っているもの」
「でも本当なのシゲミ。陛下が消えたって」
 それが異変のきっかけだった。もし本当なら、今のこの国は象徴を失った結束の弱い小国に過ぎない。
「さあ、そんな噂を耳にしただけよ。それにカオリが気にしているのは陛下に付いてる魔術師でしょ」
 皇帝の周りには国中から集められた優秀で忠実な術師で構成される『皇帝騎士団』が常に付いている。
 それは皇帝に次ぐ国の象徴となっていて、実際その力量は計り知れない。
「あいつがいなければこっちのものよ」
 カオリは皇帝騎士団全体ではなく、特定の個人を指す物言いをする。
「勝って言いたい台詞ね」
「うるさいわよ」
「はいはい。それじゃ次行ってみようか」
 シゲミはカオリの肩を押して、近くの階段を下りていった。



「法術を使う過激派が訓練に出ていて良かった。《U-Ra-Ha》を使われていたら五分で城は灰だ」
 皇帝の留守中、城を任されていた家老は城内の治安や交通を管理する集中管理センターで、テロの対策を練っていた。
「こんなときにテロとは、まさか陛下の噂が漏れたか」
 家老の頭の中には最悪のシナリオが浮かんでいた。
 このテロを治めなければ国は崩壊する。
「あの〜、お忙しいところ失礼しますが、お客様がお見えです」
 あーだこーだと考えを巡らせる家老に、恐る恐る情報士官が声をかける。
「こんなときに客だと?」
「はい」
「後で会うと伝えろ。今それどころではなかろう」
「は、はい。しかしお言葉ながら、お会いになられた方が得策かと思いますが…」
「……? どういう意味だ」
「失礼します」
 情報士官はそう言うと、家老の耳元で誰にも聞かれないように囁く。
「ごにょごにょごにょ……」
「……そうか、間に合ったか」


「お前たち!」
 広い通路の中央で、2人の狂者の前に立ち塞がる勇敢な少女がいた。
「なぜ塔から出てきた!」
 城の北側には大きな塔がある。
 ここは軍の中枢であり、あらゆる軍事を決定する場所だ。
 しかし塔の西側にある赤いドアの向こうに寄りつく者は少ない。
 この中には『マッド・ナイツ』と呼ばれる優秀な犯罪者やテロリズムを唱える者など、危険な術師が住んでいる。
 この者達は皇帝の側近である皇帝騎士団により治められているが、隙あらばいつでもテロを起こす危険性があった。
「No.24 海野 ミシオ。…皇帝騎士団の新入りね。怪我しないうちに帰りなさい」
 シゲミは相手の名札を見て、冷たい表情に合う声を出す。
「塔に戻れ、ここはお前たちが来て良いところではない!」
 シゲミとカオリはお互いの顔を見て笑みを浮かべる。
「分からない娘(こ)にはお仕置きが必要ね」
 シゲミはゆっくりミシオへ近づいていく。
 ミシオは精神を集中させ呪文を早口で唱え始めた。
「精巧なる戦術より生まれし勝利の鍵よ、大気の遥か彼方で輝く月の世界へ続く扉を開き、我唯一人に従う無敵の兵団を地上へ降ろし、繰り返される愚かな行為に終止符を討たん……」
「精霊使い?」
 シューーーーーッ
 前に出ていたシゲミを囲うように煙が立ちこめる。
 そしてその煙の中から八体の精霊が姿を現した。
「二人に対して随分と大げさね、どれも高級精霊じゃない。皇帝騎士団の名は伊達じゃないようね」
 しかし周りを見回すシゲミの表情は余裕だ。
「猫並だけど手を貸しましょうか?」
「折角の楽しみを取らないで欲しいわね」
 後ろにいたカオリの提案を、シゲミはあっさり却下する。
「ひとつ貸しよ」
「覚えていたらね」
「フィィィィィ」
 ミシオが呼び出した精霊たちはじりじりと間合いを詰めている。
「シャドゥ・ナイフ」
 シゲミが呪文を口にすると右手に一本、左手に三本の黒くて輪郭がはっきりしない影の様なナイフが現れる。
 右手のナイフは親指と人差し指の間で刃の方を握り、左手は人差し指から小指までの各指の間で柄の方を挟むように握っている。
「掛かれ!」
 シゲミが呪文を唱え終わった直後、ミシオは攻撃開始の合図を精霊たちへ送っていた。
「「「「コォォォ!」」」」
「フッ」
 タッ
 精霊たちが襲いかかった瞬間、シゲミも床を蹴っていた。
 この数秒で雌雄が決する。
 シュシュンッ
 バタバタバタッ
 五体の精霊が次々に倒れる。
 シゲミは四本のナイフを一瞬で投げ終え、確実に精霊の急所に当てていた。
 そのうちの一本は精霊の体を貫通し、後ろにいた精霊までも襲っている。
「速いっ」
 ミシオは苦い表情をする。あまりの速さに精霊は攻撃を仕掛けることができなかった。
「高級でも所詮は精霊。相手にならなかったわね」
 シゲミは失望の声を出す。
「つまらない。もう終わりにしましょう」
「私も皇帝騎士。そう易々とはいきません!」
 死刑宣告を聞いてもミシオの強気な態度は変わらない。
「ライト・ソード」
 先ほどとは正反対な光の剣がシゲミの手に現れる。
 残っている精霊の中に闇属性の精霊がいるためだ。
「今度は私からいくわよ」
 するとシゲミは先ず闇属性の精霊に飛びかかる。
「フッ」
 ザシュ!
 精霊は構えを取る間もなく切り捨てられた。
「次っ」
 間髪入れず後ろにいた精霊に襲いかかる。
 カンッ
「くっ」
 二体目は地属性の精霊。
 この精霊の皮膚は装甲といえるほど丈夫で、そう簡単に傷つけることはできない。
「せいっ」
 シゲミは二体目を後回しにして三体目に掛かる。
「はーっ」
 ズバッ
 手応えは十分だったが、とてつもなく重い。
 これは金属性の精霊だ。体中が柔らかい金属でできているため、剣で斬りつけてもその衝撃を吸収してしまう。
「こういう奴らはっ」
 シゲミは精霊の攻撃をかわしつつ手を頭の上に挙げ…
「サン・レイ!」
 一瞬、カメラのフラッシュのような光がその場を支配した。
 メラメラメラ
 ジュー…
 その光が消えたとき、地属性の精霊は全身火だるまになり、金属製の精霊はドロドロに融け出していた。
 タッタッタッタッ
「サンダー!!」
「なにっ!?」
 シゲミの耳に走ってくる足音が聞こえたとき、予想外にもミシオが背後から攻撃してきた。
「はっ」
 シゲミはミシオの雷撃を直前でかわし、後退する。
「なーるほど、あなた半端者だったのね。魔術師と召喚師のちょうど中間の力を持つ術師。レベルの高い精霊や妖怪を大量に召喚するのが得意で、自らも弱いながら魔術を使って攻撃を行える。どうりで高級精霊をポンポンと出せたわけだ」
 うんうんとシゲミは大げさに頷いている。
「面白くしてくれるじゃない。でも今の一撃で私を倒せなかったのは致命的ね」
「(精霊を出す余裕がない。殺られる!)」
 シゲミの言う通り、奥の手を見せてしまったミシオに次の手はない。
 防御魔法を使っても、レベルの高いシゲミ相手では役に立たないだろう。
「ファイヤー・アロー」
 その言葉によって生み出された炎の矢は、勢いよくミシオの心臓めがけて飛んでいった。



(続く)
2001/8/17

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E-mail: chaki-el@mbg.nifty.com
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