TOP
アニメ
小説
PC
掲示板
リンク
更新状況
AIR WARS EPISODE-1

Combat.07「死の味覚」



 ズバッ バシャ ズドォォォォォン!
 D兵器同士の戦いが始まっていた。
 そんな中、戦場の外れで焚き火をしている者が…。
 火の上には鍋があり、コトコトと音を立てて何かを煮詰めている。
「あははーっ」
 サユリンはその声を上げながら、鍋に入ったシチューをかき混ぜていた。
「なんか、向こうで大変なことになってるねーっ」
 呑気に言う。
 エリート魔術師だから言える余裕の言葉だろうか。
 しゅぱっ
 突然鋭い音が聞こえた。
 直後、鍋の中にオレンジ色のもの、適度な大きさに切られたニンジンがポタポタポタと落ちていく。
「あははーっ、舞上手だねーっ」
 手を止めてパチパチパチと拍手をするサユリン。
 鍋を挟んだ向こう側では、舞が家宝の刀を抜いていた。
「………」
 カチャ
 音を立てて刀を仕舞い、『私の仕事は終わった』とばかりに無言で腰を下ろす。
 昨晩読んでいた何たら仕事人とかいうマンガの影響が伺える。
「ふぇ〜、舞カッコいーっ」
 空中に放られた野菜を一瞬でカットする剣技『ベジタブル・スライサー』。
 舞は家の仕事(居酒屋)を手伝っていたときに包丁でこの技を習得し、以来これを見せ物として売り上げに貢献していた。
「でも本当にいいの? お母様のお店、売り上げが落ちない?」
 サユリンは旅に舞が付いてきたことに何度も後悔していた。
 ここはすでに敵国の領地。
 もし素性が知られれば捕虜として拘束されることになる。
「大丈夫だから。それに…サユリンと離れるのは嫌」
 舞は真っ直ぐサユリンを見た。
 厳しさを感じさせるその視線には、寂しさも込められているように見える。
「舞…」
 サユリンはこの視線に弱かった。
 それにこの旅をする理由を未だ話していない。
 親友に嘘をつくのは嫌だし、本当のことを話せばきっと心配してもっと寂しく、とても悲しい目をするだろう。
 自分のことで親友がそんな顔をするのは許せない。
 だから一緒に行くと言って聞かない舞を置いてくることもできなかった。
「ありがとう、舞」
 本当は「ごめんね」と言いたかった。
 しかしそれも悲しい顔をさせる要因になってしまうので、お礼の言葉を言うことにした。



 田淵の率いる部隊は戦地から後退していた。
 今はまだ戦わずに体力を温存させておき、人形使い達が疲れてきたところを討つという汚い作戦だ。
 戦況の方は二機の人形を持つ連邦軍に襲われた部隊が絶体絶命と思いきや、他の部隊が加勢して現在戦闘の真っ最中。力のない者同士結託して強い者を倒そうということだろう。他にいた部隊もそれを見て近くの部隊と戦い始めた。
「中尉、一機…青い人形が見当たりません」
 小隊長が懐中時計をもてあそびながら田淵に問いかける。
 最初から姿を現していた人形はミスズの《U-Ra-Ha》を含めて七機。さらに連邦が一機加えて八機。人形同士の戦闘は一対一が原則的(一機で複数を相手にして勝つ事は非常に難しい)なので、《U-Ra-Ha》を引くと一機余ることになる。
「まさか目標に逃げられてしまったのでは!?」
「いや、その心配はない。奴らは違う」
 田淵はその相手を知っているような口振りで言う。
「中尉はあの人形を知っているのですか?」
「ああ、向こうもうまくやったな」
 小隊長は驚きの表情を見せる。
「いったい何処の国のD兵器ですか?」
「さて、何処だろうな」
 ふざけたような言い方は、今小隊長が知るべきことではないということを意味している。
 小隊長もその意図を理解したのか、それ以上聞いてくることはなかった。



「カノリンえらいっ」
「そんなことないよぉ」
 ミスズはしばらく出番がないためコクピットを降り、同じくヒマなカノリンとお喋りを楽しんでいた。
「でも、半年もしないでソープ級なんて、すごいっ」
「小さいときからお人形さんが好きでねぇ、近所の整備場によく遊びに行ってたんだよぉ。そしたらぁ、ヒマヒマ星人な工場の人たちに色々教えてもらって詳しくなったんだぁ」
「どうしてD兵器が好きなのかなぁ。…わたしは好きじゃない」
 ミスズはため息をつきながら言い、怪しい紙パックのジュースに刺したストローを口につける。
「ホントは魔法使いになりたかったんだぁ。でも検査でまったく才能ありませんって言われちゃって。だから少しでも近いところにいたくて整備士になったんだぁ。カミオン中尉はなんでお人形さん嫌いなの?」
「嫌いってわけじゃないけど…好きでもない。なんでだろ、好きでもないのに私はここにいるの。なんでかな、ん〜〜〜っ」
 ミスズははっきりした答えを出せないのが嫌で、手を頭に当ててもがき苦しみ始める。
「う〜〜〜っ」
「ちゅ、中尉。もういいですよぉ」
 カノリンはこのままミスズを放っておくと悩み死にそうに見えたので慌てて止めた。
「そ」
 一言で止まるミスズ。
 そして紙パックのジュースを『ずずぅ〜』と最後まで飲みきって顔を上げる。
「あれ? なんの匂いかな」
 微かに、美味しそうな匂いが風に乗ってきた。
「クリーミーでまったりとした、いい匂いがするよぉ」
 ミスズが飲んでいたのはアセロラ味だからそんな匂いはしない。
「あっちの方からきてるよぉ」
 カノリンは犬のようにクンクンと匂いを探して答える。
「誰かいるのかな?」
 よく見てみると、一筋の白い煙が地平線を貫いていた。
「そんなに遠くないねぇ」
「一般人かな」
 ぐぅぅぅっとカノリンの腹の虫が鳴る。
「そういえば昨日の夜から何も食べてないんだよぉ」
 夕食を摂って部隊に合流してからすぐに《U-Ra-Ha》の修理に取りかかり、それが終わっても夜が明け緊迫した状態が続き、食事を摂る暇が無かったのだ。
「おいしそうだよぉ」
 カノリンは白煙を目指してふらふらと歩き始めた。
「あ、いま待機中だよっ」
 ミスズが呼び止めるが、過度の睡眠不足と空腹に襲われているカノリンの耳には入らなかった。
「ちょっと、待って」
「カミオン中尉、何処へ行く」
 走り出そうとしたミスズを指揮車両から出てきた田淵が呼び止める。
「あ、えっと…」
「作戦会議だ、すぐに来てくれ」
 田淵はミスズの答えを待たずに用件を伝えると、そそくさと指揮車両に帰っていく。
「はいっ」
 ミスズは白煙に向かっていった睡眠不足の空腹少女を気にしながら田淵の後を追った。



 ミスズが指揮車両に入ると、早速田淵の話が始まった。
「そろそろ君たちに今回の作戦の意図を伝えようと思う」
「今回の作戦の意図? 先ほどの話し合い通りではないのですか?」
 小隊長は据え置き型のマイクに引っかかってしまった懐中時計を外しながら質問する。
「いや、その作戦ではない。昨日から続いている一連の作戦だ」
「昨日から? いまいち意味が飲み込めないのですが…」
 田淵達がここに来たのは、前々から探していたあるD兵器の反応があったと報告を受けたためである。作戦など無かったはずだ。
「それを説明するために招集をかけたのだ」
「失礼しました」
 田淵は一呼吸置いて重々しく話し始める。
「実はな、…あの報告はな……、嘘」
「「「「「…えっ!」」」」」
 その場に居合わせた一同が声を合わせた後、しばらく喪失感のようなものが時間を支配した。
「嘘って、何が?」
 驚きの声を上げないミスズ一人だけが分かっていなかった。
「…つまりだ、例のD兵器、《W-I-N-G》(ウイング)の反応は偽物だったんだ」
「「「「「偽物?」」」」」
 再び一同、ミスズを除いた者達が声を合わせた。
「そうだ、あの反応は我らが軍の別働隊が仕掛けた罠だ」
「「「「「「罠!?」」」」」」
 遂に観鈴も合唱に加わった。田淵の口から出る一言一言が衝撃的なので、皆驚くしかない。
「我々には皇帝陛下より勅命が下っている」
「「「「「「勅命!」」」」」」
 いちいちうるさい。
「詳しい内容は省略しておくが、要約すると国内に侵入している他国のスパイを捕らえろということだ」
「つまり囮の別働隊がいるということですね」
 耳の良い通信士が分かり易く説明してくれる。
「その通りだ」
「しかしなぜ我々にまで秘密に?」
 武田小隊長が田淵に迫る。
「衣笠がな、『敵を騙すには先ず味方からだろ』と言ってな。ま、なかなか面白かったぞ」
「「「……。」」」
 田淵に向かって数名の殺気に充ちた視線が送られる。
「では衣笠中尉が別働隊を指揮しているのですか?」
「そういうことだ。向こうでも今頃『えー!?』とか『おおーっ』とか言ってる頃だろう」
 嫌な上官だった。
「私だけ、……同じ中尉なのに仲間外れ。…がお」
 ミスズは一人いじけていた。
 彼女が中尉になれたのは《U-Ra-Ha》を与えられたためだ。
 中央帝国ではD兵器を与えられた者は戦況を大きく左右させるとして少尉以上の階級も同時に与えている。
 《U-Ra-Ha》は量産機だが、まだ数が少なく旗機扱いとなっているため、ひとつ上の中尉以上の階級が与えられることになっている。
 ミスズの東京駐屯地行きが決まったとき、運良く《U-Ra-Ha》が一機東京に送られるところだったため、ミスズはそれと共に中尉の階級を得ることができたのだ。
 よって新人同然のミスズを中尉として見る者は少ない。
「すると途中で消えた青い人形が衣笠中尉の部隊だったということですね」
 田淵は少し考えたかのような間を空ける。
「…多分な」
「「「「「……。」」」」」
 一同、無言で不安になった。
「さてこれからの行動だが、我々は逃げ回りつつ戦いに敗れた部隊を制圧。また、最後に残った一機が敵国のものならば、戦闘を行い勝利しなければならない」
 かなり他力本願な作戦だ。
「最後の一機って…」
 武田小隊長がひきつった顔で呟く。
「衣笠、お前の犠牲は……すぐ忘れるかもしれないな」
「「「「「………。」」」」」
 またも沈黙する一同。
「それにしてもよくこんなに集まったものだな」
 時計の小隊長が感心したように言う。考えている通りに行けば大戦果だ。
「確かに予想以上だ。最初に考えたときはせいぜい2〜3部隊だと思っていたのだが…、それだけ偽反応が本物っぽく見えたということだろうな」
 魔術や法術を使用する際、その動力となる魔力には二つの波が乗る。
 ひとつは術の波で、これで魔術の効果が決定する。
 もうひとつは術者一人一人が持つ固有の波で、効果に大きな影響はないが、これにより同じ魔術を使っても魔術師によって独特の癖が生まれてきたり、D兵器ではこの波を利用してセキュリティロックを掛け、登録された人間でなければ動かすことができないようにされている。
 この後者の波を監視していれば何処で誰が魔術を使ったのかが分かるが、かなりの高出力でなければ遠距離からの観測はできない。
「でも偽物の反応を出せるなら、機械で魔術を使うこともできるんじゃないかな。ミスズちんナイスアイデア」
 ぽかっ
「いたいっ」
 名案と声を張り上げたミスズを、速攻で田淵が殴っていた。
「馬鹿者、機械では魔術を扱うことができないと学校で教わらなかったか」
「え、どうして?」
「「「「「「はぁ」」」」」」
 一同ため息をつく。
「精度だ、今の技術では波を作るための精度が足りない。いや、できないこともないが今回のように術者固有の波しか発生させることしかできない」
「これは周波数の変化がないからな。術を決定する波は周波数を大きくかつ高速に変化させる必要がある。できても研究室止まりだろうな」
「ふーん」
 ミスズはやる気の無さそうな相づちを打つ。
「分かってないだろ」
「そ、そんなことないよ」
 裏返るミスズの声。
「じゃあ説明してみろ」
「え!? えっと、えーと、……がお」
 ぽかっ



 睡眠不足の空腹少女は『美味しそうな匂い』につられ荒野を彷徨っていた。
「こっちの方だよぉ」
 カノリンの目は既に開かれていない。匂いを頼りに夢遊病者の如く歩き続けている。
「もうすぐだよぉ」
 だんだん匂いが強くなっているのが分かる。
「笑い声も聞こえてきたよぉ」
 あははーっと。
「中尉ぃ、眠いけど頑張るよぉ」
 誰も命令していない。
 すかっ。
「あっ…」
 突然足元が無くなっていた。
「きゃああああああっ」
 カノリンは真っ逆さまに崖から落ちていく。
 がつんっ。
「ぐおっ」
「にょわっ」
「あっ」
「ぴこぴこー!」
「ギャオーーース!」
 落ちた先には不思議な悲鳴を上げる五匹が控えていた。
「アイタタタァ…」
「おおおぉぉぉっ」
「にょ〜〜〜ぉ」
「?」
「ぴこ」
「ギョー、ギョー」
 カノリンは多少でこぼこしてはいるが、クッションの効いたところに落ちたため大した怪我はなかった。
 そのクッションのひとつ、国崎逝人はカノリンの踵落としが背中に命中して、しばらく息苦しい状態が続く。
 ふたつ目のミチル・チルチルは、同じくカノリンのチョップによる会心の一撃が脳天に決まり、記憶喪失が悪化した。
 そして犠牲者の二人を背中に乗せていた妖怪・翼竜のエンジェル・スレイヤー(空高く飛ぶことができ、口から火を吐く。かなり大きい)は、衝撃で10メートルほど高度を落としたが、なんとか体勢を立て直して飛行を続けている。
 魅奈戯は一言、
「……びっくり」
 するだろう。
「えーと、ここどこ?」
 カノリンはあっさり復活して周りを見回す。
「ひょ、ひょええぇぇーーーっ、空飛んでるよぉ!!」
 一人絶叫する。
「うわわわわわわわわっ」
 そして非日常的な光景に焦りまくる。
「どー、どー」
 魅奈戯は馬を止めるように言いながら軽くカノリンの肩を掴む。
「ぜーぇ、ぜーぇ」
 それで落ち着いたのか、カノリンの息が落ち着いていく。
「怪我はありませんか?」
「え、…うん、大丈夫だと思うよぉ」
 カノリンは確認するように体の各部を動かす。
「お見事な奇襲攻撃でした」
 魅奈戯は感服したように言う。
「そんなぁ、照れるよぉ」
「そ、そうじゃ…ないだ…ろっ」
 ようやく回復してきた逝人が絞り出すような声を出す。
「……何が?」
「なにがだぁ」
 魅奈戯が少し考えてから口にした言葉を、カノリンが元気に復唱する。
「……ガキ…か」
 身なりは軍人らしいが、その言動は以前逝人が会った迷子とそっくりだ。
「なにか言ったかぁ?」
「いや、そろそろ着地しそうだぞ」
 いつの間にか妖怪エンジェル・スレイヤーに乗った逝人たちは崖上十数メートルまで昇っていた。
「とうつき〜」
 元気よくカノリンが翼竜から飛び降りた。魅奈戯たちもそれに続いて降りてくる。
「ぴこぴこ」
「あれぇ! ポテトぉ!?」
 カノリンは地上に着いて初めてその毛玉の存在に気がついた。
「ぴこ?」
 その毛玉は自分が注目されていることに気づき顔を上げる。
「うぬぬぬぬぬ、なんとなく違うような気がするよぉ」
「その子はね、ポテット・ポテチって言うんだよ」
 ミチルが白い毛玉を紹介する。
「ポテチ?」
「うんっ」
「ちょっと見せてくれる?」
 そう言ってカノリンは毛玉を両手で持ち上げる。
「食べちゃダメ」
「ぴこっ!」
 非常食の心配をする魅奈戯。その手の話題にポテチは過敏反応する。
「食べないよぉ」
 カノリンは困ったような笑顔で答えながらポテチの毛並みを確認している。
「やっぱりポテトと毛の巻き方が違うみたいだよぉ」
 やはり毛玉だった。
「ポテト?」
「うん、私もこの子にそっくりな犬を飼ってるんだよぉ」
「「「「………!!」」」」
 カノリンとポテチを除く全員、翼竜エンジェル・スレイヤーまでもが言葉を失う。
「送り込まれてきたのは一体だけじゃなかったのか」
「犬だったんですね」
「にょわっ、非常食増量のチャンスっ」「ぴこっ!」
「ギャオーーース!」
 皆考えていることは違うようだが、それぞれ衝撃的な事実を知ったことは確かだった。
「……ん、なんだ?」
 最初に気づいたのは逝人だった。
「あ、さっきの匂いだよぉ」
 カノリンは当初の目的を思い出し、再びフラフラと歩いていく。
「俺も行こう」
 逝人も『美味しそうな匂い』につられてカノリンについていく。
「にょわ、出遅れたっ」
 ミチルも追い掛けようとすると
「まって」
 魅奈戯に呼び止められる。
「んに?」
「それよりもここから早く逃げないと」
 一瞬何のことだったかと固まり
「おおー、そうだったねー」
 相づちを打つ。
「んにゅ、でも呼び戻さないと」
 ミチルはどんどん小さくなっていく二つの人影を指さす。
 つられて魅奈戯も少女を追いかける逝人を見やる。
「……知りません」
「んに?」



「中尉! 交戦中の2機がこちらへ向かってきます!」
「緊急警報発令、カミオン中尉を準備させろ」
 田淵は通信士の報告に動じることなく、冷静に指示を出していく。
 外を見ると所属国不明の人形が剣で斬り合いながら近づいて来る。
「操縦者からこんなに離れたところで戦闘を行うとは、コクピット・システムを使っているな」
 これは特殊な場所での使用を考慮しているという意味がある。
 このようなD兵器は最先端技術が多数採用されていることが多く、回収できれば今後のD兵器開発に大きな影響を与える可能性がある。
「右側へ逸れていきます」
「こちらに気づいたのか?」
 田淵たちの部隊は大きな岩が多いところに身を潜めている(ミスズにはジャンプ禁止と強く言い聞かせてある)。
 ジャミングもかけているので早々見つかることはないはずだが、逆に局所的にジャミングが強くなることが仇となり見つけられる可能性がある。
「カミオン中尉、この二機は確実に潰しておきたい。どちらかが倒れたらす
ぐに出て欲しい」
「了解」
「観測班はデータを取っておけ、すぐに使う」



「こっち、こっち」
 カノリンはまだ彷徨い歩いていた。
「そうだな」
 逝人も同じ方向を目指している。
 ふたりとも間違ってはいない。
「ところで何でこんな所に軍人がいるんだ?」
「いまねぇ、向こうで戦争やってるんだよぉ」
 カノリンは後ろ向きで指さす。
 確かにその方向からビシィ! バシィ! とすさまじい音が聞こえてくる。
 そしてその音は次第に大きくなってきて、ついには目の前で戦闘が行われていた。
「おいおいおい!」
 あっという間に国籍不明の人形2機が二人の進路を塞いでしまった。
「わぁ、青いお目目のお人形さんだぁ」
「おのれっ邪魔だてする気かぁ!」
 二人の反応はまったく正反対だ。
 逝人が今までいた崖の方向に気を走らせると、大きな岩影から雅な人形が姿を現す。
「あっちにもお人形さんがいるぅ」
 逝人はその方向に強く念を込め、人形を操る。
「わぁ、あれも始めて見るお人形さんだぁ」
 カノリンは呑気に感想を言う。
「あれって、もしかしてキミのお人形?」
「そうだ」
「へぇ。あ、板ばね式なんだねぇ」
「分かるのか?」
 補助動力に板ばねを採用しているD兵器はとても少ない。
 生産コストや技術のレベルが高いためだ。
 もちろんその分高性能であるが、それを一目で言い当てられる者も非常に珍しい。
「あたしねぇ、こう見えてもお人形の整備士なんだよぉ」
「……マジか!?」
 逝人は一瞬呆気にとられ、《Ka-Nn-Na》の制御を危うく失うところだった。
 とてもこの少女が技術者であるようには見えない。
「よければ後で見てあげるよぉ」
「必要になったらな」
 普通ならとてもありがたい申し出だが、今の《Ka-Nn-Na》はに簡単な調整だけ十分だった。
 D兵器のオーバーホールには家が数軒建ってしまうほどの費用が必要だが、貧乏旅芸人の逝人がそんな大金を出せるはずはない。
 しかし逝人は、最近連邦側国境付近の街で迷子の女の子を保護したとき、偶然その女の子の家がD兵器の整備場を経営していたため、お礼にとオーバーホールしてもらったばかりなのだ。
「必要になるよぉ。だってこれからビシィ、バシィってやるんでしょぉ」
 カノリンは剣で斬り合う様を、かなりのオーバーアクションで演じる。
 派手な斬り合いでも期待しているのだろう。
「残念だがそんなに激しくやるつもりはない」
「うぬぬ、もしかして凄い達人なのかなぁ?」
 ガシャン ガシャン
 《Ka-Nn-Na》は二機の人形に勢いよく近づいていく。
「「!!」」
 それに気づいた二機はいったん戦闘を止め《Ka-Nn-Na》を待ち構える。
「正面からなんて無謀すぎるよぉ」
 無謀にも、《Ka-Nn-Na》は腰部に吊されている剣を抜きながら真っ直ぐ二機へ突っ込んでいく。
「心配するな」
 逝人はそう言って目を細める。
 ドーーーーーン!!
 あと数十メートルまで迫ったところで《Ka-Nn-Na》は炎弾を放った。しかし二機の人形はシールドを張っていたためほとんど無傷だった。
「「!?」」
 二機の人形の、それぞれの操縦者は自分の目とカメラを疑った。
 爆炎が消えたとき《Ka-Nn-Na》が四機に増えていたからだ。
 バシュ ズズーーーン!
 四機に増えた《Ka-Nn-Na》は、先ず右側にいた人形を一斉に襲った。
 二機どころか四機の人形を相手になどできるはずがなく、あっという間に腕を切り落とされる。
 さらに足にも致命傷を負い、帰還すらできない。
 残った一機は、今まで互角に戦っていた相手が一瞬で戦闘不能になったのを、ただ見ているしかできなかった。
 ザシュン
 鋭い音が聞こえたとき、残った一機も鉄屑と化した。
 《Ka-Nn-Na》の剣が、その人形の心臓を貫いていたのだ。
 人形の心臓と呼ばれる所には法術増幅装置がある。
 これは人形使いから送られてきた魔力を増大させるもので、重い人形を動かすには必要不可欠なものである。
 これが破壊されると、ひとりの人形使い程度では動かすことなどできない。
「すすすすす、すごいよぉ!」
 カノリンはとても驚いていた。こんな戦闘をする者など聞いたことがない。
「魔術師でいうところの分身攻撃、パラレルアタックだ」
 スーーーッ
 逝人が気を抜くと四機の人形はそのうちの一機に集まり消えていった。増えた三機は幻だったのだ。
「魔術師さんだったの?」
「いや、普通の人形使いだ」
「でも今のって…」
「その前に、俺たちにはやることがあるだろう」
「あっ、忘れるところだったよぉ」
 そして二人は再び彷徨い出した……



「人形が魔法を使っただと!? まさかあれが《W-I-N-G》か?」
 田淵は意外な展開に驚き叫んでいた。
「違いますよ」
 コクピットで待機していたはずのミスズがいつの間にか指揮車両の中に入ってきていた。
「カミオン中尉、知っているのか?」
 持ち場を離れるなと言いたいところだが、田淵は最新の戦闘配置図を見てその必要はないだろうと判断する。
「はい。《W-I-N-G》と同じ三大人形のひとつ、《Ka-Nn-Na》です」
 《W-I-N-G》と《Ka-Nn-Na》は兄弟機と言われている。
 そのことから詳細が全く知られていない《W-I-N-G》は《Ka-Nn-Na》と同等の性能を持つと予想される……
「…大収穫だな」
 小隊長が懐中時計を仕舞いながら呟く。
 大物を捕獲するチャンスだ。
「無理だ」
 田淵は即座に否定した。
「なぜですか田淵中尉」
「勝てっこない。そうだろ、カミオン中尉」
 そこへ居合わせた一同の視線が、田淵からミスズへ移る。
「田淵中尉の言う通りです。逝人さん……いえ、《Ka-Nn-Na》には例え《U-Ra-Ha》が束になっても勝てないかもしれません」
「ばかな、D兵器の戦いは一対一が基本、数で上回っていれば勝てないはずはないっ」
「今の戦いを忘れたのか? 《Ka-Nn-Na》は魔術を使う。人間に置き換えて考えてみろ。本気になった魔術師に対し、魔術も法術も使えない部隊だけでどの位の勝算があると思う?」
 小隊長は言葉を失う。田淵が言った通りの力の差が付けられているのだ。
「180年も最強のD兵器として君臨しているんだ。それを考えれば容易く勝てる相手ではないことは分かるだろう。なんでも力で解決しようと思ってはいけない」
「はっ」
 時計の小隊長は反省の意味を込めて敬礼する。
「…それに衣笠の部隊はあてにしないでおけ」
「「「「「「………。」」」」」



「ついに、とうつきーっ」
「ああ、うまそうな匂いだ」
 数々の障害を乗り越え、カノリンと逝人はその場所へ辿り着いた。
「お客さん?」
 二人を出迎えたのは居酒屋の看板娘、舞だった。
「とりあえずアガリとカッパだ」
 逝人はちょうど良い大きさの岩をテーブルに見立てて席に着く。
「うちは寿司屋じゃない」
 ノリの悪い看板娘。
「じゃあ、その鍋はぁ?」
 カノリンが逝人の隣に腰を下ろして訊く。
「これは現在開発中の具だくさんシチューですよーっ」
 店の奥(?)からコック担当のサユリンが楽しそうに答える。
「開発中? 調理中の間違えだろ」
「あたしも手伝うよぉ」
 腕をまくって立ち上がるカノリン。
 皆初対面なので止めようとする者はいない……
「やっぱりクリームシチューだねぇ」
「あ、それはーっ!」
 カノリンは周りにあったものを何も考えずに鍋へ放り込む。
「トリュフ…か?」
 それは黒くて丸い小さな物体だった。
 逝人は以前テレビで見たことのある、珍しい西洋のキノコに似ていると思った。
「ふぇー…」
「……」
 サユリンは笑いながらも顔は引きつっている。
 舞は無表情だが、その冷たい視線の中に焦りの色が見え隠れしている。
「えーと、大事な材料が足りないことを思い出したので、取って来ますね」
「「?」」
 なぜいまさらとカノリンと逝人は首を傾げる。
「舞、行こう」
 こくり。
「では、すぐに戻ってきますので、待っていて下さいね」
 そう言うと二人は自分たちの荷物を持ち…
「あははーっ」
 と言うと突然消えてしまった。
「瞬間移動? あいつら魔術師だったのか」
「あ、名前聞くの忘れてたよぉ」
「後で訊けばいいだろ」
「そううだねぇ。ところでキミだれ?」



「これは正確なのか?」
「概算ではありますが、可能性は高いと思われます」
 田淵は指揮車両で観測班班長から報告を受けていた。
「確かに最近この地方で火山性微動があることは聞いていたが、ここまで深刻だとは知らなかった」
「この辺りに人家は全くありませんので、現地調査はほとんど行われていない状態です。特に地下には人工的なものから自然にできたものまで多くの洞窟があり、地盤沈下が多発しているため誰も寄りつきません」
「地盤沈下?」
 田淵は自分の足下が突然無くなるのではないかと不安になる。
「(…おのれ衣笠)」
 計画の発案者である衣笠を、一回殴ると誓う田淵。
「中尉?」
「いや、なんでもない」
 そこへ武田小隊長がいくつかの写真を持ってきた。
「田淵中尉、敵D兵器の詳細分析結果が出ました」
「どうだった?」
「それが…」
 武田小隊長は持っていた写真を机に並べていく。
「……ほとんど国内で登録されている個人使用品じゃないか」
「ではあれか? 俺たちは味方同士で戦っているのか?」
「敵っていうと連邦の《Pi-Ro》(ぴろ)と《Kero-P》くらいじゃないか」
「分からんぞ、新手のコスプレかもしれん」
「あ、これなんか 《U-Ra-Ha》のプロトタイプだ」
「《YuRi-Pe》(ゆりっぺ)って商用だったよな、どういうチューンしたんだよ」
 机はの上は、展覧会のカタログ置き場と化していた。
「とにかくジャミングを解除して共通無線で警報を出せ。このままでは共倒れになる危険もある」
 田淵は頭を抱えている。
 最悪の場合、敵D兵器のデータどころか、自分たちさえ帰還できない。
「しかし罠と警戒されるのではないでしょうか?」
「いや、元よりここに集まった者たちは戦いが目的ではない。……我々を除いてはな。種明かしをすれば皆すぐに撤退するだろう」
「ジャミング解除します」
「武田小隊長、衣笠の部隊はまだジャミングをかけている可能性がある。緊急を知らせる照明弾を打て」
「はっ」
 武田小隊長の敬礼を受ると田淵は再び机の上に並べられた写真を見て溜息をついた。
「…やれやれだな」



「がおー」
 がしゃん がしゃん
 ミスズは行方不明になったカノリンを探すため、《U-Ra-Ha》の手に乗り荒野を駆け回っていた。
「どこ行ったのかなー」
 辺りをよく見回すと一機、いや三機のD兵器が目に入った。
「逝人さんの人形だ。そういえばいきなり出てきたけど…」
 ミスズの操る《U-Ra-Ha》は荒野に佇んでいる逝人の人形《Ka-Nn-Na》に近づいていく。
 その足下には動作不能の人形が二機。
 しかし人影は見えない。
「んー、どこにいるのかな」
 さらに見回すと白い一本の煙りが立ち上っているのが見えた。
「あれ最初に見えた煙かな。薄くて分からなかった」
 薄くなっているのは火を弱くしたためだろうか。
 ミスズは再び《U-Ra-Ha》を移動させる。



「なかなか帰ってこないねぇ」
「もういい、喰おう」
「ダメだよぉ。ちゃんと完成してからだよぉ」
「しかし犬ならとっくに理性崩壊してるぞ」
 逝人とカノリンは既に三十分以上の待ちぼうけを食っている。
 がしゃん がしゃん
 すると人形独特の足音が聞こえてきた。
「また向こうからお人形さんが来るよぉ」
「またか」
 逝人はめんどくさそうに立ち上がる。
「あっ、カミオン中尉のお人形だよぉ」
「カミオン?」
「《U-Ra-Ha》っていう私が整備担当してるお人形だよぉ」
 《U-Ra-Ha》は逝人たちの前で止まり、屈んだ。
「あ、やっぱり二人ともいたっ」
 人形の手の上から一人の少女が顔を出す。
「まさかミスズか?」
「え、カミオン中尉のこと知ってるのぉ?」
「ああ、少しな」
「うん、逝人さん久しぶり」
「相変わらずがおがお言ってるのか?」
「にはは、それは…」
 ミスズは困ったような笑顔を作る。
「そうそう、逝人さんが発案したカラス占い。評判いいよ」
「俺はハルコに放り投げられただけだろ」
「にはは、逝人さんとお母さんの漫才。思い出しただけで笑える」
「「……。」」
 逝人は何も言わずにそっぽを向き、カノリンは訳が分からなくて沈黙する。
「…はっ、笑ってる場合じゃなかったんだ。逝人さん大変なの、この辺りっていつ火山ができてもおかしくない危険地帯なんだって」
「えぇーっ」
 カノリンが驚きの声を上げるが、逝人はなにやら考え込んでいる。そして…
 ぽんっ。
「知ってる」
「知ってるって、逝人さんそんな呑気に」
「なんで教えてくれなかったのぉ、はやく逃げようよぉ」
 まくし立てる軍人二人。
「さっきこの下でマグマの湖を見たから知っていたが、これの匂いですっかり忘れてた」
 逝人はぐつぐつと白煙を上げる鍋を指す。
「そんな大事なこと忘れないでよぉ」
「ご飯ならいくらでも食べさせてあげるから」
 きゅぴーーーんっ
 逝人は獲物を狙う虎のような目でミスズを見る。
「マジか」
「マジだから早く行こ」
 ミスズが手を差し出す。
「あの変なジュースだったら行かないぞ」
「にはは、ちゃんと他のものも揃ってるよ」
「分かった」
「あ、でも他の人にも言わないといけないんじゃないかなぁ」
 歩き出した逝人をカノリンが引き留める。
「他のって?」
「ここの店員1号さんとコック1号さん、あと妖怪使いの人たちだよぉ」
「そうだな、何も言わずに置いていくわけにはいかないだろう」
「どうしようかぁ」
 カノリンは大げさに首を傾げる。
「妖怪使いの方は俺と一緒で既に知っているから、もうここから離れてるだろう。あとの二人はすぐに戻ってくるとは言っていたが……この分だといつまでかかるか分からないな」
「探しに行けばいいんじゃないかな」
「でもどこに行ったか分からないしぃ」
「そっか、すれ違いになっちゃうと困るね」
 ミスズもカノリンに習って首を傾げる。
「張り紙でもしておけばいいんじゃないのか?」
「逝人さんナイスアイデア。少し待っててねー」
 ミスズはポケットを漁って手帳とペンを出した。
「ちょっと待て」
「え?」
 メッセージを書こうとペンのキャップを外したとき、逝人が止めに入った。
「カノリンだったな、お前が書いてくれ」
「え、いいけどなんで?」
「それは訊くな」
 逝人は最初にミスズと会ったときのことを思い出していた。
 そのとき人形芸で一稼ぎしようと町の地図を書いてもらったのだが、それはとても幼稚で分かりづらい代物だった。
 今そのノリで書かれると読む者が解読している間に噴火してしまうかもしれない。
「こんなのでいいかなぁ」
 カノリンは手帳とペンを受け取るとサラサラと書き上げた。
「ああ。誰かテープかなにか持ってないか?」
「小っちゃいガムテープなら持ってるよぉ」
「よし、貸してくれ」
 逝人はカノリンからメモとガムテープを一緒に受け取る。
 そしてメモをテープで鍋の蓋へ張り付けた。
「これで分かるだろ。俺たちは周りを探すぞ、当てはないがな」
 逝人とカノリンは《U-Ra-Ha》の手に乗り込む。
「少し狭いな」
 両手とはいえ、《U-Ra-Ha》の手に三人は窮屈だ。
「それじゃあ、捜索隊でっぱーつ」
「がおー」
「……。」
 いつの間にかカノリンが指揮を執っていた。



「どこかで見たはずなんだけど…」
 サユリンと舞は、荒野から少し離れた草原にいた。
 そこには数種類のキノコが所狭しと自生している。
「見つかった?」
「こっちには無いみたい。どこでも生えてるのに、欲しいときってなかなか見つからないよね」
 がしゃん がしゃん
「あ、人形が近くを通っていくねー」
 見ると赤い人形がすぐ近くを歩いていく。
「…《U-Ra-Ni-Wa》?」
 人形を見て舞はそう呟いた。
「どうしたの舞?」
「なんでもない」
「ふぇ?」
「それより探しもの」
「そうだね、急がないと」



「次いくで〜」
「え?」
 《U-Ra-Ha》の手に乗るミスズたちの後方から、女の声で大阪弁が聞こえてきた。
「逃さへんで、あんじょうやればたんとバイト代でるんや〜」
 逝人はどこかで見たことのある人形だなーと思っていた。
「お、お母さん!?」
 ミスズは《U-Ra-Ha》を母親の人形《U-Ra-Ni-Wa》と向かい合うようにすると手を大きく振った。
「なんや、ミスズやないか。こんな所でなにしとるん」
 《U-Ra-Ni-Wa》に設置されたスピーカーからミスズの母親、ハルコの声が聞こえる。
「それ、こっちの台詞」
「なんや? もっと近くで話しい、いっこも聞こえんかったで」
「がお」
 ごんっ!
 ミスズの口癖を合図に、《U-Ra-Ni-Wa》が《U-Ra-Ha》の頭を殴っていた。
「わーーーっ、落ちる落ちるっ」
「わわわわわわっ」
「おいっ、無茶するな!」
 バランスの崩れた《U-Ra-Ha》の手の上は、大パニックになっている。
「すまんすまん、ついいつもの癖でな。堪忍してや」
 手癖の悪い女だ。
「というか聞こえてるじゃないかっ」
 逝人はふと気がつき叫ぶ。
「お、いつかの居候やないか、久しぶりやなぁ。さっきイヤホン付けるの忘れとったんや。今ならよう聞こえるで」
「忘れないでよぉ」
 カノリンが悲痛な声を上げる。
「それが《U-Ra-Ha》やな、《U-Ra-Ni-Wa》ができてから十五年。ようやく完成やな」
「え? お母さんの人形と関係あるの?」
「あんた何も知らんかったんか」
 ハルコはあきれる。
「《U-Ra-Ni-Wa》はな、《U-Ra-Ha》のプロトタイプなんやで」
「へー、そういえばどこかで見たことあると思った」
 感心したように観鈴が言う。
「そういうんは軍の授業で習わんかったか?」
「わたし、しょっちゅう遅刻してたから」
 ごんっ!
「わーっ、」
「わわわわわわっ」
「だから!」
 再びパニックを起こす一同。
「すまんすまん、またやってしもた」
「もー。とにかくお母さん、ここからはやく逃げたほうがいいよ」
「なんでや、せっかくの獲物逃がせるかい」
「もしかしてその分だと警報のこと知らないよね」
「なんや警報って?」
「やっぱり」
 やれやれとミスズは事情を話し始めた。
 ……。
 ………。
 ……。
「するとなんや、うちのバイト代はどうなるんや」
 ハルコとミスズの話はは最も重要な部分に移っている。
 ハルコが警報に気が付かなかったのは、イヤホンを付け忘れていたためだった。
「さあ」
「さあやないで、壊れとった《U-Ra-Ni-Wa》無茶して修理したんや。このままやとミスズにも借金のとばっちりがいくで」
「そんなー」
 カミオン一家、崩壊の危機。
 ガタガタガタガタ……
「あ、また地震だ」



 ガタガタガタガタ……
 ぽつんと荒野の岩地に置き去りにされた鍋。
 火は逝人が張り紙をしたときに消されて煙は出ていない。
 それを支えている石が地震によりはずれようとしていた。
 ガタガタガタガタ
 ガタン ガタン ガタン ガタン
 カラン カ−ン!
 大きな縦揺れで蓋が外れすぐ下に落ちた。
 蓋は鍋の支えの石に当たってそれを動かす。
 そしてついに鍋が横倒しになる。
 ジャバーーー
 鍋の中身がこぼれ落ちる。その中にあるカノリンが入れた黒いキノコが勢いよく地面にぶつかると……
 ちゅどーーーん!!



 ゴゴゴゴゴゴゴ!
「なんだあの爆発は。噴火にしてはやけに明るかったな」
「そうだねぇ」
「ところで居候」
「今はもう居候じゃない!」
 逝人は激しく否定する。
「どうだっていいんや、そんなん。自分の人形はかまへんのか?」
「ぐあ、忘れてた」
 後ろを見ると特大の火山弾が《Ka-Nn-Na》に向かって落ちてくるところだった。
「逝人くん、大変だよぉ」
 カノリンが言うと何となく緊張感がない。
「……っ」
 逝人が《Ka-Nn-Na》に向かって念を込めると、その姿が一瞬にして消える。
 そしてすぐに目の前にその姿を現した。
「便利な人形やな〜」
「お母さん、感心してないで早く逃げないと」
「わかっとる。ほな、スピードアップするで。って、人形だけ逃がしても意味ないやん!」
 びしっ。と、スピーカーから何かへ裏拳が決まった音がした。
「そういえばお母さんはどこにいるの?」
「ほれ、もう少し先にトレーラーがあるやろ」
「お、俺のトレーラー」
「あ、逝人さんのトレーラーどこ?」
 逝人は青ざめながら指をさす。
「どかん、どかんって岩が突き刺さってるねぇ」
 そこは狙い澄ましたかのように火山弾が降り注いでいた。
「居候、もう諦めとき。いくら《Ka-Nn-Na》やってあそこに行くのはつらいやろ」
「俺のトレーラー…」
「心配せんでも、どうせ大したもんないんやろ。トレーラーやって拾いもんやろ」
 ハルコは随分失礼なことを言うが…
「………。」
 逝人は否定できなかった。
「それにほら、軍に来ればトレーラーの一台くらい貸してくれるよ」
「ミスズ、いつ俺は入軍したんだ」
「さっきご飯食べに来るって言ったじゃない」
 どこかで聞いたことのある話だな。と逝人は思う。
「………。」
 何度振り返ってもトレーラーは絶望的だった。
 よく見ると《Ka-Nn-Na》も小さな火山弾を受けて装甲がへこんでいる。
 これでは探しものも中断しなければならない。
「………。」
 逝人は首を正面に向け、ふたりの少女を見る。
 ひとりは金髪で長い髪の人形使い。
 もうひいとりは短髪で子供っぽいが、なかなかの眼力を持つ人形整備士。
「確かあとで見てくれると言っていたな」
 逝人はカノリンを見ながら《Ka-Nn-Na》を親指で指す。
「うん、見てあげるよぉ」
「わかった、しばらくの間でもよければ厄介になろう」
「やった」



「舞ーっ。具だくさん魔術シチュー、爆発しちゃったねーっ」
 魔術シチューとは、魔術により素材のうま味を倍増させる五つ星レストランもびっくりな料理である。
 しかしこれは社会を混乱させるとして封印、禁呪となった。
 『北の塔』を出るときに行われた最後の勝負で、勝者であるサユリンへ与えられた魔法の書に書かれていたのを偶然見つけ実験していたのだ。
「やっと見つけたのに」
 舞の手には白いキノコが数個ある。
 黒虎茸(こくこたけ)と白虎茸(びゃっこたけ)。
 どちらも使用法を間違えば大きな災害をもたらすキノコで、精霊や妖怪の故郷『エデン』よりもたらされたと言われている。
 食材としてはマッシュルームに甘い匂いを加えた感じで、幅広く様々な料理に使われている。
 普通に使っていれば何の危険もないキノコだが、これに少しでも魔力を込めるとそれを吸収して強力な爆発物になる。
 白いものと黒いものは別々に使っていれば色以外何も変わらないように見えるが、同時に使おうとすると吸収したお互いの魔力を打ち消し合う性質を持つ。
 今回のように魔術シチューに黒虎茸を入れてしまった場合、同じ量の白虎茸を入れてやれば爆発を阻止できるのだ。
「どかーんって火山までできちゃったねーっ」
「サユリンは魔力込めすぎ」
 ぽかっ。
 舞のチョップがサユリンの脳天にヒットした。
「あははーっ」


EPISODE-1「Dummy」 ... END



 Next Combat「黄昏」



EPISODE-1 あとがき

 7回に渡ってお送りした AIR WARS EPISODE-1 いかがでしたでしょうか?
 EPISODE-1 なんていう分類があったなんて作者も驚きですが、途中に外伝を挟んだりして既に辻褄が合わなくなってきています。
 魅奈戯の出番少ないし…(ていうか最後忘れられてなかったか?)。
 とりあえず外伝は忘れてください。(汗)
 読み難かったんで少しだけ修正しましたが、またそのうち修正するかもしれません。

 ここで本編では書かなかった(書けなかった)ことを書いておきます。
 原作では観鈴が高2で16〜17歳ですが、AIR WARS ではもっと年が上がって20歳です。
 これは辻褄合わせもあるのですが、最初にミスズと逝人が出会ったのは原作と同じ歳のときとしているためです。
 この話は……多分書かないと思う。
 本編自体終わるかどうか怪しいし…。

 今回最後まで出てこなかった衣笠くん部隊所有の人形は《SHI-MA-NO》(しまの)と言います。
 シマノと言えば霧島医院隣の本屋さんですね。
 この人形は《U-Ra-Ha》の前に量産されていたもので、《U-Ra-Ha》の数が少ない間主力機として活躍……え、もう説明は飽きた? それは気がつきませんで、失礼しました。

 次回からの EPISODE-2 は……とりあえずまだ出てきてないキャラを出して、訳が分からなくなるのが狙いかな。(自分が…)
 最後に、美凪&みちるファンのみなさん、ごめんなさい。精進します。

 ご意見・ご感想お待ちしています。

 2000/1/29、2001/8/10
2001/8/17

Before Combat   戻る   Next Combat
E-mail: chaki-el@mbg.nifty.com
TOP
アニメ
小説
PC
掲示板
リンク
更新状況