〜アフリカ飢餓救済チャリティーレコード〜

WE ARE THE WORLD

USA for AFRICA

では、このアルバムで聞かれる10曲について、そのアーティストと、

判る限りのエピソードなどをご紹介しましょう。

 

GOOD FOR NOTHING / CHICAGO

アメリカを代表するアーティストと云うなら、キャリアはレコード・デビューから

でも16年、今もって一枚のアルバムから4曲のシングル・ヒットを放ち、

ついにトップ10ヒットは最新の「アロング・カムス・ア・ウーマン」で14曲と

云うベテラン・グループ、シカゴも、このアルバムには絶対に欠かせない

アーティストです。最近はピーター・セテラのハイ・トーン・ヴォーカルが

フューチャーされた曲が多いので、かつてはシカゴの顔であり、リード・

ヴォーカリストであったロバート・ラムの曲は、がぜん懐かしい響きを持って

迫って来るようです。これで管楽器をもっと派手目にいれてくれれば、もっと

良かったのに、などと思いつつも、ロバート、デビット・フォスター、共に

キーボード奏者のふたりがペンをふるった曲らしい仕上がりだと、嬉しく

聞いてしまいます。                               

 

TROUBLE IN PARADISE / HUEY LEWIS & THE NEWS

一度は見たい、聞きたいと、熱心なファンの誰もが思っているはずの、

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのライブです。この曲はヒューイ達のデビュー・

アルバム「ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース」に収められていたナンバーで、

ヒューイとメンバーのジョン・コーラが作った作品であり、ライブに定評のある

ベイ・エリア出身のグループらしく、良くコナしてしなやかパフォーマンスが

楽しい聞き物です。冒頭、サックスを吹いているのがジョン・コーラで、

ヴォーカルはもちろんヒューイ・ルイス、34才。6才の時に両親が離婚して、

白人でありながら母親と共に貧しい黒人街で育ち、ブラック・ミュージックの影響を

強く受けたと云うヒューイは、サンフランシスコのグループ、クローバーを経て

イギリスに渡り、のちアメリカに戻って、’79年春にザ・ニュースを結成。セカンド・

アルバムからの「ビリーヴ・イン・ラブ」がヒットして、ついに第3作目の「スポーツ」

からは「ハート・アンド・ソウル」「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」「ザ・ハート・オブ・

ロックンロール」「イフ・ディス・イズ・イット」と、ベスト10に入るシングル4曲を生み出し、

5曲目のシングル「ウォーキング・オン・ア・シン・ライン」も18位を記録。アルバムは

売れに売れて、発売されてから一年半後の今も全米アルバム・チャートの41位にあって、

公式に500万セット(アメリカ国内のレコードだけで)以上を売り上げたと云う印を

つけています。                                       

 

IF ONLY FOR THE MOMENT, GIRL / STEVE PERRY

続いてはジャーニーのリード・ヴォーカリスト、スティーブ・ペリーの登場です。

ハリー・ベラフォンテから、この救済プロジェクトの話を持ちかけられた凄腕のマネージャー

のケン・クレイガンが、自分の手がけているアーティストであるケニー・ロジャースと

ライオネル・リッチーに話を持ちかけたあと、”アメリカのベスト10アーティスト”を

選び出すつもりでヒット・チャートを眺めて、最初にリスト・アップしたのが「アメリカの声、

ジャーニーの頭脳」であるスティーブ・ペリーだったそうです。折しも、ジャーニーとしての

レコーディングに取りかかっていたスティーブは、「ウイ・アー・ザ・ワールド」に参加

すると共に、このLP用にも、ランディ・グッドラムと書いたこの一曲を提供しました。

R・グッドラムは、アン・マレーの「YOU NEEDED ME」など、数多くのヒット曲を

書いている高名なソング・ライターですが、特にスティーブとは彼のソロ・アルバム

「ストリート・トーク」で「Oh、シェリー」など、何曲かを一緒に書いています。

 

JUST A LITTLE CLOSER / THE POINTER SISTERS

日本では、完成度の高い大人のポップス、エンターテイメントが理解されない為、

過少評価されているポインター・シスターズですが、’83年11月に出たアルバム

「ブレイク・アウト」からは、「オートマティック」(5位)、「ジャンプ」(3位)、再度この盤に

収められていた「ソー・エクサイテッド」(9位)、「ニュートロン・ダンス」(6位)と、4曲が

全米トップ10に入る大ヒットで、アーティストの格としては、今やライオネル・リッチー、

シンディ・ローパーと共にトップ・クラスの3人姉妹です。しかし、「ウイ・アー・ザ・ワールド」

の収録日にA&Mスタジオに現れた長女のルースは、手にしっかりとミニ・カメラを持って、

ドサクサまぎれにマイケル・ジャクソンをパチリ、パチリ。「わたしには子供がふたり

いるんだけど、マイケルを撮って帰らなかったら殺されちゃうわ」と語っていたとか。

マイケルのケタ外れのスーパー・スターぶりがうかがえるエピソードです。

 

4THE TEARS IN YOUR EYES / PRINCE & THE REVOLUTION

USA for AFRICAの参加メンバーの名前を見て、当代の人気者を集めたと云うのなら、

プリンスはどうしたんだ、と思われる方も多いことでしょう。確かにどちらかと云えばケニー・

ロジャース、ライオネル・リッチー、クインシー・ジョーンズ系列に属した顔ぶれで固められ

ており、ジェフリー・オズボーンのように、レコーディング直前にライオネルから電話を貰って

駆けつけたと云う人も居るかわりに、バーブラ・ストライザンド、バリー・マニロウ、リンダ・

ロンシュタットなどの名前が無いことに、一抹の淋しさを感じてしまったりもします。

実はプリンスも、この夜はシュライン・オーディトリウムで行われたアメリカン・アワードに

出かけていたのですが、その後でパーティーを開いていたウエスト・ハリウッドの

ナイト・クラブに出かけて行き、ここでプリンスの写真を撮ったカメラマンをプリンスの

ボディー・ガードが殴ってしまうと云うトラブルに巻き込まれて、プリンスも朝の6時まで

警察の取り調べに身柄を拘束されてしまったのでした。スタジオに電話をした時には、

すでにソロの分担も決定して、録音も終わりに近付いていた時であり、もう駆けつけても

間に合わないので、LP用に一曲提供する、と云うことで仕方なくあきらめたという話です。

さすがプリンス、このアルバムの中でも聞きごたえのある一曲になっています。

 

A LITTLE MORE LOVE / KENNY ROGERS

アメリカのクリスマスと、国民的な行事は欠かせない、ミスター・ウォーム・アット・ハートこと、

ケニー・ロジャースの登場です。ケニーは今年47才。6才頃からホーム・バンドや教会で

歌い始め、高校時代にバンドを結成してロックンロールをプレイし、卒業直後には

ヒット・レコードも出していたと云う人。その後、ニュー・クリスティー・ミンストレルズや、

ファースト・エディションなど、フォーク畑、フォーク・ロック・バンドを経てソロとなり、’77年の

「ルシール」以降、「弱虫トミー」「レイディ」「ギャンブラー」「愛ある限り」「アイランド・イン・

ザ・ストリーム」など、ヒット曲とグラミー賞、アメリカン・ミュージック・アワード、CMA

カントリー・ミュージック・コンベンション、アカデミー・オブ・カントリー・ミュージック等、受賞の

数は数知れず、’82年には自ら「世界飢餓賞」と云うアワードを設立して、世界の飢えた

人々への注意を促し、貢献したジャーナリストをたたえています。この曲は、「ホワイ・

ナット・ミー」の大ヒットを持つフレッド・ノブロックが作者として名を連ねている作品です。

 

TRAPPED / BRUCE SPRINGSTEEN & THE E STREET BAND

さあ、いよいよブルース・スプリングスティーンの登場です。ブルースはイギリス版の

バンド・エイドが産まれた時点で、このアフリカ飢餓救済には高い関心を示しており、

アメリカのレコード・ビジネスでは利害がからみすぎ、複雑すぎて、こう云ったプロジェクトは

無理だろうと語っていたものでした。それだけにケン・クレイガンからさそわれていると知ると、

さっそく自分で電話をかけて来て、「DO THEY REALLY WANT ME?」と、バンド・エイドの

ソング・タイトルに明らかにひっかけた云い方で問い合わせて来たという熱心さでした。

ここで歌われている曲は「ハーダー・ゼイ・カム」などで知られるジャマイカのジミー・クリフ

のナンバーで、ジミー・クリフが’72年頃に作った未発表曲であり、ブルース・

スプリングスティーンがアルバム「ザ・リヴァー」を作っている頃にめぐり逢ったものらしく、

’81年のツアーからステージで時折り歌っていました。そして一度はアルバム用に収録

したとも云われていましたが、そのまま発表されずに来たものです。それを今回は、

ライブ・ヴァージョン(’84年8月6日メドーランドでの収録)でこのアルバム用に提供。

ジミー・クリフの同意のもとに、印税はすべてUSA for AFRICAの手を通じて、飢えた

人々に贈られることになっています。このアルバムが出る頃には、ブルースの待望の

初来日公演が行われた興奮が、まだロック・ファンの間に強くただよっていることでしょうが、

’72年にデビューして以来13年のキャリアの中で、7枚目のアルバム「BORN IN THE

USA」を出したブルースは、”すべての人間は肌の色と階級を越えて、同じ夢を持つ

ことが出来る”と云うアメリカの理想を、その歌と生き方とで追求し続ける現代、唯一無二

のロッカーです。それだけにケン・クレイガンも、ブルースの参加を「このプロジェクトにとって

も重要なターニング・ポイントであり、おかげでこのレコードに対する世間の目が変わった」

とまで語っています。                                         

 

TOTAL CONTROL / TINA TURNER

今回はヒューイ・ルイスを除いては、全曲未発表曲だと云われていたのですが、これは

未発表録音ながら、曲のほうはモーテルズのマーサ・デヴィスが、メンバーのジェフ・

シュラードと書いて、モーテルズのファースト「ようこそモーテルズ」に入れていた

ナンバーです。それをアルバム「プライベート・ダンサー」の見事なヒットで、イギリスから

アメリカに帰り咲いたティナ・ターナーが歌っていると云うもので、作品的にもまさに

ティナにぴったりの曲です。1960年、21才でデビューして以来、さまざまな紆余曲折を

経ながら、ついに今年の第27回グラミー賞では、最も主要なレコード・オブ・ザ・イヤーを

筆頭に、ソング・オブ・ザ・イヤー、最優秀女性ポップ・ヴォーカル、最優秀女性ロック・

ヴォーカルの4部門を独占、今年のグラミー賞を”ティナ・ターナー・ナイト”にして

しまったレディ・ソウル、ティナならではの歌唱が素晴らしい出来です。

 

TEARS ARE NOT ENOUGH / NORTHERN LIGHTS

イギリスのバンド・エイド以来、西ドイツでもネーナなど35人のアーティストが集まって

レコーディングをしたり、日本でもコンサートが行われるなど、アフリカ救済の輪は世界に

広がっていますが、これはカナダ出身のアーティスト達が、2月10日の日曜日から、

翌日の午前2時までをレコーディングにあてて、トロントで録音したナンバーです。

曲は、カナダ出身で、ジュノー賞や、レコード・インダストリー・オブ・カナダといった

賞で、最優秀男性シンガー、および、ソング・ライターに選ばれ、アルバム「レックレス」が

世界的にヒットを記録して、ロッカーとしても今もっともホットなブライアン・アダムスが、

相棒のジム・バランス、およびソング・ライター、キーボード奏者、プロデューサーとして

高名なデビッド・フォスターと組んで書いたもので、参加アーティストはニール・ヤング、

ジョニ・ミッチェル、ポール・アンカ、アン・マレーなど59名にものぼります。

もちろんコリー・ハート、ラヴァー・ボーイのマイク・リノ、バートン・カミングスなどの名前も

見られるほか、ソロの一番手で聞こえるのはゴードン・ライトフットでしょう。ロニー・ホーキンズ

のような懐かしい名前もあります。

 

WE ARE THE WORLD / USA for AFRICA

United Support of Artists for AFRICA (USA for AFRICA)計51名によって

レコーディングされ、シングル曲として、すでに全世界的にヒット中のナンバーです。

このプロジェクトの話が持ち上がった’84年のクリスマス休暇中に、ロスアンジェルスの

エンシノにあるマイケル・ジャクソンの家で、ライオネル・リッチーとマイケルによって作られた

ナンバーで、マイケルのお姉さんラトーヤの話によりますと、時には午前2時頃まで

熱心に話し合いながら、ふたりは曲作りに没頭していたと云うことです。そして、

いよいよこの曲がレコーディングされたのは、折しもアメリカン・ミュージック・アワードが

行われた1月28日夜9時から、ロスのA&Mスタジオでのこと。ライオネル・リッチーと

シンディ・ローパーは、そのアワードの会場から直接スタジオに入り、ブルース・

スプリングスティーンは、折しも公演中のニューヨーク、シラキュースでのコンサートを

打ち上げて飛行機に飛び乗り、スティービー・ワンダーはフィラデルフィアから悪天候を

ついてL・Aへ。ジェームス・イングラムはロンドンから駆けつけたのでした。そして、

コーラス・パートが終わったのは午前3時。最後のソロ・パートを取り終えたのは

午前8時。ダイアナ・ロスは感動のあまり床に座り込んで、大粒の涙をこぼしていた

と云うことです。メンバーの詳細についてはクレジットをご参照頂くとして、ソロ・ヴォーカル

の順序だけをざっとしるしておきましょう。ライオネル・リッチー/スティービー・

ワンダー/ポール・サイモン/ケニー・ロジャース/ジェームス・イングラム/ティナ・ターナー

/ビリー・ジョエル/マイケル・ジャクソン/ダイアナ・ロス/ディオンヌ・ワーウィック/

ウイリー・ネルソン/アル・ジャロウ/ブルース・スプリングスティーン/ケニー・ロギンス/

スティーブ・ペリー/ダリル・ホール/マイケル・ジャクソン/ヒューイ・ルイス/シンディ・

ローパー/キム・カーンズ/ボブ・デュラン/レイ・チャールズ/スティービー・ワンダーと

ブルース・スプリングスティーン/ジェームス・イングラム。アメリカを代表するキラ星の

ようなアーティストが、それぞれこの歌を完全に自分の物にして歌い切っているところは、

本当に見事ですね。                                      

 

日本人である私たちも、音楽ファンとして、このアルバムを買うことによって、この

USA for AFRICAのプロジェクトに参加したことになります。お友達にも、

ドネーション・レコードは、貸さない、コピーさせない、転売しない、という運動を、是非

広めて下さい。私もこのアルバムでの原稿料を、ささやかながらドネーションに

したいと思っています。                               

 

’85年3月27日 湯川れい子

 

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