2000年ダイジェスト


世紀末の一騎打ち

チャンピオン争いの地,鈴鹿の空は曇っていた.

風は海から吹いている. 小粒の雨が降る.

40周目にピットイン. フェラーリチームからの指示は,そう出ていた. スタートして以来目の前を走り続けているM.ハッキネンは37周目にピットへ入っていった. M.シューマッハとM.ハッキネンとの差は3秒もある. その差を,M.シューマッハは,次の,最後のピットインまでに縮めなければならない. 懸命に飛ばしていた.

しかし,ピットへの入り口に差し掛かったとき,悪夢を見た. 目の前でベネトンのA.ブルツがスピンしている. かろうじて避けたが時間は失った. 最後のピットインでの逆転はダメかと,M.シューマッハは思った.

2000年シーズンはM.シューマッハの快進撃で始まった. 開幕以来3連勝である. フェラーリは,シーズン序盤,パフォーマンスより信頼性をあげることに重点を置いていた. 対するマクラーレンは,「いつもの信頼性不足」に悩まされていた. パフォーマンスはすばらしい. しかし,もろい. 開幕2戦,マクラーレンはノーポイントで終わっている.

ようやくポイントを取ったのは第3戦サンマリノGPであった. 翌イギリスGPではD.クルサードが今シーズン初優勝. このころ,M.ハッキネンのパフォーマンスは明らかにチームメイトに劣っていた. 今シーズンのマシンはD.クルサードにとって扱いやすいものだった. マクラーレンは第10戦オーストリアGP前にマシンを改造,このGPでM.ハッキネンは優勝する.

ここからM.ハッキネンの逆襲が始まった. 次戦のドイツGPではトップを走りながらも観客がコースに進入するという珍事と決勝後半での雨で優勝を逃がしてしまった. しかし第12戦ハンガリーGPと第13戦ベルギーGPで優勝すると,ついにM.シューマッハを抜いてランキングトップに立つ.

このころM.シューマッハは悪夢のまっただ中にいた. 第8戦カナダ以来勝っていない. 勝っていないどころか,第9戦フランスGPでエンジンから白煙を吹いてからは,第10戦オーストリアGP,第11戦ドイツGPと立て続けにスタート直後のクラッシュでノーポイントに終わっていた.

M.シューマッハは焦っていた. 第13戦ベルギーGPではマクラーレンとの圧倒的なパフォーマンス差を見せつけられた.

40周目,M.シューマッハ,M.ハッキネンの順番でオールージュを抜けた. フェラーリはレコムまでのケメルストレートでスピードがのびない. 一周前は,きわどいブロックでなんとかM.ハッキネンを押さえた. しかしこの周はM.シューマッハの前に周回遅れのR.ゾンタがいた. M.ハッキネンがM.シューマッハの背後に迫っていた.

2車線のケメルストレートの終わり,M.シューマッハは周回遅れが右車線を走っているためマシンを左にふった.

この瞬間,フェラーリのバックミラーからマクラーレンの影が消えた.

M.ハッキネンは目の前にいた. 右車線のBARの,さらに右側に道を見つけていた. 時速330kmオーバーでの,3台のサイドバイサイドで勝ったのはM.ハッキネンだった.

フェラーリの完敗だった. M.ハッキネンをトップにするランキング差は,広がった.

もはやシーズンはこれまで,結局フェラーリは今年もダメ…… とは行かなかった. 第14戦イタリアGP,第15戦アメリカGPで連勝,M.シューマッハはランキングトップに返り咲いた.

チャンピオン争いは,今年も鈴鹿まで持ち越された.

予選からM.ハッキネンとM.シューマッハのポールポジション争いは熾烈を極めた. M.シューマッハがトップに立つとM.ハッキネンが逆転する. 両者がコントロールラインを横切る度に,客席のM.シューマッハファンとM.ハッキネンファンが交互に騒いだ. M.シューマッハは3回目のアタックで1:35.825を叩き出した. その後のM.ハッキネンの4回目のアタックは1:35.834だった. 1000分の9秒差でM.シューマッハに破れた.

「どちらがポールを取ってもおかしくなかった」とM.シューマッハは言う.

決勝を迎えた.

スタートで,M.シューマッハは大きくマシンを右にふった. 明らかにM.ハッキネンを意識している. M.ハッキネンはまっすぐ1コーナーを目指した. 1コーナーはM.ハッキネンが取った. それからしばらく,M.シューマッハはM.ハッキネンの後ろを眺め続けた.

22周目,M.ハッキネンがピットを目指した. その一周後,M.シューマッハがピットに入った. 両者一回目のピット作業を終え,差は3秒ほど. フェラーリは2回目のピットに賭けた.

M.ハッキネンは37周目にピットに入ってきた. 運が悪いことに,このころ雨が強くなってきた. タイヤ交換後はタイヤ温度が低い. さらに雨である.

ニュータイヤは濡れた路面でまったくグリップしなかった

とM.ハッキネンは後に語る.

M.シューマッハは次の自身のピットインまで飛ばし,M.ハッキネンまでの差を縮め,さらには逆転したい. 濡れた路面の上を懸命に飛ばした.

ピットインのため,ピット入り口に来た. 目の前にはベネトンのマシンがスピンしている. いままで稼いだ時間が飛んでいった.

ピットクルーは緊張しながらも,仕事を無事に終えた. ピットレーンの制限速度80kmがもどかしい. M.シューマッハの目線からはピットウォールが邪魔になりコースの状況がわからない. ピットクルーはピット上の大型スクリーンを見上げた. みな,M.ハッキネンの位置が気になっていた.

M.シューマッハがコースに戻った.

そのころM.ハッキネンが最終コーナーからストレートに戻ってきた.

逆転成功!

ピットから歓声があがった.

終盤,M.ハッキネンは限界の走りを見せてM.シューマッハに迫るも逆転ならず. そのままフェラーリは真っ先にチェッカーを受けた.

フェラーリ21年ぶりのドライバーズタイトル獲得!

そのころ早朝のイタリア,悲願の達成に喜びを爆発させていた.

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