1998年ダイジェスト


マクラーレンのパフォーマンス

安全性,追い抜きシーンの増加をねらい,FIAはレギュレーションを大幅に見直した. スリックタイヤを禁止しマシンの幅を20mmに縮小する. このレギュレーションのもとで開発されたマシンがオーストラリアに集合した.

開幕戦の最初のセッションM.シューマッハがトップを奪った. しかし,次のセッションからはマクラーレンが圧倒的な速さを見せつけ,予選の結果,マクラーレンはフロントローを独占してしまった.

決勝は,M.ハッキネンを先頭で1コーナーに進入し,始まった. D.クルサードがその後ろをつけている. 序盤でM.シューマッハが脱落するとマクラーレン勢を攻めるものはいなくなった.

中盤,M.ハッキネンが突然ピットに入ってきた. 無線連絡の混乱が原因だった. これでM.ハッキネンを前にしていたD.クルサードが労せずトップに立つ. M.ハッキネンはD.クルサードを猛追した. 2台の差はみるみるうちに縮まっていった. しかし抜くまでにはいかず,D.クルサード優勝,M.ハッキネン2位そのままの順位でチェッカーを受けるものと誰もが思っていた.

突然,56周目のストレートでD.クルサードがスローダウンし,M.ハッキネンを先行させた. 実はドライバー間で,1コーナーに最初に入った者が前でフィニッシュするという取りきめをしていた. 開幕戦の勝者は最初の1コーナーで決まっていたのだ.

開幕戦で次元の違うパフォーマンスを見せつけられた他のチームは,この異常なまでのパフォーマンスは彼らが搭載しているブレーキシステムが原因で,4WSを規制する条項に違反するとしてスチュワードに抗議した. マクラーレンが搭載しているブレーキシステムは,コーナリングの際コーナー内側のタイヤに制動力を与えマシンの回頭性を良くする. これをレギュレーション違反だとして,フェラーリをはじめ複数のチームが抗議した. しかしR.デニスは,FIA技術委員の許可を得て開発したと反論する. そしてスチュワードの判定は……クロと出た. 以降,新しいブレーキングシステムは使用できなくなった. マクラーレンは羽をもぎとられてしまったのか?

ブラジルGP決勝が始まると,新ブレーキングシステムがなくても十分に速いことをマクラーレンはアピールしてしまった. 結局,マクラーレンは開幕以来連続して1-2フィニッシュを遂げた.

M.シューマッハの猛追

第3戦アルゼンチンGP.

ブリヂストンは開幕以来,幅の広いフロントタイヤを使用していた. グッドイヤーの開幕2戦は,空力やサスペンションセッティングのことも考えて従来どおりの幅のフロントタイヤだった. そのグッドイヤーが,アルゼンチンに幅広のフロントタイヤを投入してきた. その甲斐があったか,M.シューマッハがマクラーレンに勝つことができた.

フェラーリは,毎戦あらゆる部分に手を加えマクラーレンを追いかけ始めた. サンマリノGPではサイドポンツーン上にウィングを装着する. スペインGPでは排気管出口をマシン上部に置く上方排気システムを導入する. その努力が実ったか,カナダ−フランス−イギリスとM.シューマッハは3連勝を達成,第9戦終了時点で首位のM.ハッキネンに対して2ポイント差まで詰め寄った.

第10戦オーストリアGP.

流れを変えたいM.ハッキネンを先頭にレースは始まった. 直後はM.シューマッハが猛追する. 常に牽制し,そして互いにファステストラップを叩き出しながらの神経戦だった. 先に潰れたのはフェラーリだった. M.シューマッハが最終コーナーでコースアウトしてしまう. 対するM.ハッキネンは優勝だ. 続くドイツでもM.ハッキネンが優勝した.

これでM.ハッキネンは,離れつつある流れを強引に引き留めることができたのか? M.シューマッハは流れを掴みそこなったのか?

第12戦ハンガリーGP.

決勝は始まった. マクラーレンが先行し,M.シューマッハは懸命に追いかけた. M.ハッキネンはどんどん逃げていく. このままではM.シューマッハに勝ち目はない.

レース中に彼は3回ピットストップへと作戦を変更する. ピットからは19周で25秒かせぐように指示してきた. 毎周,M.シューマッハは予選の走りを続けた.

M.シューマッハ,逆転優勝! M.ハッキネンとのポイント差を16ポイントから7ポイントに縮めた.

次戦のベルギーGPではM.ハッキネンが早々にリタイアした. 大雨で波乱の続く中,M.シューマッハは2位以下を後方に置き,独走で,優勝をほぼ手中にしていた. しかし,25周目にD.クルサードを周回遅れにしようとして彼に激しく追突してしまった. “タイトル争いの首位”が手の中からこぼれ落ちてしまった. M.シューマッハはD.クルサードがわざとぶつかったと感じ,激しく怒り,壊れたマシンをピットに戻すやマクラーレンのピットに怒鳴りこんだ.

ベルギーGP勝者はD.ヒルだった. ジョーダンチームにとっては初優勝の記念すべきレースになった.

M.シューマッハは,チームの地元イタリアGPで優勝を果たし,ポイントがM.ハッキネンに並んだ. 残り2戦を残して同ポイントだ. タイトル争いは,完全に振り出しに戻った.

ラスト2戦

第15戦ルクセンブルクGP.

追いつかれてしまったM.ハッキネンは予選3位だった. 彼の前には,ポールポジションのM.シューマッハと予選2位のE.アーバインという,フェラーリ陣営がしっかり固めていた.

レースはスタートした. M.ハッキネンはスタートでトップに躍り出るどころか,フェラーリ陣営の中に割って入ることもできなかった. E.アーバインがM.ハッキネンをブロック,M.シューマッハに先を急がせた. 14周目にようやくM.ハッキネンはE.アーバインをパスした. その時点でM.シューマッハとの差は8.5秒だ. M.ハッキネンは,この差を埋めることができるのか……?

しかし,それからのM.ハッキネンの追い上げはすさまじかった. ファステストラップを連発し,M.シューマッハとの差を縮めていく. そして,最初のピットストップで,ついに逆転に成功した.

後を追うM.シューマッハを巧みにかわし,真っ先にチェッカーフラッグを受けた. これで,M.ハッキネンとM.シューマッハとの差は4ポイント. コンストラクターズタイトル争いでは,マクラーレンとフェラーリとの差は15ポイント. マクラーレン・M.ハッキネン有利の状況で,決着は,最終戦日本GPまで持ち込まれることになった.

M.シューマッハは,優勝しなければならない状況だった. それに対してM.ハッキネンは2位以上でチェッカーを受ければタイトルを獲得できる. M.シューマッハにとっては不利な状況で日本GPは始まった.

M.シューマッハがポールポジションを獲得した. その横にM.ハッキネンが並ぶ. タイトルを狙う二人がフロントローに並んだ. スタート直後の1コーナーに注目が集まったが,話は思わぬ方向へ進んでしまった.

スタート直前にM.シューマッハのエンジンが止まってしまった!

これでM.シューマッハは最後尾からのスタートで,M.ハッキネンがますます有利な状況になった.

スタート!

M.ハッキネンは快調に周回を重ねる. その後方からは,とんでもないスピードでM.シューマッハが迫ってきた. オープニングラップだけで21位から12位へ! そして,3位にまで上り詰めていった. しかし,31周目. ホームストレート上でM.シューマッハの,フェラーリの,ティフォシたちの夢が砕け散った. タイヤバースト. それは前年の最終戦で初優勝したM.ハッキネンの,タイトル獲得の瞬間だった. チェッカーを真っ先に受けたのもM.ハッキネンだ. 鈴鹿の観客席から無数のフィンランド国旗がはためいていた.

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