J.M.ファンジオはマセラーティに移籍した. そしてインディアナポリス500マイルレースを除くと開幕3連勝と快調にポイントを稼いでいた. この年のチャンピオンもJ.M.ファンジオが獲得するのは明らかだった. こうなると,問題は,いつチャンピオンを獲得するのかしかなかった.
第6戦ドイツGP,コースの路面改修が施され,それまでのコースレコード9'41.6を上回ることは予想されていた. 事実,ポールポジションのJ.M.ファンジオは9'25.6と,あっさりとレコードを樹立してしまった.
ファンジオの乗るマセラーティは,ロードホールディングに優れていたために予選では有利だったが,実は磨耗が激しかった. タイヤを無交換でレースを走りきることはできない. 対するフェラーリのタイヤは,ロードホールディングは劣っていたがタイヤ交換をすることなくレースを走り切れそうだった. 1度はタイヤ交換をしなければならないマセラーティは,スタート時の燃料を半分にして,序盤にフェラーリに対して大きくリードし,ピットインの時間を稼ぐ作戦を採った.
レーススタート! しかし,早くもJ.M.ファンジオの思惑は外れた. フェラーリ2台に先行を許してしまった. 3周目になってようやくフェラーリをかわすことができた.
12周終了時,懸命に飛ばすJ.M.ファンジオとフェラーリとの差は28秒. ここでピットインした. マセラーティのクルーは必死で作業をしたが,若干手間取り,ピットアウトしたときにはフェラーリが50秒も前を走っていた. さらにピットアウト後,J.M.ファンジオのペースが上がらなかった. 残り周回数を考えると,フェラーリを逆転するには1周につき7秒ほど追い上げなくてはならない. レース序盤のJ.M.ファンジオは1周につき3秒ほどしかフェラーリを離すことができなかった. これでは逆転されることはないと判断したフェラーリ陣営は,2台に“スロー”のサインを送った.
しかし,ここからJ.M.ファンジオの反撃が始まった!
ニュルブルクリンクのコースは,1周走るのに10分ほどかかる. フェラーリがJ.M.ファンジオの反撃を知るまでにかなりの時間を要した. 50秒近くあった差が,たったの2周で25秒にまで縮められたのだ. 焦ったフェラーリ陣営は2台にペースアップのサインを送ったが,反撃の手は止まらなかった.
18周目 ファンジオのラップタイム9'25.3 フェラーリとの差20秒
19周目 ファンジオのラップタイム9'23.4 フェラーリとの差13秒
20周目 ファンジオのラップタイム9'17.4 フェラーリに追いついた!
そして21周目,フェラーリ2台は抵抗を試みたが,まとめてパスされてしまった.
ファンジオが優勝した! この優勝により,J.M.ファンジオはこの年のチャンピオンを獲得した.