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すいかの匂い
江國香織/新潮文庫 お薦め度:★★★☆☆

あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいに――バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い。無防備に出遭ってしまい、心に折り込まれてしまった事ども。おかげで困惑と痛みと自分の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。(文庫より)

江國香織の作品は、どれもこれも平均点以上なので、読む本がなくなって来るとついつい手にとってしまいます。が、この作品集は、私自身はあまり好きになれませんでした。

いつもと変わらず「うん、その感覚わかる、わかる」のオンパレードなんですが、この作品集で取りあげられている『その感覚』というのが、私にとっては決して心地の良いものではなかったからです。

たとえば、青春時代を扱った小説を読んだ時。たいていそこには恋に関する話題のひとつやふたつあって、読んでいる私もその頃を思い出して、うっとりと懐かしんだりするものです。たとえ当時、それが大失恋の不幸な出来事であったとしても、時の経過とともに美しい思い出に浄化されている場合が多いので、そこに苦痛は感じません。ただひたすらに懐かしいのです。

ところがこの作品集で取りあげているのは、だいたい小学生くらいの少女の記憶。駄目なんですねぇ、この頃のことを思い出させられてしまうと、なんか心の中に茶色いインクがひたひたと染みて来るかのような居心地の悪さを覚えてしまいます。

幼い頃というのは、えてして残酷です。たとえば何の抵抗もなく虫を殺すことだってできる。可哀想と思う反面、心の隅っこで楽しんでいる自分がいた……。そういう今となっては思い出したくもいなような些細な、けれども居心地の悪い記憶が、この作品を読んでいると心の表層にくっきりと浮かび上がって来るのが、私にはちょっと耐え難いものがありました。

ただ、少女の頃の感覚を思い出したいと思っている方には、むろんこの本はお薦めです。作品自体は良くできていますし、文章もとても綺麗で、無駄がありません。

この本に手を伸ばすか、伸ばさないか……。それは読み手の好みひとつかもしれません。

(00.11.26)
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