毎日新聞 2006.1.30 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/mori/archive/news/2006/01/20060130ddm004040153000c.html
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日系南米人の教育問題 公教育なじめず中退多数 国の対策、これから
増え続けるブラジルやペルーからの日系人労働者たち。家族
で渡日するケースも多いが、子どもたちの教育問題は長く放置
されてきた。公教育の場になじめず、小、中学校を中退する例
は後を絶たない。逆に適応した子どもは「日本人化」が進み、
親子の会話が成立しなくなる例もある。子どもたちを取り巻く
問題に対する、いくつかの取り組みを取材した。【中村一成】
◇民間が学習支援
☆母国語と日本語
午後4時過ぎになると、滋賀県草津市のJR草津駅近くの公
共施設に子どもたちが集まってくる。学習支援グループ「子ど
もくらぶ『たんぽポ』」の参加者だ。設立されたのは99年。
言葉や習慣の違う日本の学校で自尊心や自信を傷つけられた子
どもが再び飛び立つ、そんな願いを名前に込めた。
取材に訪れた日は、5人のブラジルの子どもたちが出席して
いた。約80平方メートルのホールで、一人の男児が三角形の
合同条件について学び、傍らで男児と女児計4人がポルトガル
語を学ぶ。机の上に身を乗り出し、ブラジルの地図を基に説明
を受けている。「ブラジルに日本は何個入るかな」。「Vin
te e tres(23個)」。先生がポルトガル語を言っ
た後、「23個」と繰り返すと、「えー! おっきいな」と日
本語の歓声が上がった。
「初めのころは渡日直後の子が入れ代わり立ち代わり来てい
た。今は日本暮らしの長い子や日本生まれの子が中心で、顔ぶ
れも決まっている。でも不就学がなくなったわけじゃない」
「たんぽポ」代表の小寺桂輔さん(25)はそう話す。最近
では、父母も、日本語より母国語の学習を希望する傾向があり
今では主にポルトガル語と学校の勉強を支援する。
◇課程の研究、不就学の実態調査
☆乏しい将来展望
政府の立場は、外国人の公教育への受け入れは義務ではなく、
希望すれば認める許可で、基本は「適応指導」だ。92年、香
川県善通寺市で、地元市教委がブラジル人の受け入れを「準備
が出来ていない」と事実上、拒否した問題は、その発想が極端
な形で表れた例だ。89年の入管法改定で、日系人と配偶者ら
の受け入れが始まってから15年が過ぎたが、政府の対策は教
育課程の研究や不就学の実態調査がようやく緒に就いたばかり。
義務教育課程を中退し、働きながら成人した人の中には、ポル
トガル語も日本語も読み書きできない人もいる。
「たんぽポ」メンバーのリリアン・テルミ・ハタノさん(3
8)は将来展望の乏しさを指摘する。「50人以上が『たんぽ
ポ』に来たけど、高校進学者は数人程度。苦労して高校を出て
も、親と同じ工場で同じ賃金で働く子もいる。日本社会が彼ら
に望む社会的階層は決まっているとすら思える」
◇独自に取り組む自治体も
☆全戸に手紙、訪問
一方で、多くの日系人が暮らす自治体の中には、独自の取り
組みに踏み出すところも出てきた。愛知県と隣接した岐阜県中
南部の可児市。油圧機器メーカーがある影響などで、今では人
口の6%以上が外国籍で、うち7割をブラジル人が占める。可
児市は03、04年の2年間、就学年齢の外国人の子どもと親、
教育関係者を対象にアンケートを実施。結果、約7%が公私立
学校も外国人学校にも通っていない不就学者と分かった(実態
不明も約3割)。そこで市は市教委の分室「ばら教室」をつくっ
た。日本語の壁がある子に、就学前の初期教育をする場だ。
「南米の人たちの不就学について、親の教育意識を指摘する
人もいますが、分かるまで説明していないことも大きいんです」。
田中信治・同市教委学校教育課長は話す。市は、外国人登録時
に教育委員会に行くよう徹底、さらには定期的に登録と学籍簿
をすり合わせ、全戸に手紙を出したり、家庭訪問をした。
中心で施策を進めるのは同教委の外国人児童生徒教育コーディ
ネーターの小島祥美さん(32)。「家庭訪問すると、父親が
いた。『日本の学校に通っても無意味では』と言っていたけど、
じっくりと説明したら『行かせる』と。翌日、教室が開く30
分も前の朝8時ごろに子どもと2人で教室の前に立っていまし
た。そんな人は何人もいます」
教室内ではカードを使った算数の授業をしていた。部屋に机
と椅子を並べ、十数人の生徒が座っている。「3+□=10
?」。担当者がカードを掲げると、「なな」の声が元気よく響
く。
通訳サポーター
他自治体で不就学だった子が教室に通っているケースも多い。
笑みを絶やさない女子(14)もその一人だ。12歳でブラジ
ルから渡日、滋賀県内の中学校をやめ、13歳で早朝から夜ま
で工場労働をしていた。今では妹を連れて教室に通う。欠席を
したことはない。
市は「ばら教室」修了後のフォローにも取り組む。昨年度か
ら、教員と児童・生徒をつなぐ通訳サポーター制度を始めた。
全校生徒約410人の1割以上がブラジル人の市立土田小には、
日系ブラジル人のマルセロ・義高金林(よしたかかなばやし)
さん(21)が毎日5時間、在校する。「日本語が話せないも
どかしさを分かりやすく伝え、子どもの将来を広げたい」と目
を輝かせる。
昨年4月から、市立中学1校が、選択授業でポルトガル語を
開始、現在はブラジル人と日本人12人が机を並べる。「授業
ではブラジル人が日本人に教えることも多い。普段の関係が逆
転するんです。自分のルーツがステータスになる場で目を輝か
す子どもを見ると、日本社会の中で、違う言葉や文化を持つ子
どもたちの自尊心がいかに揺らいでいるかを痛感します」。そ
う小島さんは話している。
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学齢者3万人超す
89年の入管法の改定(90年施行)で、日系人とその配偶
者らには職種制限のない定住ビザが出るようになり、日本に定
住する南米出身者が増えた。04年末現在の外国人登録者(約
197万人)に占める南米出身者の割合は約35万8000人
(18・2%)。うちブラジル人約28万7000人。ペルー
人約5万6000人で、95年と比べそれぞれ約11万人、約
2万人増えた。文部科学省によると、南米出身の学齢期者は3
万人を超えていると推計されている。