イチオシ映画・第一集

ここでは知名度の高い作品中、ビデオやDVDで手に入りやすいものを紹介しています。

●其の壱『血煙高田馬場』(1937/マキノ雅弘)
●其の弐『百萬両の壺』(1935/山中貞雄)
●其の参『旗本退屈男』シリーズ
●其の四『鴛鴦歌合戦』(1939/マキノ雅弘)
●其の五『忍者狩り』(1964/山内鉄也)
●其の六『鞍馬天狗・角兵衛獅子の巻』(1951/大曽根辰夫)
●其の七『一心太助・天下の一大事』(1958/沢島忠)
●其の八『水戸黄門・天下の副将軍』(1959/松田定次)
●其の九『次郎長三国志』シリーズ(1952〜1954/マキノ雅弘)
●其の拾『斬る』(1962/三隅研次)
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イチオシ映画・其の拾
色気とは何か? ということについては物心ついた時から日夜考え続けてきた。
漫画家として飯を食い出した時から、ロリコンもJUNEもレディースも、浣腸も緊縛も、男同士も女同士も、馬だろうが宇宙人だろうが、ろくでもないエロシーンを20年間も描いてきた。その中でつくづく感じたことは、”禁欲”こそが色気の最たるものであるということだ。
早い話、やったらお終いなのである。読者は、観客は、より強い刺激を求めてくる。そんな劣情に合わせていたら”色気”は光年の彼方だ。
今回はこのイチオシ映画も十本目。色気と美しさがすべてにおいて優先する時代劇を紹介しよう。
『斬る』(1962・三隅研次)
傑作である。どのくらい傑作かというと、新宿TUTAYAでは借りることは永遠に不可能かと思われるほど常にレンタル中である。
三隅研次の『剣』三部作―――『斬る』(1962)『剣』(1964)『剣鬼』(1965)―――の最初の一本で、原作は柴田錬三郎。脚本は新藤兼人。

まず初っ端から藤村志保の腰元がお部屋様を暗殺するというシーンから始まる。藤村志保の迫真の演技で引き付けられる。
すぐに画面が変わって腰元の処刑のシーン。処刑される女が微笑み、剣が陽光にきらめき介錯する男と目を交わす。男は愛しく女を見つめ剣を振り下ろす。
そして赤ん坊の泣き声。悲運の子の運命が始まったのだ。
この緊張感漂うオープニングが終わると、いきなりぽけ〜〜〜っとした主人公・高倉信吾が現れる。市川雷蔵である。
観客は雷蔵のその穏やかさと優しさと上品さにほっとする。まさに緊張と緩和である。この穏やかな信吾(雷蔵)がすべてを失い邪剣とともに宿業の道を歩む。
その演出はまさに禁欲とエロスの美。ーー母役の藤村志保の処刑される瞬間の恍惚の表情。無邪気な妹役の渚まゆみ。そして、胸元に流れる一筋の赤い血、万里昌代。
妻をめとらないという信吾に剣友が聞く『誓いを立てた女でもいるのか?』『居る。三人居る。みな死んでいる』
信吾は大目付の護衛役になって暗殺者の群れを斬りまくる。
梅の香り。鶯の声。静かでうららかな日。
息子を亡くした老人と、孤独な信吾の間に心の交流が生まれる。幸せと破局の予感。
そして緊張感と静けさが支配する名クライマックスシーンに突入する。

母の良人役に三隅監督のお気に入り役者、天知茂。
これ全身色気の固まりで(笑)禁欲的な雷蔵と対をなしてぴったりである。三隅の『眠狂四郎無頼剣』(1966)『座頭市物語』(1962)でもライバル役で登場するが、どれもまだスマートで美しい頃で、名演技である。
雷蔵については私がいまさら言うまでもない。眠狂四郎で有名な38歳で亡くなった伝説のスターである。「キザで歯の浮いたセリフを吐いて女を脱がすだけのアイドルじゃないか」とか、「どこがニヒルなんだ。橋幸男にしか見えない」とか、アイドルということで偏見を持っている方がいるかもしれないが、ーー”美しさ”は”演技”から生まれるものだ。そして”色気”も”演技”の中にあるものなのだ。偏見を捨ててこの『斬る』を見て欲しい。この高倉信吾役は市川雷蔵だからこそ演じ得たと自信を持ってお薦めする。

『斬る』は大映ビデオから出ています。
展開も早く、時間も短く、手軽な娯楽としても楽しめて時代劇ファンだけでなく映画ファンも必見。雷蔵&三隅のこの『斬る』こそ、美しさと色気がすべてにおいて優先する時代劇の傑作だ。71分。
2001/2/1更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の九
初心者向けが3本続いたので、ここらで上級者向けを紹介する。なぜ上級者向けかというと、この作品は時代劇見始めの頃は面白く感じない。ところが300本目くらいにこれを見ると思わず「天才!」とうなってしまう。観客側に熟練の業を要求する娯楽映画である。
『次郎長三国志シリーズ』東宝版(1952〜1954・マキノ雅弘)
次郎長物は戦前から数多く作られてきたが、マキノ雅弘のこのシリーズが映画史上最も名高い。
清水の次郎長という売り出し中のヤクザものの一家に、はみ出し者の仲間が順に集まってくる。それが8作にわたって描かれる。このシリーズは最初から順番にまとめて8本観なくては面白さが解らない。しかもお話が何もない(笑)しかも未完で、内容は全部いっしょである。
ほら、上級者向けでしょう?(笑)
とにかくみんな酒を飲んでいる。みんなえんえん酒を飲んでうだうだしゃべって何もしない。唄って踊って「踊っているうちに夫婦になるんだよ」とか言っちゃって。シラフになって話が始まるころにはもう中盤に差し掛かっている。で、一応事件らしきのもが起こって、やっと出入りだ。一家全員で長ドスを抜いた。わ〜〜〜っと駆けていく。さあ、クライマックスだ!と思ったとたんにど〜〜んと『終』の文字が現れる。
あらら?次回に続くのかしら?と思って次の作品を見ると、やはり次郎長一家が飲んでいるところから始まって「いやあ、あの出入りは凄かったなあ」(爆!)…で、また同じことの繰り返し。
これがえんえん8本続く。
『次郎長売り出す』(1952)のシリーズ第一作目から。『次郎長初旅』(1953)、『次郎長と石松』(1953)、『勢揃い清水港』(1953)、『殴り込み甲州路』(1953)、『旅がらす次郎長一家』(1953)、『初祝い清水港』(1954)。
そしてシリーズ最高傑作、若き森繁久弥の石松が主人公の『海道一の暴れん坊』(1954)の8本である。
こんな物のどこが面白いんだ!?といわれると説明が難しい。
ただ私は毎日毎日邦画を見続けている。さあ今日は理屈っぽい今井正か?わけのわからん中川信夫か!?と選ぶとき、「もう頭使いたくない!」というとき、マキノ雅弘の『次郎長三国志』が心の友になってくれる。
大した事件は何も起こらない。一家の仲間がクダ巻いているだけだ。ところがそれがず〜っとロングで撮ってあるので、たいしたことが起こらなくてもいいのだ。二人っきりになってアップになっただけで大事件である。次郎長役の小堀明男をはじめ役者達も息がぴったりで、次郎長一家に入って同じ空気を吸ってみたくなる。この空気!この雰囲気!
ーーTVがない時代、娯楽映画の使命は完成度とは別のところにあった。
正月にお屠蘇気分で映画館に入る時、わけのわからない世の中に疲れた時、マキノ雅弘の映画は『こっちへ来ていっしょに飲みなよ』と誘ってくれる。そして疲れた人を幸せな気分にしてくれるのだ。
マキノ雅弘はカンヌでグランプリは獲れないかもしれない。が、この監督の仕事を『七人の侍』(1954/黒澤明)の賞とりのために邪魔することはない。『殴り込み甲州路』はクライマックスと言うときに”ブタマツコロセ”の電報がやってきた。豚松役の加東大介は撮影中に引き抜かれて、マキノ雅弘はシナリオなしでラストを撮ったという。
外国向けに作った時代劇もそれは良く出来ていて美しいが、日本の庶民のために作った『次郎長三国志』の美しさももっともっと評価されて良い。とくに『海道一の暴れん坊』の藤の花をさっと切って、『お藤ってんだ』のくだりから「笑っているのに泣いているような・・・そんな女の目が黙って俺を見つめている・・・」の名セリフにはアホの純情ぶりに胸がじ〜〜ん。
生涯に260本もの低予算早撮り娯楽映画を作り続けたマキノ雅弘のその才能!その自信!まさに日本映画と共に生きたマキノ雅弘こそ20世紀を代表する映画監督である。

『次郎長三国志』シリーズはキネマ倶楽部出ています。(2002年まで出ていました。現在は販売停止状態)酒飲みとヤクザの好きな方、『海道一の暴れん坊』だけでも何かの機会に観て下さい。自称映画通は8本必見!
2001.1.1.更新2004/5/1/再更新
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イチオシ映画・其の八
いよいよ年も押し迫ってきた。もう休みに入った大学もあるかもしれん。さて今回はこの不況の折り、どこにも出かけず経済的に、正月休みにレンタルビデオで借りてきて子どもからお年寄りまで御家族みんなでのんびり楽しめる作品―――極めつけ月形龍之介主演『水戸黄門・天下の副将軍』を紹介する。

『水戸黄門・天下の副将軍』(1959・松田定次)
『水戸黄門』といえば助さん角さんを引き連れて諸国を漫遊する爺さんで、カッカッカと笑い、47分目に印篭を出す例のアレである。
が、そういうパターンになったのはTVの東野英治郎版からで、私は月形龍之介が印篭を出したのは一度も見た事がない。他の役者のをすべて調べたわけではないから断言は出来ないが、大河内伝次郎版でも印篭は見かけなかった。
水戸黄門はおそらく目玉の松チャンも演じただろうが、映画史的には1926年の山本嘉一の水戸黄門が一番初めに注目された黄門である。この時の助さん角さんはバンツマと千恵蔵だった。
以来、―――大河内伝次郎、市川右太衛門、月形龍之介、古川緑波、中村雁治郎、長谷川一夫、森重久弥、東野英治郎、徳川夢声、澤村国太郎、柳家金語楼ets―――さまざまなスターとコメディアンが水戸光圀を演じたが、月形龍之介の黄門が文句なくナンバーワンである。その証拠に東映時代の『水戸黄門』シリーズはなんと14本も作られた。
が、やはり一度も印篭は出していない。だいたい月形・黄門には印篭など必要ないのだ。
TV版の『水戸黄門』しか見ていない人は月形・黄門を見たらびっくりする。親しみある優しい御隠居さんなどではない。なにしろ月形はどんな大スターが相手でもびくともしない悪役役者の頂点に君臨するお方なのだから、その黄門に「ひかえい!」などと睨み付けられるともう悪代官だろうが観客だろうがビビってしまう。小柄な爺さんのくせに威厳と気品に満ちていて眼光鋭く、剣を抜けば強い!恐い!印篭なんかいらない。
そもそも月形の『水戸黄門漫遊記』シリーズは相手が人間ではない。敵は狒々や大蛇やゴリラだから印篭は通用しないのだ。『水戸黄門漫遊記・人食い狒狒の巻』(1956/伊賀山正光)という傑作があるが、月形が一人で狒狒と闘ってやっつけてる。助さん角さんだっていらない。バケモノ映画として作られたものであるが、月形が狒狒相手でも風格ある演技をしているので一見の価値がある。本当はこれをイチオシ映画にしたいのだが残念な事にビデオ発売はされていない。ちなみに『怪力類人猿の巻』というのもある(笑)類人猿の中身は初代・丹下左膳の団徳麿である。

さてさて、カルトなものは置いといて(笑)御家族みんなで楽しめるのは東映若手オールスターの『水戸黄門・天下の副将軍』である。B級バケモノ漫遊記の評判が良かったので東映NO・1監督・松田定次で撮られた。松田監督はマキノのサイレント時代から「オッサン」「サァちゃん」と呼び合う仲。月形の一番美しい表情を撮るのも松田定次&カメラ・川崎新太郎だ。
物語は月形×錦ちゃんの親子の情愛物で、ゴールデンコンビの息の合った演技がたっぷり堪能できる。蔵の中で熱く見詰め合ったり、膝枕したり(笑)もう赤面もの。助さん角さんが東千代之介と里見浩太郎で、娘役に丘さとみ。月形と大河内伝次郎のやり取りも楽しめて美空ひばりも唄ってくれる。セットも衣装も豪華絢爛、楽しく、血なまぐさくなく、まさにお正月休みに御家族全員で楽しめる娯楽大作に仕上がっている。
月形の黄門があまりにも評判だったので、TVでは代々演技派の悪役役者が水戸光圀を演じる事になった。衣装デザインも月形・黄門のものが受け継がれた。これは大正解で、シリーズはいまもって果てしなく続いているのは皆さんご承知の通りである。

『水戸黄門・天下の副将軍』(1959・松田定次)は東映ビデオから出ています。TVの黄門様しか見た事のない人、これが本当の黄門様だ!黄門ファン必見!
2000・12・3・更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の七
さて、いよいよ東映城のゴールデンコンビと言われた月形×錦ちゃんを紹介しよう。ゴールデンというくらいだから、この二人のコンビの映画は大入り満員大ヒット。現代ならオンリーイベントが開けるくらい月形×錦ちゃんのヤオイ本が作られたろう。
それほど二人は映画の中で見詰め合ってはラブラブ光線を放射し続けたのだ。

『一心太助・天下の一大事』(1958・沢島忠)
一心太助・中村錦之助と大久保彦左衛門・月形龍之介コンビの『一心太助シリーズ』の第二作目である。
このシリーズは『江戸の名物男・一心太助』(1958・沢島忠)が第一作で、錦ちゃん主演で4作目まで作られたが、今回は最も初心者向けのカラー作品『一心太助・天下の一大事』を紹介する。
時代劇のニューウェーブと言われた沢島忠の大ヒット作品。沢島忠は月形龍之介の引きで東映に入った。若い感覚のテンポのいい演出で今日見ても飽きる事ない。
脚本は沢島夫人でもある鷹沢和善。男に生まれていたらきっといい監督になったろう、だが当時は女性が監督として活躍する事は難しかった。初期の東映に貢献した渡辺邦男監督の右腕だった名スクリプターで、沢島忠と結婚してからは脚本だけでなく絵コンテも切っていたと言う噂の脚本家だ。とにかく和善の脚本はテンポがいいし、なにより女の子の元気が良く積極的に活躍する。

物語は詳しく解説するほどのものではない。見たほうが早い。キャラクターがすべて立っていて一目瞭然で悪人は悪人、善人は善人である。
御政道を正す天下のご意見番・大久保彦左衛門に月形。その一の子分で魚屋の一心太助に錦之助。彦左衛門を『爺』と呼んで愛でる家光も錦之助の二役。
事件を裁く松平伊豆守に山形勲。悪旗本は進藤栄太郎。
悪旗本に彼女を盗られた絶望の幸吉に田中春男。太助の長屋に押しかける女の子に丘さとみ。彦左衛門のおちょこちょいの用人に堺俊二などなど……。もう、どういう話かだいたい想像つくよね(笑)
「親分てえへんだあ〜〜!天下の一大事だあ〜〜!」と錦ちゃんの一声で、大東映城の海千山千の芸達者たちがたちまち物語に引き込んでくれる。

中村錦之助は『笛吹き童子』(1954・萩原遼)でデビューした時代劇のアイドル第一号で、ロケ先では女の子が樹に鈴なりになったというくらい凄い人気だった。威勢のいい江戸っ子をやらせたら錦ちゃんの右に出るものはなく、性格もそのままで東映城の女の子はみんな錦ちゃんにあこがれた。この『一心太助シリーズ』はその明るさや威勢の良さが最も良く出た作品で、熱い血の流れる若きヒーローである。
月形龍之介は六大スター(バンツマ・大河内・アラカン・千恵蔵・右太衛門・長谷川一夫)の大敵役をすべて務めて比類なき才能を発揮した日本映画史上の名優である。どんな大スターが相手でもびくともしない。月形は大部屋時代からのライバル・阪東妻三郎を亡くした翌年(1954)に中村錦之助と出会った。
その名優・月形が中村錦之助の事を「あの子はいい、すばらしい」と絶賛していたと言うから当時の錦ちゃんの輝きぶりがわかると言うものだ。
月形の演じる彦左衛門は従来演じられてきたあわてものの頑固爺さんではない。独特の嗄れ声で古武士の意地と心意気を訥々と語るシーンなど風格あって天下一品である。
錦之助は月形龍之介の内面的な剣技と演技にあこがれ、月形を尊敬した。月形はある時は父親、ある時は家臣となって、この若い大スターを支えた。

この二人はスタジオの中で顔を合わす以外、一緒に遊ぶことも話し合う事も酒を飲む事もなかった。カメラの前でだけ二人は見詰め合ってまわりにラブラブ光線を放射した。
頼むから二人で蔵の中に入って扉を閉めないで欲しい、頼むから駆け寄って手を握り合わないで欲しい、頼むから膝枕しないで欲しい。頼むから相合傘をしないで欲しい。頼むからうるうるした瞳で見詰め合わないで欲しい。私はこの二人のコンビものを見るたびに何度「やめてくれ〜〜〜!」と叫びながら耳まで赤面した事か!
うちの夫も『一心太助シリーズ』を初めて見た時に『そういう話だったの!?』と叫んでしまった。―――そういう意味でも(笑)女性必見の作品である。
この『錦ちゃん×月形』コンビの他に、錦ちゃんが進藤英太郎の彦左衛門と組んだ『家光と彦左と一心太助』(1961・沢島忠)も楽しい作品。月形が丘さとみと組んだ『天下のご意見番』(1962・松田定次)も太助役・松方弘樹だが、小国英雄の脚本で良く出来ている。

『一心太助・天下の一大事』(1958・沢島忠)は東映ビデオから出ています。天才・錦ちゃんと名優・月形の魅力200%で、文句なく楽しめる娯楽時代劇になっています。東映初心者必見!カラー。91分。
2000・10・31・更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の六
先月はマニア向けの一本を自信を持って思い入れいっぱいに紹介した。マニアのみんなは見てくれたかな?今月は誰もが楽しめる娯楽時代劇の基本『鞍馬天狗』を軽〜〜く紹介する。

『鞍馬天狗・角兵衛獅子の巻』(1951・大曽根辰夫)
鞍馬天狗と言えばアラカン、アラカンと言えば鞍馬天狗である。言わずと知れた娯楽時代劇のヒーローだ。幕末が舞台で新選組を敵に回してライバル近藤勇とチャンチャンバラバラし、角兵衛獅子の杉作少年を助け「杉作、日本の夜明けがくるのだよ」などとのたまってピストルぶっぱなす黒イカ頭巾である。
大仏次郎が書いた人気小説をマキノ省三が嵐寛寿郎主演で1927年に初映画化した。以来、嵐寛寿郎(アラカン)の持ちキャラとして今日まで名を馳せている。もちろん他の役者も鞍馬天狗を演じたのだが、その硬派の部分と優しさ、強さ、剣技のバランスが最も鞍馬天狗に適していたのがアラカンで――若いときはべつに名優でもないし、顔もサル顔なのだが――覆面から覗く涼しい目がぴったりで、もはや彼以外の鞍馬天狗は考えられない。アラカン自身も鞍馬天狗を主演したいがために寛プロを興したくらいだ。
アラカン主演の鞍馬天狗シリーズは全部で40本も作られたが、現存する中で一番、バランス良く楽しめる作品が『鞍馬天狗・角兵衛獅子の巻』(1951・大曽根辰夫)なので、今回これをお勧めする。

とにかくまあ下記の大スターを見ているだけで良い。
山田五十鈴――女スパイ役。御存知大女優。とにかく色っぽいし美しいし、演技はうまいに決まっている。
美空ひばり――杉作役。御存知天才少女歌手、国民的アイドル。NO.1時代劇女優(信じろよ)初めてひばりの杉作少年姿を見た人は眼が点になる。が、しばらくすると少女ひばりがあまりに芸達者なので感心する。アラカンをめぐって、山田五十鈴と女の色気で争う。五十鈴危うし!(笑)もちろん歌は抜群にうまい。
月形龍之介――近藤勇役。御存知戦前戦後を通じての日本映画史上の名優。どんな大スターを相手にしたってびくともしない、脇役にして主役を食う、大敵役に比類なき才能を発揮する名バイプレイヤー。もちろん剣技はうまいなんてもんじゃない!アラカンVS月形の五重塔の下での決闘は時代劇映画史に残る名シーンで、セリフは全くなく、緊張感あふれる。
アラカンいわく「立ち回りは月形のオッサンにかぎります!迫力が違います!」二人は殺陣師をつけずに本身で立ち会い、一発OK。やり終わってアラカン、汗がドーーッ!このクライマックスがあるおかげで、ああ、いい時代劇を見たとお客は満足して帰っていくのだ。

アラカンの鞍馬天狗ものは10本ほどビデオ化されているが、
『鞍馬天狗』(1928・山口哲平)――嵐寛寿郎プロダクションで主演した第一回作品。サイレント時代の貴重な資料。
鞍馬天狗・龍穣虎縛の巻』(1938・松田定次)――名敵役・月形龍之介が話の興味を引きつける。香住小夜子も美しく、団徳麿も見られてお得。保存状態がもう少しよければ、これが一番のお勧め。
『鞍馬天狗・天狗回状』(1940・田崎浩一)――またもや月形が敵。しかも双子の怪老人。一人二役で兄弟愛を演じる珍品!
……などが、それなりに楽しめる。どれも名作とかレベルが高いとか、そんなことは全然ない。庶民が楽しむだけの娯楽映画である。
アラカンの鞍馬天狗については竹中労が『鞍馬天狗のおじさんは』(ちくま文庫)を遺している。
ちなみに初代杉作少年は松尾文人で、ワイズ出版『初代杉作少年・松尾文人』(松尾文人・著)のなかで当時の回想を語っている。貴重な資料だ。
若い時よりもアラカンは晩年、脇にまわってからいい演技を遺している。東映任侠路線の親分役など私は大変好きである。『オレンジロード急行』(1978・大森一樹)の岡田嘉子とのキスシーンも忘れられない。好感度の高い役者である。

『鞍馬天狗・角兵衛獅子の巻』(1951・大曽根辰夫)は、松竹ビデオから出ています。鞍馬天狗を知らない方、ひばりの杉作少年を知らない方は必見!
2000・10・4・更新、11/16.再更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の五
楽しく明るい大スターと有名監督の作品ばかり4本続けて紹介してきたが、今回は趣向を変えて、暗く緊張感漂う、中堅スターと新進監督のマニア向け作品を紹介する。
世の中が不安な時、人は、サラリーマンである武士よりも、強くて自由な忍者というものにあこがれるらしい。近頃、忍者物が作られるのもそういう理由だろう。
1963年〜1968年まで、東映は時代の波を受け、忍者物・集団抗争物を作り続けた。いずれも監督は新人。出演者も中堅・新人スターが多数で集団劇を演じた。日本映画史的には『17人の忍者』『十三人の刺客』が代表作となっている。
が、何度も見返してしまうのは、やはりこの『忍者狩り』だ。

『忍者狩り』(1964/山内鉄也監督)
山内監督はこれがデビュー作。デビュー作が代表作になった。
主演は近衛十四郎。戦前からの中堅スターで、60年代の剣技はトップ。東映では柳生十兵衛シリーズを撮っている。
大敵役に天津敏。天津敏はTV時代劇『隠密剣士』(1962〜65)の敵役・風魔小太郎で認められ、43歳で初めて銀幕に躍り出た。敵役専門で、主演作はない。
脚本は高田宏治。『鬼龍院花子の生涯』など書いている。

とにかく初っ端から緊張感のある画面に吸い込まれる。新人監督の作品とは思えない。この緊張感はクライマックスの二人の死闘までダレルことなく続く。無駄なエピソードは何もない、ノンストップの素晴らしい脚本だ。
物語は単純である。四人の浪人が弱小藩の城代家老に雇われ、幕府が雇った甲賀忍者達から若君を守るという、ただそれだけの話である。当時ありがちだった思想や理屈っぽさがないのがいい。
浪人のリーダー和田倉(近衛十四郎)はこの藩を守るよりも、自分の藩を潰した忍者の頭目・闇の蔵人(天津敏)に復讐したいのだ。当然手段は選ばない。嫌疑のかかる家臣を6人捕らえて拷問し、斬り捨てる。
無実の者を手にかけるとは!と責める家臣達に近衛十四郎は、わからんのかっ!と恫喝する。
「こうしなければ忍者は斬れんのだっ!一人一人斬っていくより闇の蔵人を見つけ出す手はないのだっ!!」
もう、むちゃくちゃである。
城代家老(田村高広)も若君を守るためなら家臣の6人ぐらい、と黙認するから、本当に正義も何もない。敵も味方も同レベルである。
この大敵役、闇の蔵人・天津敏が特筆すべき快演(怪演?)だ。
とにかく近衛以下みんな、『闇の蔵人がくる、闇の蔵人がくる』と恐れるのだが、天津敏はほとんど画面に顔を見せない。縁の下に居たり、編み笠を被っていたり、黒ずくめで覆面してるから顔なんか分からない。だが、それだけあおられると現れた時が恐ろしい。
ぐわはははは……!と低音の天津敏の声優声(声優もやっていたから声は抜群に良い)が闇に響き存在感大の黒ずくめが現れる。こいつがまた、でかい上に敏捷だから、めったなことで倒せない。
あと一日で若君を守る攻防戦が終わり近衛の勝ちという時、葬儀に若君を参列させなくてはならなくなった。闇の蔵人がこの好機を逃すはずがない。城代である田村高広は若君を斬りに現れる蔵人を斬れ!と近衛に言う。近衛は斬れません、と言い返す。
「若君を犠牲にしなければ蔵人は斬れません!若君を斬る瞬間にしか蔵人は姿を現しません!……拙者としては若君にご参列願いたい」
「おぬし……っ!」

そして、廟の中の死闘に突入する。
近衛を斬り倒した後の、闇の蔵人のセリフ。
「ぐわはははは!今度も俺が勝ったな。……動けるか?動いてみい!もう、おぬしにはこの俺を斬る力はない!」
……もう、まったく小池一夫の劇画のノリである。これを、まさに劇画の世界から抜け出てきたような忍者が声優声で言ってくれちゃうのだから、もうマニアには堪りません!!(笑)
そりゃ、突っ込もうと思ったらなんぼでも突っ込める脚本だ。だいたい忍者が高笑いするかっちゅーの!?だが、そんなことを考えさせずに一気に見せてしまう問答無用の面白さがある。それはまさに劇画の面白さだ。田村高広も女優陣も良い。時代を超えて楽しめる東映忍者物のベスト1である。87分。

忍者狩り』は東映ビデオから出ています。
――伝説のTV時代劇『素浪人月影兵庫』の兵庫と『隠密剣士』の風魔小太郎の対決だ。相手にとって不足はない!男心をそそる剣戟俳優・天津敏はマニア必見!!
2000.9.3更新・10.31再更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の四
右太衛門御大だけでなく、千恵蔵御大だってとんでもないシリーズを撮っている。ご存知『多羅尾伴内シリーズ』である。千恵蔵の次々と変わる変装が売りのシリーズなのだが、どこからみても片岡千恵蔵ご本人にしか見えない。二挺拳銃を構えながら『ある時は多羅尾伴内、ある時はパイプの画家、ある時は手品好きのイキな紳士。ある時は片目の運転手、またある時はセムシ男、しかるにその実体は!?(ここで変装をベリっとはぐ)愛と真実の人、藤村大造だ!』という一部放送禁止用語の入った決まり文句があまりにも有名だ。が、改めて聞くと、それがどーした!?と言いたくなる。だいたい藤村大造とは何者なのか?何の説明もされていない。二挺拳銃で悪人たちを退治した後、ぺっかぺかのオープン・スポーツカーで颯爽と去っていくのだが、馬じゃあるまいし、そのスポーツカーは一体どうやってその現場に現れたのだ?呼べばくるんか!?え!?
とにかく目が点になり腰が抜けるカルトムービーであることは間違いないのでここが時代劇のサイトでなかったら多羅尾伴内シリーズ(買わなくていいぞ!)をお勧めしたいのだが、今回は上映会などで人気急上昇のこれまたカルトな時代劇『鴛鴦歌合戦』をイチオシ映画にお勧めする。

『鴛鴦歌合戦』(1939/マキノ雅弘監督)
『鴛鴦歌合戦』(1939・マキノ雅弘)、とにかく間違いなく面白い。日本最初の本格オペレッタ時代劇で、マニアから初心者まで楽しめる。早撮りで有名なマキノ雅弘がわずか二週間で撮りあげた。主演の千恵蔵の撮影時間はたった二時間。企画から完成上映までわずか四週間という荒業で、もちろん脚本なんか書いている間はなかったし、役名も考えている間がなかった。志村喬の役名は「志村」、香川良介は「香川屋」、市川春代は「お春」、服部富子は「お富」、深水藤子は「藤尾」、ディック・ミネは「峰沢丹波守」である。
主演の千恵蔵だけは『浅井礼三郎』という役名がついているのだが、今回改めて見直していると、ちょっと待て、いま確かに深水藤子が「千恵蔵さん」と呼んだぞ!?注意して聞いていると、市川春代は「礼三郎さん」と呼んだ。わあ、次は一体どう呼ぶんだろう?と耳をそばだてていると、なんと「礼三さん」と呼んだ。その後はずっと「れいぞうさん」で統一。う〜〜む、マキノ雅弘おそるべし! おそらく深水藤子の出番の時にはまだ役名が決まってなかったのだろう。それとも「千恵蔵さんのバカ!」というセリフに千恵蔵が気を悪くして「ちえぞう」→「れいぞう」になったのか? 理由は分からんが、ぬけぬけと「千恵蔵」と呼んだ部分を撮り直さなかったのが恐ろしい。おそらくそんな時間はなかったのだろう。
このようにむちゃくちゃな早撮り映画であるが、ちょうど『宮本武蔵』(1940・稲垣浩)の二部と三部の間に撮られたもので、その優秀な(笑)メンバーがそのまま移行してきているのでカメラは『宮本武蔵』と同じく宮川一夫で、絵日傘のシーンなど、何気ないアングルが美しく撮られている。
♪さ〜てさてさて、この茶碗♪♪ななな、なんです、その傘をあなたは売らぬとおっしゃるの〜〜♪と三回見たら唄えてしまう歌の数々。志村喬があんまり歌がうまいのでびっくりする。クールビューティーの千恵蔵のコメディーはミスマッチで楽しく、テンネン入ってる市川春代が「ちえっ」と言って鼻を鳴らすのも可愛い。
このカルトムービーについては『唄えば天国・天の巻』(メディアファクトリー刊、1600円)で詳しく語られているので、興味のある方はそちらをぜひ参考に。
鴛鴦歌合戦』はキネマ倶楽部から通販のみで出ています(2002年まで出ていました。現在は販売停止状態)。マニア必携!初心者は上映会必見!これは間違いなく世界一楽しい時代劇映画である。
2000・8・1更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の参

●『旗本退屈男』シリーズ
この映画の質を問うてはならない。
「この脚本は何だ!?」とか「こんなこと旗本に許されるのか!?」とか「なんで道中、こんなに着替えができるんだ!?」とか「なんで吊り天井が落ちてきたのに理由もなく助かるんだ!?」とか、そういうことをいっさい考えてはならない。理由はただ一つ。それが『旗本退屈男』だからである。
役者はただ一人、御大・市川右太衛門(1907〜1999)。この人以外にこれをやれる役者はいない。映画でも舞台でも。そして死ぬまで一生、主役だった。
冬でも夏でも布団のようなド派手な着物を着て、90分内に10回着替える。額に三日月の傷があって、「天下御免の向こう傷」と見得切って「ぶわっぶわっぶわっ!ぶわはははははは!!」と笑うとすべての物事がとおってしまう。理由はただ一つ、彼が旗本退屈男だからである。
右太衛門は23歳の時に自分の右太プロで『旗本退屈男』第一回目(1930・古海卓二監督)を撮った。以来、30本のシリーズに主演したが、はっきりいって映画的な名作などない。どれ見ても全部同じだ。だから今回はシリーズ全体をお勧めする。

とにかく、問答無用の時代劇である。
カクテル光線飛び交うレビューの舞台(江戸時代だよ!江戸時代!)に巨大な金色の玉がころころところがり現れ、それがパカっと割れて中から旗本退屈男が登場する。それを見たとたん、繊細な悪事の計画を立てていた悪人たちは目が点になり、デリケートな神経は崩壊し、胃が痛くなる。(まあその、目が点になるほうの悪役が、月形龍之介だったりするんですけどね…)
敵が「ふん、旗本風情が大名に手を出せるか!」と言いはったところでそんなもの無駄。退屈男は「この世には、権力にも何者にも負けないものがある」と言う。こっちは「まさか、愛とか言うんじゃないだろうな?」と心配していると、右太衛門御大、ぬけぬけと自分の必殺技の名前を言う。
「諸羽流正眼崩し〜〜〜!」――敵の言ったこと何んにも聞いてない。
命懸けの決闘しに行く時にド派手な着物は着て行くし(相手に失礼だろう!?)、衣装係の伴もないのに道中着物がつぎつぎ変わるくらいは朝飯前。
ひどい時には洞窟に入る時と後とで着物が違う。若様役の山城新吾が「あの〜御大、衣装が違うようなんですけど〜〜?」とたずねると、御大、「ぶわかものぉ〜〜!!」と一喝!
「お客はわしの美しい姿を見にやってくるのだっ!!」
山城新吾、「うへへ〜〜〜っ!御大のおっしゃるとおりで御座います〜〜〜!」と、ひれ伏した。
ほかの巻では、敵の城に行く時と中でチャンバラする時と帰る時で衣装が変わったりするから、どっちにしたってほとんどSFの世界である。
『旗本退屈男』シリーズは東映ビデオから腐るほど出ています。カラーになって一番得したのはやっぱり右太衛門で(笑)ここではカラー作品のみ紹介します。
旗本退屈男・謎の幽霊船』(1956・松田定次監督)。『旗本退屈男・謎の蛇姫屋敷』(1957・佐々木康監督)。『旗本退屈男』(1958・松田定次監督)――三百本記念のオールスターで結構まとまっているし、なんてったってお色直しの回数が一番多い(笑)。『旗本退屈男・謎の南蛮屋敷』(1959・佐々木康監督)。『旗本退屈男・謎の大文字』(1959・佐々木康監督)、『旗本退屈男・謎の幽霊塔』(1960・佐々木康監督)、『旗本退屈男・謎の暗殺隊』(1960・松田定次監督)『旗本退屈男・謎の七色御殿』(1961・佐々木康監督)。『旗本退屈男・謎の珊瑚屋敷』(1962・中川信夫監督)――ラストシーンの桜並木がサイコー。中川信夫特集の上映会でも決して上映されない(爆!)。『旗本退屈男・謎の竜神崎』(1963・佐々木康監督)。――などなど(買わなくっていいぞ〜)
さあ、レンタルビデオ屋で『旗本退屈男』シリーズを何本でもいい、借りてこよう。仲間を集めて酒を飲みながらビデオの前で朝まで騒ごう。時代劇初心者も、映画マニアのひねくれ者も必見の、これは、みんなでツッコミを入れながら楽しむ娯楽時代劇映画である。
2000・7・1・更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の弐
一番目が妻さんだったから、二番目はやっぱり大河内傳次郎。ーーと、いうことで・・・。

『百萬両の壺』(1935/山中貞雄監督)
大河内傳次郎といえば、かの有名な丹下左膳役者である。
え? 丹下左膳て誰って?
いやそういわれても私だって林不忘の原作すべて読んだ訳ではない。
ただ、乾雲坤龍(ああ、とうとう私のワープロはこんな字が一発で出るようになってしまった・・・)のふた振りの妖刀を探し求めるようお殿様の命を受けて旅に出たものの、あれこれあって片目片腕をなくし「化け物のような身体」(左膳本人談)になって殿様に会いに行くと、殿様はおまえなんか知らんと言う。
主君に裏切られブチ切れて、グァオウと吼えてパワーアップし、廻りの敵も家来も皆殺しにするという・・・こわーい剣士の物語です。
でも同情するには及ばない。一目映像を見ればわかるけど、はっきり言って大河内の丹下左膳は怖い。乾雲坤龍の刀を手に入れるためには手段を選ばない。なんぼ妖刀のせいとは言え、性格が悪すぎる。マツダ映画社の『大河内傳次郎乱闘場面集』に名匠・伊藤大輔&カメラ唐沢弘光&大河内トリオで撮った『新版大岡政談』(1928)の断片が収録されているが、もうすごい迫力!すごい映像表現!大河内・左膳はビュンと跳んで顔に貼り付いてくる黒ゴキブリのように凶々しい。剣を奪って逃げようとする伏見直江の櫛巻お藤もすさまじく、こんな女、斬り捨てたほうがよいと思わず納得してしまう。
このビデオには同じトリオで撮った『素浪人忠弥』(1930)も収録されていて、これなんか両手両眼そろってて、おまけに槍持ってんだよ!?おーこわ! おーこわ! こういう人間に近づいてはいけない。サイレント時代の少年ファンは狂喜したかもしれないけど。(女性には全く受けないが・・・)残念なことに伊藤大輔の撮った左膳ものは上記の断片のみしか残されていない。

さて、今回のおすすめの山中貞雄の『百萬両の壺』ですが。もはや伊藤大輔センパイがすげー名作を撮っているのでこれ以上のものは望めっこないと、天才山中はあっさり方向転換し、流血と咆吼の左膳を、情婦の尻に敷かれるマイホーム的な丹下左膳に創りかえた。
情婦が「あんたが悪いのよ」とにらむと、もう左膳は逆らえない。「いやだィいやだィ」と言いながら結局、つぎのシーンでは情婦の言うことをきいてしまっているのだ。
敵も敵で、百万両の壺を孤児のちょび安が持っているのだが、これを何とか奪おうとわざわざ左膳の家の前に「こんな壺、二両で買います」と張り紙を出したりする。左膳が小遣い稼ぎに売ろうとするとちょび松が金魚鉢代わりに使っているので売れなかったりする。
オーソドックスではあるがユーモラスな脚本がたいへん良く出来ていて、今見ても全く退屈することなく最後までご家族お揃いでお茶の間で楽しめる。大河内も澤村國太郎(長門裕之・津川雅彦の親父)も子役も女優陣もみんないい。
天才山中貞雄は26歳の若さでこの作品を撮った。これが最古の作品で、それ以前のものはすべて失われてしまっている。そして召集され29歳で戦場で病死した。
遺作は『人情紙風船』である。暗い寂しい作品だ。あまりにももったいない映画界の損失だった。『百萬両の壺』見ればわかる。天才だった。
ただ、あまりにイメージが原作と違いすぎて、林不忘の遺族から「あのー、キャラが違うんですけどー」とクレームが付いて、それでタイトルに”余話”とつけられてしまったらしい。
最後に、丹下左膳役はあらゆるスターが演じたが、初代丹下左膳は大河内ではなく(一週間の差で)東亜の団徳麿だったと付け加えておく。
丹下左膳余話・百萬両の壺』は、にっかつビデオから発売されています。絶対に見て損はない!消費税が上がる前に買いに行こう!斬った張ったのチャンバラが嫌いな方に200%おすすめ。(2004年にリメイクされてDVD出まくってます)
2000・5・18更新。2004/5/1再更新
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イチオシ映画・其の壱
初心者へのお薦め映画のトップを飾る時代劇になにを持ってこようかなー?うーーん??ちなみに私が時代劇にはまったきっかけは月形龍之介の『殺陣師段平』。これがベスト1。ベスト2は阪東妻三郎の『無法松の一生』。でも、両方とも『ちょんまげもの』じゃないのでーー、とりあえず文句なく楽しめて、いま現在ビデオで手に入る妻さんの『血煙高田馬場』を紹介するねーー!

『血煙高田の馬場』(1937/マキノ雅弘監督)
ーーーご存じ赤穂浪士の堀部安ベエ、高田馬場の決闘十八人斬り。飲んべえ安ベエは阪東妻三郎(1901−1953)の十八番。
え? 阪東妻三郎なんて知らないって? 10年くらい前にリクルートのTVCMで妻さんが土手の上をパタパタ走っているのを記憶してない?
そう。田村高広・正和・亮の親父さんです。いきなりあのTVCMが流れて、田村三兄弟がびっくりこいたっつー噂もあったりして(笑)。こんなの聞いてないって。
だって著作権は日活にあるんだからね。ふつういちいち俳優の遺族なんかに断らない。でも、以来流れないとこ見るとやはり妻さんは気軽に使えるお方じゃないような・・・。とにかく文句なく日本一の大スター。もうこんな役者は二度と出ないと言われるお方。そして私も全くそう思う。とにかく見ればわかる。『無法松の一生』(1943)『王将』(1948)などなど、妻さんはスターのオーラをまとって光り輝いている。

その妻さんにも悩みがあった。サイレントからトーキーに移るときで、妻さんはものすごい悪声だった。どう聞いたってダイコンにした肝付兼太だもんね。二枚目の武士の声じゃ全然ない。そりゃ悩むよ。トーキーになってはじめて妻さんの声を聞いて全国のファンが騒然としたらしいから(笑)
またさあ、マキノの大部屋時代から仲間だった月形龍之介がシブイいい声してんの。芸風とルックスは地味だけど月形は剣の腕と演技力があるし、派手な妻さんの横で静かににっこり笑うと、その必殺えくぼでみごとに主演者を喰ってしまう。サイレント時代の『討たるる者』(1924)で喰われ、初トーキーの『新納鶴千代』(1935)で喰われ。おまえなんか俺のそばにくるなーーー! 近づくなーーーー! って状態だったんだけど、別に妻さんが観客にブーイング食らったのは月形のせいじゃない。月形は妻さん大好きだったんだから。
でも、妻さんはお山の大将で居たかったんだ。監督にだってアップ撮らせるときに「先生!アップちょうだいいたします!」と言わせたんだから。女優だって絶対に自分より目立つ人とは共演しなかった。そんな一人だけ目立ってる映画なんて面白くも何ともない。それでバンツマプロは人気なくなって・・・つぶれて・・・。声の悪さで観客に見放されちゃちな内容で批評家にたたかれ・・・。
しゅーーんとして妻さんがやってきたのが日活。そこに早撮り名人のマキノ雅弘監督が居た。
なにせマキノ雅弘はマキノの大将マキノ省三のご長男であるから、日本一の大スターでもでかい口はきけない。
「ほな妻さん、そこの土手、走ってんか」とか言われて妻さん走りましたよ。堀部安ベエ高田馬場に駆けつける。名匠・伊藤大輔監督なら300メートルは移動レールを引くところを、低予算で早撮りのマキノ雅弘は右から左にちょっとカメラをパンするだけ。
10回、20回、30回、40回、妻さん汗だくになって走りました。それがリクルートのあのCMシーン。
走っているうちだんだんと難しいこと考えてた自分があほらしくなってきた。「俺の悩みは何だったんだーーー!?」(笑)
こうしてできたのが『血煙高田馬場』。土手を走るシーンから高田馬場の決闘シーンまで息もつかせぬ面白さ!ジャズステップの十八人斬りはめちゃくちゃ有名! こんな殺陣、月形には逆立ちしても出来はしない(したくもないだろうけど)。私もビデオ画面に向かって思わず叫んだ「妻さあん!」「妻さん日本一!」「妻さん最高!」
正月映画で大入り満員。妻さん文句なく日本一に返り咲く。
ーー共演・志村喬、香川良介。香川良介の叔父役がとてもよいが、妻さん相変わらず人のセリフ全然聞いてない。ちなみに月形は出ていません。よかったね妻さん。
とにかく楽しいマキノ雅弘の初心者向け娯楽時代劇おすすめの一本ーー『血煙高田馬場』は、にっかつビデオから『決闘高田の馬場』のタイトルで出ています。
2000.5.1更新
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