総合的な学習の時間に適した評価として、ポートフォリオが脚光を浴びてきた。確かに、書籍や教育雑誌などで理論的な提案は増えている。しかし、具体的な学校現場での取り組み状況はあまり見えてこない。
そこで、今回、「ポートフォリオ・メーリングリスト<熊本市立西原小学校の金井義明先生主催>」の参加者、「総合的な学習の時間を考える会・Dグループ(ポートフォリオセッション)<ベネッセ教育研究所主催>」の参加者、および最終ページに掲載するポートフォリオ関係の書籍・雑誌に論文を掲載している小・中学校の先生方に、電子メール及び郵送でアンケート調査を行った。
その結果をもとに、ポートフォリオの現状と課題を考察したい。
回答数は36人。現在、または過去にポートフォリオを実践した方が32人。まだ実践はしていないが、ポートフォリオに関心のある方が4人。回答があったのは、22都道府県にわたる、小学校が29校、中学校が6校、高校が1校である。校種間で、回答内容に特徴的な差はなかった。
ポートフォリオを「総合的な学習で取り組んだ」という答えが30人(93.8%)で、ほとんどである。しかし、国語や算数・社会・英語などの教科や学級活動など「総合的な学習以外で取り組んだ」という答えが9人(28.1%)(総合との複数回答あり)あり、ポートフォリオが、総合的な学習の時間以外でも活用できる評価システムであることを示唆している。
ポートフォリオをどのくらいの規模で取り組んだのかは、現段階での先進校の状況を知る上で興味深い。
集計結果(複数回答あり)は、ポートフォリオに取り組んだ規模の1位が「学年全体」で13人(40.6%)、2位が「学校全体」で12人(37.5%)、3位が「自分の学級のみ」で10人(31.3%)だった。他には「校内で有志の先生のいる学級」という回答が1人あっただけである。
実施しやすいと考えられる「自分の学級のみ」ではなく、「学年全体」や「学校全体」でポートフォリオに取り組んでいる学校の方が多い。これは、ポートフォリオを実施するには、学年や学校全体の教職員の共通理解が必要だということを表していると思われる。ポートフォリオに関心はあるが、まだ取り組んでいない4人の回答者のうち3人までが、
「ポートフォリオに対する共通理解がないために、学年や学校の協力が得られないこと」を課題にあげている。
ポートフォリオを始める時に、まず悩むのがファイルである。形態・値段・保管方法など、どんなファイルを購入するかが、活動のしやすさと関わってくる。
集計した結果(複数回答あり)、1位「クリアファイル」が18人(56.3%)で、安くて手軽に差し替えができることが長所だと思われる。2位「2穴ファイル」が12人(37.5%)で、大量に文書を綴じ込むことができることと、差し替えができることがポイントであろう。
この2種類のファイルの使用がほとんである。その他、2人以上の回答があったのは、多い順に、「箱」と「ホームページ」がともに4人(12.5%)、「レバーファイル」と「厚紙を屏風のようにしたもの」が3人(9.4%)、「ドキュメントファイル」と「ノート」が2人(6.3%)ずつだった。
ポートフォリオに取り組んで良かった点を自由記述の形で回答してもらった。ほとんどの回答者が詳しく、そして多く記述している。
「子どもにとって」と「教師にとって」の2つに分類し、列記する。
●子どもにとって
○子どもが、自分の学びという意識を持てる。
○子どもが他と比べての自分ではなく、自分自身の成長をみつめる。
○自分や友だちの「よさ」がみえてくる。
○子ども自身が学びの過程をふり返ることができる。成功の確認や身につけた力を自覚することができ、次の活動への意欲づけとなる。
○子どもが課題意識をもって取り組むようになり、どのような観点をもって課題追求をすればよいのかに効力を発揮している。
○自己評価力が身に付き、子ども達で学習の修正を行うことができる。
○子どもの活動で、活気や追求の深化、ねばり強さなどが顕著に見られる。○子ども自身で作ったり集めた資料を大切にする。資料集めに意欲的で整理ができる。情報収集・選択・判断力が向上する。
○自分の学びの足跡として、自分の歴史として、毎年積み上げていくものとして、本人も保護者も喜んでいる。
○子ども達は、相互評価や教師の評価、保護者の評価を宝物のように感じている。
○保護者がその子の成長をポートフォリオでみることができ、その子に応じたあたたかいメッセージを伝えられる。
○子どもの日々の様子を(学習の過程を)詳しく観察でき、子ども達の成長の様子がよくわかる。
○現在の学習状況等、子ども達の活動の見えにくいところも把握でき、その子なりのがんばりやよさがわかる。
○子どものとらえ方をマイナス面ではなく、プラス面でみるようになり、学級経営が大きく変わる。
○評価についての考え方が変わった。
○個々の子どもへの支援計画が具体的に立案でき、個に応じた指導に生かせる。○子どもの持つ情報を適切に入手できる。複数の支援者で共有できる。
○活動内容を家庭に知らせる大切な手段となる。
○学習を単元全体からとらえやすい。
○教師自身の振り返りに役立つ。
○学習をふりかえることの大切さを感じる。
ポートフォリオに取り組んで苦労した点・困った点を自由記述の形で回答してもらった。
要点のみを整理して列記する。
●時間の確保
○一人一人の子どもと話し合ったり、アドバイスする時間が確保できない。
○児童が自己評価や相互評価をする時間を確保することが難しい。
○プロセス評価の難しさ。担任一人では間に合わない。
●評価規準
○子どもが何を規準に自己評価するか。
○教師が,いかに見て評価するか。
○評価観点と評価規準の設定方法がわからない。
●資料の保管
○チームで課題に取り組んでいるときの保管方法がわからない。
○ファイルにとじられない物をどのように保存するのか。
○形にないものをどうやって残すのか。
○情報量が膨大になるので、資料保管の仕方が難しい。
●その他
○中身を充実させることができない子どもたちへの支援方法がわからない。
○活動を通してファイリングした資料や意見考えをどのように共有していくか、その方法がわからない。
○複数の学習活動を同時に進行できるほど、ポートフォリオは簡便な方法ではない。
○子どもにポートフォリオの意味や方法を理解させる点が難しい。
○全職員に対するポートフォリオについての説明が不十分だった。
○理念が伝わらなければ、形骸化する。ファイルすることだけが目的ではない。
○自分が行ったことがポートフォリオになっているのかどうか不安である。実践例や具体例を聞く機会が少なく、身近に相談する人がいない。
「これから、または、これからも、ポートフォリオをしてみようと思いますか」という問いに対して、全員が「はい」と答えていた。
それでは、ポートフォリオを広めていくために、何が課題となるのかについて、選択肢から選んでもらった結果(複数回答あり)は次のようになった。
1位は「ポートフォリオの具体的な方法がわからない」が13人(37.1%)、2位は「ポートフォリオに対する共通理解がないために、学年や学校の協力が得られない」が12人(34.3%)だった。
以上から、具体的な方法がわからないまま、「ポートフォリオ」という言葉だけが先行して広まり、教職員の共通理解ができていない現状がよくわかる。
その他、2人以上の回答があったのは、多い順に、「ポートフォリオに取り組む時間の余裕がない」が11人(31.3%)、「ポートフォリオが何なのか内容がわからない」が7人(20.0%)、「ポートフォリオをする目的がわから
ない」が5人(14.2%)、「ポートフォリオの準備(ファイルの購入など)の予算がない」が4人(11.4%)、「ポートフォリオを保管する場所が教室にない」が3人(8.6%)である。
今後の課題として、理念や目的、内容とともに、カリキュラム上の時間配分や予算など細かい点の実践・研究があげられる。7の「苦労した点・困った点」ででてきたように、評価規準をどう設定するのか、子どもと担任だけでなく、全職員や保護者も含めた共通理解をどう作り上げていくのか、時間の確保や資料の保管方法など、より一層具体的な方法を検討することが、ポートフォリオを普及していく上で重要な課題であろう。
最後になったが、アンケートにご協力いただいた方々へ感謝の意を表したい。
★評価文献紹介
☆評価についての書籍
○『教育評価〔改訂版〕』 梶田叡一 著 放送大学教育振興会(NHK出版)
○『授業に生かす自己評価活動(教育フォーラム21)』 人間教育研究協議会 編 金子書房
○『新しい学力観に立つ評価のあり方』 梶田叡一 編著 東京書籍
○『振り返り(教育フォーラム15)』 人間教育研究協議会 編 金子書房
○『教育における評価の理論(全3巻)』 梶田叡一 著 金子書房
○『創意を生かす新教育課程の編成・実施・評価』 高倉翔 監修 教育開発研究所
○『個性の探求をめざす学習指導と評価』 安彦忠彦 編 第一法規出版
○『教育指導の評価』 水越敏行 著 ぎょうせい
○『よさを発見する指導と評価』 瀬戸真 監修 ぎょうせい
○『学習指導と評価の改善』 文部省 著 教育芸術社
○『学習の個性化を支える評価と指導』 大阪教育大学教育学部附属平野小学校 著 東洋館出版社
○『総合的な学習の時間の計画・実践・評価 Q&A』 加藤幸次 監修 黎明書房
○『総合的な学習の評価計画と評価技法』 小島宏 ・寺崎千秋 編 明治図書出版
○『総合的な学習の展開と評価』 角屋重樹 編 小学館
○『総合的カリキュラム』 黒上晴夫 監訳 日本文教出版(大阪)
○『「総合的な学習」の実践と新しい評価法』 佐藤真 著 学事出版
○『総合学習の理論・実践・評価』 高浦勝義 著 黎明書房
○『子どもと創るこれからの選択・総合的学習』大阪教育大学教育学部附属平野中学校 著 第一法規出版
○『ポ−トフォリオ評価法入門 』 高浦勝義 著 明治図書出版
○『教師と子供のポートフォリオ評価(総合的学習・科学編)』 鈴木秀幸 訳
エスメ・グロワート 著 論創社
○『総合学習のためのポートフォリオ評価』 加藤幸次・安藤輝次 著 黎明書房
○『総合学習とポートフォリオ評価法 入門編(総合学習でポートフォリオを使ってみよう!)』
田中耕治・西岡加名恵 著 日本標準
○『未来教育に”ポートフォリオ”を活かす』 鈴木敏恵・小田勝巳 著 教育新聞社
○『ポートフォリオで評価革命』鈴木敏恵 著 学事出版
○『総合学習のポ−トフォリオと評価(その考え方と実際)』 大隈紀和 著 黎明書房
○『総合的な学習に適したポートフォリオ学習と評価』 小田勝巳 著 学事出版
○『総合的学習に生かすポートフォリオがよくわかる本』 小田勝巳 著 学事出版
○『総合的学習を創る(2000.9)』<“ポートフォリオ”で生き生き総合的学 習> 明治図書出版
○『指導と評価(1999.11〜2000.7)』 「評価から総合的な学習を創る(ポートフォリオ講座)」
安藤輝次 著 図書文化
○『指導と評価(2000.8〜)』 「アメリカにおけるポートフォリオの歴史と現状」
小田勝巳 著 図書文化
○『授業研究21(1999.4〜2000.3)』「その子の学びと学習ファイル(ポートフォリオ)」
寺西和子 著 明治図書出版
○『授業研究21(2000.4〜)』 「21世紀の基礎学力とポートフォリオ評価」
田中博之 著 明治図書出版
○『総合的学習を創る(2000.4〜)』 「ポートフォリオが育てる新しい能力・評価」
鈴木秀幸 著 明治図書出版
○『パソティア(Pasotea)(2000.10〜) 』「今こそポートフォリオ」鈴木敏恵 著 学習研究社
○『未来教育〜総合的な学習vol.2<ビデオ> (ポートフォリオ評価、調べ学習)』
鈴木敏恵 著 明治図書出版