一、ポートフォリオとは何か
ポートフォリオ(portfolio)は、もともと、持ち運びのできる(ポータブル(portable)な)二つ折りにした紙や本(フォリオ(folio))、つまり、紙ばさみや折りかばん、書類入れやファイルなどを意味した。この入れ物を指す言葉から発展して、「一人一人の子どもの学習の過程及び成果に関する情報・資料が、長期にわたり、目的的・計画的に蓄積された集積物である*1」として、学習活動を意味するようになった。また、「ポートフォリオをみれば、それぞれの子どもの学習の歩みや現在到達している『強み』なり、『弱み』がわかり、さらには次に取り組むべき課題が時系列的に明らかになる*2」と学習評価としての意味も持つ。ゆえに、日本での用語の使用法を見ていると、「ポートフォリオ」だけで使用する場合、「ポートフォリオ学習」として使用する場合、「ポートフォリオ評価(portfolio assessment)」や「ポートフォリオ評価法」、「ポートフォリオ教授法」として使用する場合などの混乱が見られる。
ポートフォリオは、もともとイギリスで生まれ、アメリカに伝わり、この10年あまり実施されてきている。それは、測定(measurement)イコール評価(assessment)ではなく、評価の一手段として測定があるという考え方から生まれている。また、プロダクト評価からプロセス評価への転換、結果より過程を重視するという考え方でもある。つまり、ポートフォリオは、学習のプロセスにおいて作成する、多様な学びの結果を示す学習物を集めたものであり、学習と評価が一体化したシステムである。
二、総合的な学習とポートフォリオ
最近、日本では総合的な学習の評価として、ポートフォリオがクローズアップされてきた。 その背景には、「総合的な学習の時間においては、児童自らが課題を見付け、課題を設定し、その課題の解決に向けての学習活動を展開していくことになる。このような学習活動を展開する中で、児童自らが設定した課題や学習計画、追求の過程を振り返り、評価し、改善を図っていくことは、この時間のねらいを実現する上でも極めて重要な役割を果たすものである。また、どのような課題に取り組んだとしても、児童が具体的な学習活動を通して、探求したこと、感じたこと、学んだことを振り返り、その課題について今後どのように関わっていくべきかを考えることが大切であり、活動全体を振り返り、生き方を探るための評価を工夫する必要がある。*3」と、新しい学習指導要領の解説に書かれ、「例えば、ワークシート、ノート、作文、絵、レポートなどの製作物、発表や話し合いの様子などから評価したり、児童の自己評価や相互評価を活用したり、活動の状況を教師が観察して評価したりするなどして、その児童なりのよい点、学習に対する意欲や態度、進歩の状況などを適切かつ総合的に評価することが考えられる。*4」と、ポートフォリオの考え方を生かすことができる評価の方法が書かれていることなどがある。 このように、総合的な学習の評価方法として脚光をあびてきているポートフォリオだが、欧米では教科(数学や国語)の学習でも実施されている。ポートフォリオは総合的な学習だけではなく、各教科や道徳、特別活動においても活用できる学習評価システムである。
三、学習ファイルとポートフォリオの相違
ポートフォリオ作成には、次のような原則がある*5。
1,ポートフォリオづくりは、一定の目的・意図をもって系統的に行われる。 2,学習場面に即した具体物を収集する。 3,作品の収集は継続的に行われる。 4,学習の結果だけでなく、過程を記録する。 5,子ども自身が、自分の作品について振り返る。 6,教師が子どもの学びをより深く理解する。
ポートフォリオに収集するのは、学習活動において、児童生徒が作成した学習物である、作文・レポート・作品・テスト・集めた資料・小論文・絵画・スケッチ・メモ・取材記録・実験記録・会議録・活動の様子がわかる写真やビデオなどである。しかし、それだけではなく、学習成果や学習過程に対する子ども自身の評価の記録、さらには、教師による評価の記録・他の子どもによる評価の記録・保護者や地域の人などからの評価の記録なども集める。
集めたものは、時系列にそって(年月日順に)入れる。入れながら学習物を振り返って学習過程での変化を見ることで、自己の歩みをたどり、次の学びに生かしていく。
今までにあった学習ファイルとの違いは、完成した作品だけではなく、下書きや自己評価(振り返り)なども集めるところ、相互評価(仲間評価)や教師・保護者からの評価まで集めるところ、「子どもの学習能力の発達を『真に』捉えるために、子どもの学習の過程及び成果を『まるごと』評価*6」するところにある。
四、ポートフォリオの用語の混乱
冒頭で少し述べたが、ポートフォリオは欧米から輸入したものなので、日本での用語に乱れがある。ポートフォリオを普及発展させていくには、早く統一した方が共通理解を図りやすくていい。しかし、日本語に訳した時点での概念把握(訳者の考え方)の違いが用語に出て来ているので、統一には難しい面もある。
1,理由があり、違いが明確なもの
○評価主体による違い 子ども用ポートフォリオ・共同ポートフォリオ・教師用ポートフォリオ ○媒体による違い 紙ポートフォリオ・電子(e)(IT)ポートフォリオ ○内容による違い 課題(テーマ)ポートフォリオ・個人(パーソナル)ポートフォリオ ・身体(ライフ)ポートフォリオ
○評価主体による違い 子ども用ポートフォリオ・共同ポートフォリオ・教師用ポートフォリオ
○媒体による違い 紙ポートフォリオ・電子(e)(IT)ポートフォリオ
○内容による違い 課題(テーマ)ポートフォリオ・個人(パーソナル)ポートフォリオ ・身体(ライフ)ポートフォリオ
2,違いが不明確なもの
○再構成・再構築するときのポートフォリオ 時系列で集めたもの ⇒ 取捨選択したもの *7 パーマネント・ポートフォリオ ⇒ ワーキング・ポートフォリオ *8 ファイル ⇒ ポートフォリオ *9 元ポートフォリオ ⇒ 凝縮ポートフォリオ *10 学習ノートと学習資料ボックス ⇒ ポートフォリオ *11 活動中のポートフォリオ ⇒ 永久保存版ポートフォリオ
○再構成・再構築するときのポートフォリオ
前者は、「生徒が学習や活動している最中の、作製途中のポートフォリオ*12」で、活動に関することを時系列で保存していくという観点から、前者を<活動ポートフォリオ>とし、後者は、「一通り学習し終えた区切り(単元の終わりなど)に、学習した事柄や自分の活動を振り返り、最も気に入った作品(自分で見つけた問題や解決方法など)や努力したこと・頑張ったことなど*13」を<活動ポートフォリオ>から選び出し保管していくポートフォリオで、重要なものを絞り込んでいい作品を仕上げるという観点から、後者を<作品ポートフォリオ>と、この小論では定義する。
五、発達段階におけるポートフォリオ
ポートフォリオを始めるにあたって大切なのは、子どもの学び方の発達段階に応じることである。これを考慮しなければ、「ポートフォリオには、ファイルを与えておけばよい」「学習ファイルと変わらない」「何でも集めるだけでいい」「時間がかかるだけである」などの誤解が生じる。しかし、現時点では発達段階に応じたポートフォリオを論じたものは、ほとんど見られない。その中で、安藤輝次氏が「ポートフォリオの難易度*14」として三段階に分け、ステップアップの方法を述べていることは注目すべき点である。
この三段階は、子どもや学級の実態に応じて、何年生からでも適切な段階からのポートフォリオの指導をすべきであろう。
六、これからの課題
1,学習と評価の一体化
ポートフォリオは、子どもによる子どものための評価、つまり自己評価が目的である。子どもが評価の主体であり、自分で自分の成長や学習の意味づけをして、さらに伸ばすためものだ。 教師が評価の主体ではなく、教師が評価をするために子どもの自己評価を利用するのではない。だが、評価は教師がするものという感覚が今でも強いのではないか。 「指導と評価の一体化」とよく言われるが、ポートフォリオは「学習と評価の一体化」である。評価する主体と評価する対象とを一致させる、評価と学びの連動である。この評価観の転換が、まず必要であろう。
2,教師の役割と時間
教師は、子どもに自己評価の評価情報を提供することで、子どもの学習を支援する。どのように評価していくのかという基準を明確に子どもに示すことができなければ、子どものメタ認知は育ちにくい。 例えば、活動ポ−トフォリオで何(内容)を評価し、どう(方法)評価するのか。また、作品ポ−トフォリオで何(内容)を評価し、どう(方法)評価するのか。活動ポ−トフォリオから、どのようにして選択・編集し、作品ポ−トフォリオとして再構成・再構築するのか、などである。 しかし、実際に子どもと教師の会議(conference)をして、40人学級の子ども全員をひとり一人見とっていく(話し合っていく)時間はあるのだろうか。ひとり一人違う学習物をどのように見とっていくのかという方法と、相互評価を取り入れて子ども同士で評価させる時間の設定など、より現実的な対応の実践・研究が必要であろう。
*1 高浦勝義「ポ−トフォリオ評価法入門」p16 明治図書(2000.2) *2 前掲*1 p16 *3 文部省「小学校学習指導要領解説・総則編(平成11年5月)pp54-55 東京書籍(1999.5) *4 前掲*3 p55 *5 田中耕治・西岡加名恵「総合学習とポートフォリオ評価法 入門編」 pp50-51 日本標準(1999.12) *6 前掲*1 p3 *7 前掲*5 p57 *8 小田勝巳「総合的学習に生かすポートフォリオがよくわかる本」 p121学事出版(2000.4) *9 鈴木敏恵「ポートフォリオで評価革命」 p52 学事出版(2000.6) *10大隈紀和「総合学習のポ−トフォリオと評価」 p14 黎明書房(2000.3) *11加納寛子「数学学習でのポートフォリオ」(指導と評価(通巻546号)) p48 日本教育評価研究会 図書文化(2000.7) *12前掲*11 p48 *13前掲*11 p48 *14安藤輝次「評価から総合的な学習を創る−ポートフォリオ講座」(指導と評価(通巻541号))p43 日本教育評価研究会 図書文化(2000.2) *15前掲*14 p43
◎本文引用以外の主要参考文献、他(●書籍雑誌・○ビデオ)
●加藤幸次・安藤輝次「総合学習のためのポートフォリオ評価」 黎明書房(1999.12) ●小田勝巳「総合的な学習に適したポートフォリオ学習と評価」 学事出版(1999.9) ●エスメ・グロワート「教師と子供のポートフォリオ評価」(総合的学習・科学編) 鈴木秀幸 訳 論創社 (1999.5) ●総合的学習を創る・9月号(“ポートフォリオ”で生き生き総合的学習)2000/No121 明治図書(2000.9) ●安藤輝次「評価から総合的な学習を創る−ポートフォリオ講座」日本教育評価研究会 (指導と評価(通巻538号〜通巻546号)) 図書文化(1999.11〜2000.7) ○鈴木敏恵「未来教育〜総合的な学習vol.2 」(ポートフォリオ評価、調べ学習) 明治図書(2000)