Raindrops fall on my head





 外へ出て、正面グランドへ向かおうとしたところで、プレハブ校舎の方から走って来たクラスメートたちの姿が目に入った。ハンガーへ行き、士魂号を発進させるつもりだろうとは思ったが、その出撃を待ってはいられない。そこで、立ち止まらずに士翼号を進めようとしたとき、鈍い振動が背後から響いてきた。
「なんだ?」
 不審に思い、振り向かせた士翼号のコックピットから見えたのは、居並ぶ人型戦車だった。
「1番機と――、3番機だけではないな。予備機までか……」
 小隊の保有しているすべての士魂号が、ハンガーの出入り口にずらりと並んでいる。




 士翼号に乗り込んだときには、ハンガーは無人だったから、誰が動かしているにせよ、士魂号たちのこの出撃は、あまりにも早過ぎた。眼下では、壬生屋を始めとする小隊のパイロットたちが、整列している巨体を見上げている。そして、うち一人が、プレハブ校舎の方へ走って行く姿も見て取れた。クラスメートたちは混乱しているらしく、口々に何かを叫んでいたが、その声はコックピットまでは届いて来ない。
 今は詮索などは後回しにして、竜のいる場所へ早く行くべきだとは思った。しかし、他の人型戦車を誰が動かしているのかぐらいは知っておこうと考えて、士魂号に乗っているものに直接聞いてみることにした。
「こちら、舞だ。1番機、乗っているのは誰だ? 3番機は?」
 しかし、いずれもだんまりだった。
「どうした? 予備機には誰が乗ってる?」
 やはり、応答がない。
「何だというのだ、いったい!? 誰か、応えろっ」
 沈黙したままの士魂号たちに対してまゆを顰めながら、「1番機、聞こえないのか?」と、さらに呼びかけたとき、緊迫した声が響いて来た。




「芝村さんっ、坂上ですっ。今、職員室からです。グランドに――、あ、いや、それはもうわかってるんでしたね?」
「当たり前だ。だから、こうして士翼に乗っている。それよりも、1番機や3番機、それから予備機に乗っているのは、誰だ? 呼びかけてもまったく応えぬ」
 このとき聞こえてきた坂上の返事は、想像を超えたものだった。
「士魂号には誰も乗り込んでいません。勝手に動いているんです」
「ばかなっ。そんなことがあるものかっ。士魂号は、この士翼とは違う。搭乗者がいなければ――」
 最後まで言い切る前に、続きを坂上が引き取る。
「――動かすことはできません。その通りですよ。でも、今は確かに、どの士魂号もコックピット内は無人なんです。まるで、自らの意思で動いているみたいに」
 教えられた状況は尋常ならざるものだったが、だからと言って、いつまでもこの場に留まっているわけにもいかなかった。そこで、士翼号を動かしながら告げる。
「……。わかった。ともかく、私はグランドへ出る。士魂号のことは、そちらでなんとかしてくれ」
「誘導して、ハンガーへ入れます。昨日の戦闘で、指揮車の双輪は動かなくなっているそうですが、誘導するだけならできるでしょう。そうすれば、乗り込むことができますから。あ、何――?」
 ざわめきが途中で入り、いったん声が途切れたが、すぐさま坂上は話を続けた。
「――瀬戸口君から報告です。あの幻獣の耐久値は……、計測限界ぎりぎりだそうです。全力で殺しなさい。手加減出来る相手じゃない」
 聞いて、軽い微笑が口元に浮かぶ。
「ふ……っ。わかりきったことを――。相手は竜だろう。手加減してどうする」
 そのままグランドへ向かって走り出しながら、たずねた。
「来須は――、いや、尚敬高校の女子生徒たちはどうした? グランドにいたものたちだ」
「生徒たちは、みな避難しました。小隊のほうで手分けをして、誘導と保護を」
「それならいい」
 銀河のことだから、いずれ戦場には出て来るだろうとは想像できたが、今は無事であることを確認できれば、それで十分だった。
 そうして、躍り出た正面グランドで闘いが始まった――。




*****




「ちっ、やはり駄目か――」
 放たれた弾が、竜の身体をたいして傷つけることができないのを見届けて、舌打ちが漏れた。
 どのような攻撃パターンを持つ相手なのか、まったくわからぬ状況では、接近戦は危険だと思ったから、射程距離ぎりぎりまでいったん近づいて、ジャイアントアサルトで撃ってみた結果だった。
 そこで、すぐさま身を翻し、竜からの距離を取る。こうした、ヒットアンドアウェイの戦法は、その都度に与えるダメージが少ないようでは、長期戦になりかねない。士魂号に比べれば稼働可能な時間が長いとはいえ、士翼号とて永久機関ではない。いずれ、エネルギーが停止してしまう。
「何か、他の方法を取らなければ――」
 竜からの攻撃が外れて、光の束がすぐ脇を通り過ぎただけなのを確認しつつ、低くつぶやいたとき、士翼号が鈍く振動した。
 そして、声なき叫びが聞こえる。


 ――竜を……


「――っ。またかっ。今がどういう時なのかぐらいは、考えろっ」
 そのようなことを言っても、らちが明かないことは承知のうえだったが、最強の幻獣――竜――を目前にして、相手を葬り去るための闘いを始めたばかりのときに、わけのわからぬつぶやきを聞かされてはたまらない。しかし、士翼号は、なおも声を聞かせ続ける。
「いいかげんにせぬかっ」
 怒りにまかせてつぶやくと、コックピット内がほのかに青く光った。
「なんだ……?」
 それは、以前、一度だけ戦闘中に使ったことがある力と同じ輝きだった。戦況が悪化して長期戦となり、人型戦車も、それに乗り込んでいる自分自身も疲れ果てていたときに、天から差し延べられた救いの手――。
 芝村のものとして、その存在を聞いてはいても、使うのはそのときが初めてだった。銀河は、その青い光を精霊と呼んだ。この星を守るために闘ったものたちの願いなのだ……と。
「……。わかった。力を貸すがいい」
 多分、その力を使えということなのだろうと思い、士翼号の腕を上げる。
 かつて、それをしたときには、戦闘中だとは思えないほどに晴れ渡った青空の下だったが、今のようにどしゃぶりの雨となっていても、少しも影響はないらしい。濡れそぼる士翼号の手の先端に、青い光がゆるやかに集まって凝縮していく。



 やがて、光が放たれた――。




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