Raindrops fall on my head
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| 「探した? なぜ……?」 こわばる口元から漏れ出た声が、わずかにかすれている。そのことに気づいて、あらためて、口内に込み上がるものをごくりと飲み干した。その音は、やけに大きく響き、周囲に聞こえてしまいそうだった。 「なぜ……って――」 いったんは、口を開きかけた相手は、ふいと目線を逸らせてつぶやいた。 「昼ごろ、TVに映っていたな」 言っているのは、絢爛舞踏勲章の受賞インタビューのことだと、すぐにわかった。 職員室で準竜師からの電話を切った後、少ししてからマスコミがやってきたのだ。その到着は予想外に早かったが、授業が行われているはずの教室へ押しかけられるよりも遥かにましだったから、その場でそのまま応対することにした。 めったに受賞するものなどいない勲章が授与されるとあって、取材は単に戦闘についてのインタビューにとどまらず、根掘り葉掘りさまざまな事柄に及んだ。そうして、昼近くになり、ようやく解放された頃には、心身ともに疲れ果てていた。 撮影されたそのときの映像が、昼のニュースで流されたのだろう。もちろん、それを見る余裕など、自分にはなかったが――。 「マスコミの取材を受けるのも義務だそうだ。面倒だが、仕方がないな」 したい話は、こんなことではなかった。と、同時に、それはもっとも避けたい話題でもある。しかし、いつまでも、現実から逃げているわけにはいかない。そこで、大きく一呼吸してから、もう一度たずねてみた。 「なぜ、私を探す? 絢爛舞踏を取ったから……か?」 それは、核心をつく問いかけのつもりだった。が、すでに、返事は聞かなくても想像がついていたから、本人の口から正直に言って欲しいなどというのは、ただの感傷に過ぎないのかもしれない。 それから、応えが戻るまでに待った時間は、多分、ほんのわずか――、一瞬に過ぎなかったのだろう。にもかかわらず、永遠に等しい時間が流れたように感じられた。 厚くなりつつあった雲のすき間から、わずかに差し込んでいた日差しは、その翳りを増しているようだった。 「ああ、そうだ」 その声は、昨日までとまったく変わらぬ響きを持っていた。低く静かで、この身を包み込むような穏やかな優しさがそこにある。しかし、絢爛舞踏を取ったものに用があるとすれば、それはこの世にただ一つ、最強の幻獣――竜――でしかありえない。 「おまえこそが――」 竜だったのか――とは、続けることができなかった。 この学校に来て、2ヶ月近く――。日々は確実に過ぎていて、注ぐ日差しは、徐々に変わりつつあった。 この地だけに配備されている、人型戦車を駆使して戦場を駆け巡る生活の合間をぬって、何度か二人だけで出かけたこともある。死と隣り合わせになって過ごす時間の狭間にあった、ゆるやかなオアシス――。この身を抱きしめる腕は力強く、それでいて、交わしたキスは優しかった。が、それらは、すべて偽りだったのだ。 銀河こそ、探し求めた竜――。そして、それを斃すのは――。 何から言ってよいかわからず、結局、ただ黙って正面から見つめた。すると、銀河はわずかに首を傾げながら言う。 「どうした? 何か……、言われたのか? みな、おまえの撃墜数には驚いていたからな。だがな、敵を倒せば、その分、助かる命もある。だから、他人の言うことは気にしないことだ」 「――っ」 それは、もっとも耳にしたいと願っていた言葉だった。 今まであったはずの繋がりを否定するかのような態度を示したものたちとは、はっきりと異なる、昨日と変わらぬ、その物腰。尋常ならざる数の敵を屠るのは、それじたいがすでに人外のものであると告げて来た、多くのまなざしとはまったく違う、以前と同じ優しさを宿しているその瞳――。 しかし、心の底から待ち望んでいたはずのその言葉は、今となっては、我が身をえぐる刃にしかならない。この期に及んで、まだ、騙すつもりなのかとしか思えなかった。 「なぜ、そのようなことを言う……」 思わず、下を向いてつぶやいてしまい、敵前で何をやっているのかと、奮い立たせるようにして、再び顔を上げた。 「どうしたんだ、いったい? そんな悲しい目をするなんて――」 「ちっ、違う。悲しいのではないっ」 振るえるこぶしを握り締め、まるでにらみつけるようにして、ようやくつぶやく。 これは、悲しみではない。そんなはずはなかった。銀河に惹かれた事実、ともに過ごした時間――、それすらも否定してしまいたいほどの、制御の効かない感情は、強いて言うなら、怒りに等しい。 竜としての銀河だけではなく、この身でさえ、消え去ってしまえばいいとしか思えなかった。すべての事実を無かったものに変えてしまいたい。その結果、周囲がどうなろうと、もはや関係がないとしか、考えられなかった。 「おまえを――」 殺してやる――そう、続けようとしたとき、頭上から声がかかった。 「ああ、ここだったか。ようやく見つけた。ずいぶん、探したよ。君は動き回るのが早くて、追いかけるのは大変なんだ」 突然聞こえて来た、明るく楽しそうな響きに誘われるようにして見上げれば、目の前の階段の最上部にある車いすが目に入る。それは、最後に残った、会うべきはずのクラスメート――。ただし、すでに、ことさら会う必要はなくなっているはずの――。 「狩谷……?」 いったい何の用かと思って呼びかけると、相手はにっこりと笑ってから言った。 「まさか、君が絢爛舞踏だなんてね。ふ……っ、なんて顔をしてるんだ? もっと喜びたまえ、僕たちは何百年ぶりかでそろった、正と邪――、ともに人外の伝説だろう?」 「な――っ」 あまりの衝撃に二の句が継げない身体の上に、空から大粒の雨が落ちて来た――。 |
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